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第五話『据え膳食わぬは男の恥 え? 私一応女なんですけど』


 ラミアは酔っぱらいのおっちゃんに出会った。


 たたかう(ピッ)


 にげる(ピッ)


→たべる(ピピッ)



「うぃ~、ひっく……」


 うわあ、すっかり出来上がってますね。どきどきします。

 暗がりでも判るくらい、真っ赤なお顔でお目々とろ~んとさせて。も~わくわくです!


 先ずは今日の獲物を検分する私。そしてにんまり。


 え? 勿論、頭から丸かじり、な訳無いですよ。

 そんな子供の頃みたいな事は、もうしませんって。嫌ですねぇ~。


 ええ。あの頃は、一匹の獲物を姉妹みんなで奪い合って食べました。若かったんです。

 なんせ姉妹全員で十七尾も居たんですから、そりゃあ壮絶な物でしたよ?


 自然と力関係なんかも出来上がって、体の大きな者が餌を独占しようとしたりして……それからなるべく切り分けて、全員に渡る様に画策したり。でも、その内にみんなの体も大きくなって来ると、それじゃあ足りないねってなって……


 だから、ある程度大きくなった時に、縄張りを決めてバラバラに生活する事にしたんです。なるべく広い範囲を私たちで独占する為に、オークやゴブリンたちを駆逐して回ってから。

 そうなると、ぐっと餌が手に入り易くなったわ。広い餌場を一尾で独占出来たし、他の種族が入り込んで来たら、みんなで集まって追い払ったり……


 それから季節も数周期。


 最近はそれぞれに分別ってものが身について来たらしくて、またみんなで集まってワイワイやろうかって事になったのよね~。


 で、それならと人間の街に進出を決め込んだ私。

 話が違うとか思われるかも知れないけれど、その間、ただ採取と狩猟に明け暮れていた訳じゃないという。

 私には目的があるからね~。


 それはともかく。


「ふ~んふふ~ん♪ ふんふふふ~ん♪」


 鼻歌も陽気に、獲物を綺麗綺麗しますね~。

 先ずは外観。

 垢や埃や涎で薄汚れているから……先ずはペロンと一皮剥きます。

 薄皮一枚ですね。

 この場合、皮膚の表面に死んだ細胞や油脂の層があって、そこに汚れが付着しているのです。

 私の様にちょっとした魔法を習得した者にとって、こんなものは!


「そ~れ、綺麗にな~れ♪」


 しゃらんら~♪


 文字通り、一皮つるんと剥けました!

 簡単な元素魔法の応用です。こんなのは魔法の基礎中の基礎ですよ。条件付けと選択。毎年、何十もの獲物を処理していれば、多くの生き物が似た様な構造をしているのが判るんです。毛が多いか少ないか。皮が薄いか分厚いか。

 二本足も、四つ足も、まあ~大して変わらないかな~?


 さ! お次は、待望の血管です!

 やっぱり太い血管があるのは、首ですよね!?


 そして、背中の背嚢から色々取り出します。

 昔だったら、ちょっと血を戴くと太い血管を傷つけてしまい、獲物を殺してしまいましたが、人族の街に行くにあたって私はある大発明をしていたのです!


「じゃ、じゃ~ん♪」


 取り出しましたるは、銅の細長い筒。人差し指と親指を、ピンと伸ばした程度の長さ。

 その中に、錬金術で錬成した純アルコールに、これまた細い鉄の筒が浸してあります。


「血ぃ~吸ったろか一号~♪」


 パンパカパーン♪


 自分の中で、ファンファーレが鳴り響きます。人間どもが演劇の舞台で使うアレですね。ホルンやラッパ、ハープにリュート。場末の酒場よりはマシな気分。奇抜な恰好をした人間の役者たちが、くるくるとそれぞれの物語を紡ぎ出します。嗚呼、愉快愉快。


 動物実験では成功しました。

 人族に試すのは、これが初めてになりますが、多分大丈夫でしょう。

 金属の片側は、極細の針になっていますが、この針で刺してもあまり痛くないんです!


「いやあ~、この金属の加工には苦労しました。うふふふ……」


 暗闇で星明りにきら~ん。


 魔法の基本は、先ず作用させる物質を理解する事から。

 それは同時に、錬金術への入り口でもありました。


 そう! 私は結構レアな、えっと……いっぱい肩書あるから訳分かりませんね。


 さてさてそんな私ですが、薄暗い路地裏でも大丈夫。私たちは舌先で対象の熱源を立体的に捉える事が出来るんです。目と舌の感覚器で、どんな暗闇でもダブルで丸っとお見通しという訳です。

 見える! 私にも見え~る! 人の血の流れが!!

 赤々と脈打ち、たうたうと流れる迸りの旋律が!! 嗚呼、神ヨ!!


 さあ!


 アルコールを木綿に染み込ませて、首も拭いてと……


「あ、あれ?」


 実験には失敗が付き物。失敗は成功の母とも言います。あ~、母はちょっと今一良くない印象なんですが……これもまあ、人間どものことわざって奴ですよ。ラミアのものではありません。


 さて、このいざという段階において、一つの問題が発生しました。


 動物実験は水牛の首だったから、簡単に刺せたんですけど、人の首はちょっと短いですね。これは失敗しました。

 はっきり言って、肩が邪魔です。頭が邪魔です。

 太い血管の流れに沿って、打ち込まなければ他の組織を傷付けてしまう。太い血管は、血の流れが早いですからね。大きく損なうと出血が多くて死んでしまうかも知れない。


 ダンジョンで、襲ってきた冒険者をやっつけるのに、取っ組み合いになったら、背後から羽交い絞め~の首にがぶって事が多くて、だから首ってイメージだったんですけど、これは修正しなくちゃですね。手首や腿の太い血管の方が刺し易いかもです。

 暴れる君の場合は、手や脚は無理だったんだけど、この場合はそっちか~!

 いや~、参った参った! ま、何事も経験ですね!?


 てへぺろ~。


 こつんと自分の頭を小突きます。


 それでも何とか首の血管に針を差し込み、反対側の筒のお尻に麦のストローを。

 さあ! いよいよです!


「いっただきま~っす♪」


 一息に、ぐい~っといきました。



 この時は、幸せいっぱいの気分だったんですよ……



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