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12.ルドルフDチームとの攻防

 ルドルフ隊Dチームは、戦士3、弓使い1という編成だった。恐らく、アレックスチームに有翼人がいるため長弓を持ち出したと思われる。

 やはり目立っているのは象獣人のアニクだ。両手剣やタワーシールドを片手で軽々と持ち、鼻先には刃物のようなモノまでつけているのだから厄介だ。

「気を抜くなよお前たち……少しでも不甲斐ないと中隊長に思われれば、試合に勝っても職を失うぞ」


 アニクの一言で、トラ族の戦士とオオカミ族の戦士は険しい表情をした。どちらもパワータイプの戦士であり、アレックス側から見れば十分に脅威になり得る相手だ。

 彼ら3人は最前列に陣取って、今にも飛びかかろうとするかのような体勢を取っていた。


 一方のアレックスチームは、中衛に千代を置いて、後方にアレックス、マナツル、スカーレットという3次予選で見せた陣形をそのまま用いていた。

 アレックスの召喚がブロックされれば、一気に敗北という状況もあり得る。

「はじめ!」

 試合開始と同時に、脚力のあるトラ族とオオカミ族の戦士が勢いよく走ってきた。彼らは中衛の千代を無視して後方のスカーレットとアレックスに向かってくる。


 すると千代は、スカーレットに向かったトラ族の戦士を無視しオオカミ族の戦士を睨んだ。同時に口の前にこぶしを近づけて眉根を釣り上げると、オーラを燃え上がらせて言う。

「水遁……ミズチ張り手!」

 オオカミ族の戦士は肩をこわばらせると頭上を見上げ、ほぼ本能的に大きく後方へと下がっていた。

 間もなく戦士のいたところに水塊が勢いよく打ち下ろされ、落ちた場所がぬかるみとなって地形すら変えている。

 その直後に、スカーレットは不敵な笑みを浮かべながらロッドをトラ族の戦士に向けた。


「コレクションにおなり!」

 トラ族の戦士はガーダーを構えながら突っ込んできた。スカーレットの炎系投射魔法は高威力だが、自分の実力なら肉を切らせて骨を断つことも可能だと思ったのだろう。

 しかし、スカーレットのロッドから炎魔法は現れず、代わりに足元からツタが現れてトラ族の戦士の足に絡みついた。

「……!?」

 勢いよく転倒したトラ族の戦士は、全身を強打して苦しそうにうめいていた。

 するとスカーレットは間髪を入れずに無数のツタをトラ族の戦士の体に絡め、身動きひとつ取れないように拘束していく。

「カウントを取ります……1……2」


 スカーレットはふふっと笑うと、別の対戦相手を物色し始めた。まず目を向けたのは相手チームの弓使いである。

 対戦相手の腕前は、マナツルよりもやや上という印象だった。しかし、マナツルは自在に風を操ったり空を飛ぶ機動力があるので実力のほどはマナツル4分、相手6分という感じだ。


 そして、やはり劣勢に立たされているのが千代である。

 最初の水遁という大技を見たオオカミ族の戦士と、象族のアニクにマークされ、早くも2対1で潰しにかかられている。

 スカーレットは険しい顔をすると、千代の側面を取ろうとするオオカミ族の戦士に向かって、炎系投射魔法をまとめて8発ほど撃ち出し、それらはホーミングしながらオオカミ族の戦士に襲い掛かり、オオカミの戦士は攻撃を中断して回避行動をとっていた。


「すばしこいわね……」

 スカーレットはそうつぶやくと嬉しそうに笑い、再び炎系の投射魔法を連射した。

「なんという連射速度……だが!」

 今度は4発だが、オオカミ族の戦士が紙一重で避けようとしたところで弾けて拡散した。オオカミ族の戦士は4発すべてを受けてダウンし、ガーダーや鎧の一部を破損する被害を出している。

 すかさず象獣人のアニクは大声で指示を出した。

「ベンジャミン、あの魔導師をけん制しろ!」

「了解!」


 スカーレットはおもしろいと言いたそうに、相手弓使いに向けて炎系投射魔法を連続発射した。数は5発と少なめだが、迫るスピードが今までの2発とは比べ物にならないくらい速い。

 相手方の弓使いは、舌打ちをしながら避けていくが、今度はマナツルの弓矢が彼の矢のフォルダーに突き刺さり、苦々しい顔をしながらスカーレットとマナツルを睨んでいた。


 スカーレットは、今度こそと言いたそうに相手弓使いにロッドを構えたが、耳をピクリと動かすと瞬間的に身を翻して不意打ちを交わした。

 実はカウント8で、先ほどまで拘束していたトラ獣人の戦士がツルを振り払って、スカーレットに一撃を加えてきたのである。

 間一髪でスカーレットは攻撃を交わしたものの、ロッドは修練場の外まで飛ばされてしまい、運が悪いことに坂道を転がり落ち、ガルーダの微笑みのギルド員に回収されてしまった。こうなってしまうと試合が終わるまで返還されない。


 しかも起き上がった相手は、素早さ自慢のトラ族の戦士である。

 じろりとスカーレットを睨むと、急接近して連続パンチを見舞ってくる。実戦経験がアレックスチームで一番あるスカーレットだが本職は魔導使いである。獣人族の戦士に密着されれば勝ち筋はまずない。


 スカーレットが転倒し、トラ族の戦士が一気に飛びかかろうとしたとき、今度は上空から強烈な一撃を受けて、トラ族の戦士は白目を剥きながら場外まで弾き飛ばされていた。

「……? ……!?」

 彼女の危機を救ったのは、灰色の毛並みを持ち青い角を光らせる一角獣シルバーマップだった。その背中には芦色の翼が開いており、彼の周囲には風の渦が巻き起こっている。


『さあ乗って! 今の君は小生の背にいなければ力を発揮できない』

 シルバーマップはスカーレットの側に着地すると、後ろ脚を下げてお座りのようなポーズをとった。こうすれば一般の人間でも力を借りなくても騎乗できる。

「待たせた!」

 その直後に、アレックスは千代の隣に立った。

 すでに千代は体中から汗を流し、肩から息をしている状況だった。このわずか20秒あまりの攻防戦で戦線が破られなかったのは、彼女が懸命にアニクとオオカミ族の戦士を足止めしたおかげだろう。

 しかし、その負担は想像以上に重く、彼女のMPはすでに4割を下回っていた。


「今さら1人増えたところで!」

 アニクは片手で軽々と大剣を振り上げると、アレックスも対抗するように体中に風の渦を纏った。

 そして大剣が打ち下ろされると、アレックスは回避と同時に風系魔法を放つが、アニクも器用に鼻を動かして風の刃を切り払った。

「もらったぁ!」

 そこにオオカミ族の戦士が襲い掛かってきた。アレックスは側面を取られる形になったが、今度は千代が直剣で攻撃を受け止め、口から砂入りの泥水を吐き出し、オオカミ族の戦士も距離を取った。


 そんな千代を目掛けて、象獣人のアニクは武器を括り付けた鼻を振り下ろしてきたが、今度はシルバーマップが急降下してきてアニクの顔に蹴りを入れていった。

 更に騎乗しているスカーレットが炎魔法でオオカミ族の戦士に向けて放ち、オオカミ族の戦士は紙一重で避けて体勢を立て直した。


 象獣人のアニクの声が響く。

「シッポンのクノイチをやれ! もう余力は少ない……まずは数を減らす!」

「おう!」

 オオカミ族の戦士と、弓使いの男性は弱った千代を睨みつけた。

「そう思い通りにはいかないよ!」

 アレックスはそう叫ぶと千代の肩に手を近づけると、全身のオーラを燃え上がらせた。

 相手チームのメンバーが警戒すると、アレックスは敵を睨みながら言った。

「ユニコーンヒール!」


 その言葉と共に、千代の消耗しきった体にアレックスのオーラが馴染んだ。彼女のMPは35パーセントほどから60パーセントくらいまで回復し、呼吸の乱れも一気に改善していく。

 一部始終を見ていた弓使いやオオカミ族の戦士は、うろたえた様子で後ろに下がっていた。

「ひ、ひ、ひ……ヒールだと!?」

「し、しかもMPまで回復するなんて、どーなってんだ。チートってヤツじゃねーか!?」


 勝負あったと、千代、マナツル、スカーレット、シルバーマップさえも思ったとき、低い笑い声が聞こえてきた。

 象獣人のアニクはクツクツと笑いながら、その両目にアレックスを映しただけでなく、目尻に血管を浮き上がらせて狂喜した。

「癒し手……今までどんなにチームに迎え入れたかったことか……」

 その異様な雰囲気に、アレックスは思わず身を引いていた。

「な、なんだ……この圧迫感は……!?」


 アレックスの脳裏には、見たことのない光景が広がっていた。

 異国の土地。象族の人たち。これは……一角獣の力によって映し出された、アニクの記憶ではないか。


 しっかりとアニクを見据えると、アニクもまた驚いた表情でアレックスを見てきた。彼もまたアレックスの何かを見たのかもしれない。

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