表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/143

第四十八話『あれれ? 私また何かやっちゃいました?』

 ひょっこり。またも見知らぬお宅の屋根の上です。新鮮な夜気を胸一杯に吸い込み、大きく吐く。肺の奥にもやっとしたわだかまりが残ってる様な、そんな気がして……


「ふう~……さてと……」


 視力を切り替えると、世界ががらりと変わる。


 闇。星。月。満遍なく精霊が降り注ぎ、光は影を、影は光を侍らせる。


 海からは大挙して水と風の精霊さんたちが流れ込み、土や家の精霊さんと挨拶を交わしては、時折煙突の中へ入ろうとして炭まみれになって逃げ出してたり。


 その中を走る一筋の光。これはあのおっちゃんがまだ生きているって証。

 もし、死んでいるならば、光は私のオーラ一色になる。そして、先へ行けば行く程に細く頼りなくなって、最終的には切れてしまう、かな?


「あ~らら。これはあんまりよくありませんわねぇ~」


 改めて手に取って、じっくり見ちゃうと思わずぴくりと眉が。見るからに元気無さそう。け~っこう、弱っちゃってない?

 参ったわね。


 これは、共感魔術って言われる部類でもあって、虫のしらせとかの強化版?

 親しい間柄だと、何かの時に相手の異変が何となく感じられるって類のアレね。

 それを無理矢理に、私が一方的にひっつけているだけだから、効果が消えてしまうのも早いし、途中で何か大きな魔法が発動したりすると、そこで吹き消されてしまうかも。


「そして罠という事も……」


 見渡せば判る。

 この街は、淀みが無さすぎる気が……ま、あんな化け物連がうろついている段階で、まともとは言えないけれどね~。

 人族の街だったらもっとこう……好き勝手やってるのが居てもおかしくないと想うのよ。


 いわゆる、同業者?


 再び静かに静かにと進み出す私。


 私が居た賢者の塔は、メッチャ凄い事になってたから比べちゃいけないけれど、一口に魔法使いって言ったって上から下まで色々あって、系統だって幾つかに別れているらしいの。ま、他の所の事はあんまり詳しく無いわ。基本はそんなに変わらないらしいけど、専門性?


 で、人がこれだけ集まってるんだから、もっとこう縄張り? みたいな結界とかが張られててもおかしく無いって思ってたのよね。街の出入りに、魔法のチェックが無かったくらいだし、それって私たちにとって好き放題に出来るって事だから。


 う~ん。


 あえてそうしてる……とか?


 もしかしてお国の方針?


 一般化しない方が管理し易いとか?


 他の塔の事は知らないけれど、うちの塔はこの街に伝手が無いって言われてる。じゃあ、他の塔のはって言うと、可能性が高いのはあのおっきな蝙蝠が飛び回ってる、貴族街にあるあの塔? いや、まさか……


 段々と縦長の高い建物が無くなり、二階屋が増えて来る。次第に貴族街を囲う黒い壁が迫り、私はその手前にある、結構広めの敷地がある二階屋の前に辿り着いたわ。

 明かに民家なんて雰囲気じゃ無い。

 あからさまに、何かの施設って感じね。


 通りを挟んだ屋根の上から眺めるんだけど、通りも幅広だしぐるりと取り囲む塀がかなり高いわ。ここから二階の窓が眺められるんだけど、何か妙に小さくない?

 ……収容所?

 おっちゃんの反応は、間違いなくその中へと消えている。


 という事は、あのおっちゃん。兵隊に捕まって牢にぶちこまれちゃったんじゃ!?


「やっば……」


 見張りは……少し離れた右手の方に、かがり火が焚かれてて、兵士らしい人が二人ほど立ってるわね。

 私は静かに降り立ち、姿を消した。透明に。単独でダンジョンアタックする時みたいに気配を殺し、施設を囲む塀に近付いたの。


 塀の高さは二階の窓辺くらい。これくらいなら。

 尻尾の先で身体を支え、ひょ~いと塀の上まで這い上がる。堀の上には、侵入者帽子のスパイクがずらりと並んでいたけれど、まあ普通の鉄くらい。


 くにゃり。曲げて左右に避けて~。私はそのままするりと塀の向こうへ這い降りたわ。


 あら?


 しっとりとした緑の気配。何か土の精霊力が……ふわわっと!

 地面に手を突いたら、ふんわりとした感触。土がふかふかで柔らかい? 何か良い香りの草がいっぱい生えてる……って、畑?


 あ~……


 何か施設の空いてる地面、こんもりと一面何か植わってる! これ、全部食べられる奴じゃない!?

 庭木か何かと想ったら、菜園でした!

 これ、きっとデカハナさんの仕業だ!

 おっちゃんを捕らえるとしたら、当然あの場に居たデカハナさんの手下だろうし、寄り合えず捕まえといたって所かしら?


 私、逆様状態でちょっと硬直~。

 いや、だってねえ。鉄のスパイクは何て事無いけれど、畑を荒らすのはちょっと……


 という訳で、慎重に慎重に、踏み荒らさない様に手を伸ばし、尻尾を伸ばし~のっと……な~んてトラップ!

 いや、実際ここに夜目の利かないのが踏み込んだら、かぼちゃに足を取られて引っ繰り返ったり、瓜の柵を倒して弦に絡まれたり、ナスの棘に刺さったり、い~感じじゃない?


 何とかこのトラップゾーンを抜け出して、糸が伸びてる小さな窓から中を覗いてみます。

 ふ……恐ろしい奴!

 鉄の格子がはまった小さな窓。頭が入らないから、ここから入るには壁も壊さなきゃだわ。


 部屋の中は真っ暗で、異臭が鼻を突きました。糞尿の匂い。如何にも独房って感じね。

 ちょっと舌を出しては中の熱を見る。

 闇の中、寝台らしい上に人が寝かされているわ。ちょっと奇妙な事に、ぴーんと身体が伸びてて、まるで何かに固定されているみたいに……固定されてる!!


 そういう事か~!!


 おっちゃん、バンパイアになるかもって、身動き出来ない状態にされてるんだわ!!


 という事は、昨夜から丸一日!? ひえ~っ!!


 あわわわわわ。ま、まあ、白木の杭で心臓をぶすってやらないだけマシか……マシだよね!? え~~~~~!!?


「どうしよ~……」


 いや、逃がすのもアレだし、このままって訳にもいかないしぃ~……


 流石に頭抱えるわ~。


 ま、まあ、まあ、取り合えず介抱しなくちゃね? ね? ね?


 ぐるり見渡す。左右にずら~っと似た様な格子窓があって、如何にもな収容所。これは……ひょ~いと上へ。二階も似た様な窓で、更に屋根の上へ。

 そのまま反対側に出ようとすると、この建物の全貌が見えて来ました。


 四角い正方形の建物で、真ん中に四角い中庭があり、内側にずらり扉が並び、各階に廊下があるわね。

 幸いな事に廊下には人影も無く、これはしめしめと降り立ちました。

 流石に中庭は固い地面。訓練場かしら?

 他の扉の中からも人の気配。わめく声や、何かを打ち鳴らす音も。でも、兵士が出て来る様子も無いし……


 私は目的の扉の前に。

 そして、またもポーチから数本の先が曲がった針金を。

 愛用の鍵開け道具ね。


 独房の扉は金属で補強された木の扉。如何にもな鍵穴もあって、私は針金の先端をそこへ滑り込ませて……ちょっと捻ると指先に確かな手応え。ともて単純な鍵だわね。

 カチリ。錠が外れて扉がキイっと動く。

 私はそのまま、澱んだ空気の中へと忍び込む。


 木製の寝台の上に、革のベルトで全身を拘束されたおっちゃんが。

 当然、放置されてたみたいで、糞尿垂れ流しで、多分何も食べさせられて無い……いや、酷いわこれ。


 おっちゃん、うんうん唸って苦しそう。意識も混濁してるんじゃないかしら?

 どうしたものかと。どこから手を付けたものかと、頭をぽりぽり。

 多分、脱水症状も起こしてるだろうし……


 流石に透明のままだと、おっちゃんの弱った心臓を止めかねないわね。一応人の姿を取る。それから……


 ベルトを外して~。

 先ずはお水かな?

 ちょ~っとずつ、ちょ~っとずつ。ととととと……


 次に身体の汚れを落してあげて、糞尿を流して部屋の片隅にある小さな穴へと捨てて、空気も入れ替えなきゃだわ!


 じゅるじゅる、ぶしゅうううう


「ふう~……」


 ようやくこれで一息つけた感じ。

 いや、これじゃあ~血もどろどろだわ、昨夜の続きをしてあげなくっちゃね!


 ふん。


 ちょっと気合入れて、気合入れて……あ、あれ? 何か疲れちゃったのかな?

 気合が入らないというか、何か背中がすーすーするって言うか……空気を入れ替えた性にしては、何だろうこの薄ら寒い感じは……?


 背後でキイっと扉が。扉が……がががが……


「女……貴様、誰だ?」

「シュルル!?」


 わわわあああああ!!? びっくりして変な声が!!

 サッと差し込むカンテラの光。

 唯一の出口に、あのおっかない顔のデカハナさんが、下からの光にぼお~っとその凶悪なオーク面を浮かび上がらせていました~!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ