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10.勇者の孫

 シルバーマップは、目を赤々と光らせながらアレックスを睨んでいた。

 彼との付き合いは短いが、とても短い旅の間に、どれほど助けられてきたかわからない。


 味方として見慣れてきた相手が、自分の敵として角を向けてきている。どうすればいいんだ。アレックスは額に脂汗をかきながら考えを巡らせていると、昔のことを思い出した。



 あれは確か、祖父がまだ生きていたころ……アレックスは初めて弟に負けて、泣きながら祖父の前で愚痴を言っていたのだった。あの人は確か、辛抱強くアレックスの話を聞いてくれた。

 なぜ、父親や母親でなくて祖父だったのかと言えば、アレックスにとって祖父は誰よりも真剣に、そして話を遮らずに聞いてくれる人物だった。それだけでなく、いつも的確なアドバイスもしてくれる。


 弟に負けて父親にメチャクチャ叱られた後も祖父は言った。落ちこぼれで、失敗ばかりしているアレックスの方が昔の自分に近い。祖父もアレックスくらいの時は、勇者の国であるニホンのサイタマケンの学校で、勉強も運動もダメでしょっちゅう虐められていたという。


――大丈夫だ。私の目から見て……お前は親戚の中で最も強い男になる。だから、前向きに考えなさい。肩の力を抜いて努力を続ければ、きっと道が開ける!


 何をやってもダメな奴と言われたアレックスに、そう言ってくれたのは祖父だけだった。自分が負け続けて周囲から笑われるたびに申し訳ない気持ちになった。伝説の勇者も遂にもうろくしたと陰口まで言われるようになった。だけど、祖父は天に召される最期の日まで、その意見を曲げなかった!



 僕は……アレックスは再び奮い立った。たかがウマ一頭が敵に回っているだけじゃないか。何とかしてやる。アレックスはすぐに仲間たちを見た。

「千代、マナツル……君たちはスカーレットを頼む!」


 そう伝えると、千代とボロボロになったマナツルは、驚いた様子でアレックスを見た。

「シルバーマップはどうするのです!?」

「僕が止める!」

 千代は無茶だと言いたそうな表情をしていたが、アレックスの決意は変わらない。いくら一角獣でも、いくら強大に見えてもシルバーマップは自分の分身であることに変わりないからである。

「行ってくれ!」


 アレックスが叫ぶと、千代とマナツルはスカーレットへと向かっていった。

 シルバーマップは真っ赤な瞳を向け、アレックスを睨んだ。そして前脚で地面を2度掻くと駆けてきた。

 アレックスはシルバーマップの角の動きを目で追って、攻撃を素早く交わした。それだけでなく腹部に剣を突き立てたが、刃先は岩石の鎧に阻まれている。

「くそ……これだけ鋭く突いたのに!」


 シルバーマップは向き変えると、再びアレックスを睨んだ。

 アレックスもしっかりと睨むと剣を構え直す。シルバーマップと組み合うのは悪手だ。こいつの体重は軽く500キログラムはある。それに岩鎧の重量や突進力も加えると、つばぜり合いにもならずに突き飛ばされてしまうだろう。

 シルバーマップが突進してくると、アレックスは再び回避の後の一撃にかけた。


 アレックスは途中でハッとすると、地面に剣を刺して防壁を出していた。シルバーマップの目線が自分に向いていない。こういう時には必ず別の狙いがある。



 アレックスは、そのまま後ろに下がると、手で地面に触れて2枚目の防壁を出現させ、更に後退すると3枚目の防壁を出して、更に動きに下がると仰向けにひっくり返っているマナツルを抱きかかえて走り、場外へと出した。

 その直後に目を光らせたシルバーマップが最初の壁を突き破ると、怒れる竜を思わせる突進力で2枚目を突き破り、3枚目も難なく崩して進んできた。もしアレックスが回避行動をとっていたら、間違いなくマナツルが踏みつぶされていただろう。


 アレックスは額にびっしょりとかいた汗を拭うと、まずスカーレットと千代の戦いを見た。

 千代も距離を詰めながら戦っているが、どう見てもスカーレットが優勢だ。何かの拍子にペースを掴まれたら一気に叩き伏せられてしまいそうに思える。

 やはりここはアレックス自身がどうにかするしかなさそうだ。だけど、さっきのやり取りでアレックスは剣を失ってしまった。そのうえシルバーマップの召喚、壁3枚の製作でMP……精神力も残り5割程度まで下がっている。シルバーマップはMPをまだ8割以上も温存している。

「僕は戦士だ……MPの残量はあまり気にしなくていい」


 シルバーマップは3度目の突撃をしてきた。

 アレックスはマップを睨みながら笑った。今までは剣の刃先があるから見えなかったが、今ならマップの生命力の流れがよくわかる。その大半がやはり角の周りに集まっている。ユニコーンだけに頭に血が上りやすいのかもしれない。

「さあこいぃ! お前のビンビンを見せてみろ!!」


 アレックスは素早く攻撃を交わすと、横に回り込んでから尻尾を引っ張ってみた。

 シルバーマップは耳を絞って後ろ脚で蹴り上げようとしたが、アレックスは自分の両腕とマップの後ろ脚の間に防壁を密着させ、蹴りの威力を消していた。

 この行動にはシルバーマップも慌てていた。アレックスを引き離そうとしても尻尾を両手でしっかりと掴まれており、後ろ脚で蹴り飛ばそうとしても、アレックスの両腕にある大地の盾が邪魔をしてそもそも蹴りを入れることができない。


 やがてシルバーマップは角を光らせると、そこからは無数の炎の投射魔法が飛び出した。

 それらはホーミングしながらアレックスに向かってきたが、アレックスは魔法をしっかりと睨んでいた。実は魔導士にとって自分の背後は死角であることが多く、シルバーマップの放った炎魔法も、そのほとんどが狙いを外したりアレックスにも当たったが、シルバーマップ自身にも命中していた。


 一方、スカーレットと千代の戦いも、まさに不毛の消耗戦となっていた。

 スカーレットは次々と魔法を放ったり、トラップ魔法を発動させたりもしたが、千代は次々と攻撃をかいくぐってスカーレットを攻めるも、どちらも決定打にはならない駆け引きとなっている。

 スカーレットは汗だくになりながらシルバーマップに近づき、足を引っ張っているアレックスに狙いを定めた。

「しまっ……」


 千代が表情を変えた直後に、スカーレットはアレックスに大地系投射魔法である、岩石の嵐を見舞った。アレックスは防御が間に合わずに頭と肩に受けて突き飛ばされ、スカーレットは急ぎ足でシルバーマップの背後に立った。

「さあユニコーン……あんたはあの小娘をやりなさい。私は坊やを料理してくるよ」


 スカーレットはそう指示を出すと、起き上がろうとするアレックスを目掛けて走ってきた。

 このまま至近距離から炎魔法をかけて一気に仕留めるつもりのようだ。アレックスは起き上がろうとするが腕の痛みで脂汗をかいている。千代もフォローに入ろうとしているが間に合わない。

「おやすみ……坊や!」


 スカーレットが走りながら炎を纏った手を振り下ろそうとしたとき、彼女は転倒した。

 チャージしていた炎魔法も暴発して服が黒焦げになり、すすだらけの顔を上げると、起き上がったアレックスと、救援に走っているはずの千代が驚いた顔をしたまま立ち止まっている。

 スカーレットもまた後ろを振り返ると、足掛けをしたシルバーマップの姿が目に映っていた。

『チェックメイト!』


 そうシルバーマップは叫ぶと、スカーレットの真上に腰を下ろしていた。驚いたスカーレットは悲鳴を響かせたが、シルバーマップは淡々と言った。

『降参しないのなら、本当に体重をかけるよ?』

「ま、まいりました……」

 その言葉を聞いた受付嬢は頷いて言った。

「この試合、アレックスチームの勝利!」


 その宣言を聞いたアレックスと千代は、ほっと胸をなでおろすように表情を和らげ、シルバーマップもスカーレットから離れた。

 安堵していたアレックス一行とは違い、スカーレットは納得していないようだ。

「ねえ……一体どこで、ユニコーン君は正気を取り戻したの?」


 シルバーマップは視線を上げると『君はじきに仲間になるから特別だよ』と言いながら解説した。

『君が小生にかけようとしたのはチャーム……つまり魅了魔法の一種だよね?』

「え、ええ……」

『魔法には様々な製作者がいるんだけど、その成り立ちはしっかりと勉強した方がいいよ。魅了魔法は、サキュバス……つまり色魔の行動を見た魔導士が作り出したもの』

 そこまで言うとシルバーマップは笑った。

『つまり、小生のような一角獣には効きづらいんだ。かなり魔法を使い込むか、ホンモノの悪魔でなければまず効き目はないと考えた方がいい』

「つ、つまり……今までの行動は……」

『わざと呪文を中和をしないで、途中までアレックスとつぶし合いをしながら隙を伺っていた……ということ』

「なんで、そんなに回りくどいことを……」

 そう質問されると、シルバーマップは鋭い笑みを浮かべた。

『決まってるじゃないか。確実に君を引き抜くためさ』


 アレックスは、しっかりとスカーレットを見た。

「スカーレット、うちのチームに来い」

 彼女は観念した様子でため息をついた。

「わかったわ。ルールだもんね」


 こうしてアレックスチームにスカーレットが加わると、受付嬢は言った。

「では、アレックスチームは第4次試験に進みます。次が最後の試験です」


 また参加者との戦いかと身構えるとギルドのドアが開き、なんと現役の冒険者チームが出てきた。

 その中でも隊長と思しき人物はゆっくりと歩いてくると、アレックスチームを眺めた。

「隊長のルドルフだ。3次試験は我々もゆっくりと見せてもらった」


 ルドルフ隊長の部下は4人、アレックス隊のメンバーも4人と1頭いる。果たして、最終試験はどのようなことが行われるのだろう。

 アレックスはそう思いながらルドルフ隊長を見ていると、彼はゆっくりと言った。

「探索部隊Dチームは6人……つまり欠員分の2名を補充したい。ゆえに……この8名の中から6名を選別して新たにチームに加えることにする」

「選考方法は?」

 今回はアレックスが質問すると、ルドルフ隊長は答えた。

「我が部隊の場合……旧パーティーと新パーティーの試合だ。勝った方のチームを入れ、負けたチームから優れていた冒険者2名のみを採用する」


 話し合いの結果、試合はマナツルのケガが治った後でという結論になったが、アレックスは早くも相手チームの中の1人に注目していた。

 その象獣人の男性は、立派な体格と牙を光らせている。貫禄も他の戦士たちとは一味違っており、間違いなくこのDチームのエースだろう。

 スカーレットもささやいてきた。

「彼……なんとしても欲しいわね」

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