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第六十三話『変なねーちゃんが現れた』


 俺はメンブ。親兄弟もいない、いっぱしの浮浪児だ。多分、年は十くらいだったかな?

 気付いたらこのブラックサンの路地裏にたむろってる悪ガキの一員になってたぜ。


 そう。親も兄弟も居ない浮浪児が、この街で生きてくにゃ色んな苦労があるんだぜ。


 何しろ、悪い大人が多過ぎるし、他の連中にも油断が出来ねぇや。

 嘘やだましは当たり前だ。下手をうてば、あっという間にはめられて、気付いたらあいつ見かけねぇ~なぁ~なんて事は、まあ~いつもの事なのさ。


 へへへ……俺は騙されねぇぜ。ぜってぇ~、騙されるもんかってばよ!



 で、だ。


 朝早く、いつもみたいに路地裏ですきっ腹を抱えていた俺たちに、真っ赤なひらひらスカートのねーちゃんが声をかけて来た。


 食い物をくれるってんで、みんなふらふらと話を聞くもんで、俺はいつでも逃げられる様に身構えながら話を合わせていた。何しろ相手はたったの一人だ。何かあっても、誰か間抜けが捉まってる間に逃げれば良いのさ。それで決まりさ。



 それから俺たち六人は、猫なで声で手招くねーちゃんに連れられて歩いた。

 何か、波に乗って浮いてるみたいな、そんな気分なんだ。


「ほ~ら、こっちこっち~……」

「「「「「「は~い……」」」」」」


 なんかみんな変だ。

 俺もだ。

 ああ、そうだ! 変なねーちゃんは魔女だった!


 俺たちは、魔法を掛けられて、すっかり別の顔にされちまったんだ!


 だけど、不思議なんだ。俺、逃げ出そうなんて気がちっともしないんだよな~。

 見知らぬ顔にされた仲間と共に、ふらふらとねーちゃんに連れられて、普段ならどうやって潜り込んでやろうと知恵を絞る、朝の市にすんなり入り込んじまった!

 普段なら威張り腐ってやがる兵隊どもが、こっちにぺこぺこして来ちまうんだから、こいつは痛快だぜ!


 で、市に入るとだな。目の前に、山盛りに盛られた美味そうな野菜やら何やらがずら~っと並べられてるんだけどよお。何でか、いつもみたいにひょいと手を出して走り出そうって気も起きやがらねぇ!


「はい、これ持ってぇ~」


 ねーちゃんが、軽々と片手で持ち上げたでっかい木箱にゃ、野菜がいっぱい入ってた。それがずいっと俺の目の前に。

 慌てて受け取ろうとするんだけど……ずっしりと重くて、俺、尻から倒れそうになる。だけど、倒れなかった。


「お、重ぇ~。わわわっ」

「一人じゃ無理じゃない? ほらほら、そこの君も手伝って」

「うん……」


 ねーちゃん、木箱ごとしがみつく俺をひょいと持ち上げやがったんだ!

 船着き人足のむっきむきのおっちゃん連中ならあり得るし、もっとでっぷり太ったおばちゃんだったら納得出来るんだけど、そっか!!? ねーちゃん、若作りしてるけど、本当はすげえデブのおばちゃんで、めっちゃ力持ちなんだな!!? へっ! 俺は騙されないぜ!!


 ふらふらと横から手を出したのは、多分声からして、はな垂れジミーの奴だ! この野郎に食い物なんか目の前にぶら下げた日にゃ、次の瞬間にゃぱくりと喰いついて離れないもんだぜ! それがそうはならないでふらふら言われるままに手伝ってるなんて、こりゃやっぱり魔法だな!


「大丈夫? 二人とも、いい子ね」

「うん! 俺、へっちゃらだよ! えへ、えへ、えへへへへ」

「……あ、ああ……」


 また白々しい笑顔なんかふりまきやがって! ジミーの奴、すっかりでれでれっとだらしない顔を晒してやがるが、そんなこっちゃ明日には港にぷかぷか浮いてるってもんさ。俺は騙されないぜ!


「うふふ、ありがとね。疲れたら言ってね」

「うん! えへへへ……」

「あ、ああ……」


 すると、すうっとねーちゃんの白い手が伸びて来て、ジミーと俺の頭を柔らかに撫でて来るんだ。なんか、こう、すっげーあったかくて、ふわっとした不思議な気分にさせて来やがった! ぞわわぞわわって足のつま先から、何か変な震えみたいなのが頭のてっぺんまで駆け抜けて行くんだ! くっそー! だ、騙されるもんか! くっそー! これもぜってー魔法なんだ!!



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