27.マップvs「鑑定」スキル
檻の中の少女たちが固唾を飲んでいたとき、密かに動きだそうとしている者がいた。
納屋の中のシルバーマップである。
アレックスは再び監禁されてしまったが、あくまでマップの優位は揺るがない。そう思わせるほど、瞳からは強い意志を宿していた。
『…………』
その瞳はひとつの人影を映した。それは外へと向かい、やがて木陰で用を足している。
シルバーマップも男に忍び寄ると、角を素早く光らせると、用を足している賊の足元を崩し、夜中の川の中へと引きずり落とした。
『…残り7』
その直後に、頭上から声が聞こえてきた。
「急に仲間がいなくなっているから、妙だと思って張り込んでいたら……」
賊のひとりであるオオカミ族の戦士は、枝から弓矢を構えたまま笑っていた。
「まさか暗殺者の正体がお馬さんだったとはな……」
そう言われると、シルバーマップも笑った。
『さすがだね。土産として君の名前を教えてほしいな』
オオカミ族の戦士は笑った。
「ジールだ。俺様に倒されること……幸運に……」
その直後に、男は吐血して枝から滑り落ちた。
男の後ろにはハヤトの姿があり、彼はナイフを布で拭きながら言う。
「シルバーマップ……隊長に伝えてくれ。レッドマロンなら規定数回収して、すでに依頼主に届けたと」
『確かに承ったよ』
その言葉を聞いたハヤトは頷くと、音を立てずに世闇の中へと姿を消した。まるで最初から何もいなかったかのような静けさである。
『残り6人……さて、そろそろ疑いの目が小生にも向いてくるかな?』
翌朝、賊の頭は手下を召集して顔をしかめていた。
22人もいたものが、5人まで減っているのだから余裕がなくなるのも当然だろう。
「お前ら、他の奴らはどうした!?」
「わかりません……朝起きたらいなくなってまして……」
賊の頭は唸るように呟いた。
「まだ、俺様の首を狙う奴が潜んでいるのか? でも……」
しばらく独り言を口にしてから、頭は手下たちを睨んだ。
「ひっ、ひぃ!」
当然ながら、頭も手下の中に自分を脅かす存在がいないことくらい容易に理解したようだ。小隊長クラスの使い手はもう残ってはおらず、束になったところで頭なら返り討ちにできる。
「コイツらは違う……なら、誰だ? 外部からの侵入者か?」
「それにしては妙ですよ、鼻が効くジールさんが外でやられていましたから」
その言葉を聞いた頭は腕を組んだ。
「確かにそうか。アイツが侵入者の存在に気づかないってのは、考えられない」
「へ、へい……」
「だとすると何だ? 何人かは脱走したんだろうが……アイツに気付かれずに、手下どもを葬れる奴……」
しばらく考えたあと、頭は手下のひとりを見た。
「そういえば、納屋で家畜が暴れる事故があったな?」
「へ、へい! 世話をしていた2人が死にました」
「お前、確か鑑定のギフト系スキルがあったな……ちょっと家畜どもを鑑定してみろ!」
頭は手下たちを引き連れて、納屋へと乗りこんできた。納屋にはウシやウマなど様々な動物がいるが、頭はまずウシに目を付けた。
「よし、まずはコイツだ!」
「スキル……鑑定!」
鑑定を発動すると、手下の瞳に様々な文字が映り込んだ。
「ただのジージャー牛でした……」
「いろいろ目ん玉に文字が映っていたが、何が書いてあったんだ?」
「体重とか、年齢とか、現在の所有者とか、今日の体調とかです。全部読み上げましょうか?」
その言葉を聞いた頭は「いらん!」とだけ答えた。どうやらこの男、小難しい話が苦手なようだ。
手下はウシを手速く鑑定していくと、今度はウマを見た。
「個人的には、こっちがアヤシイと思うんですよね。ウマってユニコーンやペガサスになりますから……」
「そう思うのなら、念入りにやれ」
その言葉の通り、手下は時間をかけてウマを1頭ずつ鑑定していった。
栗毛のウマ。黒毛のウマ。黒めの鹿毛ウマ。栗毛で白斑のあるウマ。そしていよいよ、鹿毛で何の模様もない牝馬の番になった。
「……ん?」
手下が訝しい顔をすると、頭も「どうした?」といいながら近づいてきた。
「大したことではないんですが……こいつハラの調子が悪いようです」
「変なもんでも食ったのか?」
「かもしれませんね……ついでにマダニもいますから、後で洗ってやらないと」
「ダニかよ! すぐやれお前ら!」
「へ、へい!」
その後も鑑定は進み、結局シルバーマップがあぶり出されることはなかった。
「空振りか……」
「本当に単なる事故だったみたいですね」
頭は、どこか腑に落ちない表情のまま納屋を後にした。
さて、肝心のシルバーマップがどこにいるのかと言えば、このときは賊のアジトから姿を消していたのである。
鹿毛の牝馬は、感謝した様子で外を眺めていた。彼女が外出を希望したのは、森で見かけた牡の野生馬に逢うためだった。
無事に彼を見つけ、たっぷりとデートをした彼女は、戻ってきてシルバーマップと入れ替わったというわけである。魔境はウマから見ても外敵が多いため、管理されることを望むウマは多い。
そしてシルバーマップ本人は今、クノイチである千代と会っていた。
『敵の残存戦力は6人。これ以上減らすと逃亡の恐れがあるから、これで勝負をかけたいと思う』
「千代もできる限り協力させていただきます」
シルバーマップも満足そうに頷いていたが、千代はふと不思議そうな顔をして質問してきた。
「ところでシルバーマップ殿」
『なんだい?』
「貴殿に鑑定をかけてみても構わないでしょうか?」
その言葉を聞いたシルバーマップは、そういえば千代も【鑑定】というスキルを持っていたことを思い出していた。クノイチとしての業務を遂行するためには、とても有用な特殊能力だろう。
『いいよ』
千代は、右手の親指と人差し指で丸を作り、右目に当ててスキルを発動させた。
「…………」
『…………』
千代の瞳にまず映ったのは、荷馬という言葉だ。
年齢は3歳馬(人間推定17歳)。牝馬。体重465キログラム。所属は不明。
「こ、これは……一体!?」
『じゃあ、もう一度使ってみて』
「え、ええ……」
次に千代の瞳に映ったのは、上位ユニコーンという言葉だった。
ファイア・アースユニコーンという名が記されており、レベルまではわからなかったが、大まかな強さを示すランクにはAという文字が記されており、ルドルフ中隊長と同等の強さがあることがわかる。
次に年齢や性別、体重が表示されたのは前と同じだが、所属もガルーダの微笑み。ルドルフ中隊Cチームとまで出ている。
「こ、これは……どういう?」
『シルバーマップ。マップには地図のほかに布切れという意味もある』
そこまで言うと、マップは厳しい表情をした。
『能力に頼りすぎて本質を見る目を損なうことがないようにしたいものだよね……お互い』
「き、肝に銘じなければ……」
シルバーマップは、鋭い目つきで賊が残るアジトを睨んだ。
『千代。以前に君は一角獣を探すと言っていたけど……今もその気持ちに変わりはないよね?』
「もちろんです。どこまでもお供させていただきます!」
その言葉を聞いたシルバーマップは言った。
『小生たちは、不可能と言われていることをやろうとしている。時には常識から大きく外れたこともできなければ、深淵にはたどり着けない』
そう言った直後、シルバーマップは耳をピンと突き立ててから、顔や体中に冷や汗を流しはじめた。
突然の変わりように千代も動揺した様子でマップを見ている。
「どうしたのですか?」
『連中の数を減らしすぎた。奴ら……女の子たちを葬ってから身を隠そうとしている!』




