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30.17歳の儀式

 有翼人ハヤトは、特に険しい顔をしていた。

 気持ちはよくわかる。17歳の儀式は誕生日から遅くても1週間以内に行わなければ、スキルを授かる機会は永遠に巡ってこない。

 妹の晴れ舞台が壊されそうになっている状況で、腕をこまねくだけなんてことは出来ないだろう。


「困ったな……ここに教会以外の宗教施設はあるだろうか?」

 エルフのスカーレットも困り顔になった。

「ちょっと、この辺にはなさそうね」

「スカーレットは、どこで17歳の儀式をしたのだ?」

 ハヤトが再び問いかけると、スカーレットは浮かなそうな顔で答えた。


「森の奥地の霊木の前よ……そこは今、地震によって崩落して……クレバスの一部になっているけどね」

 その言葉を聞いたマナツルは、不安げな表情をしていた。自分のスキル獲得のために、そこまで無理をして欲しくないと思っているのかもしれない。しかし、アレックスの考えは違った。

「ねえ、スカーレット……」

「なあに?」

「ご神木で儀式を行う場合、どんなものが必要になる?」

 スカーレットは少し考えこんだ。

「そうねえ……ご神木。その場を清める霊酒。対象となる人物。そして……エルフの立会人と霊獣」

 彼女はそう言いながら、シルバーマップを眺めた。


「一番難しい霊獣が仲間にいるわけだし、やってみる価値はあるかもしれないわね」

 マナツルは不安そうに言った。

「みんな……これは私自身がどうにかしなきゃいけないことだよ。それに……私なら飛んで行けば……」

 アレックスは首を横に振って、しっかりと意思表示した。

「ギフトを受け取れる教会となると、ここからは軽く200キロメートルは離れている。それに……」

 しっかりとその瞳にマナツルの姿を映した。

「僕はね、神様からギフトを受け取ったとき……どうしてこんなスキルなんだって、とても後悔したよ。僕なんていてもいなくても同じだったんだろって」

 シルバーマップも視線を下げたが、すぐにアレックスは言った。

「でも違った。周りからどんなにハズレと言われても実家から追い出されても、才能は必ず輝く時が来る。君だってシルバーマップが弱いとは思わないだろう?」

 マナツルは息をのんだ。

「一番問題なのは、手を伸ばせば取れるチャンスを不意にすることだ。強くなれる可能性があるのなら全力で獲得しに行く……いいね?」

 マナツルは表情を変えると、やがて頷いた。



 アレックスはガルーダの微笑みに戻ると、すぐにルドルフ中隊長の部屋へと向かった。

 ルドルフは書き仕事をしていたが、すぐに視線を向けてきた。

「ルドルフ隊長。突然ですみませんが、明日クレバスに向かいます」

「新しい仕事を受注したのかな?」

「いいえ。今回の目的はマナツルに17歳の儀式を受けさせるためです」

 その報告を聞いたルドルフは、不思議そうな顔をした。

「そんなことが可能なのか?」

「はい。スカーレット隊員の話によれば、クレバスの中には以前エルフが儀式に用いていた神木があるそうです」

「神木か……確かに、それなら可能かもしれんな」

 彼は納得した様子でこちらを見た。

「わかった。気を付けて行くといい」



 廊下を出て少し歩くと、千代がアレックスを待っていた。

「親友に代わってお礼を言わせてください」

「気にしなくていいよ。これはあくまで僕自身のためにやっていることだから」

「アレックス隊長の?」

 千代は理解できないと言いたそうな表情をしていたが、アレックスはしっかりと頷いた。

「そう。僕の中では……まだ、あのクレバスを恐ろしい場所でしかない。だけど、スカーレットは違う可能性を示してくれた」

 千代は印象深そうな表情をしていた。



 翌日、アレックス一行はガルーダの微笑みを出発しクレバスへと向かった。目的地はもちろん中にある神木である。

「スカーレット」

「なあに?」

「神木は君が実際に見たことがあるんだよね?」

 彼女は頷いた。

「もちろんよ。というより……木そのものが強い霊力を放っているから、ここからでも大まかな位置ならわかるくらいよ」

「わかった」


 アレックスは、シルバーマップ、アドハ、マナツル、ハヤト、千代、スカーレットを連れて町外れまでやってきた。この中で17歳の儀式を迎えていないのはマナツルだけだ。彼女は果たしてどんな特技を身につけるのだろう。

 ふとマナツルに目をやると、彼女は恐々としながらもどこか希望に満ちた顔をしていた。恐らく、アレックスも3か月ほど前には同じ表情をしていた。

 彼女のチャンスを何としても繋いであげたい。そう思いながらアレックスはクレバスの入り口に踏み込んだ。


「……? ……!?」

 足を踏み込んだ直後に、何かに睨まれているような不気味な気配を感じた。

 思わずシルバーマップを見ると、彼もまた険しい顔をしたままこちらを見ている。

「今の感じ……なんだろう?」

『はっきりとはわからないけど、小生たちに対して強い関心を持っている人物がコンタクトをとってきたという感じだね』


 強い関心という言葉を聞いたとき、まず思い浮かんだのはリリィとかいう女悪魔だった。奴はこのクレバスの奥で待ち構えていると言っていたが考えが変わったのだろうか。それとも……


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