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35.儀式

 シルバーマップとマナツルは、お互いに目を閉じたまま霊木の前に立っていた。

 その様子をアレックスは緊張したまま見守っている。いや、アレックスだけではない。親友の千代も、兄であり姉であるハヤトも、同期のアドハも、巫女役のスカーレットもだ。


 この霊木の周りには大鏡はないが、代わりに澄んだ湖ならある。

 マナツルは霊木とシルバーマップの力を借り、その身体に神の力を感じた時はじめて目を開けることができる。


 アドハは困り顔で言った。

「意外と……長いですね。凄い能力なのでしょうか?」

「それはわからない。長さと能力のレア度は関係ない……という話もあるからね」

 とは言ったものの、アレックスがシルバーマップを受け取るには5分と30秒ほどを有し、父親や関係者たちを大いにヤキモキさせたものだ。

 それだけ勿体付けてハズレ能力だと思われたのだから、実家を追い出す決断をした父の気持ちも少しだけわかる気がした。


 さて、けっこう長くかかっているマナツルだが、5分ほどで目を開けると水面に自分の顔を映した。

「能力名……リターン」

 短い言葉だが、聞いたことのないスキル名だ。果たしてどんな能力なのだろう。

 シルバーマップを見ると、彼は凄い……と言いたそうに目をぱっちりと開けていた。

「どんな能力なんだ?」

『瞬間移動系の能力だよ。2か所のマナツルゆかりの地を繋ぐことができる』

 マナツルは、ワクワクした様子で言った。

「隊長、さっそく使ってみていいでしょうか?」

『構わないよ。誰と行く?』


 マナツルは少し考えこんだ。

「そうですね……どんな能力かもはっきりしていないので、ハヤトと2人で……というのは?」

 確かに、それがいいかもしれないとアレックスは思った。

 マナツルはバトルタイプではないので単独行動は危険だ。ハヤトなら戦闘力が高いだけでなく、緊急時の判断も適格だから不測の事態が起こっても頼りになる。

「わかった。ハヤト……構わないだろうか?」

「ああ、任せてくれ」

 マナツルとハヤトは手をつなぐと、マナツルは言った。

「リターン!」


 マナツルとハヤトは光の中へと姿を消した。見えなくなっただけだろうかとも思ったアレックスだが、周囲の気配を探っても彼女たちの気配はない。

「本当にワープしたみたいですね」

 アドハが言うと、千代も頷いた。

「そのようです」

「一体、どこに行ったのかしら?」

 スカーレットが聞くと、シルバーマップは『そうだねぇ……』と言いながら考え込んでいた。

『彼女に限らずヒトの生活拠点は、決して多くはないから自然と限られてくると思う』


 30分ほど待機すると光の渦のようなものが現れ、その中からマナツル、ハヤト、そしてルドルフとオリヴァー中隊長が姿を見せた。

 彼らが新たに登場したということは、もう転移先は1か所しかなさそうだ。

「ほ、本当に……霊木の前だな」

「アレックス君、無事にたどり着いたのだな」

「はい。ここは幸い……聖樹の霊力に守られているので、ここを拠点に活動したいと思っています」


 ルドルフとオリヴァー中隊長は頷いた。

「よい考えだと思う」

「ギルド長に掛け合って、ここにガルーダ支部を作るのもいいかもしれんな」

 オリヴァーはそう言いながらマナツルを見た。

「マナツル。その能力はもう……使えんよな」

 オリヴァーがそう言った理由は簡単で、マナツルの背中の翼が両方とも灰色になっていたのである。どうやらこの能力は1度使うと、片翼が白から灰色になり、もう一度使うと両方が灰色になるようだ。

 ルドルフは腕を組んで考え込んだ。

「徒歩でギルドに戻った方がいいか?」


 マナツルは自分の翼を触りながら言った。

「いま私の視界に23:45という文字と、23:12という文字が見えているの……これがゼロになったら元に戻るかも……」

 せっかく2名の中隊長が来たので、アレックス一行は様々な打ち合わせをした。

 霊木をどのように守るのかという話に始まり、どこにギルド員用の建物を建設し柵を設けるか。話は弾むように進んでいくと、シルバーマップは言った。

『そういうことなら、アーマーユニコーンフォーメーションに変わろうかな。落ち葉や朽ち木から建材を作ることができるんだ』

「それは助かる! 建材は最近の建設ラッシュで値段が高騰しているんだ。現地で調達した方がギルドにも負担をかけなくて済む」


 話し合いがまとまると、シルバーマップはすぐに眠りについた。

 普段なら4時間も寝ればフォームチェンジは完了するだろうが、今回は長旅の疲れが出ているから6時間はかかるとアレックスは予想した。

「では、ルドルフ隊長にオリヴァー隊長。就寝中の見張りをお願いします。シルバーマップが眠ってしまうと、僕は本当に単なる小娘になってしまいますから……」

 その言葉を聞いたルドルフは、わかっていると言いたそうに頷いた。

「任せてくれ。そのために我らが来たようなものだからな」

 ルドルフは剣に手をかけ、オリヴァーも槍を背負って反対側の森を眺めた。

 

 心強い仲間を得たため、アレックスは熟睡することができた。

 起きたときには明け方となっており、ハヤト、マナツル、アドハ、千代、スカーレットも楽な姿勢ですっかり眠っている。

 オリヴァーとルドルフは森を眺めたまま、様々な雑談をしていた。

「お、起きたかアレックス?」

「ええ、おはようございますオリヴァーさん、ルドルフさん」

「おはよう。特にこれと言って異常はなかったぞ」

「よかった……これなら全員、しっかりと疲れをとれたでしょう」


『おはよー』

 そう言いながらシルバーマップも、アーマーユニコーンの姿で現れた。

 ん、よく見るとマップの岩鎧がドラゴンをかたどったものになっている。これはパワーアップしたというということだろうか。

 ルドルフやオリヴァーも、目を丸々と開いてシルバーマップを眺めていた。

「す、凄く強そうだな……」

『神木から霊力を少し分けてもらえたからね。頭の中に浮かんだイメージを具現化したらこうなった』


 千代やマナツル、ハヤトも背伸びをしたり欠伸をしていたが、シルバーマップの姿を見て目をぱっちりと開いた。

「シルバーマップ殿……そのお姿は!」

『どう? 似合うかな??』

 そうマップが聞き返すと、ハヤトと千代はアレックスとシルバーマップの2人の前で深々とお辞儀をした。マナツルはまだ寝ぼけた様子で周囲を見渡していたが、はっとした顔をすると2人と同じようにお辞儀をした。

「ど、どうしたの……シッポン組?」


 仲間の意外な行動に驚くアレックスだったが、冷静だったスカーレットは淡々と言った。

「精霊獣が霊木に認められて神の末座に迎えられる……ということは稀にあることよ」

『神……そうなの?』

 シルバーマップはちょこんと首を傾げていたが、確かにこいつの姿を見て神と慕う者が現れても不思議ではないかもしれない。



 そう思ったとき、アレックスの脳裏にはコンパスが動くイメージと共に、不意に別の場所の光景が浮かんだ。

 見覚えのない場所だったが、聞き覚えのある女が金切り声をあげながら錯乱し、頭を抱えながらフラフラと鏡に向かっていく。

 鏡にはしっかりと悪魔リリィの姿が映り込んだが、その鉄の下着の棘が物々しく生え下着の周囲には白い煙が上がっている。リリィは目を真っ赤にし、真っ黒な瞳を光らせたまま牙を剥き、鏡を睨みつけた。

「ぐあおおおおおぉぉおぉ……奴らね、奴らの仕業ねぇ……」


 口からはよだれを垂らすと、リリィは頭を鏡に何度も打ち付けた。鏡はヒビだらけになり、狂ったようにリリィは叫んだ。

「殺してやる……殺してやるぞ、あのクソウマと、ゴキ〇リ女男ぉぉぉぉあ!」

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