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第五十三話『戦死者多数?』


 その頃、第四騎士団の食堂は戦場と化していた。


 次々と倒れ伏す兵士。胃が小さかったのだろう。既に手遅れだ。予告も無しに行われたメシテロにより、騎士団は壊滅の憂き目に逢っていた。


「あちゃ~……」


 呻き声の斉唱を耳に、副団長のナザレ・アラメノ男爵は天を扇ぐ。朋友の言葉の意味を、ようやく理解出来たところだ。


「ぐぬぬぅ~……」

「どうしてこうなったぁ~?」


 メシマズは騎士団の伝統。粗食に耐える。それはいざという時に必要な事。そう伝えられて来た。

 実際、戦場においては、どんな飯でも食える事が一つの能力だ。食えぬ者から脱落する。長い行軍。籠城戦。場合によっては、ネズミでも捉えて食う根性が必要なのだ。


 ダンと、肉汁まみれの手で騎士団長のアルゴンスは長テーブルを叩き、空になった食器類を軽く躍らせて見せた。


「俺の……俺の責任だ……女の色香に惑わされたばかりに……ぐふぅ~……」

「な、何だってぇ~っ!!?」


 思わず素っ頓狂な声を挙げてしまった。ナザレにとって、それはあまりに思いもかけぬ告白。何故なら、知っていたからだ。アルゴンスの女に対する複雑な感情を。


 アルゴンスは醜い。それは生まれながらの悲劇。

 その余りの怪奇な容姿に、家族の者からすら厳しい扱いを受けて来たからだ。

 特に、三人の姉からは。

 それでも唯一の男子だが、家督は姉の内の一人が婿を取って継ぐ事に決まっている。

 あと数年で家を出されるのだ。婿入り先も決められている。年は十も下の家格が上の名家の娘と聞く。それが意味する処は……


 子爵家の家格ではあり得ぬ騎士団長への就任。月々に送られて来る多額の支援金。


 そう、それは実家においても。


 要は売られたのだ。家畜同然に。


 恐らく、婚約者も相当ヤバイのだろう。


 まともな結構相手が、最初から望めぬ程の。


 アルゴンスに自由は無い。


 見えない鎖が、その首にはかけられている。


 田舎で土いじりをしていれば幸せな男が、お仕着せの鎧を身にまとい、公都でさげすまれながらも生きているのだ。

 ナザレ自身も竹馬の友で無ければ、こんな物騒で窮屈な街に来る筈も無い田舎貴族。まぁ、都会の女とはこういうものだと割り切った部分もある。


「まあ~、そういう事もあるさ。でもみんな喜んでるから、良いじゃな~い?」

「……また、来ると思うか?」

「え~……どういう事?」


 そこで昨夜のいきさつが語られた。


「夜中に? 一人でか? 怪しいなあ」

「そう、思うか? でも、別段変な匂いはしなかったぞ。俺を見て多少焦った匂いがしたがな。勿論、吸血鬼じゃ無い。墓場の匂いはしなかった。多少、ババア臭い匂いもあったが、多分身寄りの世話をしてるんだろうさ。食べ物屋を開くと言ってたが、確かに肉や魚、野菜やハーブの香りがした。間違いない。ぶふぅ~……」


 長々と喋った後で、大きく鼻を鳴らし、アルゴンスは口をへの字に曲げる。

 その様を、どんだけ気にしてるのやらと、苦笑混じりに眺めつつ、ナザレはいつもの軽口を。こんな事を言って怒らないのは、自分だけだと判っているからだが。


「まあ、お前の顔を見て驚いたってんなら、もう来ないかもな」

「だろ!? んん~……でも、何だぁ~? 何か引っかかんだよなぁ~……」


 何かを思い出そうと必至になってるかのアルゴンスに、にこぽんと肩を叩く。


「なんなら、俺がちょっと見て来てやろうか? お前が言う程の女か、俺も俄然興味がわいて来たぜ」

「よしてくれ。そんなんじゃねぇよ」

「だったら、別に良いじゃねぇかよお~」

「ええ~……今夜の巡回、休ませねぇぞ」

「そう来なくっちゃ!」


 ナザレは喜色満面。にやりと顎の割れ目に指を這わせた。



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