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第四十話『びっくりびっくり』


 揺れる炎が竈の中で踊り、時折パチリパチリと爆ぜては小さな火花を散らした。

 覗き込むシュルルとミカヅキの頬は、赤々と、まるで熟れたリンゴの様に艶やかで、ほこほこと熱を帯びては離れ、ひりりヒンヤリとした感触をも楽しんだ。


 お店の一階にある作業場に、何ともまったりとした時が過ぎて行く。でも……


「何か静かで……御座るなあ~……」

「やっぱり一尾抜けると、ちょっと寂しいわね~……」

「ふう~む……」


 何のかんの言って、三尾の中でジャスミンは社交的な方だわ。

 この人族の街へ向かう暫くの間、一緒に移動してて会話が途切れるって事、あんまり無かった気がするのよね?

 昼間はやる事がいっぱいあって、結構忙しかったから感じられ無かったけれど……こうしてみると、とても静かよね。


「あらやだ」

「ん? どうしたで御座る?」


 思わず目を見張ってから、くすくす笑っちゃいました。

 竈に手を差し伸べ、端っこを指先でつまむ様にして、鉄串をひっくり返して行きます。


「いえ、あのね~。晩御飯にって串焼きやってるでしょう? 本数数えたら九本。あの子の分も作ってたわ」

「あっ!?」


 ポンと額を叩き、ミカヅキも高笑い。

 私もくっと両肩をすくめて、苦笑しちゃいました。二尾ともジャスミンの事を、自然と頭数に入れていた訳だもの。


「あはははは! 某も、何も考えておらなんだわ~!」

「まあ、いいわ。明日の朝の分も、もう少し余計に焼いておきましょ?」

「イカサマ左様で御座るな。火のある内に~」

「うふふふ……案外、ふらりと帰って来たりして。只今~て」

「ありうるありうる。ふられちゃった~とか?」


 くふふふと悪い笑みを交わし、私は新しい鉄串を、ミカヅキは裏へ材料を。


 私は赤錆の浮いた鉄釘を三本手に取り、繋げていきます。

 一振りすれば表面の錆びた部分が剥がれ落ち、むき出しの黒い鉄肌が鋭い光りを放つ。鉄自体の純度はそんなに高く無いけれど、叩いて伸ばされた四角い鉄釘は、先端に行くほどに鋭く、固い。目がつまっている。

 まあ、それを再度揃えてあげるというか、整えてあげるのよね。


「ほら、出来た」


 鉄串一本出来上がり~。

 こういうの専門でやってる塔だと、ゴーレム造ったり、喋る剣を造ったり出来るらしいんだけど、私じゃせいぜい自分の使える魔法を焼き付ける程度。

 ま、鉄なんて密の荒い素材じゃ、精々切れ味を少し良くしたり便利グッズ止まりなのよね~。


「はい、整いました~」


 カチャリ。たちまち三本の鉄串を仕立て上げる。ちょい魔力籠ってるから、いわゆる鉄串+1?

 叩いて伸ばした四角いものじゃなくて、ほぼ円柱状の滑らかな仕上がり。町の職工仕事じゃこうはなるめえ~って奴ね。いっそ、表面に鱗を掘り込んで……


 ま、朝には二つのお鍋もイイ感じに煮えてるだろうから、これって完全に蛇足なんだけど。


 ふふんと鼻で笑う。自嘲自嘲。食べ過ぎ注意。

 何しろ、野の物に比べて、畑で実る物は成果が大きい。

 育ちやすい環境なんだろうね?


「あら?」


 そこで、具材を奥に取りに行ったミカヅキが、まだ戻ってない事に気が付いた。


 意識をミカヅキに向けると、緊張が伝わって来る。私の専門は幻覚魔法だけど、あれって精神操作系でもあるのよね? 相手の意識に干渉するって奴。外覚、内覚、時にはその両方を同時に。五感全部はまだ無理だけど。だから、少し離れていても、居る事が判ってる相手の意識を感じる事は、結構初歩の部類。


 私は静かにしゅるるっと奥へ。


 すると、階段を挟んだ向こう。荷物置き場の裏庭へ抜ける扉の手前で、ミカヅキが腰の道中差しを抜いて外の様子を伺っている。

 穏やかじゃ無いわね?


 その横へそっと近付き。


「どうしたの?」

「裏庭に誰か居るで御座る」


 ひそひそと言葉を交わす。


「ふう~ん……」


 私の認識領域を、視覚の外に広げてみる。

 壁の向こう、隣の建物の中、そして裏庭。大きな円球状に広がる感覚に、多くの意識を感じ取る。

 惰眠をむさぼる者。夜の営みの真っ最中の者。孤独な者。そして、裏庭には二つの意識があった。


「ぷっ」

「むむむ?」


 私はミカヅキを手で制し、裏の扉を開けた。


「あんたたち、何やってんの~?」

「「うわわ!?」」」


 その向こうには、何でか知らないけれど、裏庭の暗がりでジャスミンとハルくんがびっくりして抱き合ってた。

 いや、こっちがびっくりだわ。



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