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第四十二話『案ずるより産むがやすしって、まだなんだからね!』


 どぼどぼと壁の数ケ所からお湯が流れ出ていて、そこの一画は湯気がもうもうと立ち始めています。私たちの建物と隣との壁と、そして裏庭に設けた物置小屋のコの字になったスペースに湯だまりが出来ていて、洗濯や洗い物、みんなで水浴びなんかも出来るちょっとした広さのスペースなんだけど。


 三つの窯の煙突を、ぐるぐるっと巡って熱くなった地下水が、各部屋の床や壁を流れてからここに集まる様にしたのよね。賢者の塔には専用のボイラーがあったから、その構造を拝借した形。あそこは石炭を燃やしてました。

 火山なんかでたまに見かける温泉が気持ち良かったから、似た様な事が出来ないかって作ってみたのだけれど、その実験体第一号がジャスミンとハルくんになるなんて。なんか色々とショック!


 それに、尻尾見えちゃってるし!


 というかあの子、幻覚切ってる!?


「うおおお! 不味いで御座る! 不味いで御座るよ!!」

「ああああ、あのねジャスミン! その……ちょっとあなただけこっちに! こっちに来て!」


 私とミカヅキで、尻尾をぱたぱたさせて大慌て。ハルくんに気付かれない様に、何とかあの子だけ呼び戻そうとするんだけど~。


 ハルくんの手がジャスミンの肩に触れ、黄色いワンピースがふわっと、まるで脱皮するみたいに脱げ落ちるじゃないの!?

 ジャスミンも楽しそうに、ハルくんの胸のボタンを外してあげたりして、お互いに脱がせっこぉ~っ!!?


「こ、これは……」

「見ちゃダメな奴では……」

「「はわわわっ!」」


 私たちは慌ててくるっと後ろを向きました。ほんと、これ程にも無いくらい息もぴったりのタイミングで! わわわ~、どきどきばくばくするぅ~!


「え? どういう事? どういう事なの?」

「も、もう二人は大人の階段をっで御座るか?」


 額を寄せ合いひそひそ話してると、後ろで楽し気な歓声と共に派手な水音が。きゃっきゃうふふとはしゃいでるのはジャスミンだけど、一緒になってハルくんも嬉しそうな声を。

 私たちはそお~っとまた振り向いてしまいました。

 どうしても見なくてはいけなかったのです。あらあらまあまあ。〇〇は見た、という奴ですね!


 ざぶ~んと二人で肩を組みながら、湯だまりに身を投げ込むと、お湯が溢れだしてざばば~っと心地よい音を響かせます。

 ハルくんの細い足と、ジャスミンのけっこうある尻尾がお湯を蹴ってはすりすりと絡み合っているのが良く見えます。何という事でしょう。ジャスミンはその正体を隠そうともしないで、ハルくんもその事に何ら驚く様子も見せず、互いの身体を流しっこしたり、さすったり撫で回したりしています。何て、うらや……破廉恥な~。


 な~。


 な~。


 な~。


 どれくらいその場で呆然としていたのでしょう?

 私たちは、どちらかともなく気を取り直しました。


「そ、それがしは夜食の準備をしてるで御座る……」

「そ、そ、そうね。私は、洗濯でもしてるわ……」


 何か勝組の誕生を前にした敗北感みたいなのがずっしり両肩にのしかかって来るんですが、何か?

 湯網を勧めた手前、衣類の洗濯くらいするのが私に辛うじて残された責任感って奴でしょうか?


 するするとスネイキーに近付き、脱ぎ散らかされた衣類を取りまとめてると。


「あ~、ありがと~! お姉ぇ~ちゃ~ん!」

「わわわ、どうもすいません!」


 ざぶんと立ち上がるハルくんを前に、私はそっと目線を反らします。あらだって、ねえ~。


「いえいえ、おほほ。良いんですよ~。ごゆっくり~」


 そっと口元を隠す様に手を添え、まるで中年のおばさんみたいな気分で、そそくさとその場を離れます。

 ついでに衝立みたいに、地面を盛り上げて壁を作ってあげましょう。こっちにしても、見るも毒、聴くも毒なんですからね。もう~。


 物置小屋の反対側に回ると、そこへジャスミンとハルくんの湯船から溢れ出たお湯が溝を通ってこちらの小さな湯だまりへ流れ込んでいるので、ここで洗濯をする事に。

 時折、あっちからざぶんざぶんと小さな波が来るのは、そういう事なのよね~。ま~、お盛んだ事。


「も~、私はこんなとこに来て、何やってんだか~」


 そんな事を口にしながら、くんかくんか。うへぇ~。二人の汗臭い衣類を軽くお湯ですすいで、それからパンと一扇ぎ。水分と一緒に、繊維以外の脂分やら何やらの汚れを飛ばします。

 これも元素魔法って奴ね。


「ほら、自然な香り」


 すんすんす~んと鼻を鳴らすと、先ほどまでの動物臭はしないです。ま、野生動物のそれは、あんなもんじゃないんですけどね~。

 ふと、賢者の塔で学びながらの下働き二年間を思い出し、思わず遠い目をしてしまいました。

 山の様な衣類を抱え、日がな毎日訓練の合間じゃなくて、雑事の合間に訓練を受けるという主客転倒した日々の事を。


「何でこんな事、上手くなっちゃったんだろうねぇ~?」


 空中でくるくるパンと衣類を畳んでは、乾いた石の上に積み上げて行く。二人分の衣類など、あっという間なのです。

 確かにあれもこれも魔法っちゃ魔法なんだけど、これは求めていたのとは随分違う気がした。



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