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第七十九話『瞳見つめて』


 えっと……その……なんて言えば良いのか……


 去り際の、あの腹黒メスエルフの刺す様な目線も痛かったけど、何か街の人たちの生暖かな目線が痛々しい~!


「あ、あの……」

「良いから良いから。ボクに任せなよ」

「も、もう大丈夫ですから」

「あ~、無理はいけないよ。女性は身体を大事にしないとね」


 あのキラキラさんが私に寄り添う様に歩くので、否応なく注目を浴びてしまうの~。こういうの、初めて~。


 で、それどころか……


 風が吹いているわ。私たちが進む先へ向けて。まるで背中をぐいぐい押すみたいに。そう、判ってる。これって、彼の意思に周りの精霊さんたちが気を利かせて働いてるに違いないわ! 知覚を切り替えなくても、もう肌でびんびんに感じちゃうわよ。


 世界が、一つの流れに向かっている。私の中の半分くらい、表層意識もそれに喜んでついて行こうとしているわ。逆らおうとか、抵抗しようとか、そういう気持ちを弱らせてしまふ~。ふわわ~。らめら~。頭がパーになるふ~。


 すると。


「おや? こんな時間に?」

「や。お邪魔するよ」

「何をおっしゃいますか。どうぞどうぞ」

「悪いね~」


 にこやかに声をかけて来たのは壮年の男性。日焼けした身なりの良い方で、如何にも商人風に思えた。

 そこは如何にもな商家で、軒先には雑多な荷物が所狭しと並べられており、老いも若きも、忙しそうに動き回っていた。


「おや、らっしゃい!」

「や~」


「あれ~? まあた別の人ですか~?」

「こらこら」


 挨拶がてらキラキラさんは店の人と気軽そうに声を掛け合い、そんな中ずんずんと奥へ。まさに勝手知ったる他人の家って感じ?


「あ、あの。もしかして、こちらご実家かなにかでしょうか?」

「ん? あ~、ここはどっちかと言うと……あ、そこ入って」


 キイと開けられた扉の向こうは、寝台と机のある簡素な小部屋。机の上には羊皮紙の束が幾つも積み重ねられ、如何にも事務的な雰囲気を醸していた。


「あははは……少し散らばってるけど、我慢して下さい。さ、そこへ横になって」

「え? あ、はい?」

「お腹、痛いんでしょ?」

「あっ!?」


 やだ。ぽ~っとしてて、お腹痛いの忘れてたわ。


 実際、鳩尾の辺りがズキズキするけど、我慢出来ない程じゃないし。そんな、横になってって!? ふわわわわ!?


 ぴゅーっと頭に血が昇っちゃう! ドムドム心臓が高鳴ってぇ~!!


「だ、大丈夫です!」

「大丈夫じゃない。うちの子が酷い事をしたんだから、手当くらいさせてよ。ね?」


 きら~ん。


 くぅ~……たまらん! 至近距離で微笑まないで! そんな真剣な眼差しでぇ~!


 促されるままに、腰を降ろしてしまうし~。駄目よダメダメ! 流されちゃダメ! ダメなのぉ~! これ以上だと、正体がばれちゃう~!!


「さ、脱いで」

「ひゃ、ひゃい!」


 はわわわわわぁ~。


 ま、まあ。元々裸族な訳だしぃ~。別に脱ぐのは抵抗無いけどぉ~。でも~。


 しゅるるっと肩から降ろそうとして、左肩のコインに手が触れ、ハッと息を呑んだわ。これ、見られたらあの夜の事がばれちゃうじゃない!?


「ん? どうしたの?」

「え? いえ……何でも……」


 ゆっくり左肩から脱いで行くと、そこはつるんとした肌が。そう、幻影で隠してみました。何か、この人相手だと、もうばれてそうなんだけど……


 キラキラさんの見ている前で、ゆっくりと右肩から胸元へ。そして腰の辺りまで降ろしていくと。


「やっぱり……あざになってるじゃないか。ごめんね。痛かっただろう?」

「いえ。そんなでも」

「触っても?」

「……はい……」


 私の傍にキラキラさんが膝まづき、鳩尾の辺りを注視するから、見易い様にと両の乳房を下から持ち上げてあげる。何か、変なポーズで恥ずかしいんだけど。あんの腹黒クソメスエルフが肘鉄を叩き込んで来た辺りが、赤黒く充血しているのが判るわ。


「触るよ……」

「ん~……」


 ずきずき痛む所に、キラキラさんがそっと触れると、そこからひんやりとした心地よい感覚が広がっていく。

 こんな形で、彼を独占出来るなんて、ザマァだわ。あの腹黒クソメスエルフめ。


「横になって……」

「は……い」


 促されるままに、彼の寝台に横になる私。ど、ど、どーなっちゃうの!?


 すると、キラキラさんはそこを掌で覆う様に包み込むと……


「不思議に思うかも知れないけどね。ボクがこうすると、ちょっとした怪我なら、すぐに治ってしまうんだよ」

「うふふ。あなたがそうおっしゃるなら、そうなんでしょうね。すっごく気持ちいい……」

「そう……?」

「何だか、本当に治ったみたい……」


 目を細め、うっとりしているのを、キラキラさんが優しく見つめている。なんて不思議な感覚なのかしら。あんなに、恐ろしい相手だと思っていたのに。


 多分、それは彼が私の事を同族だと思っているからなんだわ。


 私が異種族だと気付いたら、私がラミアだと気付いたら、もうこんな風に見つめ合う事も無いのね、きっと……


 そう思うと、胸の内にじわりと言い様の無いむらむらとしたものが湧き上がって来てしまい、不意に瞳がうるみだすのを感じてしまった。


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