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4.関所を越えて

 翌日、アレックスは堂々と関所へと向かった。

 その隣にはシルバーマップの姿もあったが、毛並みが芦色ではなく鹿毛色……やや黒みを帯びた茶色になっている。

「お疲れ様です」

 検問を見張っていた兵士も、アレックスの出した身分証明書を見ると頷いた。

「よい旅を」


 アレックス達が通り抜けようとしたとき、不意に検問の兵士の1人の声が響いた。

「ちょっと待ってください!」

 アレックスだけでなく、シルバーマップも驚いた様子で目をやると、鋭い目つきの兵士はアレックスたちの後ろを通って、次に検問を通過しようとしていた身なりの良い男性に声をかけていた。

「な、何か?」

「その白毛馬のことで聞きたいことがあります……こちらへ」

「ぼ、僕はノスティード家の者だよ。そういうことを言うとお父さんに……」

「詳しい話は、詰め所でお伺いします」

 相手が貴族であっても問答無用という様子だ。

 思わずどきりとしたが、アレックス達が有利なことに変わりはなく、目立たない場所から通行人を監視している探索系と思しき兵士は、アレックス達に関心すら向けていなかった。



 検問から1キロメートルほど進むと、人通りもまばらになり、アレックスはそっとシルバーマップに話しかけた。

「何とか、上手くいったね」

『あの兵士の能力はわからないけど、リスクを読むことはできたからね』

 シルバーマップは奇妙なことを言っているように感じると思うが、探索系能力の優れた使い手同士が駆け引きをすると、通常では考えられないことも起こると姉が言っていたことを思い出した。


 なぜ能力がわからずリスクだけが判明したのかと言えば、相手のリスクはこちらが監視をしたときに地図に映り込んでいた。

 それは、こちらの気配を察してあちこちに気配を向けていたことだ。全範囲を一瞬で監視できる使い手なら気を落ち着けて動かなくなる、熟練度によっては矢印そのものがなくなり円形になるものなのだとシルバーマップは言っていた。

 つまり今回の相手は、自分が関心を向けたモノしか調べることができない能力者であることがわかる。そこまでは、アレックスもわかったことだが、ここからが不思議なところだ。どうやってシルバーマップは自分の毛並みの色を変えたのだろう。

 朝起きたときには、すでにコイツは鹿毛色に変わっていた。



「ねえ、一体どうやって毛並みを変えたんだい?」

 シルバーマップは微笑を浮かべると、こっそりと答えた。

『ウマの毛並みって、例えば父馬と母馬が栗毛の場合は……ほぼ確実に子供も栗毛になるんだ』

「じいちゃんが言っていたメンデルの法則ってやつか?」


 そう答えると、シルバーマップはよく知っているなと言わんばかりの表情をした。

『うん。小生たちウマにも遺伝子は、現れる方と潜む方の二種類があって……小生の場合は現れている遺伝子が芦毛……つまり灰色で、潜んでいる方が鹿毛色というわけなんだ』

「それをお前は、魔法か何かの力で呼び出した……というわけか?」

『ご名答。この特殊能力は潜性遺伝子を呼び起こすという……かなり役立つ【ギフト系のスキル】なんだけど、就寝中に変えることしかできないし、一度替えると丸1日このままなんだ』


 アレックスがマップの知識の深さに感心していると、マップは得意になって言った。

『つまり、小生が常にビンビンモードなのも、遺伝による影響が……』

「なんでもかんでも遺伝子のせいにするな!」

『チ○コチ○コチ○コ。チ○コ~チ○コ。コチ○コチ○コチ○コ~チ○コ~』

「だから変な歌を作んなバカ!」

 コホン……気を取り直して冒険を再開しよう。



 アゴカン半島は、ツーノッパ地域の遥か東側にあるため、アレックス一行は淡々と街道を歩き続けた。

 この日だけでも、シルバーマップは60キロメートルほどを移動し、今度は目撃されないように慎重に姿を消してからアレックスは宿を探した。


 宿の受付には中年の男性がおり、慣れた様子で応対していた。

「銀貨1枚になるよ」

 僅か2日で100キロメートルも進んでいるのだから旅も順調だ。この調子なら明日にでも国境付近まで行くことができるだろう。

 個室へと入ると、シルバーマップも姿を見せた。

『とりあえず、今日もお疲れさま』

「お前こそな」


 しっかりと歩いてくれたお礼に、シルバーマップの首筋から背骨の辺りをマッサージしてやると、とても心地よさそうな顔をしていた。やはり人間を背中に乗せて何時間も歩き続けると負担が大きくかかるようだ。

『ああそこそこ……もう少し右』

「こうか?」

『そうそう、いいね……もう少し強めに。うん……そうそう』


 ついでに脚のツボを押したり、筋肉も伸ばしたりマッサージをするとシルバーマップも満足そうな顔をしていた。アレックスとシルバーマップはお互いが分身のような存在なので、不思議とどこに疲れがたまっているのか察しがつく。

『ありがとう。だいぶ楽になったよ』

「喜んでもらえてよかった」

 そう言ってからアレックスはシルバーマップの目を見た。

「明日には、国境前まで行けそうだね」

『順調に進んでいるように見えても、昨日のような落とし穴があったりもするから、気を付けて進まないとね』


 会話を楽しみながら、アレックスは屋台で買ってきた夕食を出した。

 料理名はアレックスもシルバーマップも知らないのだが、その料理の印象は東ツーノッパ風の肉じゃがという感じだ。

 シルバーマップも興味深々という様子で、料理を眺めていた。

『キノコやハーブも入っているから、香りもいいね』

「マップも食べるか?」

 そう聞かれると、シルバーマップは首を横に振った。

『小生が肉を食べれば体を壊してしまうし、歯磨きも面倒くさい。君が食べれば自動的にどんな味なのかわかるからゆっくりと見物させてもらうよ』


 少し冷めているとはいえ、ハーブの風味とジャガイモや肉の旨味にアレックスは満足した。少々味が濃いとも思っていたが、ライムギパンを口に入れるとちょうどよい塩梅となる。

 そして、シルバーマップはと言えば、アレックスが食べている横で、同じように目を瞑って口をかすかに動かしていた。どうやら味覚を共有できるという話は本当のようだ。



 翌日以降は、特にアレックス一行は問題もなく旅を続けて隣国に入り、出発から1週間ほどでアゴカン半島の北東部へと到着した。

「あれが噂の冒険者街か……」

『クレバスが見つかる前は、小さな宿場町だったと聞くけど、まるでゴールドラッシュが起こったかのような賑わいだね』


 シルバーマップの言う通り、街の中には多くの武装した若者や獣人たちが行き交い、街道には真新しい店が並び、公園や壁際にも露店や屋台が建ち並んでいた。

『よかった~ ここって教会の影響力もさほどでもないから、喋っていても問題なさそうだ』

「いいことだけじゃないぞマップ。冒険者ギルドだけで5箇所もある」

 そう伝えると、シルバーマップは視線を上げてから答えた。

『小生がいることを考えると、ツーノッパ地域の影響を強く受けているギルドは良くないね……またバイコーンとか言われてしまう』

「ん、あそこなんてどうだろう? 東方の影響が強そうなギルドがあるよ」


 アレックスが目を付けたのは、大陸でも東方と言われる地域の人々が集まるギルドだった。こういうギルドは、ギルド員の過去にこだわらないことが多いのである。

『ガルーダの微笑みか……ここを選んだ理由は?』

「主に面接対策だね。無能だったから、実家を追い出されたました……なんて説明できないから」


 ドアを開けると、平らな顔をした人々が食事や情報交換をしており、受付嬢の背も低く、どこか子供っぽい顔立ちをしている。

「すみません。ギルドに入会したいのですが……?」


 そうアレックスが伝えると、受付嬢はにこやかに笑いながら答えた。

「当ギルドでは、加入に際して試験を行うことになっておりますが……それでもよろしいですか?」


 アレックスが頷くと、彼女は紙を出して説明をはじめたが、少し離れた場所から話し声も聞こえてきた。

「現地人なのに、物好きな兄ちゃんだな」

「ここは、故郷を追い出されたような流れ者が集まる場所だって、誰が教えてやれよ」

「それじゃあ、つまんねーだろ」

「何次試験で根をあげるか……掛けないか?」

「おもしれーじゃん」


 過去にこだわらなさそうなギルドを選んだアレックス一行だったが、簡単に入団できるわけではなさそうだ。

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