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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 十五話



「それで、翻訳機も大雑把なもんでして、豚って呼ばれてる顔が僕らの知る豚の半トカゲの生物が売られてたんですよ。で、その横にあったうんこが……うんこが竜除けの香の原材料が……何度翻訳してもうんことか……ぼかぁ、ショックでショックで」


 場所は変わってトラヌ王国城内の物置部屋。物置部屋といっても何もない空のその部屋に、アラムが機械を弄りながら「うんこ……うんこって」と言いながら項垂れていた。

 一時間前ほど、彼は女性の下着を購入する付き添いという偉業を果たした後に、自分の買い物も済ませた。その時に嗅ぎなれたあの匂い、いや、臭いが彼の嗅覚をしっちゃかめっちゃかにした。

 旅の中で、寝る時、いつも嗅いで、安らぎを覚えていたあの安全の象徴たる香りを百倍に凝縮したそれが、屋台の上にどんと置かれていた。

 ――まだ乾ききっていない竜のうんこである。黄金砂漠に分布するという最強種のフンが、竜除けの香の原材料として、高値で売られていたのだ。最強種は自分のフンの匂いで縄張りを主張する為、この世界の竜はこの臭いを本能で避けているとかなんとか。


「……で、ぼかぁ今までうんこをありがたがっていたのかぁ~ってその時、思いまして……」

「なんだ。国の救世主様がなんでこんな物置小屋で閉じこもってんだ?」


 と、ノックも無しに開いた扉が空気中の埃を押しのけた。見ればバルバット国王が何をしてるんだと言わんばかりの顔で機械を床一面に散らかして部屋の真ん中で座っているアラムを見ている。


「あ、えっと、国王様――」

「あー、いーいー。座ってろ。今は自由時間(プライベート)だ。変に畏まるな肩が凝る。いやな、城の兵士に聞いたらあんたがここに籠ってるって言われ見に来たが……仕事か?」


 床に散乱している機械やら工具を一瞥し、遠慮なしに物置小屋に入ってくる国王。服装は本人もオフと言う通りラフな物だが、こんな埃っぽい部屋で汚していいほど安物ではないだろうに、そのまま適当に開いている床に座り始めた。


「まだ夜は始まったばかりだろうに、てっきり俺はまだ遊び惚けてると思ったが、こんな時間まで作業とはな。随分精が出るじゃねぇか? というか、渡した金はどうした? ああ、すられたか? なら、もう一度渡すが?」

「ああいえ、お金はこの通り、ですがもう使わないでしょうし、ここで返しておきます」


 と、偉い人にビビって大事そうに両手でズシリと重い袋を渡すアラム。それを受け取った後、二回上下に揺らして顔をしかめるバルバット国王。


「おいおい、ほとんど使ってねぇじゃねぇーか」

「仲間の衣服と僕の道具に使う材料しか……ああ、竜除けの香の原材料も買いましたが」

「はぁ? なんで竜のフンなんか買ってんだよ。最強種の物なら加工済みなら他国で高く捌けるが、原材料だと加工技術が無い他国ではここの買値より下値でしか売れねぇだろうに」

「えーとぉ、記念に……それにしても竜のフンを香にして竜除けに使うなんて、誰が考えたんですかね?」


 と、その一言にキョトンとするバルバット国。アラムの言ったことが相当おかしかったのだろう。


「そりゃドラゴノスだろうに、子供だって知ってるだろ? 竜車を作ったのも、大陸中の商業路を村各々に作るように指示し、行く先々で嫁たちが多くの者に魔術を教え、竜と戦う術を多くの者に授けたからこそ、どこの国でも英雄として伝わってんだろうがよ」

「……ドラゴノスさんってマジでこの世界の基盤を作ったんだ」


 ぽつりと、そう青年がこぼした言葉をバルバット国王は聞き逃さなかった。


「なぁ、お前さん――」

「何者なんだ? て、聞きますよね……一度言いましたが、まぁ僕たちは善意押し売り業者です。もっと言えば介入者……この世界とは別の場所から来た部外者ですよ」


 バルバット国王の言いたいことを先んじて言ってみせるアラム。そう聞かれることを予測していたらしい。


「いつから俺が疑問に思ってると?」

「え、最初からでしょ。この国の総力を上げて発見できなかった骨削り姫をどうやって発見したんだ? て思ってたでしょうに」


 その返答に満足そうに笑ってみせるバルバット国王。それはまるで猛獣の笑みだ。


「部下や爺やはこの国を直接守ったギャレンやキレスタールをこの国に取り込めないかと画策してるところで、あんたにそれほど価値は感じてないらしいが……俺は違う。あんたの“これ”はなんだ? 床に散乱しているこれ! 魔術道具じゃない! これは――」

「これ以上踏み込むとよその世界から骨削り姫の襲撃が可愛いと思えるほどヤバいことになりますよ?」


 青年が、好奇心に満ちたバルバット国王に、冷めた表情でそう言ってのける。

 ――撹拌現象、未知の技術をこの世界に持ち込んでこの世界の技術バランスを乱す訳にはいかない。便利な技術は、いつだって人を殺す為に発展するのだから。

 だがバルバット国王はそんな青年の脅し程度でその好奇心を引っ込めさせない。鬱屈王などと呼ばれる彼からは想像できないほどギラギラとした目で、アラムを見つめて――。


「止めておけ、先の忠告は脅しではなくこの世界を気遣っての優しさであると知れ。それとだ。こ奴が口説かれ落とされるなぞ我が認めん。何しろこの魔王ガウハルが部下に下れという誘いを蹴ったのだ。承諾なんぞされてみろ、我は拗ねるぞ?」


 その第三者の声でやっと我を取り戻した。


「……何者だ?」

「非礼を詫びよう。姿を見せずに礼を欠く……のだが、まだこのカメラ機能というのもの習得に難儀しておってなぁ! 栗毛、どうするのであったか?」

「前教えたボタンを長押ししてカメラを起動と言ったらできますよ~」

「おーそうであった。困ればまず、ここを押し命令を出せという話であったな!」


 ガチャガチャと通信機を弄りながらそうアラムがアドバイスすると、床に置いていた偵察機の一機がふわりと宙に浮いて、ホログラムを投影し始めた。


「バルバット王、という名はそこの栗毛から聞いておる。我はそ奴の部下をやっているガウハルという者よ」


 そして、その声の主の姿を映し出す。バルバット王は表情を固まらせたまま、突如現れた魔王を眺めていた。


「おいおい……驚いた。これはどういう魔術だ?」

「光で通話相手を映し出してるだけですよ。僕からすれば水晶を使って遠隔通話する技術の方が謎なんですよ?」


 淡々とそう説明すアラム。するとホログラムに映し出されたガウハルがキョロキョロと何かを探し始めた。


「なんだ栗毛、修道女の姿が見えぬが一緒ではなかったのか?」


 どうやらキレスタールを探していたらしい。あの少女なら無言でアラムの隣で守り人の役を全うしているとでも思っていたのだろう。


「今は寝てますよ。僕が知らない間にこの国の大結界とやらを修復してたとかで、顔には出さないものの大分疲れてたみたいです。ですよね、バルバット王?」

「あぁ!? ちっ爺やめ、俺に相談も無しに勝手をしやがって、その話は本当か?」

「え? 知りませんでしたか……襲撃の後、すぐにあの爺やさんがキレスタールさんに頼み込んで……まぁ魔力枯渇やら鼻血が出ていて体調を気遣いながらの修復であり、断じて強制ではなかったので気を悪くしないでくださいとキレスタールさんは言ってましたけど」


 一応そんなフォローを入れるアラム。いや、少女の気遣いをそのまま口にしただけなのだが。


「なるほど、その大臣とやらは優秀ではあるな」

「え? ホウレンソウ無視して優秀なんですか?」

「そちらの国はこの世界でも凶悪な竜が生息しておるのだろう? 大結界を修復しないままならば空から人を食う竜が次から次へとやってくるではないか。ならば修道女の結界術に頼りたくはあるが……」


 そこまで言ってちらりとバルバット王を見るガウハル。それに鼻で笑ってから、バルバット王は魔王の言葉の続きを口にした。


「だが、国を救った英雄、しかも満身創痍の身。それを酷使するなど俺が許さん。このバルバットの名が地に落ちる」

「左様、ならば罰を食らう覚悟で勝手に話を進め、民の安全を最優先にしたのであろう。老齢の身で保身に走らず、身を粉にし民を守れる老爺なぞ稀よ。更に年相応に知識もあり、利用できるものは利用する柔軟さがあるならば、そら、優秀であろう?」


 バルバット王とはそりが合わず、色々と言い合っていて足を引っ張っている印象であったが、ガウハルがそう言うならばあの大臣、かなりのやり手らしい。


「というよりいつから俺の話を聞いていたんだ? てっきり二人っきりと思い誘いをかけたのに」

「ふはははは! 最初からよ。半時ほどから音声のみでこ奴の話し相手をしておったのよ。このホログラムというのは、どうやら長くは使えんらしいから使用せずにな!」


 電力の消費が激しいので、とアラムはガウハルの言葉に続いて言おうとしたが、電気でこれが動いているとバルバット王に言うのはまずいと思い、口を閉じる。

 バルバット王はかなりの切れ者だ。もしかしたら政治面ではガウハルをも超えるかもしれないとアラムは考えている。底が知れない。ならば言の葉を交わさないのがベストだ。


「ちぇ、フラれたか」


 青年に警戒され、これは交渉の余地無しと判断したのか、バルバット王が子供みたいに拗ねた。少し可愛げがある姿に、アラムは船ではこういうイケメンで可愛げのある男性が女性受けが良いな、なんて思いながら押し黙っていた。が、その沈黙はバルバット王の一言ですぐさま破られる。


「そういやぁ、あんた娼館には行かないか? トラヌの娼館はそれはもう有名なんだぞ?」

「娼……え?」

「俺は毎晩行ってる。まぁ、城を抜け出してだがな。だから詳しいぞ? 寝不足で頭が痛い中わざわざ起きてきたのも、あんたを口説くのが半分、もう半分はそれが目的だからな」


 一瞬、アラムはバルバット王が何を言っているのか理解できなかったが、その言葉の意味をすぐさま理解したのか顔を真っ赤にする。


「なんだ。お前さんがいた別の世界ってのは女も満足に抱けねぇのか?」

「いやいやいや、そういうのはまぁありますけど僕の年齢的に利用できませんし、そもそもそんなお金ありませんし!?」

「こういのは安いのから高いのまであるもんだろうが、まぁ安すぎると病気が怖いが、というか、あんた、童貞か?」

「ど、どどどどどど童貞ですけど何かぁ!?」

「お、マジか。認めるパターンか。普通そういうの否定しないか?」

「嘘ついても秒でバレますし!」

「ははははは! まぁなぁ!」


 ずばり言い当てられ明らかに動揺しかしてないアラム。と、今度は通信機越しにガウハルが口を挟んできた。


「直に世界の命運をかけて戦うのだ。死ぬかもしれん……ここで、捨てていくか、栗毛?」

「いやいやいやいやいやいや、今仕事中ですし! こうやって船への通信機弄って回復させようとしてるんですからそんなもの捨ててる時間なんて無いんですよ! というか船長に怒られますからねぇ!」

「箱舟の監視が無い今、すぐさま咎められぬだろう。止める者もおらん。映像記録や会話記録からバレるやもしれぬが、あの船長も大人で親。まぁ、理解してくれるであろうよ」


 さて、悪魔、というか片割れは魔王なのだが……双方から甘い囁きが青年を襲う。バルバット王もガウハルの声も弾んでおり、からかい半分余計なおせっかいらしい。いや、バルバット王はこっちの方面ならば容易く青年を懐柔できると踏んで、随分と彼の“卒業”にえらく乗り気だ。


「え、えぇ、えー……えぇー!」


 悩む、青年が通信機を弄りながら悩む。

 窓から得体のしれない竜の鳴き声が聞こえてくる中、青年は多分、人生で一番悩んだのであった。





「アラム様?」


 深夜、誰もが寝静まった場内で、少女が一人アラムが借りている物置小屋へとやってきた。ふと、目が覚めて彼のことが心配になり夜の見張りをしている兵士から、アラムがいる場所を聞きだしてやってきたのだ。

 だが、部屋は無人なのか静かで――。


「あ、キレスタールさん……」


 しかし、元気の無いアラム君がそこにはいた。


「どうされましたか? お疲れならば休むべきでは?」

「あーいや、なんだか今日はなんだか眠れそうになくて……ところでキレスタールさん」

「はい、なんでしょう?」

「ちょっとぉ、仕事を頑張る僕を褒めてくれない?」


 いきなり突拍子もないことをいう青年に、無表情のまま固まる少女。彼女は童貞を捨てるチャンスを棒に振り、バイトとの通信回復というか細い可能性に縋り通信機を弄り回している青年の葛藤など知らないのだから、無理もない。


「その、アラム様は……頑張られております」

「うん! ぼかぁ、間違ってないよね! よね!」

「はぁ……あの、なぜ泣いておられるのですか?」

「なんでだろう! 不思議だなぁ~! 正しいの選択だったのにね、後悔しかない!」


 夜が更ける。明日はドラゴノス帝国へ旅立つ予定だ。こうして黄金砂漠で過ごす夜は、自棄になった青年の叫びと共に幕を下ろしたのであった。



洗濯とはしてもしなくても後悔を残すものだ。


ゆえに私はFGOのガチャに挑み続ける。え、違う?

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