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第七十話『人間団子』


 ようよう陽光も朱の色が褪せ、街から朝の気配が去りつつあり、例の裏庭では珍妙な光景が繰り広げられていた。


 一尾のラミアに、六人の人間の子供がぴったり貼り付いて団子状になっている。

 そして、それを眺めるもう一尾のラミア。

 一見微笑ましい光景だが、幻覚破りの魔法一発で修羅場となるであろう。



 あはははは~……どうしよ~?


 いつばれるか判らない、薄氷を踏む想いのシュルルだが、こうもいじましくすり寄られてしまうと、蛇見にする訳にもいかず何か三すくみと言った感じ。


 でも、こうしているだけでみんなから甘えと怯えが伝わって来るわ。

 まだ完全に信頼しきった訳じゃなく、試すような戸惑いが、その触れる端からみょんみょん伝わって来て何ともこそばゆいの。


 そりゃあ、小さい頃は姉妹で泥だらけになって遊んだものだけど──

 いきなり荒野に放り出された私たちは、もっと大きなラミア団子を作って寒空を凌いだり、文字通りよってたかって獲物を仕留めたりしたものよ……ふ……思い出すわあ~、一匹のゴブリンに全員で押し包んで……数は力だよ……うん……


「どう……したの?」


 胸元からのたどたどしい声に、小首を傾げる様に目を向ければ、ついさっき短く刈り揃えた髪の広いおでこがくりくりっと栗色の瞳で見上げてるの。

 小さなお口周りをスープでべとべとにして。


「ううん。何でも……あらあら。ふふふ。君、お口が凄い事になってるわよ」

「あ? う~ん……」


 指先でその子のかさかさした口周りをぬぐってあげると、その子も目を細めて甘える様な声を漏らして。

 あ~。こういうのって、幼体特有の可愛らしさよね?


 牛や馬や山羊や鹿だってあのゴブリンだって、子供は可愛い声で鳴くものよ。そうやって、大人の保護欲を掻きたてるのよ。


 あんまり小さくて、可愛らしく鳴くものだから、私もこのおでこに頬をすりすり。

 あ~、何て小さくてもろくて、ちょっと力を入れただけで簡単に砕けちゃいそうなのかしら!? 普段ろくに食べて無いだろうから、何かすっかすかって感じで、脈もとくとくと弱弱しく感じちゃうし。ほんと、食べても美味しくなさそう。


「もう良いの? お腹、苦しくなったりしない?」

「ん~、へっき~」


 私もついつい猫なで声になっちゃうわ。


「君たちも、大丈夫~? お代わりしたい子は居る~?」

「ん~ん~!」

「んんんっ!」


 そう言って、ぐるっと頭を巡らすと、ちょっとせかしちゃったみたい。慌てて掻き込む男の子がいて、口いっぱいにしてお皿だけ突き出して来たわ。


「も~。急がなくても大丈夫よ。まだ、いっぱいあるからね~。今は軽く食べておいて、作業が終わったらお腹いっぱい食べると良いわよ」

「え?」

「は~い」

「ん……」

「うんっ」


 こういう時に、それぞれの性格が出るわよね?

 次々と差し出されるお皿に、少し抑えめに盛り付けていくわ。だって、お腹いっぱいになって動けなくなったら、ね?


 後でまだまだ食べられると安心させておいて、と……と……


「こらこら。くすぐったいじゃない? レディのお腹をさすらないの~」

「ちぇ~っ」


 やんわりと、ね。

 スープをよそってる隙に、何かがっつり抱き付かれてひやっとしちゃった。もしかして、何か疑われてる?

 正体、ばれてる筈は無いんだけどなあ~……


 ちらっとその手の主を見ると、男の子だわ。

 う~ん。いくら小さくても、オスはオスなのかしら?


「あ、ちょっと……君たち。あは~っ。こら~」


 一人が真似すると、みんなが真似するわ。ほんと、おこちゃまたち。

 安心したのかもっと大胆に、遠慮無く小さな無数の手が抱き付いて来るんだけど……


「こぼれる、こぼれるぅ~。あんまりくすぐると、スープこぼしちゃうってぇ~」

「「「「「「きゃっきゃ、きゃっきゃ」」」」」」


 お玉とお皿を持って、ばんざーい。

 ちょっと君たち、心のタガが外れ過ぎぃ~!


 そこで、少し離れた所でとぐろを巻く、何やら物を言いたそうなミカヅキと目が合った。


「何? ミカちゃん。羨ましいの? こっち来る?」

「あ、いや。そういう訳では無いで御座るよ」

「え~? 遠慮しなくても良いのよ。ほら、半分引き受けてよ~」

「いやいやいやいや」


 こっちが両手を広げてお迎えするポーズなんだけど、何かノリが悪いなぁ~。


 まぁ~、最悪、正体ばれても頭の中をいじって無かった事に……ふっふっふ……おおっと。それは禁じ手禁じ手。


 それでも、さっきから様子のちょっとおかしなミカヅキは、何か言いたげによそよそしい態度で、尻尾をふりふりしているんですよね。んん~? 何でしょう~?



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