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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 十八話



 最終決戦の準備は三週間の期間が設けられ、粛々と行われた。

 ギャレンはいつもの訓練と体の診断、そして新しい鎧の新調が主な活動であった。

 鎧の寸法はドラゴノス帝国での舞踏会にいたあの筋肉大好きな彫刻家が一ミリのズレなく把握していたらしく、彼らが黄金砂漠から再び帝国に訪れる間にはすでに製作されていたらしく、余裕で間に合うらしい。思わぬところで思わぬ人物が役に立ったものだ。

 ガウハルとキレスタールは戦闘訓練をして過ごしていた。魔王曰く成長期による急激な肉体の変化にキレスタールは付いていけておらず“ズレ”が生じているらしく、今はその調整をしているらしい。

 そしてバルバット王とレルドルト皇太子が一番忙しかった。国民に協力を仰ぐ演説やら物資や兵糧の確保、アケル王国へのダメ元での協力要請。更に自国の兵の士気を上げる為に様々な策を講じていた。

 商業の国であるサハラジェ連合の維持を見せるようにそこそこ豪勢な食事を毎日どこかから仕入れてきたり娯楽の提供なのか演劇も何度か開かれた。

 だが、一番兵たちの士気を上げたのは骨削り姫と白竜公の戦いを上映した時であった。

 先日の会議で見せたアラムの偵察機によるホログラムでのあの戦闘映像の再生、それをバルバット王の発案で定期開催したのだ。

 投影する光の映像を最大まで大きくし演劇上で見せ、音は再生できなかったのでプロの語り部と太鼓みたいな物で場を盛り上げる。ほぼ爆発シーンしかないので、開演中はさぞドンドンとうるさかっただろう。

 青年はこんなものを見せられて兵士たちは敵の戦力に怯えないかと止めたのだが、バルバット王の強い要請によりやってみると現在のドラゴノス伝説などと騒ぎ、俺たちが新しい伝説を作るんだと皆が意気込んでいた。

 普段から人間の脅威となる竜がそこらに跋扈(ばっこ)している世界の人間は、青年が思っているよりはるかに肝が据わっていたらしい。

 そして、青年が今何をしているかというと……。


「うん。もーう、何もわからなーい!」


 糖分を使い切った頭で、椅子に座りながら何がおかしいのか笑いだすアラム。レルドルト皇太子に使用を許可された一室で、目を点にして天井を見上げていた。頭の使い過ぎで知能指数が下がっているらしい。

 彼はここ数日、この部屋にずっと閉じこもり通信機を弄り続けていた。いや、この旅の間、バイトと音信不通になってから弄り続け、トライアンドエラーを繰り返していた。

 だが船との通信は回復できなかった。だが――。


「ま、通信機と僕の召喚システムの連携には何とかこぎつけたし及第点で……座標入力やら全部の調整を人工知能に任せて情報の高速処理での荒業だけれどサイズ関係なく引っ張ってくるならこれが一番だし他に思いつかないし、でも我ながら馬鹿げた方法だよ、全く。で次はもう時間が無いな。この旅で集めたサンプルで毒物兵器ぐらいしか……いやまぁ、効かないだろうけど、やらないよりマシか」


 そう言って、青年の手元には船にある“彼の自室”にあったはずの工具を指で弄びながら、次の仕事に取り掛かるのであった。





 出立は明朝であった。

 朝日が昇ると同時にトランペットに似た耳に残る楽器の音が、静かだったドラゴノス帝国に響き渡った。


「これより我らは終焉の竜を討ち取りに行く! かの人類の宿敵を討ち果たし、先祖の悲願、そして子孫の安寧の為に私に力を貸してほしい!」


 ドラゴノス帝国をすぐ出た場所で、見覚えのある“宝剣”を帯剣したレルドルト皇太子が昇り始めた太陽を背に、声量を大きくする魔術を使い、そんな言葉を兵にかけているところであった。

 彼の前には人の海がある。もはや何人集まっているかなどわからない。だが、この世界の歴史においてこれほどの軍が結成されたことは無いだろうとバルバット王は断言した。


「俺は、俺は未熟な皇太子だ。だが、今は黄金砂漠からサハラジェ連合が、そして異邦の者も数名力を貸してくれている! ゆえに恐れるな! ゆえに猛れ! 今日が、今この時からが、この世界の新たな夜明けとなる!」


 ――上がる、沸き上がる。歓声が沸き上がる。

 人の海から波打つように天に捧げた兵士の拳が広がっていく。天気は雲一つ無い快晴、気温も朝方だからか涼しいくらいである。


「……ルアネ」


 ぽつりと、それを見ながら男は愛しき者の名を口にした。

 勇者とは、彼女は、生贄であった。最小の犠牲で世界を救う為の生贄の名であった。


「俺は無知だった。いや、今もそうなのだろう」


 勇者とは名誉なことで、それに選ばれた彼女は素晴らしいと、彼はアケル王国から初めて旅立った時に思っていただろう。

 だが、今は違う考えだろう。やはり、全人類の命題を一人に押し付けて言い訳ないのだ。

 代々の勇者(生贄)に、今自分たちは報いなければならない。終焉をもたらす竜の首をもって、その死を、犠牲を無駄にしない為にも。


「アラム殿、キレスタール殿。そしてガウハル殿。この思い人を守り切れなかった愚生に、今一度力を貸してほしい。共に……ルアネを助けてくれ」


 順次進軍を始めた軍を背に、男は竜に跨り友に乞う。

 その身は白き鎧に包まれれていた。軽量で、それでいてシンプルな印象を与えるその鎧は、しかしよく見てみると肩に白き竜の彫がある。

 白竜公。その二つ名に恥じないドラゴノス帝国の腕利きの鍛冶師が鍛え上げし、それは見事な至高の鎧である。


「それはもう! ええ」


 そしてそれに応える青年は……今、恥で満ちていた。


「ルアネさんを助けましょう! でも、その前に、僕を! 僕を助けてください!」


 襲われていた。人を背に乗せて運ぶ乗竜、この世界において移動する為に必須の生物だ。その中型の竜に、アラム君は今、襲われていた。

 殺されようとしている訳ではない。ただ出発しようと背中に乗った瞬間、振り落とされて後ろ足でお尻をゲシゲシと蹴られている最中であった。


「なんで! え、なんで! レルドルト皇太子様もバルバット王も他の皆さんも乗竜なんて練習しなくても温厚だから子供でも乗れるとか言ってましたよね! だからぶっつけ本番で乗ったのに! なんでぇ! ねぇねぇ酷くなーい! 僕を舐め腐ってるよぉ、こいつ!」


 話が違う、そう言いたげな青年による叫びであった。確かに数日前、そのように言われたのだ。竜車に乗るのにコツがいるだの難しいだの言われたら、一日で簡素なバイクでも作っていただろうに。だが、今からそんなことをしている時間は無い。


「もう進軍が始まってるんですけど……僕は最終決戦に行けないかもしれない……」

「うむ、しかも移動用の動物が言うことを聞かぬかという情けぬ理由でな……仕方あるまい」


 まさかこんなところで躓いてしまうとはガウハルをもってしても予想外であろう。だが、こんなスタート地点というかそれ以前の段階で時間を浪費している場合ではない。ガウハルは拗ねて涙目になっているアラムの首根っこと掴んで自分が跨っている竜に乗せた。

 すると竜が不機嫌そうに身をよじってアラムを落とそうと動く。だがガウハルの一睨みでピタリと動きを止めた。


「しかし栗毛よ。貴様、動物には好かれんのか? それならば早く進言しておけ」

「知りませんよぉ。そりゃあ人からは気持ち悪いとか陰口言われてきた悲しい人生を送っていますが、動物にまで嫌われてるとか、ぼかぁ今まで思ったことないですよぉ……」


 まぁ、理由は不明だがガウハルならば圧倒的強者の圧で嫌がる竜ですら言うことを聞かせられるみたいだ。アラムは「嫌なのにごめんね」と言いつつ、ガウハルと同じ竜に跨る。


「では予定通り本隊に合流後、先遣部隊すぐ後ろにまで竜を走らせる! 終焉の竜が送る使者は今も尚この帝国に責めている。それを排除しながらの移動だ。心せよ!」


 そう言ってガウハルは乗竜の手綱を打ち、移動を開始した。キレスタールとギャレンもそれに続いて、ガウハルのすぐ後ろに付く。

 ――大移動の始まりだ。すぐさま移動を始めた本体の先頭へと合流する。中型の竜に跨る兵たちが、土煙を上げながら移動する光景は、遠くから見れば山火事か何かと誤解するかもしれない。

 そのまま本体の脇を通りながら、本隊の先頭を追い越す。アラムは振り向いて、後ろにいる竜と人の大群を目に焼き付けた。多い、これほど戦力が味方なのかと心強く思ったのか、その表情は彼にとっては珍しく笑みを浮かべていた。


「しかし、これほどの移動手段の竜をよく集めきりましたね……」

「そこは商業国家の集まりサハラジェ連合と言ったところか! あのバルバットという男、かなりの手腕よ!」


 無限にも思える竜の足音の中、ガウハルが青年の呟きを拾いそう大声で褒めはやす。アラムの声はそれほど聞こえやすい物でもないのだが。


「アラム様! 敵の残骸です! そろそろ戦闘かと!」


 と、今度は聞こえやすい声が青年の耳に届く、キレスタールの声だ。


「これ先遣の方々が戦ったんですよね!? 予想より数が多くありませんか!」

「確かに多い! もしや終焉の竜、こちらが迫ろうとしていることに気が付いたのやもしれん! そうなれば、見張りでもいたのだろう!」

「ルアネさんが頭がいいかもしれないとか言ってましたしね! 戦意を削ぐ高度な魔法を使ってるとか言ってましたし!」

「その資料は読んだ! 狡猾な敵は骨が折れるぞ、栗毛!」


 竜の上で大声をそんなやり取りとする。と、先遣部隊の尻が見えた。

 器用に片手で持った手綱で竜を操り、もう片方で杖を持ち竜と共に駆けながら魔術を放っている。


「予定通り交代します! そちらは後ろに下がって本隊と合流してください!」

「ああ! 良いタイミングだ! そろそろ巣だ。気を付けてくれよ!」


 アラムの言葉で後方にいる本隊へと向かっていく先遣部隊。本隊の周りにはこんな精鋭部隊で構成された先遣部隊が十ほど周囲に展開されており、交代制で偵察と敵の撃破を行っていた。疲弊を最小限に抑える為である。

 もし、手に負えない相手が出れば援護要請の火球を空に打ち上げ要請する手はずとなっている。この陣形の発案はバルバット国王であった。


「アラム様前方に敵が七、いえ九はいます!」

「キレスタールさんは前方に結界を展開、そのまま竜に乗りながら突進して敵を撃破します!」


 過去、終焉の竜に挑みその身を犠牲にした英雄たち、それが屍と化した容姿でこちらにのろのろと歩いてくる。おおよそ意識、というものを感じさせない。

 骨削り姫や、アケル王国で戦闘となった癒し手と破壊手の二名にも戦闘力は及ばないただの亡者だ。

 だが、如何せん人数が多い。絶えずそんなのが帝国を目指すように歩いてきているのだ。なのでキレスタールの結界を広範囲に騎乗状態で展開し、そのまま激突させ引き潰す作戦を青年は事前に立てていた。


「ほほう、栗毛の策通りこれでいけそうだな!」

「では予定通りに、ガウハルさんとギャレンさんは終焉の竜決戦で存分に戦ってもらうので、基本は体力温存、キレスタールさんに基本はやってもらいますがヤバい時はすぐに動けるようにしておいてください!」


 決戦の要となる二名、常時本隊にいてもらおうという話もあったが、レルドルト皇太子がそれを却下した。

 最大の戦力である彼らにはドラゴノス帝国の一番厄介なところの先陣部隊を務めてもらうと――。


「ううぇ!」


 地上の敵に意識を割いている途中、アラムは頭上から飛来し自分の上から飛び掛かってきた影に驚き身を低くした。だがその爪は魔王の威嚇の一睨みのみで青年に届かず、その巨大な影は再び空へと消えていく。


「ほほう! 竜の巣に入ったようだ! あれが帝国近くに住まう溶翼竜という奴らか! マグマの翼とはこれはまた見事よ! 栗毛、あれはどういう原理で飛んでおると思う! 原理がわかれば楽に落とせるのだがな!」

「知りません! 魔術でしょうし専門外ですよ!」


 何千何万の軍全を動かすにあたり、避けられない問題があった。大型竜の巣を横断しなければならなかったのだ。

 一応、少人数ならば狭い道がある迂回ルートがある。だがそのルートを使うと兵糧がもたないというのがバルバット王の意見であった。軍を動かすというのにも食料と物資が大量にいるものなのだ。

 他にも長い間、帝国を開けると別ルートから襲いくる終焉の竜からの使者を帝国に置く少ない兵でどう防衛するかという問題も起きる。ならば竜の巣を横断するのが得策、という訳だ。


「ガウハルさん! 僕が落とします!」


 流石にあれはキレスタールのみでは対処できないと判断し、青年がカバンから一つの銃を取り出す。すでに空を見れば二十体ほどの大型の竜が旋回していた。あれを今ここでどうにかせねば後ろの本隊にも襲い掛かるだろう。

 なので“落とす”のだ。青年は銃を空に打った。そのまま小さなロケットは空へと打ちあがり、爆発。緑色の煙が空一杯に充満する。

 するとほとんどの溶翼竜がバタバタと地面目掛けて落ちてきた。毒ガスである。呼吸困難になり目に激痛をもたらすガスだ。人間が浴びても死にはしないが死ぬほどつらい目にあうレベルの非殺傷兵器である。青年が二時間かけて作った多くある手札の一枚だ。


「ほほう、よくやった栗毛!」


 それを魔王ガウハルが岩の魔術で地面から棘を飛ばし空中で串刺しにする。そのまま対象は絶命した。


「派手に血を流させた! こうすれば良いのだろう!」

「はい! 臭いで仲間が寄ってこなくらしいです! 一匹二匹だとかたき討ちに来るそうですが、大量に絶命させると天敵が現れたと判断するらしいので!」

「ふははは、利口よな!」


 竜除け、それが目的であった。だが、事態は思わぬ方向に行く。轟音が飛んできた!


「……へ?」


 鼓膜を麻痺させながら素っ頓狂な声を出すアラム。血をばらまきながら落ちるてくる竜、それを地平彼方から飛んできたもっと大きな影が死体を攫ったのだ。


「速すぎるんですけどぉ! 多分、音速出てますよ、あれ! この世界ってジェット機か何かあるんです!? 無いですよね!?」

「あれは……トランスツェンデーレンだ!」

「それって……黄金砂漠で見たあの!? なんでこんな所に!」

「餌を求めてここら黄金砂漠の端まで来ていたのかもしれない! 最強種は何もかもが多種と比較して規格外と聞く! 行動範囲も飛ぶ速度も。目の良さも人間の想像以上だ!」


 つまり、黄金砂漠からここまでアラムたちが溶翼竜を撃ち落とすのを観測し、ここまで飛んできたということらしい。


「ふははは! この世界は過酷と聞いていたが、これほどまでとはな!」

「魔王ガウハル、笑っている場合ですか!」


 少女と魔王がそんな会話をする中、アラムが考え込む。ガウハルとギャレンの疲弊は是が非でも避けたい。しかしあんな竜を倒すには彼らの協力は必要不可欠。

 と、そんなことしていると再び空気を震わす飛行音を轟かせ、最強種が現れた。しかも今度は通り過ぎることなく、しかも、二体。


「まさか、番か!」


 オスとメス。二対揃っての登場に流石にガウハルもその笑みを引っ込めた。


「栗毛、あれの相手を無傷とは我でも無理だ。一度、本隊の位置まで下がり――」

「いえ……その前に切れる手札を切ります! 各位、鼻を摘まんでてください」


 鼻? 誰もがそう思った瞬間、アラムは鼻にテッシュを詰めてから、先ほどと同じ銃をカバンから取り出し、少女にはガスマスクを投げ渡す。ナイスキャッチだ。


「……栗毛、我の分は?」

「ガスマスクはあれしかないんで自力で我慢してください! ついでにできるだけ息も止めておいた方がいいですよ!」


 困惑するガウハルとギャレンに丸めたテッシュを投げ渡しながら青年はそう告げ、意を決し銃口を天に向けその銃の引き金を引いたのであった。


乗竜「なんか、あいつ、臭い、嫌い、どっか行け」


……つ、疲れが……しかしFGOの周回を、骨と、勾玉……うぅ。

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