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第二十六話『ハルくんと一緒』


 不思議不思議♪


 ガラガラと石畳を荷馬車が行くのは変わらないのに、さっきまでのどんよりした気分はどこへ行ったの?


 若い頃、遺跡に潜る時に人族の探索者とパーティーを組んだ事もあったけど、こんな風に言葉が弾む事は無かったわ。

 まぁ、大体みんな日焼けしたいかついおっちゃん連中で、気難しくて口も悪いは息も臭い。しかも、最後に裏切ってくれたりして、まぁ~美味しく無かったし。

 あれは酒とタバコと、お肉ばっかり食べてるからよね~。


 私は手綱を引きながら、人波の間をゆっくりと馬車を進める合間に、ちらちらとお隣りを盗み見るんだけど。


「そうなの~? ハ~ルく~ん♪」

「ええ、その時は本当に困ってしまって~」


 きゃっきゃうふふと、ハルくんにべったりのジャスミンたら。まったくも~。

 あら? ハルくんが移っちゃったわ。何て感染力!?


「あの、ハルく……ハルシオンさん。次の路地はどちらへ?」

「あ、すいません。右へお願いします」

「謝らなくていいのよ~。お姉がぽ~っとしてたのがいけないんだから~」

「うっく……」


 確かにちょっと隣のあんたらに気を取られてたけど、腹立つわ~。

 思わず頬を引きつらせちゃうんだけど、ジャスミンたらあっかんべーと舌を出す。後で覚えておきなさいよ~!


 そんなラミアたちとの人間模様を、ミカヅキは少し離れた場所から眺め、さも退屈そうにあくびをした。



「ふう……」


 馬車を操縦しながら、やっぱりダメだな~と自嘲する私。

 人族相手に、色々経験して来たから、どうしても距離を置こうとしてしまう。

 ハルくんはとっても素直そうな感じの良い青年なんだけど、これまで会った事の無いタイプだからか、変に身構えてしまいます。


 正直、気楽に無邪気にじゃれつくジャスミンが羨ましい……


 ま、それにお仕事の相手なんだから、油断は禁物禁物。


「もうすぐですよ」

「あ、はい。どの辺になります?」

「あちらの方です」


 気を取り直して、ハルくんの指さす方を眺めます。


 そうこうしている内に、人通りも徐々に少なくなり、私たちは高い塀のある庭付き住宅街へと差し掛かっていました。

 ちょっと高そうな家ばかりだし、商売するには向いて無いかも?

 そんな気持ちを察したのか、ハルくんが補足してくれました。


「実は、出物の物件がありまして。少しお値段的にも厳しいと思うのですが、最初にご紹介させて戴きますね」


 馬車を停める様言われたのは、ちょっとどころか結構な広さの庭を持つ、三階建ての豪邸でした。

 にっこり微笑むハルくんに、戸惑っちゃいます。


「いや、ここはちょっと商売向きの立地では……」

「ここは比較的お金持ちの方が多く住まうエリアです。この規模ですと、金貨十万枚くらいは普通します。ところが、幽霊騒ぎが起きて、持ち主の方がすぐにでも手放したいとの事で、金貨二万枚で手放されるそうなんです。まあ、ここはこの街がどんなものかご覧になって戴くだけのものですが、鍵もお預かりしてますので、中をご覧になってみませんか?」

「二万枚……」

「素敵~♪」

「びっくりハウスで御座るな……」


 金貨二万枚って言ったら、私が苦労してかき集めた賢者の塔への弟子入り資金の丁度倍じゃない!? 今日の手持ちはたった二千枚ぽっち。とても手が出る金額じゃ無いわ。


「そんなにするんですか……?」

「はい。ここいらは、少し高台になっているでしょう? 城に近く、貴族街の目の前。高波があってもここまでは来ません。平民の方が手に入れられる最高の土地になっております」

「ああ、そういう」

「はい。お分かりいただけましたか?」


 確かに、この建物の向こう、貴族街の内壁がそびえ建っているのが見えます。

 そして更にその向こうに、城らしき高い塔やらが。

 振り向くと、今通って来た道の向こうに、港の町並みが広がり、大きな倉庫、高い屋根の家が犇めき、多くの帆船が停泊している。

 白い海鳥が飛び交い、風がここまでほのかな潮の香りを運びます。

 昨夜嗅いだ様な、生活臭はここまで漂っては来ません。

 確かに、この辺りはとても住み良い町並みなんですね。そして、とてもお高い。


「シュルル姉~、ここにしよ~♪」

「はいはい。無理言わないの」


 素っ気ない私の態度に、ジャスミンはぷう~っとむくれ、ミカヅキは苦笑しています。


「ここはもう良いです。次をお願いして良ろしいですか?」

「お眼鏡に適わなくて残念です。商売に成功なさったら、是非この辺りに」

「そうね。考えておくわ」


 私たちは、馬車から降りる事無く、この場から引き返しました。



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