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13.象族の怪力戦士アニク

 象獣人であるアニクは、ウーマシア大陸の中央部で生まれた。

 村の中の誰よりも体が大きかった彼は、凶作になったとき聖地巡礼という名目で口減らしされ、村の友人たちとあてもない旅をすることになったのである。

 彼らがその死出の旅で直面したのが、野生動物との戦いである。幸いにも強かったアニクは生き残ることができたが、仲間は次々と傷ついて弱り、やがて土に還ることになった。


 僕に力があれば。どれほどアニクがそう思ったのかはわからない。

 次々と仲間が減っていく中、次にアニクたちを苦しめたのは病気だった。腐った木の実や野菜を食べ、泥水をすすっている彼らは病に蝕まれ、ただでさえ減った仲間は更に減っていくことになった。


 仲間の数がいよいよ片手で収まるほどに減ったとき、アニクは神に恨みを向けた。

 もはやこの世こそ神が作り出した地獄だ。自分たちは救済されることはない。そう心が闇に染まりかけたとき、残った仲間も病に蝕まれ、自分自身もまた体のだるさを覚え、自分もそう長くないことを悟った。


 もはやこれまで……そう意識が遠のいたアニクだったが、次に目覚めたときにはベッドの上だった。彼は運よく村人に介抱され、奇跡的に一命を取り留めたのである。

 しかも、このときアニクはヒーリングという特殊能力を持つ者がいることを知った。彼らは弱った仲間たちの傷を癒やし、体力を与え、生きる活力を与えた。


 アニクはヒーラーを守ることが自分の使命だと思った。彼らさえいれば傷ついて力尽きていった仲間たちのような者を救える。苦しむ人たちを救うことができる!


 彼は、誰よりも戦士としての修業を行い、猛者を目指すことにした。自分が更に強くなってガードマンになれば、ヒーラーも安心して暮らすことができる。


 修業に明け暮れていたある日の晩、眠りについたアニクだったが、妙な胸騒ぎと共に目を覚ました。なんと、武装組織がアニクたちのいる神殿を襲おうとしていたのである。

 その狙いはヒーラーを拉致することだった。しかも熟練の神官ではなく、その娘や孫娘といった幼いヒーラーばかりを狙い、神官を殺害するという救いの無さだった。

 怒り狂ったアニクは襲撃者の多くを討ち果たしたが、神官の娘や孫娘を救うことはできなかった。


 もっと僕に力があれば、そういう思いからアニクはアゴカン半島に渡り、冒険者ギルド【ガルーダの微笑み】に入団した。しかし、そこでも待っていたのは貴重なヒーラーを奪い合う現実だった。

 パーティーメンバーの生還率を見ただけで、ヒール持ちがいるかどうかわかる。そう言われるほどヒーラーは仲間の命を救うのだから誰もが獲得に躍起になっていた。

 特殊能力持ちの隊長か、冒険者街でも名高い戦士か、自分自身がヒーラーでもない限り、勧誘しても話にならないとさえ言われる状況だった。


 しかし、たくましいアニクは、そんな中でも必死にヒーラーを求めた。

 暇があれば街に出て勧誘をして回った。パーティーメンバーも説得して探して回ったが、ヒーラーは【ギフト】を持つ人間でも数十人に1人。重傷者を治せるほど強力な使い手は100人に1人と言われるレア度である。首尾よく仲間になったこともあったが、更に強いパーティーに簡単に引き抜かれた。財力のある人間はいくらでもいるのである。


 アニクにとってヒーラーとは、どんなに望んでも決して仲間にすることはできない存在となっていた。

 同じ冒険者街にいるのに住む世界が違う。そう諦めかけたアニクを求める戦士が現れた。


 彼の名はアレックス。まだあどけない顔をした青年だ。その瞳はまるで、死地への旅立ちを行う前の自分自身の姿を映すような若者だったが、アニクとは大きな違いがあった。

 その体にはヒーリングの力が宿っているだけでなく、頭上には一角獣シルバーマップがいる。


 だからこそアニクは、その誘いに歓喜していた!



「アレックス君……君は先ほど、われが欲しいと言っていたね」

 アレックスは恐々としたまま頷いた。

「われも同感だ。君が欲しい……この戦いに勝って、我がチームに迎え入れたい!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返すよ、アニクさんっ!」


 スカーレットはシルバーマップから降りると、弓使いやオオカミ族の戦士に言った。

「ねえ、提案があるんだけど……ここから先は大将同士の一騎打ちで決着しない?」

 その言葉を聞いた、弓使いやオオカミ族の戦士はお互いを見た。

「おいおい……言っておくが、うちのアニク隊長は強いぞ?」

「ああ、無謀もいいところだと思うが……?」


 その言葉を聞いたスカーレットは不敵に笑った。

「確かにそうね。だけど……うちの大将の方がもっと強いよ。何せ……」

 シルバーマップもまた、凄みのある笑顔を浮かべていた。

「ユニコーンマスターだからね」

 その言葉を聞いた千代とマナツルは、顔を赤らめて誇らしそうにしていた。そして受付嬢へと目を向ける。


 受付嬢は突然の提案に困り顔を浮かべた。どうやら彼女にとってもこの展開は初めてのことらしく、判断に困っているようだ。

 やがて難しい顔をしながらルドルフ隊長に目を向けると、彼は隊員全員の顔を眺め、そして頷いた。

「わかりました。以後は大将戦という形で試合を続行します」


 千代、マナツル、スカーレットと、対戦相手の弓使いとオオカミ族の戦士は速やかに修練場から離れた。アレックスは彼女たちの計らいに感謝しつつ、しっかりと象族の戦士アニクを睨んだ。

 その背丈はおおよそ2メートル20センチメートル。丸太のような腕でロングソードでさえショートソードのように軽々と扱ううえに、鼻にも別の武器を仕込んで攻撃してくる。


 アレックスにとっては過去最強と言えるほど危険な相手だ。気が付いたら手のひらにじっとりと汗が流れ、膝が少しずつ震えていたが、引くなんてことはできない。

 アニクは人生の中で何度も挫折し、死にかけ、涙をしながらも生き延びてきた。それほど強かに生き残ってきた彼こそ勇者と呼ぶにふさわしい。彼に少しでも近づきたいと、アレックスは強く思っていた。

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