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第十八話『ただいま~』


 夢中で夜の海を泳いで港の外へ抜け出ると、私はそのまま、どこまでも続く月明かりに白く浮ぶ砂浜を目指しました。

 幸いな事に、海のモンスターと遭遇する事も無く、人魚さんに呼び止められる事も無く、すんなり陸へ上がる事が出来たんだけど、ちょっとの間、波打ち際でぼ~っとしちゃいました。


 尻尾のお腹の方を、水に流れる砂がさらさらとして、と~っても気持ち良いんです。


 さっきまでの潮風が嘘の様に凪いでて凄く静か。

 打ち寄せる並の音がいつまでもいつまでも続くものだから、さっきまでの出来事が、まるで夢か何かの様に想えて仕方なかったわ。


「帰ろ……」


 ぶるっと身震い。

 身体の表面から、少し乾いてべとべとしてきた潮を弾きます。


 これもちょっとした応用魔法で、身体の表層とそれを覆ってる死んだ細胞と油脂の層、更にその表面を覆う物質を、認識、これはイメージの問題で、その表面にエネルギー、この場合は振動ですね、を送って分離する。

 こう、一点からぱあっと身体の表層へと広がる感じ。それで尻尾の先まですっきり♪

 基本的な元素魔法を覚えれば、誰でも出来る事なんですよ?

 そう! 誰でもです!


「ふう……あ、痛っ……」


 思わず顔をしかめ、左の肩に手を。

 そこには、冷たい金属の手触りがします。

 銭キチさんの投げた、黒い大きなコインが、まだ貼り付いていました。


 やだ、何これ!?


 ぞぞぞっとしちゃいます。まるで、そこにあの人が居るかの様な。


「剥がれ……ないっ!?」


 ぐっと力を込めて引きはがしにかかるんですが、コインはぴったり貼り付いたまま。ちっとも取れそうにありません。それどころか、お肉の方がぼっこりもげそうです!


「いったあ~~~……もう、何なのコレぇ~?」


 波打ち際でのたうち回ったものだから、またも砂と潮でぐっちゃりですよ!


「も~、最悪! ぷ~ん」


 それにしても、これも何かの魔法かしら?


 取り合えず、ここではなんだから、馬車を隠してある所へ戻る事にしました。

 そこなら姉妹が二尾居るから、ここより安全ですし。


 もう一度ぶるるっと身体を振動させて、きれいさっぱりしてから戻ります。

 頭なんかぼさぼさですから、このままじゃ笑われちゃいますよね?

 なでなで手櫛で整えながら、城門から少し離れた岩場へ。


「あ~あ~、みっともないわ~……」


 がっくり、猫背でしゅるしゅると疎らな人家の間を進みます。

 この辺は、漁で生活してる漁民さんたちのお住まいですね。

 小舟、簡素な木の住宅や小屋が散見され、それが次第に完全な農村へと風景を変えていきます。

 畑。効率よく植物から食べられる部位を採取する人族特有の習慣ですね。はい。


 こうやって、人族はその支配地域を徐々に押し広げている訳ですが、それって他の生き物の縄張りを奪っていくやり方なんですよね~。

 だから、荒野でも人族との境目は、いつも紛争が絶えません。

 いつだって連中はやり合ってるものなんです。大概、荒野側が追い散らされちゃってバラバラ逃げちゃうんですけどね。まぁ、実際、鉄の武器を持ってる人族は強いですよ。


 さて、見えて来ました!


 二本の大樹に挟まれる様に、巨大な岩がそびえたっています。

 丁度、門外にびっしり犇めいている二階屋くらいの大きさね。街の中に住めない、市民権って奴を持てない人族が、勝手に建てて住みついてるらしいんですが。

 さてさて、それはおいといて。これが……


 私は、まっ直ぐにその大岩へと進みます。

 突き出す手が、その岩の表面に触れ、何の手応えも無くずっぷりと入ってしまいました。

 これ、幻覚なんですよね~。


 そのまま岩の中へ姿を隠すと、目の前には明るい光景が広がります。

 幌馬車に栗毛のお馬さん一頭。焚火を囲み、輪っかになって寝っ転がってる姉妹たち、二尾。

 彼女たち、私の気配にサッと起き上がりました。


「誰でござる!?」

「ん~、何なの~?」


「ただいま~」


 私はそこで、透明化の魔法を解きました。



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