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第七十六話『赤いスカートなびかせて』

 はわわわ、危ない危ない。ミカヅキに怒られちゃったわ。


 裏口から街へと逃げ出したシュルルは、路地裏をそそくさと移動していた。


 真紅のワンピースドレスはとても目立つ筈なのだが、路地で無気力に寝転がってる人々の目に留まる事も無く、ひらひらとスカートをなびかせて普通の人が小走りに走る程度にゆっくりと進む。その気になれば、常人の三倍のスピードで移動が可能なラミアであったが、衝突時のエネルギーはその二乗となり、体重からして三倍あるのだから人に衝突したら目も当てられない事になるのだ。


 まだ一応、気を使っていた。



 ふと止まり、振り向いてみる。


「いや、まあ、そうなんけどね……」


 ミカヅキが怒るのも無理は無いとは思っていた。

 何しろ、自分たちの正体はまだ秘密なのだ。

 バレれば邪悪な冒険者たちが徒党を組んで襲って来るのは目に見えていた。


 奴らは金の為には、何でもやる。


 そして、常に弱い者へと狙いを定め、幅を利かせるのはどこでも同じなのよね。


 孤独に苦しむ老婆の姿を目にした時、賢者の塔の師匠たちや、将来の自分たちの姿がだぶって見えた。

 路地で寝転がって、ただ生きているだけの子供らの姿は、蛇の穴を追放された時の自分たちの姿に重なっても見えた。

 全てをどうにか出来る訳では無い。それは判っている。

 ただ、自分たちがああならない為に、危険を犯してまで人間の街に潜入しているのだ。


 また、それだけでは無い。


 シュルルは再び進み始める。

 潮気を帯びた重い風が、まとわりつく様に温かい。湯を浴びたばかりの、脂気の抜けたシュルルの肌には、風をはらむ衣服のはためきが心地よかった。



 殺して、奪う。そういう生き方とは決別する為の、姉妹を巻き込んでのダンジョン・アタック。このブラックサンという巨大な迷宮を攻略する為には、あらゆる角度からの情報を俯瞰する必要がある。


 徘徊するワンダリングモンスターである冒険者。

 門番である騎士団。

 絡みはびこるヤクザ者たち。

 冒険者以外は、全てを敵に回す必要など無い。


 それらは、迷宮を覆い隠すトラップなどと同じもの。攻略してしまえば、逆に利用出来る。懐に潜り込めば、安全地帯となる。


 先ずは、安全地帯を構築し、拡張し、攻略の足場を築く。それらの行為は、シュルルが探索者として培って来たもの。


 あの老婆から、どんな情報が得られるのか、今から楽しみである。


 そんな事を考えていたら、もうすぐ次に表通りへと出ようという。

 向こうに見える、一見のどかに行き交う人々。馬車や荷車、その流れに目をやった。



「あら?」


 何か違和感が。

 すうっと、左の肩が妙に涼しくなる様な。


 そっと触れてみると、冷たい手触り。それが左の二の腕に貼り付いた、例の鉄貨だと思い至った瞬間、背筋がゾッとする様な、ふわりとした怜悧な風が真逆の方向から吹き付けて来る様な戦慄を。


 否。


 吹き付けて来るのでは無い。


 吹き抜けていく大きな流れのただ中に、忽然と起立した己が居るのだとシュルルは悟るとほぼ同時に、その根源たる焦点が!


 ドム。


「おっと、すまないお嬢さん」


 その右の耳から抜けて、するり腸を舐め回すかの甘美な旋律が、這い寄る混沌の如くにシュルルの肉体を貫通し慄かせた。


「ひっ……」


 人間の三倍はあろう体重のラミアを、その男は軽やかな羽の如くに突き当たっては、傾かせる。


 表通りへと顔を出したそのタイミングで、シュルルはその怪人にまるで吸い寄せられる様に、片手で腰の辺りを支えられていた。


「またお会いしましたね。シュルルさん、でしたね?」

「は、はわわわ……」



 目の前にキラキラさんが現れた。


(ピッ)


 → たたかう


   にげる


   どうぐをつかう


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