5.ギルド1次試験
「では、教えてください……1次試験とは?」
そうアレックスが質問をすると、受付嬢は紙を出して説明をはじめた。
「今週末に行われる10キロメートルマラソンを40分以内にクリアすること。これが1次試験となります」
コースを確認したアレックスは、なるほどと納得しながら頷いた。
きちんと冒険者として訓練を積んだものなら、10キロメートルを40分以内なら普通にクリアできると思っていたのだが、マラソンコースには上り坂などが多く、それなりに鍛えていなければ十分に落とされる。
隣で資料を眺めていたシルバーマップは、手を貸そうか? と言いたそうにアレックスを眺めていたが、アレックスは曲がりなりにも戦士として厳しい訓練を受けてきた青年だ。これくらいは自分の力で何とかすると視線を向けると、シルバーマップも頷いた。
「わかりました。僕もエントリーさせてください」
「では、こちらに必要事項を書いてください」
審査用の書類を書き終えると、アレックスは宿をとってから当日に備えて走り込みを開始した。
旅をしているとはいえ、戦士としての修業を軽めにしているアレックスは体が訛っていることをすぐに察した。体力をベストの状態に戻すために走り込みや筋トレ、素振りなどを行い、汗をたっぷりと流すほどに修業を行っていた。
シルバーマップのアドバイスもあり、さすがに1次試験の前日は、軽い調整のみで体の疲れをとっていたが、アレックスの体力は実家を出る直前のコンディションまで戻っていた。
そして10キロメートルマラソンの当日。
アレックスとシルバーマップは、動きやすい服装で会場となる道に向かうと、そこには東方の人間をはじめとした男女37名ほどが動きやすそうな格好で集まっていた。40近い年齢の男性から、14・5歳という様子の少女まで、様々な年層の人たちが集まって体をほぐしている。
「思った以上に、いろいろな人がいるな」
『うん。彼らがライバル……ということだね』
まあ、ルールを見る限り、この1次試験は条件さえクリアできれば、誰しもが2次試験に上がることができる。問題はその先にどんなお題が控えているかだろう。
ギルドの人がやってくると、全員が注目した。
「ではこれより、1次試験……10キロメートルマラソンを開始したいと思います」
参加者たちは、誰しもがギルドの受付嬢の横に設けられているスタートラインに付いた。
「ここから道伝いに進み、目的地である冒険者ギルド、ガルーダの微笑みの入り口前にある一本杉……そこに12時の鐘が鳴るまでにたどり着いていたら1次試験は合格です」
参加者の何人かは、ごくりと唾を呑み込んだ。
「では……はじめ!」
合図とともに参加者37名と1頭が走り出した。
彼らは開始3分ほどで、最初の1000メートルを走破し、順調にペースを伸ばしていくが、スタート地点から2000メートルほどで上り坂に差し掛かると、そのペースを少しずつ鈍らせはじめた。
ここからおおよそ6000メートルの地点まで、上り坂と下り坂が交互に繰り返されるという心臓破りの道となっている。4500メートルの地点で1人の参加者が足をけいれんさせて脱落し、5500メートルの地点で2人目の脱落者が出た。
6000メートルを越えたあたりから、参加者の多くがペースを上げて走ったが、難所はまだ終わっていなかった。
7500メートル地点に、10キロメートルマラソンで最も難所と言われる、6パーセントの上り坂が姿を見せた。100メートル走ると6メートル上がるという坂道は、他の場所にもいくつかあるが、この坂道は2000メートルほど続いているのだ。
今まで7キロメートルも走ってきた参加者たちの多くが、ここでペースを落とし、足をけいれんさせたりして次々と脱落していった。
9500メートルの地点に差し掛かった時には、さすがのアレックスも全身から汗を噴き出し、肩から息をした状態でゴールを睨む状態になっていた。
前を走っているのは、男女合わせて4人だけだったが、まだまだ若いアレックスは9650メートルで1人抜き、9875メートルの地点で2人目を抜き、ゴールした時には3番手となっていた。
『タイムは35分31秒……だいたい5分前行動だね』
「本当に……きつかったな……体力づくり……しておいて……よかった」
ギルドのベンチから、後から走って来る面々を眺めるアレックスとシルバーマップだったが、ここまでたどり着けるものはごく一部だった。
合図の鐘が鳴ったとき、ギルド前にいたのはわずか11人ほどで、全体の数と比べると1次試験突破率は3割にも届いていない。
ギルドの受付嬢は言った。
「これで、タイムアップです。合格した皆さんにはナンバープレートを配布し、二次試験に関する説明をさせていただきます」
アレックスは、14番というプレートを受け取ると、受付嬢は一緒に2次試験の紙も差し出した。
その内容は、2次試験を受けるには参加者同士で2人1組のチームを作り、別チームと対戦して勝利すること。そこまでは納得するアレックス達だったが、問題はその先にあった。
受付嬢は淡々と説明文を読み上げた。
「試合で勝利したチームは、敗北したチームからチームメイトを1人引き抜いて3人組を作ってください」
参加者の1人は受付嬢を見ると、すぐに質問をした。
「質問があります」
「なんでしょう?」
「選ばれなかった人はどうなるのでしょう?」
「来月に行われる、1次試験からやり直して頂きます」
その言葉を聞いた参加者たちは、青い顔をしながらざわついた。確かに、こんな心臓破りの1次試験をもう一度受けろなんて言われれば誰だってお断りだろう。
そして1次試験の合格者たちは、あっという間に連れと思しき人や、知り合いとペアを組み、ノロマなアレックスは取り残されてペアを組む相手がいなくなっていく。
「…………」
「あの?」
話しかけられた受付嬢は「なんでしょう?」と質問しながらアレックスを見た。
「余ってしまったようですが……この場合はどうなるのでしょう?」
受付嬢は気の毒そうに答えた。
「その場合は、一か月後まで待って頂いて合格者の中からペアを探すか、召喚獣と思しきお馬さんとペアを組んで、別チームと試合をするかを選んでいただくことになります」
アレックスはすぐにシルバーマップに意見を求めると、彼は少し考えてから答えた。
『変に戦力を揃えようとせずに、このまま試合をした方が賢明かもしれないね』
少し考えると、アレックスも「確かにそうかも……」と頷いていた。ルールを考えると、下手に弱い仲間を作るくらいなら、シルバーマップの方がよっぽど頼りになりそうだ。
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