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第百二話『青い閃光ミカヅキ』


 ミカヅキの背後。数本の投げナイフが、表通りへと続く木製の扉で静かなわななきを挙げて生え、はらり幾本かの頭髪が床に散る。


 三つの赤い炎がちろちろと調理場を照らし、ミカヅキの影を三重に壁面へと浮かび上がらせていた。

 竈で薪の爆ぜる音に、階段下からの呻き声が怨嗟の如く重なり、この狭い空間を満たし、健在なる襲撃者たちの荒い息を際立たせる。


 対する冒険者は三人。戦士風の男が二人と、盗賊風の女が一人。

 男らは剣を抜き、その背後で女はナイフをいつでも投げつけられる様に隙を伺い、部屋の中央にある大きな作業台を囲む様、一人が正面に立ち、もう一人が側面へと回り込む。

 ミカヅキの道中差しに対し、男らの長剣はリーチが長い。更には投げナイフもあるのだ。表への扉を背に追い詰められた形のミカヅキに対し、余裕を見せじりじりとにじり寄った。


「へ……とんだじゃじゃ馬だぜ。やってくれるじゃねぇか?」

「おい! 男はどこだ!? どこに隠した!? 隠すと為にならねえぜ!」

「やっちまいなよ! こんな女! 構うこたないよ!」


 赤い炎に浮かび上がる三人の形相は、正に赤鬼。

 が、怯える様子も見せず、ミカヅキは静かに口を開く。


「ふむ。男というのはどの男の事で御座るかな? それがしと老婆、それ以外にここには誰も居らぬでな」

「ぬかせ!」

「すっとぼけてんじゃねえ!!」

「やっちまいな、あんた! その後で家探しでも何でもすりゃいいのさ!」


 ぺろりと女の長い舌がナイフを舐め、次にはそれが飛んだ。


 ひょうと放たれたナイフを避けるミカヅキに、前と左から男らが襲い掛かる。手慣れた連携だ。その瞬間、ミカヅキの身体が視界から消えたかに見えた。

 ぺたりと地を這う様に、ミカヅキは足元の影に潜り、身体をネジ転がす様に腕と尻尾を振るうや、男の踏み込みを下から切り上げては伸びきった斬撃を弾き、側面から襲い掛かった男の腹部を尻尾の見えない事を良い事に強かに叩いてのける。


「なっ!?」

「おぶっ!」

「な~にやってんだい、あんたらっ!?」


 浮足立つ男ら。ヒステリックに数本のナイフが飛び、その僅かの隙にミカヅキは扉を開けて表へと逃れた。


「へ~んしんっ! で御座る!」


 カラカラと床に転がるナイフの乾いた音も、扉がバンと閉まるそれに掻き消され、女の金切り声が更に重なり、男らの尻を叩く。

 扉の影で、ぐにゃりとミカヅキの姿がぶれるが、誰も気付き様が無い。


「くそっ!!」

「待ちやが!! がっ!?」


 慌てて追いかけた男は、扉を開けるや上段から縦一文字に切り伏せられ、ミカヅキは跳び退り際にひょうと刃の血を払った。

 腹に受けた不可思議な衝撃に一歩出遅れた男は、その光景に更に慌ててたたらを踏む。


「なっ!?」

「どきな!!」


 はっと仰け反る男の眼前を、ナイフを投げながら女が跳ねた。倒れ伏す男をまたぎ、一足飛びに飛び出しては転げながら又も一閃。


「はん! 的にしてやんよ!!」


 そう叫びながらの更なる十字打ち。そうしながらも、女はしばしばと目を瞬いた。

 あ、あれ? なんかもう少しすらっと痩せてた様な?

 女として敏感な部分。そんな戸惑いがほんの僅かに隙を生む。


「シャー!」

「げっ!?」


 キンキンキンとナイフを弾くミカヅキは、ラミアにとっての一足一刀の間合いを、人間のそれを遥かに凌駕する跳躍力で一気に詰めた。しかも高々と。

 サッと黒い影が女を覆い、それは正に青い閃光。


「やめろおおおおっ!!」


 縦一文字に、股下まで切り落とさん勢いの斬撃。そこへ横から転がらんばかりの勢い、男が一人飛び込んだ。さっきたたらを踏んで出遅れた男だ。

 ミカヅキはちらり、まだそんな奴がいたと、ふと頭の隅に思い浮かべ。


 ギャリィィィィン!


 火花が散り、折れた刀身がチンと鳴って、石畳を舐めた。

 余韻が男の掲げ持つ長剣をインインと唸らせ、と同時にミカヅキは己の手の内が異様に軽くなった事実に愕然とさせられた。

 ミカヅキの道中差しは、根元からぽっきりと折れていたのだ。



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