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第六十九話『シュルル完全包囲網』


 ちびっこたちの幻影を解除すると、少し落ち着いたみたい。見知った顔が近くにあるって、大事な事よね。

 でも、目を見るだけで揺れる心が手に取る様に伝わって来る。


 安易だったかなあ~……?


 食べ物で釣れば、簡単に思い通りに操れる。何しろ、そこら中に居るんだから、何かあっても代わりはいくらでもいるんでしょうに。

 まさか、ここまで心が餓えていたなんて……


 一つどころに何万人も集まって暮らしていて、それで生活が成り立ってるのは凄い事だと、この街に来るまでは思っていたし、それだけ人が居ればろくでなしもさぞ多い事だとは思っていたけれど。


 これはないわ~……



 シュルルは銅のお玉をくいっと捻り、鍋の底から具をもりもりっとすくい上げた。

 下の方に沈んでいた、比重の重い具材のお目見えです。


「じゃあ、二杯目は具が多いから、ゆっくり良く噛んで食べるのよ~」


 赤や白の根菜が薄っすらと透明度を帯び、お玉を持ち上げると脂のテカリがつうっと流れ落ちていく。



 うん。一見良く煮えている様に見えるのだけど、お味が染みてるか、肉の旨味が馴染んでいるか、それを試す為の試作品だから、みんなで食べた海の魚を使った方は成功だったけれどちょっと心配。


 それはさておき、スマイルスマイル。何は無くても笑顔が一番だから。


「さ、お皿を貸して~。はい、どうぞ~」


 小さな手がおそるおそると差し出すのを、やんわり受け取り、その子の目と目を合わせてみる。

 すると、その子はハッと反らすんだけど、またおずおずと戻る様に、こちらも目を細め、さっとよそった皿を差し出してあげる。


「あ……りがと……」

「ん~、どういたしまして~。はい、次の子~」


 そう言いながらも、そっとおつむを撫でて放免してあげた。


 くしゃりと、顔が歪むのは、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分って感じかしら?



 そう言えば、この子たちも『名前』ってあるのかしら?

 私たちはそういう習慣無かったから、最初の内って、特別なものなんだと思っていたけど、仕事で知り合う二本足って、大概名前があったのよね。何か、色々と変なのが。

 本人を指すものだったり、一族や部族を、またお仕事や役職、通り名や悪名なんてのもあったわ。

 でも、何万人も同じ所に住んでて、被ったりしないのかしら?


 ふとそんな事を思いながら、一人、また一人とおかわりをよそってあげる。ちびっこたちは、それを両手で大事そうに受け止るのがまたいじらしくもあり。そのまま、ちょこんと座り込むのだけど。


 う~ん……


 あれれ?


「えっと~……」


 私が言葉をかけようとすると、ハッと察した様に身を強張らせるもんだから、パッと笑顔で小首を揺らすわ。


「ううん。何でもな~い。さ、ゆっくりおあがりなさい」


 すると、ほっとしたのか、やんわりまなじりを垂らし、次には自分の手の中にある、スープ皿に注意を向けるの。いや、危ない危ない。


 でもまあ、一人二人なら、尻尾の上にちょこんちょこんと乗せてあげれば良いのだけれど~……



 前から両脇、背中側となんか、ぐる~っと子供たちに包囲されてしまった。

 ぴったり貼り付いて、まるで軟膏だわ。それもひんやりとした。

 こっちの体温の方が高いみたいで、それは生物としてのパワーレベルの低さを嫌が応にも伝えて来るの。身体、ほっそいからちょっと力を入れると、体中の骨とかぽきぴきいっちゃいそうな。そんなか弱さが伝わって来たわ。

 ま、見れば判る話なんだけど~。


 う、動けない……困った事に、身じろぎするのも怖くなって来ちゃったの!

 仕方ないので首をめぐらせて~。


「ど、どう? お味、染みてるかしら? 昨夜仕込んだものだけど」

「ん~、凄く美味しい……」

「うん……」

「「「「……」」」」

「そ? 良かった~、あはははは~……」


 いやさ、スカートで隠れてるからと言って、尻尾の上まで腰かけられてて、いくら認識が阻害されてるからって、こんなに密着されちゃうと正体ばれちゃいそうよ~!



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