34.悪魔の手下との戦い
悪魔と一口に言っても格がある。
その言葉を聞いて、なんとなくそうだろうなと思っていたけれど、悪魔化した人間であるビルを見て、よりそのことを強く理解できた感じがした。
以前に遭遇したリリィは、周囲を澱ませるほどの瘴気を出してきたが、ビルは身体の中にとどまっている感じで、その格は大したことはないようにアレックスの目には映った。
「いくよマップ!」
『うん!』
アレックスが剣を構えて斬りかかると、ビルは軽々と斬撃を片手で止めた。その直後にシルバーマップのホーンタックルを胸に受けて終了だ。
不気味なほど狙い通りに、シルバーマップの角がビルの胴体に深く突き刺さると、ビルは目を見開いたまま吐血し、体中から瘴気が霧のように流れ出した。
それだけでなく身体のあちこちが崩れ、ヒビが走っていき、白目を剝いて断末魔の叫びを響かせていく。
リリィよりかは弱いとは思っていたけれど、本当に大したことなかったと思いながらシルバーマップを見ると、アレックスは我が目を疑った。
「え…? ええっ……!?」
何とシルバーマップの身体も、ビルと同じように砕け、白目を剝きながら崩れ落ちていく。
マップが消滅したあと、アレックスは不安に思いながらシルバーマップを呼び出してみた。
『…………』
蘇ったシルバーマップは、真っ青な顔をしながら灰となったビルの残骸を眺めている。
『なんて敵だ……自分が死んだときに、ターミネイトした相手も道連れにする呪いを仕込んでいるなんて……』
その言葉を聞いて、仲間たちは恐々としていた。もし、自分だったらという恐怖はもちろんだが、特にマナツルはハヤトのことを案じているようだ。
「まさかとは思うけど、倒したのが僕ら以外だったらどうなってた?」
シルバーマップは、険しい顔をしながら答えた。
『間違いなくあの世行きだね。対抗できるスキルを持っている人はいなさそうだ』
アレックスは険しい顔をしたまま、灰になったビルの残骸を睨んだ。恐らく、戦力的に勝ち目がないと見て、わざと倒されることでこちらの戦力ダウンを目論んでいたのだろう。
とっさに祖父の言葉を口にしていた。
「こういうの初見殺し……というのかな?」
『いい表現だね。人の命はひとつのしかないのだから、とてつもなく厄介なトラップだよ』
スカーレットは、表情を戻すとアレックスを見た。
「とにかく、誰の血も流れなかったことは幸いだったわ。先を急ぎましょう」
アレックスはすぐに頷くと、移動を指示した。
目的地である神木は、ビルとの決戦の場所から500メートルほど北西の位置にあった。位置的に戦いは避けられなかったようにアレックスには思えた。
「これが霊木……」
千代やマナツルも隣で、神様を見るような表情をしていた。
「木から流れ出る霊力が強すぎて、周囲に負の力が入り込めないようですね」
「すごい。ただひたすらにすごい!」
感無量という感じで、霊木を見て感情を高ぶらせるスカーレットに、上官に会ったかのような表情で敬礼するハヤトとアドハと、それぞれが特徴的な反応をする中、
シルバーマップは厳しい顔をした。
『いつまでも、霊木に見惚れてる場合じゃないよ。ここはあくまで魔境だということを忘れてはいけない!』
アレックス一行は我に返り、すぐに周囲の警戒や儀式の準備を手分けして行った。
場を清めると、霊木の調子が良くなったのか、ますます霊力が強まり、スカーレットはアレックスを見て頷いた。
「じゃあ、これから儀式をはじめるよ。マナツル、それにみんな……準備はいいかい?」
マナツルたちは、しっかりとアレックスを見て頷いた。果たして、彼女はどんなギフトを授かるだろう。