28.賊との全面対決
アレックスの脳裏には、すぐにシルバーマップの声が響いた。
『アレク、賊たちが女性を監禁しているエリアを火攻めにしようとしている!』
やはりそうかとアレックスはしみじみと思っていた。実は賊一味が薪をどんどん運び込んでいたからだ。
賊たちの行動は、普通なら絶望する場面だろうが、アレックスにとっては朗報と言えた。無数の薪を入れるということは、死角を作りやすいともいえる。
すでに狩人の女性は物音に紛れて口笛を吹き、使い魔であるネズミを呼び寄せていた。
「あなたたち。アレックスの首輪を引き千切って」
「チュウ!」
使い魔ネズミは、軽々とアレックスの服をよじ登ると肩まで駆け上がり、首に付いている拘束具をかじりはじめた。幸いにも革製だったため10秒ほどでネズミも食いちぎり、アレックスの首から拘束具が外れた。
次にネズミは、アレックスの手を縛っている縄をかじりはじめた。これは首輪よりも容易く5秒もすればアレックスの両手は自由になることができた。
恐らくシルバーマップは、表で暗躍の準備をしているだろう。
今の段階でこちらに手繰り寄せれば、現場を混乱させて賊にとって有利な状況を作ってしまう。ここは自力で檻から抜け出すしかなさそうだ。
アレックスは自らの指先を見ると、炎と大地の気を纏っていることを確信した。シルバーマップの姿と連動しているのである。
迷わず鉄格子と檻の付け根部分に手を伸ばすと、思った通り錆びて耐久力が落ちていた。一番下の部分は地面から現れる湿気を最も受けているようだ。これならアレックスの魔法力でも十分に溶かすことができる。
鉄格子を溶かして檻から出たアレックスは、入り口付近に置かれたカギをまとめて奪取すると、女性たちを一人ずつ檻から解放しはじめた。
まず、ネズミを使役している狩人を檻から解き放つと、彼女にカギを半分渡し、次に隣の女性という感じにカギを開け、2分もしないうちに全員が檻から抜け出していた。
その一人は物陰に隠れると、新たに薪を持ってきた賊に不意打ちをかけ、後頭部に一撃を加え有無を言わさず気絶させていた。
彼女たちは賊の武器を奪うと、縄で後ろ手縛りしてから檻の中へと押し込んだ。
「…残り5人」
その言葉の直後に、アレックスは表情を変えた。
なんと、賊の頭が部下を引き連れて姿を現したのである。しかも完全に武装をし、万全を期して迎え撃つ体勢を整えている。
「本当にお前は、見上げた女だよ」
そう言いながら剣を構えたため、アレックスと女たちも身構えた。
「生きたまま焼いても、叩き切ってから焼いても……大して変りないよなぁ!」
叫びながら剣を振り下ろしてくると、アレックスは巧みに避けながら至近距離から炎魔法を浴びせた。魔法は頭の顔面に命中したが、空いた腕でガードしていたため効き目は期待できなかった。
しかし、胴体ががら空きになっており、物陰に潜んでいた少女の1人がナイフを突き立てた。
「…………」
「…………」
その直後に、少女は表情を変えていた。なんとナイフを突き立てたはずの胴体から血が流れてこないのである。それ以前に、頭は表情一つ変えていない。腕も火傷をして皮膚もただれていたが全く痛みがなさそうである。
「効かねえなぁ!」
アレックスは腹部に蹴りを受けて岩壁に叩きつけられ、ナイフを突き立てていた少女も同じように岩壁に頭を強くぶつけたらしく、起き上がったものの血を流している。
たたきつけられた衝撃で動くことができないが、アレックスは頭を睨みながら、これは【ギフト系スキル】の力だと直感していた。
「…………」
男の腕や胴体は傷ついたままだ。つまりダメージは受けている。だけど血も出なければ痛みもなさそうだ。行動にも支障は出ていない。これは本当にダメージがないということだろうか。どんなスキルなのだろう。
狩人の女性を含む複数の女性は武器は持たなかったが、しっかりと身構えて賊の頭をけん制していた。冒険者なら格闘訓練くらいなら受けているだろうし、武器を隠し持っていることを警戒してか頭も不用意には近づけないようだ。
頭が表情だけで、アレックス率いる少女たちを威圧していると、手下の1人が走ってきた。
「親分……大変です! 表から……象族の奴らが!」
「な、なに!?」
アドハたちが来たとアレックスは直感した。
頭が入り口方向を睨むと、アドハ、ハヤト、千代を先頭に、マナツルとスカーレットも駆け付けた。いや、それだけではない。なんとルドルフ隊長とチームAの精鋭たちも勢ぞろいし、突入してきたメンバーの数はおおよそ14名に及ぶ。
「あ、あ、あいつはルドルフ……!」
そう叫ぶと、頭は一目散に逃げだし、手下たちも怯えた様子で次々と逃げ出した。しかし、相手は精鋭であるルドルフ本隊だ。
「行くぞ!」
中隊長の声が響くと、部下たちは得意の俊足で次々と手下を組み倒し、頭以外の4人を捕縛してみせた。
「グラムロックのギラン隊への暴行、傷害事件……および、複数の女性冒険者への拉致、監禁、暴行の現行犯として王国軍に突き出す。連れていけ」
「ははっ!」
「く、くそ……覚えてろルドルフ!」
アレックスは大きく胸を撫でおろしながらルドルフに言った。
「ありがとうございます。隊長たちが来てくれなければ……こちらにも死者が出ていたでしょう」
ルドルフはアレックスの側にいる女性冒険者たちを見た。
「彼女たちには、しばらくギルドに滞在してもらおう。裁判の時に証言してもらう必要がある」
「こちらへ……」
リカオン小隊長が言うと、監禁されていた少女たちはアレックスやルドルフに一礼して隊長に付いて行った。
「それにしても、賊の頭はどんなスキルを持っていたんだろう……ルドルフさん、ナイフを突き立てられても血が出ず、痛みも感じなくなるような特技はありますか?」
ルドルフは「まるでゾンビになったような状態だな……」と呟いてから視線を上げていた。
「そんな能力は聞いたことがない。私も気になるから仲間内でも聞いてみるが……あまり期待はしないで欲しい」
「わ、わかりました……」
賊のアジトの探索や、周辺の見回りをルドルフ隊に依頼し、アレックス隊はリカオン隊と共にギルドへと帰還した。
寝床についても、賊の頭のスキルが気になっていたアレックスだったが、就寝することですぐに謎は解けることとなった。




