第七十三話『ちょっと訪ねてみたら』
裏庭に出、空を見上げたシュルルは、その眩しさに目を細めた。
「うん。時間はまだありそうね」
お日様の高さから、スープに火を通す時間はたっぷりありそうだと見当を付け、鼻歌混じりに裏木戸へ。
ふんすふんす♪
火の番と、寝入った子供たちの面倒をミカちゃんにうまい事押し付けて、ちょっと別件を。ま、気になる事があるからね~。
葦を編んだ手提げ籠を手に、麦わら帽子をさっと被り、赤いスカートたなびかせ裏木戸から。そっと扉を開けて見渡すと、馬車一台が通れる程度の細い路地のそこかしこに、人が疎らに寝転がってるのが目に入ります。
みんな、パンが焼ける香ばしい匂いに誘われて、すきっ腹を抱えて動けないでいるみたい。
港町だから、船が着けばこういう人たちにも仕事があるんでしょうね~。
で、無いと悲惨と……
そういった人の間を、そっと抜けて表通りへ。
今日はそんなちびっこ達に助けられた訳だけど、この後、あの子たちがすんなり出て行くか、そこが問題よね?
いえね。
今日のお仕事は単発だから、明日はあるとは限らないじゃない?
ギルドの承認が下りれば、本格的に活動出来るってものだけど、そうでなかったら路上で行商するしか無い訳で。そうなると、表向きは問題無くても、裏の話が絡んで来ちゃうかもね~。
ヤクザ者とか、ヤクザ者とか、冒険者とか!
いや、そっちのルートでもいけなくも無いかな?
どっかしら貴族街に潜り込めるルートが……
いやいや、デカハナさんと仲良くなっては、無いな~! 嫌過ぎる!
おうふ。ブルブル……
変な考えに至りながらも、人混みの中をシュルルと抜けてく。
すうっと伸びる、オーラの糸を追って。
こちらが気を付けないと、認識阻害の影響で突っ込まれたり、尻尾を踏まれたり、馬車に轢かれたり、暴れ馬に……
ほむ。無事に到着ね。
目の前には、四階建ての建物がずらりと軒を並べている。その内の一軒、その屋根裏部屋へと伸びていた。
問題は、あのお婆ちゃんの容体よね?
多分、持ちこしてると思うんだけど、心臓が持たないかもだから。
こればっかりはね~……
ま、生きちゃいるって事は、オーラで判るんだけどさ~。
ずずずっと音も無く古びた木の階段を昇り、ねずみニ三匹ってとこで、人にすれ違わず最上階へ。
いや、生活感溢れた建物だこと!
ところどころ木が朽ちて折れてるし、何か黒い脂シミや煤汚れっぽいのがみっちり沁みついてて、ざっと見て築うん十年ってとこかしら?
昨夜は屋根から失礼したから、こっちから来るのも新鮮ね~。
昨夜は暗闇が隠していた建物の素顔を、色々と見てとりながら、目的の部屋の前へと……
「……んだとこらあっ!」
「……っ……」
あら?
どこかで、若そうな男の人が声を荒げてるわ。