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第三話『自重自重、自重しなくっちゃ』


 や・ば・い!


 健康そうな若い男性の筋肉質な身体から、若さ特有の甘酸っぱい香りが……

 この街には、お店を開くために来たのよ!

 人の世の生き血を啜って、不埒な悪行三昧をしに来たんじゃないわ!


 ぷんぷん!


 首を左右に振って自分に言い聞かせる。


 でも……


(良いわあ~……)


 まっ直ぐに立ち、闇の向こうをじっと見すえる若い兵士の姿が、青白い月光に浮かび上がっては映える。実に幻想的な美しさだわ。


 野生の動物も良いけれど、二本脚の人間もね。無駄の無い鍛え抜かれた肉体の美しさは、その美味しさと相まって素晴らしいと思うの。うふ。


 うう~ん。どうにも悪戯したくなる気持ちをぐっと抑え、しぶしぶ離れる事にします。

 だって、街に潜り込めれば、いつだって愛でる事が出来るんじゃない?


 名残惜しさに後ろ髪を引かれつつ、騒ぎを起こさない内に退散する事に。だって、今夜は下見に来ただけなんだから……


 するすると胸壁裏にあった階段を滑り降り、いよいよ人族の街へ。


 つんと来る生活臭。重みのある潮の香り。正に海の街。港町ブラックサン。

 町並みは、三四階建ての建物が隙間なく並び立ち、その間を大小石畳の道が続いている。

 この辺はすっかり寝静まっていて、人通りも無い。

 すごく遠くから、僅かに人の笑い声が風に乗って運ばれて来る。

 街全体はすやすやと寝息を発てているみたいに静かだわ。


「どれどれ~」


 適当な建物をよじ登ってみる。

 この辺の木と土で出来た佇まいは、とこどどころレンガや石で補強されているみたい。

 私の体重は大体人間の三倍ほどあるけれど、音を発てずにするする登る。あちこちでっぱりがあるから、とても楽。

 そして、ひょいと屋上へ。

 そこはまた、ちょっと不思議な感じがしました。


 無数の寝息が、さっきよりもはっきりと聞こえる。

 建物越しに人の寝ている気配が。無防備に。あられもなく。老若男女関係なく。


(これは凄い事よ!)


 ちょっと感動しちゃった!


 眼をパチクリ。


 荒野では群で生活をしている動物がい~っぱいいるけれど、こんな何万単位で暮らしている生き物は先ずいない!

 沼ゴブリンでもせいぜい数百単位。

 私たちに至っては、長らくなわばりを決めて一尾ずつ狩猟生活をしてました。それを招集しての、今回の計画なんだけどね。それでも一尾行方不明で十六尾……


「人族って凄いなあ~……」


 胸がドキドキして、ため息をついちゃう。

 流石に話に聞いていたのと、実際に見るのとでは雲泥の差だわ! これだけの頭数が揃って、この狭い空間に居住しているのは、実に驚異的!


 これなら、人間相手の商売も上手くいきそう。


(代わりにちょっぴり若い男の子の血が貰えたら良いなぁ~♪)


 そんな事を考えて、にへら~っと笑っていた、そんな若い時期も私にはありました。



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