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39.能力セブンティーン

 その直後に、オリヴァー中隊長が影の一撃を受けて吹き飛ばされ、石火矢を受けた騎士が倒され、頑張っていたレオナルド隊長も、影の剣、槍、弓の3連続攻撃を受けてアレックスの側まで飛ばされてきた。


「ここまでのようですねアレックス」

 そう言うと能力セブンティーンを用いたまま、深淵の一角獣は近づいてきた。

 確かにもう、騎士や仲間に戦える力の残っている者はいない。シルバーマップも出てこない。こうなってしまったら勝ち目はないだろう。

 アレックスが顔を伏せていると、深淵の一角獣は更に近づいてきた。

「力を抜きなさい……そして心を開くのです」


 アレックスはゆっくりと手を伸ばすと、途中で一角獣を睨んだまま角を鷲掴みにした。

「な……なにを!?」

 一見すると、悪あがきというかヤケクソにも見える行動に見えるだろう。


 だけど、アレックスの能力はシルバーコンパス。シルバーは銀。毒を素早く見抜き悪魔を打ち払うと信じられている。

 そしてコンパス。コンパスとは普通は円を描く筆記具とツーノッパの人間は思うはずだが、これは方位磁針という意味にもなる。

 アレックス単体で持っていても、シルバーマップを出すだけだが……深淵の一角獣の能力であるセブンティーンを巻き込めばどうなるか……

 アレックスは能力を発動させた。

「能力発動……シルバーコンパス!」



 直後に、アレックスの目の前が真っ暗になり、深淵の一角獣の能力セブンティーンの効果を感じた。それは最大で70日前まで戻るという時空系の能力である。

 1年のうちに使用できる日数の合計が70日。それを半日ごとに小分けにすれば、何度も連続使用ができ、一度にまとめて使えば70日巻き戻るという、低リスクハイリターンという羨ましくなる力だ。

「……なるほど」

 そして、ここで一つの問題が起こった。

 この便利な能力を拝借するには、アレックスもリスクを負わなければならないようだ。その中でも最大の難しさと言えるのが、能力セブンティーンと同等の力を放った時でないと、能力を発動できずに、アレックスの肉体自体が崩れ落ちてしまう。


 時空系の力を行使できるほど、アレックスの魂が燃え上がった日があるだろうか。

 心当たりと言えば、リリィに性別を無理やり変更された日だが、心の方位磁針を見ても反応は鈍い。これではダメだろう。

 だとしたらどこだろう。70日以内にその場所を見つけなれば僕の負けが確定してしまう。


 象族の戦士アニクの攻撃を受けたタイミングも方位磁針は反応しなかった。これもセブンティーンを用いるのには不十分なようだ。更に前……は70日を越えてしまう。何か手はないだろうか。



 いや、まだ手立てはある。シルバーコンパスは方位磁針だけでなく筆記器具のコンパスにもなる。軸針を打ち込むことができれば、70日を越えて戻ることも可能なのではないだろうか。

 方位磁針の機能が使えなくなるから、本当に一発勝負の賭けになるけれど、この際ぜいたくは言っていられない。

 アレックスは、脳内の方位磁針を筆記具のコンパスに変更した。


――コンパス……セブンティーン・ワン!


 セブンティーンワン・コンパスとは、深淵のユニコーンが自分と関わっている日に、セブンティーンワンコンパスという名の軸針を打ち込む能力だ。

 コイツを落とせる場所は3か所ある。1つ目は今現在の地点。2つ目はここに来る前に山賊の隠れ家で遭遇した時、そして最後の1つはAランク賞金首に捕まっていたときだ。


 アレックスは、捕まっていた時に向けて軸針を打ち込み、コンパスを回転させた。そこから丸々70日分の円を描くと、アレックスの視野にある瞬間が見えた。

「一か八か……だな!」


――――――――

――――

――


 そっと目を開けると、そこは見覚えあるツーノッパ地域の神殿。それも大鏡の前だった。

 隣にはアレックスが立ち尽くしており、絶望した様子でこちらの顔を眺めている。視線を正面に向けると、そこには芦毛の毛並みの牡馬が立っていた。


 神殿の関係者や、父親たちは心の底から落胆した様子で視線を向けてくるけど、そんなことはどうでもいい。僕は確かに戻ってきたのだ……旅立つ前の日まで!


 だけど、同時に心配にもなった。

 今からおよそ4・5か月後には、シルバーマップはあの深淵の番人に倒されることになる。このままバカ正直に進んでも、同じ運命を繰り返すだけではないだろうか。

 そうなったら、誰も救われない。またこうして戻って来て同じ運命を延々と繰り返すだけになってしまう。


――そうやって悪いことばかり考えるのが、君の短所だと思うよ


 その言葉を聞いてハッとした。辺りを見渡してもその姿はなかったけれど、瞳の中をよく見ると、そこにはシルバーマップの姿が映っていた。


――さあ、もう一度旅だとう! 今度は1人と2頭でね




 それから4か月後。

 アレックス一行は、前回と同じようにシルバーマップを封じられるところまでは同じ運命をなぞっていったが、「力を抜きなさい……そして心を開くのです」の言葉の後は違った。


 アレックスの背後には、もう一頭のシルバーマップ(天馬状態のアレックス)が姿を現し、奇襲攻撃によって番人の影3体を粉砕。

 その後に交戦状態となるも過去のアレックスと共闘し、残った影も危なげなく撃破し運命を変えて見せた。


 女性だったアレックスの身体も本来の姿である男へと戻り、シルバーマップも何事もなく隣に立っていたという。

 黒幕とも言えた深淵の一角獣は、その禍々しい力の大半を消失しているという奇跡も起こっており、負けを認めてクレバスから立ち去り、アレックスたちも帰路へとついた。


 アゴカン王国の公式資料には、騎士レオナルドと冒険者アレックスが悪しき一角獣をクレバスから追い払った。とだけ記されており、その後のアレックスたちの足取りは記されていない。


 吟遊詩人の歌の中では、アゴカン王国の発展のために尽くしたものや、千代と一緒にシッポンに向かったもの。さらにアレックスという人物は複数人いたというものまで、実に多くの歌があるが、真実は謎に包まれたままである。

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