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6.2次試験の前哨戦

 受付嬢の説明を聞き終えると、アレックスは答えた。

「では僕はマップとペアということでエントリーします」

「わかりました。召喚獣のシルバーマップ君は、召喚し終えた状態で試合に臨んでください」

「了解しました」

 受付嬢が頷くと、すぐに参加者の1人が手を挙げた。先ほどの説明で質問をしていた東洋風の少女である。

「では、すみません……すぐに彼らに試合を申し込みたいのですが……」


 その決断の早さにアレックスだけでなく、シルバーマップまで驚いていた。

 確かに彼女の連れは有翼人とはいえ、こちらも若そうな少女なので確実に勝ち星を拾えそうな相手を狙うのが定石だろう。

 受付嬢は淡々と答えた。

「対戦なら、相手チームの承諾を得られれば予約できます。次に修練場を使えるのは最短で3日後です」


 シルバーマップはどうする? と言いたそうにアレックスを眺めていた。

 アレックスは考えを巡らせていく。自分は戦士。シルバーマップは魔法戦士。相手の少女は片方が恐らくは軽戦士。そしてもう一人は弓か魔法の使い手だろうし、空を飛べるところが大きい。

「その勝負……受けよう。シルバーマップも構わないだろう?」

『反対する理由はないね』


 最初の対戦カードが決まると、他の参加者たちも次々とその場にいる別チームと対戦の交渉を始めた。恐らくだが彼らも、プレートの番号が12から始まっていることを気にしているのだろう。

 つまりこれは、自分たちのほかに6組のチームが存在している可能性がある。

「2次試験の主……みたいなチームもあるのかな?」

『無い方が不自然と考えるべきだろうね……少し待って彼らと戦いたかったかい?』

「戦力強化をしたところで、3次試験の内容がわからないからね」

 2次試験でチームを作らせておいて、3次試験でチーム内でバトルロイヤルをさせる……なんて内容をアレックスは危惧していた。内容がわからない以上は、早めに3次試験に上がるというのも答えの一つである。


 そこまで考えていたら、受付嬢は言った。

「あと、申し遅れましたが……2次試験をクリアすると、ギルドの食堂を使うことができます。ぜひ振るってご参加ください」

 彼女の言葉に、興味を示す参加者は多かった。やはり誰もがお金のやりくりに苦労しているようである。



 予定を確認すると、アレックスたちは宿場町へと戻った。

 さすがに過酷な10キロメートルマラソンをしたのだから、すぐに体を休めないと翌日以降に響いてしまう。

 アレックスはサウナで汗を流すと、体を軽く水で洗ってから宿屋へと戻った。

『今日は早めに休まないと、明日に疲れを残してしまうね。一応、キュアコンディションをかけておくよ』

「あれがとう。さすがにあのマラソンを、もう一度やれと言われるのは嫌だな……」

 その言葉を聞くと、シルバーマップも頷いた。

『せっかくだし、対戦相手の2人がどんな能力者か情報を集めてみるかい?』


 それは名案だと思った。勇者の血を引くとはいえ、アレックスは一族の落ちこぼれにすぎない。こういう情報収集などの努力を怠ると、すぐに不合格となり1次試験まで真っ逆さまだ。1か月も先延ばしにされると、所持金も大きく減るのでやりづらくなる。

「そうだな。頼む」

 一方、シルバーマップはニヤついた顔をしながら翼を現した。

『よーし、相手の能力や強さはもちろん……プライベートまで全部覗いてしまおう』

「バカ、あくまで相手の強さを見るだけだぞ?」

『わかってる、わかってるって……』

 そう口では言いながら、シルバーマップの身体は忙しそうだった。やはりこのウマは性格に難がある。


 間もなくシルバーマップは、背中の翼から使い魔を作り出して偵察に向かわせた。その10羽は比較的早くに標的である対戦相手の少女2人を見つけたが、地図上で映し出された彼女たちの気の向きは、落ち着かなさそうにあちこちに気配を向けていた。

「矢印がクルクルと動いているね」

『この距離でも、見られているということに気が付いているようだね』


 シルバーマップは偵察させている使い魔に、後退を指示すると2人の気配は見えなくなったが、別の使い魔を今度は南西方向から差し向けた。

 前よりも2割り増しほどの距離を取っているのだが、それでも軽戦士の少女の方が気が付いたらしく、落ち着きなく気をあちこちに向けていた。

『ほ、本当に鋭いね……』

「こりゃ、下手なことはしないほうがよさそうだな」

『不本意ながらビンビン作戦を中止する』


 使い魔どりを撤退させると2人の姿は見えなくなった。ところで、使い魔を落とされたり壊された場合はシルバーマップに何かリスクがあるのかアレックスは疑問に思った。

「ところでマップ」

『なんだい?』

「もし、使い魔どりを落とされたら、お前にも何かペナルティがあるのか?」

『うんあるよ。使い魔は小生の気を練り込んで、編み込んでから具現化したものだから、もし壊されたりしたら内職をすることになる』

「1羽作るのにどれくらいかかるんだ?」

 シルバーマップは視線を上げてから答えた。

『そうだねぇ……今までの最短記録が3時間21分。平均時間は5時間といったところかな。ん……?』


 シルバーマップは地図をのぞき込むと、そこには矢印が幾つか点滅していた。

 アレックスも、実は矢印には幾つか形状があることに気が付き、シルバーマップが覗き込んでいる矢印群は、2対4で互いをにらみ合うように穂先が向いており、徐々にその形状も鋭いものに変化した。

「なあ、これって試験参加者じゃないか?」

『だろうね……この様子だと一戦交えるのかな?』


 間もなく地図に映った2人組と4人組の色が変わり、オレンジチームとレッドチームに矢印の色が分かれて戦いが始まった。最初のうちは2人組の方が押していたが、徐々に4人組の方が数の暴力で2人組の片方を集中的に攻撃し、弱ったところで4人組が逃げ出していく。

 シルバーマップとアレックスはお互いを見合った。

「これって……明後日の試験を見越した行動とみて間違いないよね?」

『恐らくね。エントリーが済んでいる状態で片方だけケガをさせれば、確実に勝てるようになる……ということだもんね』


 普通に考えると、襲撃を依頼したのは対戦相手ということになるが、ルールをよく考えるとペアを組んだ相方が黒幕ということもあり得るとアレックスは感じていた。

 万が一、2次試験で敗北しても対戦相手から選んでもらえれば3次試験に上がれるのだから……。

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