表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/39

18.リゲルグ村とゴブリン

 他の部隊からは、どんな強力な使い手が来るのか密かに期待していたアレックスだが、他の部隊の大半が隊員を出すことを嫌がったらしく、素人同然のような使い手しか集まらなかった。

 それを見ていたルドルフ中隊長が険しい顔をしていると、エルフの魔導士スカーレットはため息交じりに言った。

「集まってくれた彼らには悪いんだけど、今回のゴブリンがどれだけ危険な存在か、どの隊長さんも理解していないよね」

 クノイチ千代も頷いた。

「ルドルフ隊長」


 ルドルフは頷くと、各部隊から来た新人たちに言った。

「それぞれの部隊の隊員たちは、戻って隊長たちに伝えてくれ。必要なのは精鋭部隊のみ。下手な小細工は無用……とな」

 新人たちはざわつきながら戻っていったため、ロビーにはルドルフ隊しかいなくなったが、考え方を変えれば精鋭が残ったということもできる。

「では行くぞ」


 オオカミ戦士ルドルフを先頭に、勇者の孫アレックス、芦毛のシルバーマップ、象族のアドハヴァディティア、有翼人のハヤトとマナツル、クノイチ千代、エルフのスカーレットがギルドを出発した。

 アレックスは言った。

「でもシルバーマップ。よくお前が、支援者の救援に行こうなんて言い出したよな。もっと利己的なのかと思ってたよ」

 その言葉を聞いたシルバーマップは失敬なと言いたそうに不機嫌な顔をした。

『小生だって聖獣の端くれだよ。それに……支援者の村ということは……牝馬もたくさんいる!』

 アレックスは、本当の目的はそれか。と妙に納得していた。

「お前の行動原理って……凄くわかりやすいな。でもどうしてそれなら、最初から行こうと言わなかったんだ?」

『一応、ギルドとの約束は守らないとね』

 普段は問題発言や、セクハラまがいな行動をすることが多いシルバーマップだが、約束はきちんと守るのだから腐っても聖獣だ。

 実際に今月分の売り上げのうち、金貨50枚近くをシルバーマップだけで稼ぎ出しており、彼がいなければ短期間での目標達成など不可能だっただろう。



 支援者の村は、ギルドから3時間ほど歩いた場所にあった。

 村は山間にあるだけあり柵や門によって守られてはいたが、全てが木造なのと老朽化も進んでいるため、ゴブリンが本格的に襲撃してきた時にはどこまで役に立つのかはわからなかった。

 シルバーマップも険しい顔をしながら言った。

『村の規模の割には、人の数が少ないな』

「ゴブリンの襲撃を警戒して、すでに村を去った民は多いと報告を受けている」


 ルドルフ中隊長は、まずは村長の家へと向かった。

 村長の家も人の気配はあまりなく、高齢の村長や奥さん、跡取り息子の姿しかなかった。

 家の大きさの割に少ないとアレックスは思っていたが、シルバーマップの鼻はしっかりと若い女性や子供たちのにおいを捉えており、すでに安全な場所に避難していることを小声で伝えてきた。

「ガルーダの微笑みのルドルフです」


 そう彼が伝えると、村長は「ルドルフ……もしかして中隊長の!?」と声を上げて喜んでいた。

 今のアレックス隊の見た目は、オオカミ戦士1人、ヒト族の若造男女1人ずつ、ウマ1頭、エルフの女1人、有翼人の男女1人ずつ、象族の若造1人という感じなので、はたから見たら形式的にザコ部隊を送ってきたようにしか見えないのである。

「こんなところで立ち話もなんです。おあがりください」


 村長の話を聞くと、ゴブリンが家畜や人を襲うようになったのは最近のことらしい。

 以前も、伐採の時に投石などの妨害行為はしてきたが、少しでも体格のよい村人が睨むとすぐに逃げ出していたため、集団で襲われた経験はないのだという。


「しかも、いくら倒しても際限なく出てくるのです。村はずれの洞窟が本拠地だと思って制圧しましたが……退治した帰りに別のゴブリンたちに襲われる始末……」

「その様子だと、かなりの数がいそうだな」

 有翼人ハヤトや千代も頷くなか、スカーレットは腑に落ちない様子で質問をした。


「その様子だと、いくつものゴブリンコロニーがあると考えられるけど、コロニー間で結束しているのかしら?」

 村長は「それはわかりませんが……」と浮かない顔をして話を続けた。

「その可能性は高いと見ていいでしょう」

「妙な話ね……」

 スカーレットは、悩ましそうに腕を組んだ。

「ゴブリンの性格も個体差が大きいのよ。確かに武器を手に村を焼き、女を辱める個体がいることも事実だけど……基本的には、人間に関わらないように動くものよ」


 確かにスカーレットの言うことも一理あると、アレックスは思っていた。

「ねえ、スカーレット……ゴブリンが無警戒にいきなり人里を襲うことって、そもそもあるの?」

「ゴブリンという種族単体ではありえないことね。彼らの背丈を思い返してもらえばわかるけど、一般的なゴブリンはせいぜい子供くらいの大きさよ。確かに無謀な個体がいないワケでもないけど、100匹のうち95匹は人間を怖がって逃げてしまうでしょうね」


 ルドルフは腕を組んで考え込んだ。

「つまり、別種族が背後にいる可能性が高いということか」

「あるいは……何らかの理由で凶暴化しているというところでしょうね」

 

 その言葉を聞いていたらしく、表にいたシルバーマップは鼻を鳴らしていた。こういう時は決まって何か言いたいことがあるに違いない。アレックスはすぐに村長に一礼してマップのところまで行った。

「どうしたマップ?」

『話は聞かせてもらったけど、討伐する前に調査をする必要がありそうだね』

「ゴブリンの数と発生原因かい?」

 シルバーマップはしっかりと頷いた。

『その通り。ゴブリン側にどれくらいの戦力がいるのかということと、なぜ人間を立て続けに襲っているのか……わからない状態で組み合うのは危険だからね』


 彼はそういうと周囲を見渡してから角と翼を実体化した。

 その翼はもちろん分離し、25羽前後の使い魔鳥になって山林へと飛んでいく。同時にシルバーマップの前には地図が現れ、そこには浮かび上がるようにリゲルグ村と周辺図が浮かび上がった。

「まずは地形から……だね」

『うん。戦いは地図を書くところに始まり、地形を制することに終わる……と言っても言い過ぎではないくらい地理を把握するのは重要なことだよ』

 ウマであるマップの言葉だけに、下手な貴族が言うよりも説得力があるものだ。


 しばらくアレックスも山林の様子を眺めていたが、地図がより正確に作られていく中で、山間の一角が禿げ上がっていることに気が付いた。

「なあマップ。ここ……ずいぶん荒れてるけど……」

『伐採の跡だね。この周辺のマナが著しく落ちているし、土砂が近くの川にも流れ込んでいるみたいだ』

 アレックスは少し思い返してみた。確か、リゲルグ村の主要産業の中には林業もあったはず。

 そこまで考えると、アレックスの脳裏にある懸念が生まれた。


「ゴブリンの巣穴がどこにあったか、村長に聞いてこないとね」

『うん、是非ここに連れてきて欲しいな』



 間もなくアレックスは村長やルドルフ一行を連れ、シルバーマップの地図を説明した。

 村長が驚いていたのはもちろん、ルドルフたちも興味を強く持った様子でマップの地図を食い入るように眺めていた。

「ゴブリンの巣穴は、こことここ、それからここ、ここ、ここにありました」

 その言葉を聞いた有翼人ハヤトは、驚いた様子で声を上げた。

「ちょっと待て! よく見れば剥げた場所の近くではないか!」

「ああ。しかも……地上から見たのでは、わかりづらいのが何ともな……」

 ルドルフも難しい顔をしながら頷いていた。


 スカーレットも低い声でつぶやいた。

「凶暴な個体が弱ったマナを食い荒らして個体数を増やした? それとも……マナの枯渇によって体内のバランスが崩れて凶暴なゴブリンが何百と現れたのかしら?」

『今の言葉は、一見似ているようで対処法は大きく違ってくるね。前者はまだ穏やかな個体が残っているということだけど、後者はすべてのゴブリンを倒さないといけなくなる』


 シルバーマップは目を瞑ると、角を光らせて何かに働きかけを行っていた。注意深く地図を観察すると、25前後飛んでいる使い魔どりの1羽が地図上で動き出し、ゴブリン1匹を監視している。

『なるほど……近くにいたゴブリンの体内を探ってみたら、マナバランスが滅茶苦茶になっていた。すべてのゴブリンを倒す必要があるかもしれない』


 ルドルフ隊長はしっかりと頷いた。

「調査結果をまとめてギルド長に報告しよう。必要な戦力は向こうで見繕ってくれるだろう」

「わかりました。こっちは調査を進めます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ