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第百三十二話『小姑山盛りねずみ一匹』


 途中、荷物を持ちを名乗り出てくれた心優しい兵隊さんたちと、ろくでなしエルフたちを引き連れて、来てしまいました我がアジト。ベイカー街のA201。くう~、知られたく無い奴に知られてしまった……


 扉を前に、そんな心の内を腹黒さんに読まれたくないから頑張って笑顔。


「みんな、運んでくれてありがとね。ここまでで良いわ」

「あ、中まで運びますから!」

「大丈夫ですよ!」

「あら、ほんとイイ子たち」


 私一尾で持っていた麻袋を、二人がかりで代わる代わる持ってくれて来たのよね~。こんな殺伐とした人間牧場で、良くもまあ~こんな素直でイイ子たちが育ったものだわ!

 と言うか、キラキラさんのお眼鏡に叶った子たちだからかしら。それにしても、取り巻きのエルフたちが質が悪い。


 折角ほのぼのとバイバイしようってのに、ロングレンジで腹黒さんの声が刺さる。


「ごたくは良いから、さっさと扉を開けなさいよ。中に入れないじゃないの」


 がががが……


「いえいえいえいえ。ここで充分ですわ。後は周りの巡回をお願いしますね」

「何、寝ぼけた事言ってるの? このお寝坊さん。警備するからには、建物の構造を知っておかなくっちゃね」


 ふっふっふと、まるで劇の悪役の様に、腹黒さんったら冗談きついわ。あんたたちみたいなの、中に入れた日には何されるか判ったものじゃ無い!


「いえいえいえいえ。中は散らかってますから、とてもお見せする事は出来ません事ヨ。おほほほほ」

「な~にかまととぶってんのさ。うちの兵士が、中を検分したって報告は上ってます~。減るもんじゃあるまいし。ほら、さっさと開ける」

「いえいえいえいえ。減りますから」

「何? 何かやましい事があるって訳? これはどうしても中を見なければねえ。そうでしょう? 皆さん?」


 腹黒さんがそう尋ねると、十人からのエルフがこくこくと頷くではありませんか。


「見たところ、怪しい魔力をびんびん感じますわ」

「これは怪しい企みの予感」

「まさか、魔王軍の尖兵?」


 おいおいおい! ご近所さまも何事かって見に来ちゃってるとこで、何言ってくれちゃってるんですかあ~!?


「なー、何を無茶苦茶言ってくれちゃってるんですか!?」

「く~っくっくっく……しょうざふらっぐって奴よ、毒蛇さん」


 実に嬉しそうに口の端を持ち上げて、ギラギラと瞳を輝かせてるじゃないの腹黒さん。OK~、こっちの負けだわ。


「別に見られて困るものじゃ無いわ。ただ、嫌なだけよ」

「ふふん。ざまぁ~」

「いつまでこの子らに持たせてなきゃいけないのよ。あなた上司なんでしょ?」


 さっとアンロックの魔法でロックを解除。これはちょっとレベルの高い奴。

 普通に閂かけただけだったのが、魔法で開けられちゃったみたいだからね。扉の向こうで、勝手に閂が外れて扉が開くのは同じなんだけれど。


「さ、どうぞ~」


 扉を開け、中へと招き入れる、のは良いのだけれど……


 開けた瞬間、判っちゃった。


 中で、あの軽やかな足音が幾つも駆け巡っているのが。


「待つで御座るよ~!!」

「や~!!」

「捕まえてみなってばよ!!」

「ぎゃははははは!!!」


 わんと響くみんなの声。あ~……やっぱり……


 私が入ると、それに続いて騎士団の皆さんがぞろぞろと。

 あ~らら。腹黒さんの眉間に深いしわ。


「何です、この騒ぎは?」

「さあ~、なんでしょうね~?」


 こっちが知りたいわ!


 扉をくぐると、即調理場になっているので。


「あ~、この作業台の上に置いて頂戴」

「はい」

「よいしょっと」


 手招きすると、白い光に照らし出される大きな一枚岩で出来た作業台に、少し高いから四人で力を合わせて持ち上げようと。そっと私も手を貸してあげるんだけど。引率のエルフの方々はそっちのけで、建物の検分に熱が入ってるご様子。


「何、この一枚岩!? どこから入れたの!?」

「この壁、おかしくない!? 継ぎ目、無いじゃない!?」

「何か変! でも、頭かぼ~っとしてきて……」

「天井全体が光ってる!? 魔法!?」

「床もよ! 何でどこにも継ぎ目が無いの!?」


 なんかもう、四隅に塵でも落ちて無いかってくらいの勢いで。もうその辺のは諦めて、放っておく事に。それより、率先してお手伝いしてくれた、頬を赤くさせてる子らに。


「みんな、ありがとうね。お水しか無いけど、飲む? ちょっと待ってて」


 そそくさと、洗い場で銅のカップに蛇口から水を注いでと……


「何、あなた!? それ、何なのっ!?」

「何って、お水よ」


 背後から叩き付けられる様な腹黒さんの詰問に、やれやれと答えながら両手で抱える様に四つのカップを持って横目で睨み返す。


「ちっがうわよ! そっちの! 壁から水出てるの!」


 出しっぱなしで来ちゃったから、かしら?

 両手が塞がっちゃったから、蛇口を捻らないでほったらかしにしたからね。まあ、井戸から汲み置きしている普通の家だったらあり得ない事でしょうけど。


「は~い、お水よ。どうぞ~」

「ありがとうございます!」

「いただきます!」

「あっ、冷たい!」

「美味しいです!」

「そ。良かったわ~」


 素直な反応が嬉しくて、つい頬が緩んじゃうわね。

 で、振り返ると奴らが洗い場に集合してる。何?


「何これ!? 水を魔法で生成してるとか!?」

「ここから魔力は感じない……」

「何てインチキ!」

「これこれ。そちらの若い兵士たちの前で、何よからぬ悪だくみをされてるのかしら? もう、見るのは充分よね? さ、お帰りはこちらで」


 そう言いながら、表玄関の方へと恭しく手を振るんだけど、エルフたちの釣り目がますます釣り目になってこっちを睨んで来るじゃない? やだ、怖い!


「あなた、これはど~いう事かしら? 説明して下さる?」

「ふぇ? 腹黒さん、これは実に論理的な結果に過ぎないんですわよ。地下から水を吸い上げて、屋上に貯めて、そこから自然と下に流れてるだけですの。おほほほほ」


 うん。森暮らしのエルフなら、高い木々の間に家を建てる時、同じ様な事をやってる筈だから判るんじゃない? 木の幹に穴を開けてそこから樹液を採るやり方で。


「何それ!? 屋上!?」

「え? エルフなのに、お判りにならない? はて?」


 思わず首を捻っちゃうんだけど~。


「見せなさいよ!」

「え? 何で? 面白くも何とも無いわよ?」

「良いから!!」


 やだ、腹黒さんたら、お顔真っ赤。あ~、もしかして彼女たちって森エルフじゃないのかも! 人間の都会暮らしだものね。エルフだからって、みんなが森の木の上に家建てて暮らしてる訳じゃ無いか。てへぺろ~。


「ま、まあ別に減るけど構わないわ」

「減るの!?」

「私の心の潤いがね」

「何それ? ばっかじゃないの」

「が~ん。ほら、減った」

「見えないから、ノーカンね」

「ばっかじゃないの」

「あら、お返し? 陳腐ね」

「ふ、ふふふふふ……」

「うふふふふふ……」


 いつまでも続くこの不毛な対立に、他のエルフたちは残る二つの蛇口も捻っちゃって、お湯と塩水をドバドバ出し始めちゃうじゃない。ま、まあ、これくらいは別に良いけどね。減るけど。しかし、こいつら~……


 どうしてくれようと思った矢先、例の軽やかな足音が上からみるみる近付いて来る気配が!


「ま、待つで御座るよ!!」

「へへ~ん、やだね~!!」


 ぽ~んと私たちの前に、すっぽんぽんの子供たちが飛び出して来ちゃった!


 あ、あんたら、何してんのぉ~っ!!?



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