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3.シルバーマップ

 宿まで乗り込んできた兵士たちは、順番にドアをノックして聞き込みを行っていた。

 彼らが近づくにつれて声も大きくハッキリと聞こえてくるようになり、隣の部屋の旅人との会話はアレックスの耳でも十分に聞き取れた。


 まもなく、兵士たちの足音はアレックスの泊まっている部屋の前にも止まり、ドアがノックされた。

 すでにシルバーマップは消しているが、もし探索能力の高い兵士がいれば、バレてしまうかもしれない。

 アレックスは背中に冷や汗をかきながら、ドアを開けた。


 ドアの向こう側には3人の兵士たちがおり、1人は新人らしくアレックスと同じくらい。もう一人は20才という感じで、最後の1人が30近い雰囲気だった。

「なんでしょうか?」

「夜分遅くに失礼する」

「この辺りで、不審なウマを見かけなかったか?」

 内心ではどきりとしたが、アレックスは表情に出さない訓練も受けている。

 アレックス自身も、驚くほど冷静な返事をしていた。


「ウマ……どのようなウマでしょうか?」

「芦毛……灰色の若いウマだ。何でも幽霊のようにふっと消えたという目撃情報が上がっている」

 アレックスは背中だけでなく、手のひらからも汗がじっとりと流れ出た。これはどう見てもシルバーマップのことだろう。正直に申し出た方がいいだろうか。


 そう思ったとき、若い兵士が言った。

「神父殿にその話をしたら、間違いなくバイコーンや夢魔のような存在だと仰られた! 見つけ次第に捕獲し、火炙りにしなければならん!!」

 だ、だめだ。ここまで兵士たちが殺気立っていると、下手に名乗り出ると取り返しのつかないことになる。


「こ、怖いですね……目撃されたのは今日なのですか?」

 年長者の兵士は頷いた。

「ああ、夕方頃だったと報告を受けている」

 ひえぇ。それどう見ても、アレックスとシルバーマップじゃないか。つーか見られてたのか。

「最近ですね……僕も気を付けたいと思います」


 幸いにも、兵士たちは宿を出て行ったが、ドアが閉まると、すぐにシルバーマップは姿を見せた。

 だから不用意に出てくるなと思うアレックスだが、シルバーマップは意外なほどに冷静だった。

『兵士が立ち入ったのだから、ここはしばらくの間は安全地帯だね』


 まあ、確かにそうなのでアレックスは頷いたが、シルバーマップは外を睨んだ。

『問題があるとすれば、この先にある関所だね。そこに例えば心が読めるような能力者がいると……いろいろとまずい』

 それはアレックスにとって最も心配なところだ。表情などをごまかす訓練はしてきたが、相手が特質な能力を持っていた時の訓練は積んでいない。

「関所を通るのは、一種の賭けになる……ということか」

『ここは情報収集といこう』


 そんなことができるのかとアレックスが思ったとき、シルバーマップは角を光らせて翼を現した。

「…………」

『…………』

 アレックスはその青白く光る角を見て、指先を震わしていた。シルバーマップがタダのウマではないということはわかっていたが、ユニコーンであったことは、この上ない喜びだ。

 しかも、ただのユニコーンではなく翼まで持つ上位ユニコーンだ。どんなに努力をしても報われず、生まれてきた意味も理解できなかったアレックスにとって、自分の分身の姿は、目から涙がこぼれ落ちそうになるほど嬉しいものだった。


 シルバーマップがもう一度角を光らせると、翼は分離し、無数のハトのような姿になっていく。

『関所の情報を集めてくれ』

 指示が出ると、まず最初の1羽が飛び立って枝の中に身を潜め、目を光らせると2羽目が夜空を颯爽と飛び立った。

 最初の1羽が合図として視線を向けると、次々とハトは飛び立っていき、10羽ほどを送り出すと、最初のハトも飛び立っていった。


 そして、シルバーマップの前にはいつの間にか、銀色の布切れのようなものが現れており、覗き込んでみると宿場町を上空から見ていると思われる図が描かれており、赤い矢印と紫色の矢印が無数に点在していた。

「こ、これって……」

『青は自軍。紫色は中立勢力。赤は王国軍だよ』


 確かに言われてみれば、赤は巡回するように動き回っており、紫は基本的に屋内にいて表に出ていない。

「便利だな……」

『うん、普段はメスたちを探すことに使っている』

 少しイラっとしたアレックスは、シルバーマップの頭を小突いた。才能の無駄使いをして欲しくないという気持ちはスケベ馬に届いただろうか。

「問題は、王国軍に探索系の能力者がいるか……ということだね。この中からどうやって探し出す?」

『よく観察してみよう。この地図は、それぞれの生き物がどこに関心を向けているか知ることもできる』


 アレックスは言われた通り、目を皿のようにして数十はある赤い矢印を睨んだ。

 その多くはハトの動きには無警戒で、巡回したり詰め所と思しき場所で待機していたりと、兵士らしい規則的な動きをしていたが、その中にひとつ妙な意識の向け方をする矢印があった。

 シルバーマップも同じ矢印を眺めており、アレックスと目が合った。

「ねえ、シルバーマップ」

『この矢印の人物……明らかに他の兵士たちと気の動かし方が違うね』


 アレックスは、その赤表示の人物の行動だけに注目していると、興味深いことに気が付いた。

 その人物は、何かに監視されていることに気づいているらしく、あちこちをキョロキョロと探っているようだが、使い魔のハトに監視されているということまでは気が付いてはいないようなのである。

 それだけでなく、よくその人物の周りを見てみると、建物内にネズミやヤモリといった小動物の気配もあり、勘の鋭いその人物は、小動物に意識を向けては逸らすという行動を繰り返している。


「この人……索敵範囲は狭いけど、近づくと色々なことがわかるタイプの探索系能力者なんじゃ……」

 シルバーマップも頷いた。

『そのようだね。でも……小生にも考えがある』

 まさか、関所を破るわけにもいかないから、ここはシルバーマップの考えに従うしかなさそうだ。


『とりあえず、使い魔たちは寝落ちさせるフリをしながら1羽ずつ消しておくよ』

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