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14.アレックスvsアニク

「はじめ!」

 アレックスとシルバーマップは、象族の戦士アニクを睨むと一斉に攻撃を仕掛けた。

 アレックスは巧みにアニクの攻撃を交わしながら、足元に風魔法を飛ばしたり、素早く駆けながら脇下やヒザなどに狙いを定めて剣で攻める。

 そしてシルバーマップは上空を飛び回り、背後から風魔法を放ちアニクに回避行動をさせつつ、隙を見たら急降下して頭上に蹴りを入れに行った。

 しかし、アニクは剣でアレックスの攻撃をさばきながら、鼻を使ってシルバーマップをけん制するという器用な行動を行い、難を回避するだけでなく、シルバーマップが背後を見せたところで、タワーシールドを勢いよく投げつけて反撃を試みた。


「マップ、後ろ!」

『わかってる』

 マップは風を操ると体を垂直回転させてバク転し、軽やかに投げつけられたタワーシールドを回避して、逆さまのままアニクへと向かっていった。

 すかさずアレックスも剣を構えて、シルバーマップは正面から、アレックスはタワーシールドがなくなった左側から斬りかかった。

「なんの!」

 するとアニクは、2メートル20センチの巨体にも関わらず、軽々とバク転しながらシルバーマップの角突撃を回避して見せた。

 アレックスは風系投射魔法で攻撃してけん制し、シルバーマップも空に飛びあがってから元の体勢に戻って再びアニクを睨んだが、アニクは剣を両手持ちしてアレックスの風魔法を斬り落としながら隙の無い動きを見せた。


 アレックスは呼吸を整えると、アニクの記憶の断片を思い出した。

 そうだ、彼は今の僕くらいの時には、武装盗賊の集団をたった独りで退けたんだ。常に1人で多数の敵を相手に戦ってきたアニクに生半可な攻撃は通じない。自分同士の巧みな連携こそ勝利への絶対条件だ。

「シルバーマップ!」

『わかってる。ビンビンに行くよお!』

 シルバーマップは高度や位置を調節するとアレックスの真後ろに来た。アレックスもシルバーマップの気配を背中でしっかりと感じ取ると、一見無謀な攻撃を行った。


 アレックスの行動に、アニクは意味がわからないと言いたそうな顔をしていた。だが、アレックスの影から風魔法が飛んできたことでハッとし、瞬間的に自分が倒されることを察した。


――われは倒れる。およそ1.5秒後だ!


 すると、アニクは下唇を噛みちぎって血を口から流した。シルバーマップは表情を変えて防御の体勢を取りアレックスもハッとして剣を地面に刺してバックターンした。


――【ギフト系スキル】エレファンインパクトっ!!


 スキル発動と同時に、アニクは地面に大剣を打ち下ろした。

 すると周囲に爆風のような衝撃が広がり、シルバーマップは錐揉みになって飛ばされて真っ逆さまに地面に落ち、アレックスも逆さ落としになって頭を打ち、バウンドして背中を強打し、再び衝撃で飛び上がり顔と腹部を強打した。


 アニクの前には、ドラゴンが空けたかのような大穴が空いており、周囲の地面も捲れ上がっており、その衝撃の強さをまざまざと見せつけた。

 彼はハッとした様子で我に返ると、自分のしたことの重大さに気づいたらしく青ざめた顔をしていた。

「な、なにを、しているんだ……われは!?」


 しかし、アニクは更に驚くことになった。

 ひっくり返っていたアレックスだが、ぐっと地面の土を掴むと、ゆっくりと顔を上げた。頭からは血を流し、更に鼻からも鼻血を出しむせかえっているが、瞳だけはしっかりとアニクを映している。

「ユニコーン……ヒール」


 自分自身にヒーリングをかけると出血は止まり、立ち上がれるまでに回復していた。さすがに自分自身のMPまでは回復しなかったが、ぜいたくは言ってられない。

「まだ、やれますよ……!」

 アレックスだけでなく、頭から落ちたはずのシルバーマップも、口の中に入った砂を血痰と共に吐き出し、ヨロヨロとだが立ち上がってみせた。

『やるじゃないか……第2ラウンドといこう!』


 シルバーマップは、らんらんと目や角を輝かせながら、顔だけでなく股下の5本目の脚も、モザイクがかかるほど元気なことをアピールしていた。

 さすがのアニクも後ろへと下がろうとしたとき、戦いを見ていたルドルフは、クビからかけていたタオルをアレックスたちの前に投げ入れた。

「…………」

「…………」

 ルドルフ中隊長は、歩み出ると言った。

「アニク。いくら真剣勝負といっても、これはあくまでも演習試合だ。奥義まで出すのは趣旨に反する」

 アニクが申し訳なさそうに俯くと、ルドルフ中隊長は言った。

「それから、いくらヒールを使ったとはいえ、アレックス君。君の今のコンディションでは、医者に診て貰わないと危険な状況だ。これ以上の戦闘は許可できない」

「は、はい……」


 そこまで言うと、ルドルフは言った。

「今の勝負、アニクの反則負けとする。また、勝利者判定は保留」

 隣にいたオリヴァー中隊長も、当然だと言いたそうに頷いた。

「事情は私から話しておくから、すぐに医務室で治療を受けてきなさい」


 結局アレックス一行は、合否がわからないまま医務室へと連れて行かれ、特にアレックスとアニクの2人は、念入りに治療を受けることとなった。

 幸いにもアレックスのケガは大したことなく、軽い打撲と擦り傷くらいだったので、すぐに治療も終わったが、アニクは奥義を出した影響で、今日一日は腕のしびれが取れない状況となった。


 アレックスは、隣のベッドで寝ているアニクに話しかけた。

「凄い威力の技でしたが、リスクもあるんですね」

「ああ、自分がやられると思うと、勝手にトリガーしてしまう能力なのだ。この技を受けて5体満足なのは、君たちと宿屋の主人くらいか」

 アレックスは、あの宿屋のご主人が勝利目前までアニクを追い詰めたことをしみじみと感じた。恐らく、彼の腕は相当なものだったのだろう。


 ドアの開く音が聞こえて来ると、ルドルフがやってきた。

「お前たちの処遇に関してだが……」

 アレックスとアニクが身体を向けると、ルドルフは言った。

「試合結果はアレックスチームの勝利。アレックスを小隊長に迎えるが、ギルド長から別の条件も出た」

「別の条件?」

「アニクは、今回の危険行為で厳重注意。また、チームを敗北させたが、相手チームの実力の高さを考慮し、チームEを新たに創設し隊長とする」


 アニクが欲しかったアレックスとしては少しだけ残念だったが、アニクたちは職を失わずに済み、更に自分たちが好待遇で迎え入れられたのだから、かなり理想に近い結果となった。

「凄いですね! こういうことって滅多にないでしょう?」

 そう聞くと、アニクも上機嫌な様子で言った。

「それだけ上層部は、君たちの働きを期待しているということだ」

 ニコニコと笑うアレックスだったが、少し心配事があることを思い出した。確かアニク隊ことルドルフ隊Eチームには欠員が出ていたはずだ。その補充はどうするのだろう。


「ところで、アニクさんの部隊の欠員はどうするんですか?」

「それはまた募集をかけるしかないだろうな。あと……アレックス隊長。タンク役が欲しいのなら、1人紹介したい奴がいるんだ」

 アレックスだけでなくシルバーマップも興味を持ったらしく、いつの間にか現れてアレックスの背後から顔をのぞかせていた。

「どういう人ですか?」

「われの弟なのだ。年は少し離れているがな」

 アレックスとシルバーマップの目が合った。これはぜひとも会ってみたい。

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