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17.ギルド員の逐次投入

 4月も10日になったころ、アレックス隊の達成額は金貨45枚、銀貨7枚分まで集まっていた。

 ハーブ園の所長に気に入られたアレックス隊は、指名という形で依頼を受けるようになり特別料金も上乗せされるようになったためである。


「凄い集まりましたね」

 象族の戦士アドハが言うと、アレックスは少し難しい顔をしたまま答えた。

「手放しに喜んでばかりもいられないよ。冒険者街にある病院や教会には十分にハーブが行き渡っているから、次に仕事があるのは……早くても月末だ」

 隣で話を聞いていた、クノイチの千代も頷いた。

「油断せずに、次の仕事を探すしかありませんね」


 商売はいい時ばかりでないことが難しいところである。アレックスは仲間たちを引き連れて事務所へと行くと、何やら中隊長たちが揉めていた。

 人の好いアレックスやアドハが声をかけようとすると、何かを察した千代は手で静止し回れ右を合図した。千代の察しの良さを知っているスカーレットやハヤト、マナツルも千代に賛成してアレックスの手をひいて戻っていく。


「な、な、なに……どうしたの?」

 アレックスが質問をすると、千代は難しい顔をしながら答えた。

「今の中隊長たちの表情は……あまり良い話をしていない様子でした。ああいうときは極力視界に入らない方が賢明です」

 スカーレットも頷いた。

「同感ね。ちらりとだけどゴブリンという声も聞こえてきたから……」

 その言葉を聞いたアレックス隊の関係者たちは、なんとなく察しがついたようだ。


 唯一、耳の良いシルバーマップだけは耳を中隊長たちのいる方法に向け、しばらく聞き耳を立ててからアレックスたちを見た。

『みんないい勘してるね。どうやら中隊長たち……誰がゴブリン討伐用の部隊を出すのか揉めに揉めてるみたいだよ』

 その言葉を聞いたアレックスはなるほどと納得していた。ゴブリンというモンスターは、残虐でこずるい上に、苦労して倒しても見返りが少ないことで有名なのである。

 特にゴブリンの数が多ければ、ホブゴブリンやゴブリンナイトなどの統率者がいることもあり、ただでさえ厄介な相手が更に危険な集団になるというわけだ。


 有翼人のハヤトも困り顔で質問した。

「その様子だと、断れない相手……例えば支援者の村などが襲われたということか」

『ご名答。支援者のひとつであるリゲルグ村は、金銭的な援助は少ないものの、食料や木材と言った様々な支援物資を提供してくれていると……オリヴァー隊長が言ってた』

「つまり、支援者にはいい顔はしたいけれど、自分の部隊は出したくないということね」

 スカーレットが言うと、千代も頷いた。

「どこの部隊も、月末までに一定額を集めなければいけませんからね。リゲルグ村の防衛任務はお金にならないうえに、ゴブリンの群れの規模によっては隊員の中に死傷者が出る恐れもあります」

「しかも少なく見積もっても1週間単位。多ければ月末までそのまま……か」


 そんな話をし合っていたら、シルバーマップはひきつった表情をした。アレックス風の言葉に直すと、うわ……まじかよ。と言いたそうな雰囲気だ。

「ど、どうした……?」

『どうやら中隊長たち。各中隊から1人から2人……戦士たちを出し合ってゴブリン討伐部隊を作るということで決着したみたい』


 アドハやマナツルは、な~んだ。それはグッドアイディアだね。と言いたそうな顔をしていたが、スカーレット、ハヤト、千代と言ったベテラン組や察しの良いメンバーは、シルバーマップと同じ表情をしていた。

「それ。単なる烏合の衆じゃない……」

「部隊によっては、能力の低い者を送って終わり……ということもあり得るぞ」

「それ以上の問題として、隊をまとめられる人材はいるのでしょうか?」



 隊員たちの不安が現実のものとなったのは13日のことだった。

 各中隊から結成されたゴブリン討伐部隊は、予定通り出資者の村の自警団員と協力してゴブリンの巣穴に攻撃を仕掛けたのだが、ゴブリンの挑発を受けて深入りし、討伐隊の半分以上に渡る4名の死者・行方不明者を出した。

 生き残った隊員も、村の自警団員ともどもボロボロになって逃げかえったという。


 ギルド長はその事態を重く見たらしく臨時会議を行い、中隊長6人全員と独立部隊の小隊長たちから意見を募っていた。


 そしてアレックスとシルバーマップは、庭先から聞き耳を立てて会議の内容を聞いていた。

『どうやら、うちの部隊からはBチームとEチームから1人ずつ参戦したけど、Bチームの人が大怪我で入院。Eチームの人は未だに戻らないようだね』

「そうなると……次に僕の部隊から誰か出せって言われるかもね」

『もしそう言われたら?』


 アレックスは少し考えてみた。

 まず、ハヤトとマナツルは月末と月初のハーブ運び要員だからダメ。

 次に、スカーレットと千代はどんな仕事でも役立つし、ゴブリン討伐に出したら集中狙いされるから却下。

 3番目に、アドハは体が大きいから、そもそもゴブリンの巣穴に入れないため除外。


「……適任は僕かな?」

『待て。君がいなくなったら指揮はどうする?』

「ルドルフ隊長に代わってもらう」

『こんなにクセの強すぎるチームは、さすがのルドルフさんでもお断りでしょ』



 会議が終わると、アレックスたちはルドルフのいる中隊長室へと向かった。理由はもちろん、3日の間に稼いだ小切手を渡すためである。

 ルドルフ中隊長は、自分の部屋で浮かない顔をしたままデスクにいた。

「ルドルフさん。また仕事をこなしてきました」

 小切手を差し出すと、疲れた様子のルドルフは少しだけ笑顔になった。

「ご苦労だった。これで君の部隊の売り上げは……金貨56枚と銀貨5枚か」

「はい。チームメイト全員が良く働いてくれるので、ゴールもやっと見えてきました」


 ルドルフも頷くと、資料を1枚出した。

 そこには、ルドルフの指揮するA部隊からE部隊の全てが書かれており、各部隊の目標額と現在達成している額が記されている。

 一番優秀なA部隊で5割ほど。E部隊は人数も少ないため3割5分ほどしか捗ってはいなかった。


「……アレックス君。済まないが各部隊の長を呼んできてくれ」

 ルドルフ隊の小隊長たちは談話室で会話をしていた。

 ルドルフ隊長に呼ばれたことを伝えると「わかった」と答えたが、誰もが嫌そうな顔をしていたため、何を頼まれるのかおおよその見当が付いているようだ。


 中隊長室に彼らを案内すると、ルドルフは彼らに言った。

「イーサン。済まんがCチームを率いてリゲルグ村の防衛とゴブリン退治に協力してほしい」

「支援者の力になりたいことはヤマヤマなんですが、今月の売り上げノルマが……」

「それは他の部隊で対応する。だから、ゴブリン討伐に向かってくれ」

 そう言われてしまうと、さすがのCチームの隊長イーサンも嫌とは言えないようだ。内心では嫌なのだろうが、頷きながら答えた。

「わかりました。ルドルフ隊の実力……確かに支援者の皆さんとゴブリンどもに見せつけてきます」


 間もなくルドルフ中隊長は、Cチームの負担していた目標売上額の未達成分を、A・B・D・Eに割り振る話をした。

 しかし、BとD組は戦士を1名ずつ失っているため十分な仕事がこなせず、アレックスたちの想像した通り渋っているようだ。


「未達成分の41枚を我々で負担しなければならないが……各部隊はどれくらいできる?」

「人員が減らされて現場は混乱しています。アレックス隊は?」

「今月に結成したばかりなので、僕自身勝手がわかりません……アニクさんの部隊は?」

「ただでさえ人数が少ないうえに、更に減らされて仕事が遅れています。このままでは、今の目標価格も達成は困難です」


 その話を聞いていたBチームの隊長は、ルドルフ中隊長に詰め寄った。

「ルドルフさん。いくら何でも売り上げは去年より上げろ。ただし村の防衛もしろなんて滅茶苦茶すぎます! ギルド長に無茶を言うなと抗議してください!!」

 Bチーム隊長の話を聞いたEチーム隊長のアニクも同調した。

「リカオン殿の仰る通りです! こちらはただでさえギルド員を2人も減らされて仕事が滞っているのです。この状況で目標価格まで吊り上げられては部下に訴えられます!」


 ルドルフ中隊長は頷くと、アレックスを見た。

「アレックス隊長からは?」

「お二方と同じ意見です。中隊や独立小隊の中で出陣していない部隊全体で、Cチームの不足分の金額を分散して頂かないと不公平です」

『もし、ルドルフ中隊だけに負担を押し付けられているのなら、ギルド員の治療の際の謝礼金も弾んでもらう……と伝えてもらえる?』


 唐突にシルバーマップが現れて発言したため、ルドルフと各部隊の隊長が驚いていた。さすがのルドルフ中隊長も癒し手シルバーマップの発言は無視できないようである。

「やはり、あらかじめギルド長に伝えた通りになったな」

「では……!?」

 Bチームの隊長であるリカオンが言うと、ルドルフ中隊長は頷いた。

「お前たちから意見が聞けたのなら話は早い。すぐにギルド長に負担金の話をしてくる」


 ルドルフ中隊だけでなく、同じく部隊内の出撃を命じられたマーカス中隊でも同じように不満が噴出したため、2つの小隊の未達成分の金額は、出撃していない全部隊で頭割りすることとなった。



 とりあえずこれ以上の不満は出なかったが、この討伐に向かった2部隊も、18日の討伐戦で壊滅的な被害を受けてしまったからギルド内は再び混乱した。

 特にルドルフCチームの受けた被害は大きく、隊長のイーサンは戦死。5人いた部下のうち3人が戦死・又は行方不明。残る2人のうち1人が重傷を負って引退を余儀なくされ、ケガで済んだのは女性隊員1人だけだった。


 その話を遠くから聞いていたシルバーマップだが、彼の表情からさえも笑みが消えていた。

『まずいな……戦力の逐次投入という、一番やってはいけないことをしているし、こう続けて失敗すると出資者からも手を引かれる恐れがある』

「臨時会議も紛糾しているようだね。もう……後がないということだろう」


 会議が終わったとき、ルドルフ中隊長は浮かない顔をしたまま戻ってきた。

「困ったことになった」

「会議ではどういう結論が?」

「各部隊から、腕利きの精鋭を集めろと言われた。度重なる失敗で村人たちが別のギルドに依頼をしようと言いだしているようだ」

 確かにリゲルグ村という出資者を失うと、食料や建材を買うときにかなり割高になるため、アレックスたちの生活に直結する問題である。

 しかも、これほどゴブリンを相手に失態を冒すようでは、新たに加入を求めてくる冒険者も減り、万が一の時に足手まといのような冒険者しかチームに加えられなくなる。


 シルバーマップは、少し考えると言った。

『ならば、その討伐……ルドルフ隊からは小生とアレックスで行こうか?』

 さすがのルドルフも、アレックスとシルバーマップを行かせることには難色を示した。貴重な一角獣使いを危険な戦いに投入したくはないのだろう。

 しかし、アレックスはルドルフと違い、シルバーマップの考えは案外名案だと直感した。

「いや待ってマップ。完全にゴブリンを討伐するのなら6名と1頭で行くべきだよ」


 6名という言葉にシルバーマップは不思議そうな顔をした。アレックス隊は5人と1頭の部隊だからである。

『ひとり多いけど……』

「最後の1人なら、目の前にいるじゃないか」

 そう言いながらアレックス視線を向けると、シルバーマップも『そうか!』と言いながらルドルフ中隊長を眺めていた。

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