表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/131

第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 十六話



 窓から覗く景色、というものは旅の醍醐味でもある。移り変わり、そこに広がる風景はその地域にある歴史や人の営みを感じさせるものだ。

 だが、流石にそれも五日も続けば飽きる……。


「あんた、飽きねぇのか?」

「……え、あ、すみません。僕に言いましたか?」

「ああ、トラヌから竜車に乗って五日……ずっとそれを弄ってるじゃねぇか。いや、その前に娼館に誘った時にも弄ってたな」

「これが使えるようになったら色々と指示を仰げるので……まぁ、多分無理でしょうけど」


 トラヌ王国を出発して五日。随分と座り心地の良い椅子に座りながら、バルバット王とアラム、そしてブリュンヒルドは少し狭い竜車の中にいた。

 外にはサハラジェ連合からドラゴノス帝国に送られる兵の隊列が蟻も如く続いており、この竜車はその中央にある。

 旅の初日、竜車を懐かしがって子供みたいにはしゃぎ一日喋り通しだったブリュンヒルドも今は大人しい。窓の外の風景を見るのも飽きたのか、目を瞑って静かにしている。寝息は立てておらず、起きてはいる様子だった。


「普段からそんなんなのか?」

「それはもう、機械弄りは毎日してますよ?」

「そりゃあ、随分と勤勉なことで、俺なら一日で投げ出す自信があるぞ?」


 言われ、アラムが作業の手を止めずに変な顔をする。素直に褒められたことは青年とて理解はしているはずだが……。

 すると、轟雷の如く爆音が鳴り響き竜車の窓が揺れた。しかし青年と頬杖をしている鬱屈王に驚きなど無い。


「あちらも働き者だ。今日も今日とて白竜公のおかげで兵の移動が最速で行える」

「身軽な兵を先に行かせて休憩させてから運搬班と交代、重い荷物から解放された兵と竜はその場で休憩してから、運搬班を追い越してまた休憩、運搬班と交代……これで兵糧と武具を止めずに移動できますね」

「即席で考えた単純な方法だがまぁ、これぐらいわかりやすい方が大人数が理解して動いてくれるからな。中々の良案だろう? いや、途中で襲ってくる害竜のことは何一つ考えてねぇから、良案とは言えねぇな。運搬班の護衛はギャレンとあの結界術の嬢ちゃん頼みだからな」


 どうやら先ほどの轟音はギャレンのものらしい。害竜が運搬班のどこかを襲って、連絡がいき最速で駆けつけて竜を殴り倒しに行った音なのだろう。

 ふと、どこまで行ったのかとアラムが外を見れば、地平線の向こうまで兵が続いているが竜に襲われた場所は見えない。地平線の向こうで派手に暴れているのか、すでに倒し終えているのか……ここ数日ギャレンは働き通しだ。

 それもこれも、彼女の為だ。


「本当に、いい子ね」


 ふと、そんなことを言うブリュンヒルドの方を、アラムが盗み見る。彼女はもう、少し透けていた。魂の劣化、もう彼女に残された時間は残り少ない。だからこそギャレンはバルバット王に懇願し、ドラゴノス帝国への早急な到着を実現させる為に今も駆けている。

 運送部隊を止めることなく。最短で帝国へと着けるように、だ。


「でだ。話は変わるんだが……なぁ、あんた。黒竜姫だったか。もしその女を殺さないと終焉の竜を倒せないとなったら、どうするんだ?」


 ――その言葉に、ずっと動いていた青年の手が止まった。


「別にありえない話じゃない。死でしか解除できない隷属魔術や生命維持活動を連動する魔術……そういう邪法は腐るほどある」

「……まぁ、もちろんそういう可能性は僕も考えてましたけど」

「だが、ギャレンはその発想すらしていない。気持ちの良いほどの馬鹿だ。で、利用したのか? そういった可能性を伏して、女を救う為と嘯き決戦へと行かせようとしているのか? 今の状況、策の一つでもなけりゃあ組み立てられねぇだろ? 思い付きだが、帝国に入る前に協力者が“そういう人間”なのかどうかはっきりさせたくてな」


 それは、どうしようもないほどの責めであった。バルバット王は怒気も隠さず竜車にいつか揺られて頭が麻痺しているであろう青年を睨む。嘘を吐く余力も逃げ場はない。竜車の狭い空間でその鋭い眼光に射抜かれながら、青年は面倒くさそうな顔でこう答えた。


「あの、僕がそんな策士や罪悪感に耐えられる人間に見えますか?」

「……何が言いたい?」

「僕はね。そんな上等な人間じゃあないんですよ? この世界を救う為、ギャレンさんを偽りの希望を持たせて戦い続けさせてた……とか無理ですからね? 言っておきますが僕だってルアネさんが死んだと思った時はショックで何もする気が起こらなかったぐらいなんですよ? 旅の途中で何度選択を間違えたかどうかって、考えて考えて、悩んで悩んで割と今、憔悴してますし」


 再び青年は通信機を弄り始めて、早口でそうまくしたてる。

 鬱屈王は頬杖を突きながら青年の言葉が嘘かどうか、人生全ての経験と王の勘を用いて裁定し――脱力した。


「おいおい、嘘だろ。マジでそうなのか? 俺はてっきりあんたは相当に腹黒いのかと――」

「まさか、今だってもっと他にできたことはあったのではないかと、そういう自責の念に堪えられないのを誤魔化す為に作業に没頭しようとしてるんですよ。ぼかぁ、基本的に弱い人間なんでね! ルアネさんが助けられない可能性思いついては見て見ぬふりですよ!」

「……じゃあ世界とルアネと言う女の命、天秤にかけたらどっちを取るんだ?」

「そんなの知りませんよ! 考えただけで吐きそうになるんですからやめてください! その時になったら土壇場で叫びながら自棄になってどっちかは選びますんで、保留で!」


 その返答に鬱屈王は苦笑した。よもや帝国を守りギャレンを骨削り姫とギリギリの死闘の中で一級の戦力に鍛え上げ、連合にうまく取り入れたこの現状にまったくの打算が無かったことに、そして目の前の奇跡とも呼べるこの状況を作り上げた青年が、想像を絶するほど凡人だったことにだ。


「いや、人を見る目は自信があったんだが……なぁ、あんたどんだけ豪運なんだよ? この状況、狙っても作るのは難しいぜ?」

「何言ってるんですか、豪運というか悪運ですよ!? そういや僕ってなんでかどうしようもない状況になってから助けがきたりするんですかね!?」


 堕ちた女神の時はガウハルが、ラウフに追い込まれた時はカーインが助けにきたことを思い出して、青年は己が悪運に怒る。誇りなどしない。そうなる前に運が働いてくれたらと嘆いての叫びであった。


「ドラゴノス……」


 と、いつの間にか窓を眺めていたブリュンヒルドがぽつりと、言葉をこぼした。

 地平の向こうに、見覚えのある煙突が見えてきた。

 黄金砂漠のオアシスを発ってから五日、アラムたちはドラゴノス帝国へと舞い戻ったのであった。





 まずアラムたち帝国に着いて行われたのは簡易的な歓迎式だった。

 見たこともない楽器をドラゴノス帝国の兵が大人数で演奏しながら国を横断、それに長旅で疲れたサハラジェ連合の兵士がのっそりと付いていく。

 帝国の民たちはそれは笑顔で歓迎。国を守りにきた異国の兵に大通りの左右を溢れんばかりに埋め尽くした彼らは、食べ物やらを長旅を終えた客人にすれ違いざま渡していく。

 それを食べながら黄金砂漠の民は急ぎ旅の終わりを実感し、皆笑顔に似た安堵の顔で休憩できる場所が用意されている帝国の城へと入っていく。

 ――だが、王とアラムたちは休む訳にはいかない。トラヌから兵列を孤軍奮闘で守っていたギャレンは休憩することとなったが、竜車に揺られていただけとはいえ長時間、閉所に閉じ込められたことによる疲弊はあるがそれを無理やり忘れてドラゴノス帝国の重鎮と即、会談せねばならなかった。

 バルバット国王と共に城に案内されてすぐ、あの偉そうでギャレンとルアネを取り合っていた皇太子様と仕事のできる魔王様にアラムは会いたかったのだがあれよこれよと話が進み、まずは国の重鎮を集めての会談をする運びとなった。

 そして連れてこられた会談の場所、ドラゴノス帝国の城内にある審議場と呼ばれる場所で、両国の王と国の責任者各位が三十名ほど詰め込まれ、王を先頭に向かう会う形でイスに座って会談の始まりを待っていたが、ガウハルの姿が無い。


「あの魔王めは……アラム様がこの帝国に到着したというのに、姿も出さず」

「まぁガウハルさんも忙しいんだよきっと。後で会おう」


 さて、ここは普段は罪人などを裁く裁判所の役割をしている場所らしく、やけに重々しい空気が空間を満たしていた。

 と、気が付けば祭儀上の三階ほど上にある窓から、顔も見えない誰かが十名ほどアラムたちを見下ろしていた。一体何者かとバルバット王とあまり元気の無いブリュンヒルドの隣で青年が少女の隣で考えていると、会談が始まった。


「ドラゴノス帝国皇太子、レルドルト・ドラゴノスである。まずは遠い地よりお越しいただき感謝と意と労いの言葉を送らせてもらおう」

「トラヌ王国が国王にしてサハラジェ連合の統括をしているバルバットだ。此度は盛大に兵を迎えていただき、平に感謝する」


 レルドルトは胸に開いた手を当てながら、バルバット王は握った拳を額に当てながらそう言う。それぞれが自分の国での礼儀としてのポーズらしい。


「早速だが、まずはドラゴノス帝国の現状を説明を――」

「まずは、帝国を襲い現皇帝に呪いをかけた骨削り姫の処罰を決める!」


 と、皇太子であるレルドルトの言葉を遮り、審議場上部にある窓から老人らしき大声が鳴り響いた。

 それを、バルバット王はきな臭そうに眺めながら、ちらりと、レルドルト皇太子の方を見る。レルドルト皇太子はまるで敵を見るような目で頭上の老人たちを睨んでいた。


「なるほど、若い身空で苦労している」


 バルバット王はそう言って、頭上で顔も見えないほど高い位置にいる老人たちを見上げ溜息を吐いた。


「今はバルバット王と皇帝代理である私が話している。元老院が出る幕ではない!」

「審議場において罪人を裁くのは元老院の権限。皇太子殿は黙っていてもらおう」

「皇太子である俺に話を通さず、勝手に審議場で会談をするように手配したのはそちらであろう! これ以上の勝手は許さんぞ!」


 会談中だというのに、なにやらレルドルト皇太子と元老院と名乗る老人たちが言い争いを始める。高い場所から皆を見下ろしている元老院は皇太子であるレルドルトに対し小ばかにした態度で接しており、バルバット王は眉を吊り上げていた。


「ふん、そんな口をきいていいのか。貴様が頼りないゆえ、我らが主導となりこの国を再興したのではないか!」

「再興を主導で行ったのはかの来客であろう! 元老院とは関係が無い!」

「すでにあの者は我ら元老院の組織に属しておる」

「そんな話は聞いていない!」

「言う必要など無い! 後の結果がこちらが正しかったと。そう示すだけのこと!」


 と、そんな会話でアラムが首を傾げる。さて、国を再興できるレベルの来客、とくれば絞られるのはやはりこの場にいないあの人物しか思い浮かばないからだ。


「しかし、ドラゴノス帝国の元老院よ。かの骨削り姫はただ操られていた為にこの帝国を襲ったと帝国に来る前に竜を飛ばし伝えたはずだ。それにドラゴノスの妃でありこの国の礎を築いた祖先ならば、情状酌量の余地は大いにあると思うが?」


 と、バルバット国王が助け舟を出す。他国の王の言葉であれば、元老院とて無下にはできない……はずなのだが、元老院の者達は小さく震えるようにそれを笑った。


「砂漠の奥に居を構える王にはわからぬであろうが、この国は強大、ゆえに規律は絶対。たとえかのドラゴノスの妻であろうと恩赦なぞ無い」

「しかし、我らはこのドラゴノスの妃の魂が消える前にかの英雄の墓前へとたどり着かせたく、長き道のりを最短で来たのだ。無論、いち早く帝国に駆け付けそなたらの帝国を終焉の竜の脅威から守る為にも、だ。その我らの善意と願い、その鼻で笑い飛ばすというのか?」


 明確に、脅しであった。バルバット国王が語気を強めそう言う。すると背後にいたバルバット王の配下の者達が剣の柄に手をかけた。明らかな戦闘の意思、血を流しても隣で具合が悪そうにしているブリュンヒルドの悲願を達成させる気らしい。

 だがその戦意を前にしても元老院は余裕そうだ。


「バルバット国王よ。立場をわかっておらぬようだな? 我らには最強の剣を持っている。さぁ、その姿を現せ!」


 そう言い切るのは元老院のリーダーらしき人物、そして一回から静かに扉を開けて入ってきたその人物に、アラムは見覚えがあった。


「むぅ、何かと思えば、自らの威を示す為に我を呼びつけたのか……我、割と忙しいのだが?」

「バルバット王よ。これはガウハル! 我らが元老院に神が使わせた究極の――」

「いやな、我はそこにおる栗毛の部下である。この国に来た時にそう皇太子には説明したが……元老院の者には言ってなかったか? しかし、我が神に使わされた者ならばそこの栗毛が神であるか。栗毛、貴様はここでは神らしいぞ?」


 元老院から笑みを消した瞬間、魔王がそう言って“嗤い”肩をすくませる。

 空気が、重かった。しかし先ほどまで祭儀上を満たしたものではない。これ、どうするの? という実に気まずい雰囲気だ。


「き、貴様、裏切る気か?」

「この国を守れ、と我が主からの命ゆえにその責務を全うしただけよ。それにだ。我は魔王であると散々言ったであろうに、一時の利権と金の為に人の敵である魔の王を信用するなど正気とは思えぬな。もしや、本気で我を御した気でおったのか?」


 ガウハルが己が頭の双角を指を指しながら、そう言ってみせる。

 そんな中、一人、また一人と視線をアラムに送る。ここまで無言であった青年は、実に面倒くさそうな表情でこう言い放った。


「えっとぉー……ぼかぁ、神なんて立派なものじゃないんですけど……うん。ブリュンヒルドさんにドラゴノスさんの宝剣を見せてあげたいですので、元老院の皆さん、ここは穏便に……どうにかなりませんかねぇ?」

「し、しかし規律が! 部外者の願いなど――」

「あーいえ、言葉を変えましょう。ここにはいませんけどブリュンヒルドさんを処刑なんて聞いたら、そのブリュンヒルドさんを打ち倒したギャレンさんという人が間違いなくキレますよ? そうなったらガウハルさんぐらいしか止められませんからね?」

「それは……話は聞いているがどうせ多対一で倒したのであろう? かの白竜公など襲るるに足ら――」

「いえいえ、ほぼタイマンですから! それにあの人の力は終焉の竜打倒に必要不可欠ですし、ブリュンヒルドさんに滅ぼされかけた国が、侵略者以上に強い人の不興を買うとか……流石にそのぉー、悪手だと思いませんかね? 穏便にいきましょう?」


 さて、青年の追及に元老院たちがこれ以上言葉を発さなくなった。元老院側の情報の重要性というものを軽視しすぎた結果としか言いようがない。あまりにも滑稽、だがこれはあきらかにうまくできすぎている。なので青年はある可能性にすぐ思い至った。


「で、ガウハルさーん? もしかして元老院の人が墓穴掘るように色々と仕込みましたぁー? というかやりましたよね? これぇ!」


 そう言われ、魔王の表情が邪悪な笑みから青年へ自らの仕事を自慢げに披露する幼い笑みへと切り替わった。どうやらそうであるらしい。


「……うん、すみませーん! うちの者が失礼しました! で、さっきの言い争い、全部無かったことにできませんか! 今は皆、仲良しこよしで終焉の竜を打倒しましょう! 世界を救いましょう! はい! じゃあ、どうやって世界を救うかお話をしましょうかぁ!」


 そんな青年の鶴の一声が審議場に響き渡る。まぁなんだ。優秀すぎる部下というものはやはり考えものだと、いつも通りアラムは頭を抱えるハメになっただけのことであったのさ。



えー、ガウハル氏は「つい魔が差した。というか我が魔の王なので我が指し示す道こそ魔道と言えよう。ついでに反省はまったくしておらぬ」などと供述しており――。


FGO、今年の水着サバ誰が来るんですかね? トラロックなら全力を出さねばならんのですが……課金しても私は反省なんかしませんし! 後悔とかはしますけど!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ