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8.次の対戦相手

 この日は、アレックス一行以外にも8組3試合が行われた。

 なぜ4試合ではなかったのかと言えば、うち1試合は片方しか試合を行える参加者がいなかったため早々に棄権していたためだ。

 様々な思惑が渦巻く中、5組が無事に3人1組のチームを作り、5名の脱落者たちが1次予選からやり直しというつらい体験をすることとなった。


 受付嬢は、最初に合格を決めたアレックス一行にナンバープレートを出すと、4という数字が書かれていた。

『つまり、ここにいるメンバー以外にも3つチームがあるわけか』

「そのようだね」

 2人が小声でささやき合っていると、千代は目を細めて言った。

「どうやら、そのうちの1チームが我々に興味があるようです」


「ねー君たち、試合相手が決まっていないのなら……うちとやらない?」

 そのチームは2というナンバープレートを付けていた。

 アレックス一行は、女の子2人に、若造1人という組み合わせだから、運だけで勝ち上がってきたチームに見えるのだろう。


 シルバーマップは、納得した様子でアレックスの耳元でささやいた。

『相手さん……ワンマンだね。引き抜くならひとりしかいないって感じのチームだ』

 それはアレックスもしっかりと感じていたことだ。試合を申し込んで来た第2チームで強そうなのは、先ほどから話をしているエルフの女性だ。

 オオカミ族の戦士と、中年風の剣士はエルフの女性の家来という感じのプレッシャーしかアレックスに与えられていない。


 アレックスは頷くと、第2チームのリーダーに答えた。

「では、お手柔らかにお願いします。日程はいつ頃がいいでしょうか?」

「できるだけ早い方がうちらとしては助かるけど、1週間くらいなら待てるよ」

「僕たちも早いうちがいいので……明後日というのは?」

 エルフの女性は「大きく出たね……」と言いながら笑うと、アレックスのあごをすくい上げた。


「積極的な坊やは嫌いじゃないよ。囲ってあげるから顔を洗って待っていなさい」

 挑戦的な挨拶を見て、エルフのお供の2人は「さすが姉さん!」と感激し、受付嬢は頬を赤らめながらポカンとし、アレックスのチームメイトの少女2人は早くも対抗意識を燃え上がらせていた。


 やがて不敵な顔をしながら立ち去るエルフの女性たちを見て、シルバーマップはニタニタ笑いを浮かべながらアレックスに言った。

『見事なアゴクイだったね。小生も思わずビンビンになっちゃったよ……イッヒッヒッヒッヒ』

 不機嫌になったアレックスがシルバーマップの耳を引っ張ると、千代はマップの肩を強めに叩き、マナツルはマップの頬を引き延ばしていた。

『集中攻撃しなくてもいいじゃないか~』

「とりあえず、そのだらしない5本目の脚を引っ込めろバカ!」


 シルバーマップも、普段通りに戻るとアレックス一行は宿場町へと戻った。

「僕らは行きつけの宿に戻るけど、君たちはどうする?」

 そうアレックスが質問をすると、千代はすぐに答えた。

「ご一緒させてください。離れて行動していると、対戦相手や別のパーティーの攻撃を受けることもあり得ます」


 アレックスは、尤もな意見だと思いながら頷いていた。少し前にも、2人連れの参加者が4人組に襲われていたばかりだし、いくらシルバーマップが強いと言っても、大勢で襲われればただでは済まない。



 宿に戻ると、宿屋の主人は驚いた様子でアレックス一行を眺めていた。冴えない若造が少女を2人も連れて戻ってきたのだから当然の反応かもしれない。

 銀貨3枚の宿泊費用を払うと、主人は広めの部屋のカギを出した。口数は少なかったが、お客を連れてきた彼なりのお礼なのかもしれない。


 部屋へと入ると、千代とマナツルの2人は正座をして深々と挨拶をした。

「試験の折は、我々を仲間に入れて頂き、ありがとうございます」

 さすがアレックスも、ここまで畏まられると困惑してしまった。

「それは、君たちが優秀だと感じたからさ。だからいちいちお礼とか言わなくても大丈夫だよ」


 アレックスはここで少し考えを巡らせていた。

 千代とマナツルがどうして冒険者になりたいのか、一応は確認しておいた方がいいのだろうか。こんなに若い女の子たちが異国までわざわざ来るのには事情があるのだろうから気になるが、そんな話をされたくないからガルーダに入りたいともいえるかもしれない。

 質問を取り下げようと思ったとき、千代は言った。

「それからアレックス殿。千代からお願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」


 興味があるなと思いながら視線を向けると、彼女は遠慮がちに視線を逸らした。

「も、もちろん……承諾するかどうかは、聞いていただいてからで構いません」

「わかった。なんだい?」

 千代は思い切った様子で言った。

「例のクレバスには……一角獣が住んでいると聞きます」

 頷くと、彼女は話を続けた。

「もし、見かけて話す機会に恵まれ……分かり合えそうなら、この千代のことを紹介して頂きたいのです」

 どうやら彼女は一角獣をご所望のようだ。

 確かに、ユニコーンまがいのシルバーマップを出せるアレックスなら、一角獣と分かり合える確率も他の冒険者よりも高いかもしれない。


「何か事情がありそうだね。そのことまで話してもらえれば……一角獣に会ったときの説得もやりやすくなるかもしれないよ」

 千代は少し視線を下げると言った。

「千代の住んでいた国は……飢饉にあえいでいます」

 今まで呑気な雰囲気で話を聞いていたシルバーマップだったが表情が一変した。急に姿勢を正してまっすぐに千代を見つめているのだから……本当のことなのだろう。

「太陽を遮る雲と寒さを祓う、それほどの力を持った一角獣の存在が……遠く離れた竪穴の奥深くに存在するとヒミナ様が……シッポンで最も名高い占い師が、7日7晩寝ずの儀式の果てに存在することを突き止めました」


 その言葉を聞いたシルバーマップは、険しい顔をしていた。

『事情はわかったけれど、甚だ困難なことだと思うよ。あのクレバスには、どんな生き物の息の根も止めるという悪魔が存在しているという話を……何度も聞いている』

 さすがは地獄耳のシルバーマップである。恐らく、酒場か何かの噂話でも聞いていたのだろう。

『その悪魔さえ、深層を守る番人……つまり前座に過ぎないという噂もある』

 相方のマナツルは口元を抑えたまま悲壮な表情をしていたが、シルバーマップは警告をしっかりと行うようだ。

『一部の教会関係者が言っているように、71年後の次世紀に生まれてくる救世主を……普通の人は待つと思うよ』


 普通はそこでイエスと答えるのだろうが、千代は違った。

「千代は……ユニコーンを求めます。たとえ……どんなに時間がかかっても!」

 その言葉を聞いたシルバーマップは目を大きく開いてから、やがて表情を戻して頷いた。

『わかった。及ばずながら小生も協力しよう』

「もちろん僕もね」



 こうして、協力体制を作れたわけだけど、アレックス一行にとっての問題は、次の試験で相手がどのような戦い方をしてくるか、ということだろう。

 相手の編成は、戦士、軽戦士、魔道士。これだけをみれば標準的な組み合わせと言えるが、やはり精霊の分身とさえ言われるエルフがいることがアレックスにとっては気になるところだった。

「早速だけど、次の相手とはどういう戦い方をするのがいいと思う?」


 やはりすぐに答えたのは、しっかり者の千代だった。

「アレックス殿は相棒である、一角獣殿を喚び出すことに専念してくださるのが上策かと……その間の足止めは我らにお任せください」

「真っ裸ちゃんさえ出ちゃえば、4対3になるから勝ったも同然だもんね!」

 有翼人マナツルに言われると、シルバーマップはおどけた様子で悪ノリを始めた。


『裸だぞ〜裸ハダカ〜』

「きゃーヘンタイ〜やめて~〜」

 確かに千代やマナツルの言う通りだし、彼女たちならしっかりと足止めもやってくれると確信もできる。

 しかし、アレックスの脳裏には、なにか読み間違えているような、気持ちの良くない違和感が残っていた。

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