38.人類未踏の地
間もなく、王国の騎士4人はギルド長とアレックスに仕事を持ちかけた。
アレックスの仕事内容は、ユニコーンを見つけた時の説得と帰還の斡旋である。彼らの考えでは一角獣を説得するなら一角獣。シルバーマップしかいないという考えである。
ギルド長は早くも前のめりの様子だが、アレックスの胸中は複雑だ。先に約束している千代の件がどうしても頭から離れない。
どうしたものかと悩んでいると、シルバーマップは穏やかな表情で言った。
『もしかして、千代との約束で悩んでいるのかい?』
「お前は……察しがいいな」
そう答えてから「そうだよ」と言うと、千代の視線を感じた気がした。
『心配ないと思うよ。これから向かう場所は人類未踏の地なんだ。きっと複数のユニコーンがいる』
何だかシルバーマップらしくない、楽観的な言葉だと思えた。
「どうして、そんなに割れきって考えることができるんだ?」
『うーん……年の功かな?』
まさか、産まれて3歳くらいの奴にそんなことを言われるとは……何だか笑ってしまった。
でも確かに、複数のユニコーンを見つけて、片方を千代の前に連れていけば、アレックスも約束を果たしたことになる。
すぐに騎士に提案した。
「レオナルドさん!」
「引き受けてくれる気になったかな?」
「こちらからも条件があります」
その言葉を聞いた騎士レオナルドは、興味がありそうな表情をした。
「その条件とは?」
「実は、僕もユニコーンを探しているのです。もし、2頭目以上のユニコーンが仲間になったら、1頭はこちらで面倒をみたい」
その条件は、さすがのレオナルドもすぐには即答出来なかったようだ。近くの騎士たちと話し合い、2・3分してからやっと結論が出た。
「こちらも国王陛下きっての仕事だ」
ダメだろうか?
「……陛下がお望みと考えられる方を貰うが、それで構わないか?」
『それなら、小生以外という条件も追加で……』
その言葉を聞いたレオナルドは、参ったなと言いたそうに笑っていた。
「抜け目のない仔だな。わかっているよ」
アレックスは本当に騎士の言う通りだと思いながら、シルバーマップを眺めていた。
あのままイエスなんて答えれば、ロクなユニコーンがいなかった時に、シルバーマップがとられる、なんてこともあり得た。
そのなる前に釘をさすとは、やはりコイツは出来る。
間もなくアレックスは引き受けることを決め、騎士4人や槍使いオリヴァー中隊長と共に出撃の準備を進めた。
アレックスは特に千代を意識しながら残るメンバーに言った。
「じゃあ、行ってきます」
ルドルフは頷いた。
「相手は勝つことが不可能と言われる悪魔だ。無理はするな」
アレックスは頷くと、騎士たちと共に樹海の中へと入って行った。
樹海の中には、更に手強い魔物たちが闊歩していたが、シルバーマップがユニコーンホーンを出すと、一気に離れていった。
「魔物の精鋭のような連中も、ユニコーンホーンは怖いと見えるな」
「違いない」
それだけじゃないとアレックスは思っていた。
騎士の実力はかなり高く、一番弱い者でもルドルフくらいの強さがある。シルバーマップ単体なら魔物たちも大挙して押し寄せてくるだろう。
樹海を進んでいくと、シルバーマップは言った。
『そろそろ人類未踏の地……深淵に入るよ』
いよいよか。そう思ったとき、アレックスの前には見覚えのある一角獣が現れた。
「……! 貴方は!!」
その一角獣はゆっくりした足取りで近づいてくると、アレックスやシルバーマップの前で十字を切った。
『久しぶりだね……深淵の一角獣』
今の言葉を聞き、アレックスは目を丸々と開いていた。シルバーマップは自分の分身である。果たしてどこで深淵の一角獣と会っていたというだろう?
混乱するアレックスをよそに、一角獣はシルバーマップを見て微笑んだ。
「最初に見たときよりも力を付けましたね」
その瞳がアレックスを映した。
「さてアレックス……私の伴侶になる気になって頂けましたか?」
「まず言っておくけど、僕は男だよ。それから……君は僕を使役したいと思っているようだけど、僕も君を使役したいと考えている」
その言葉を聞いた深淵の一角獣は、口元を笑わせたまま目元を伏せていた。
「話が早くて助かります。では……こうしましょう」
深淵の一角獣が顔を上げたとき、その目は黄金色に光り輝いていた。しかし、その表情は神様というよりも悪魔のそれに近い。
「深淵の守護者よ……彼らに試練を与えなさい!」
アレックスは反射的に身構えていた。
目の前に現れたのは人間の狩人だったが影がなんと7つもあり、その全てが浮き上がっていた。
影の1つは剣を持ち、影の1つは槍を、影の1つは斧を、影の1つは長弓を、影の1つはクロスボウを、影の1つは石火矢を、影の1つは魔導書をこちらに向けてくる。
「行くぞ!」
リーダー格の騎士レオナルドが言うと、騎士やオリヴァーは武器を手に怪物と対峙した。
しかし、どういうことだろう。彼らは影に目を向けることなく、人間の狩人に向かっていく。
騎士たちは次々と狩人に剣を振り下ろし、槍を突き立て、魔法も命中させていたが、狩人は全くダメージを受けていないようだ。
「ど、どういうことだ……再生している!?」
「しぶとい奴め!」
その直後に騎士2人はなぎ倒された。仲間が攻撃を受けても、レオナルドやオリヴァーは何が起こっているのかわかっていないようだ。
「駄目だ……それは本体じゃない!」
アレックスはそう言いながら走ると、騎士に忍び寄る影の一つを攻撃した。剣を振り下ろすと影からは血が噴き出し、残った影は一斉にアレックスを睨みつけてきた。
なんだろう。この視線はと思いながら身構えると、後ろから怒涛の脚音が響いてきてアレックスを弾き飛ばした。
直後にシルバーマップの身体に無数の視線が突き刺さり、その身体は砕け散っていた。
「くっ……シルバーマップ!」
そう呼んでも、シルバーマップが現れない。
「シルバーマップ!」
更に呼んでも、シルバーマップは現れない。どうなっているんだ。MPはまだある。シルバーマップを召喚するには十分な量が残っているはずだ。
「マップ!」
「無駄ですよ」
「……!」
深淵の一角獣は、憐れむ様子で言った。
「我が能力……セブンティーンの前では、あらゆる能力が意味を成しません」
アレックスはごくりと唾を呑んだ。深淵の一角獣の角は七色の輝きを放っている。それは神様の姿にも地獄の盟主の姿にも見えた。




