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第四十九話『や・ば・い!!』


 や・ば・い!!


 顔を見られたわ!!


「シュルル? 聞かん名だな? ここで何をしている?」


 オーク面の瞳が、カンテラの光に黄色く、鈍く光る。


 おっちゃん、驚かさない様にって透明化の魔法を解いて、人の姿に見せていたのだけれど、よりによってデカハナさんに顔を見られた!! あ、あれれ!? その上に、ヘビ語で『びっくり!』って言っちゃった!!? 『シュルル』ってまた言っちゃったよおっ!!


「えっとぉ~……」


 尻尾の先から頭のてっぺんまでぴっきーん!

 どうする!? 戦う!? 逃げる!? いやいやいや! 戦うにはこの人相手だと力抜けるし、出口はこの人が立ってる戸口だけだし、壁を壊してる間に捕まるわ! 捕まったら、私もう逃げられる気が全然しない!!


 おまけに昨夜、私の匂いを嗅がれてる! 今は牢屋の空気を入れ替えたばかりだから、気付いてないだけ! 一歩でも入ったら、きっと昨夜の私だって気付かれる!

 そして、この人なら、私の緊張の度合いすら、緊張から来る同期や息の乱れ、発汗や毛穴の拡張具合、変化から、嘘やペテンを見破る! いえ! 嗅ぎ分ける事が出来るかも!!?


 匂い!?


 私の匂い!!?


 もっと違った、それより強い匂いがあれば!!


「あの!」

「ん?」


 私は背嚢の中から、スープの入った容器を取り出し、手早くその蓋を開けて差し出しました。


「私、この街に来たばかりで、騎士様のお名前も存じ上げないのですが、こちらの方を世話して欲しいと頼まれて……ここに通されて……」


 そう言って、少し上目遣いで微笑む。どう?


「ほう……?」


 そう一言告げて、デカハナさん、そのおっきな鼻をずう~っと鳴らします。うん! 引っかかったかなあ~!?


「これは何と……」


 そう呟きを漏らし、目を細めました。よ~しよしよし。


「スープです。初めての窯で試しに作ってみたの。ほら、具が無いでしょう? これをこちらの方に飲ませて差し上げようと思いまして」

「ふん……具が無いのか? だが、何て豊かな香りだ! 飲ませろ!」

「え? でも、これは……」

「いいから」

「あ……あーっ!?」


 私は形ばかりに抵抗を。と思ったらデカハナさん、手にしたカンテラを壁に掛け、私が両手で包む様に掲げていた器を、私の掌ごと! やば!!


 ずどんと来た!!


 ちょっと触れられただけで、しゅわしゅわって吸い取られてたのが一気に逆流して来た感じ! わわわーっ、びりりって総毛立つーっ!!


 やっぱりこの人、人間じゃない!

 豚の頭をした、何か別の生き物だわ!!


「んーっ!! んまいっ!!」


 慌てて手を引っ込めたこっちの事なんか見向きもしないで、ご機嫌にぐびぐびやってます。や~れやれ……こっちは心臓ばくばくものよ!


「お? もうお仕舞いか?」

「あーっ!? 全部召しあがってしまわれたのですか? こちらの方に差し上げる分が……」


 ほっと一息入れたのも束の間。スープ、全部飲んじゃったみたい! ちょっと! ちょっとちょっと!

 するとデカハナさん、悪びれもせず空の容器を返して来たの。本当に全部飲んじゃったのね。元から、半分しか無かったけれど。

 少しくらい目で批難するくらい良いわよね? ま、あからさまに文句言ったら、破蛇になりかねないから、こっちも自重しなきゃだけどさ!


「あ~……そうだったな。いやあ、あまりに美味かったんでな。赦せ。ここの台所に何かあるかも知れないから、適当に見繕ってくれ。いや、こんな美味いスープはこいつらには勿体ないな。がっはっはっはっは!」


 そう言って、容器を受け取った私の両肩をバンバン叩くじゃないの。いや~、もう方から腰にずんずん響く! その度に、衝撃で頭がかっくんかっくん。な~!?


 に、逃げなきゃ。


「で、では私は失礼致しますぅ~」


 しゅるるっと脇をすり抜けようと。


「待て」

「はい~っ!?」


 いきなり右腕をむんずと掴まれました! そこから、また凄い熱量と言うか何と言うか、例の迸りが私の中にどばっと流れ込んで来るじゃないの!!? もう、目が白黒!


「まあ待て。台所の場所も判らんだろう~? 案内してやるぞ。ぐふふふふ」

「い、いえ。そんな……結構ですから……」

「良いって良いって。人の親切は受けるものだぞ~」


 うえああああ!! ぐいっと引っ張られると抵抗出来なーい!!

 そのまま、文字通りずるずると引きずられるみたいに連れ出されちゃう私! 身の危険が危ないわ~!!


 喜色満面。上機嫌のデカハナさん。ずんずん先に進みます。左手にカンテラを掲げ、右手に私。薄暗い廊下を抜けて更に奥にある別の建物へ入ると、ただっぴろい部屋へ。そこには長テーブルが幾つも並べられ、乱雑に椅子があり、雑然としていました。

 二百人は一度に座れそう。

 つ~んと食べ物の、ちょっと腐った様な匂いも。これはダメだわ。いけない中のいけない感じね。冬や夏に食中毒でも起こしそうな、そんな予感ぷんぷんだわ!

 それにほら、そこかしこでかさこそぱたたって蠢く気配もするし!


「ここがうちの食堂だ。昼間はここで兵士どもに飯を喰わせている。奥に調理場がある。何か残っていれば良いんだが……」

「あの~……」

「ん? 何だ?」

「もう手を離して戴けませんか? そんなに強く握られると痛いんです」

「すまん。つい癖でな」


 パッと手を離すデカハナさん、鼻を撫で撫で。それって、私の匂い嗅いでるでしょ? うう~、嫌だなぁ~……絶対、匂い覚えられたわ。でも、気付いて無いみたい。それはそれでラッキーね。

 でも私の右手首、捉まれた部分が真っ赤になってるじゃない? じんじんしてるもの。酷いわよね?

 ちょっとだけ、じろって見上げるんだけど、何にやついてんのよ!


「悪く思うな。ろくでもない連中ばかり相手にしてるとな、ついつい力が入る。ぐふふ」

「私、何か悪い事をしましたかしら?」

「あ、いや。だからすまんとな」


 にいっと笑うと、人族ではありえない位に立派な牙が。やっぱりこの人、人間じゃないんじゃないかなあ? でも、普通のオークじゃ、こんな力あり得ないし、人族の街に入り込むのもあり得ない。頭の骨とか、どんな構造してるのかしら?


 じっくり触れれば、謎が一つ解けると思うの。でも、それはねぇ~……


「ん? どうした? 俺の顔に見惚れたか? ぐふふふ」

「え!? いえ。とてもユニークなお顔をしてらっしゃるのですね? お血筋ですか?」


 うわ~、ぺろって言っちゃったわ!!


「まあな」


 あれ? 何か上機嫌に、ニヤリって。別に褒めちゃいないのにね?


「台所は好きに使って構わない。終わったら、そのままにしておいてくれ。誰かが片付けるだろう。それとなぁ~、来たばかりと言うが、住まいはどこだ?」

「え? 何で?」

「ん? 何でだ?」


 こ、こいつ、うちに来るつもりじゃ!?


「いえ。どうしてかなあ~と……」

「ああ。明日も来てくれるのだろう? だが、ただ働きという訳にもいくまい。実に美味いスープだったぞ。ついでに俺の分も頼む。で、だ。うちの台所で働く気が無いかな? 気の荒い連中ばかりで、多少の苦労もあるだろうが、あれだけのスープだ。他の料理も出来るのだろう? この街に来たばかりでは働く場所も決まっておらんだろう? それとも、もう先約があるのか?」

「あ……ははははは……」


 笑顔が引き付く。

 よりにもよって……


「えっとですね……」


 おっと、言葉遣い言葉遣い……


「あの~。私、お店を開店するので無理なんですぅ~。さっきのスープもその試作品でして~」


 すると、いきなり肩をぐいっと掴まれました! ちょ! ちょっとぉ~!!

 まあ~た、かっくんかっくん。


「なら話は早い! 試しに一品、昼に頼む! これで買える分でいい!」


 そう言うと、く~らくらしてる私の手に何かを握らせたのです。んんんん?

 じっと手を見る。え!?


 手の中には、金貨が一枚ありましたとさ。


 ああーっ!!



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