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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 十四話



 骨削り姫襲撃から六時間後、バルバット王はこの王室で仕事をしだした。あの老齢の大臣はあの戦いで一番消耗しているギャレンとキレスタールを連れてどこかに消えた為、今この王室にはバルバット王、ブリュンヒルドとアラムの三名だ。

 数分前、襲撃者との協力者かどうかの疑いが晴れた後にアラムから終焉の竜討伐の協力要請を受け、それを快諾。バルバット王はブリュンヒルドを傍に置き近隣諸国と通話を開始した。今、色々と難しい話や長ったらしい会話があったが、要約するとトラヌ王国の復興に向かわせているお前らの兵、終焉の竜討伐に使うから、といった内容である。

 通話魔術の大きな水晶を前に、まるで最初からそう決めていたかのようにサハラジェ連合の各王にあーしろこうしろと指示をだすバルバット王、なのだが――。


「ということでこの段取りで出兵をしてもらう。質問はあるか?」

「質問など! 我が国の兵を終焉の竜にぶつけるだと! ふざけているのか!」

「若造が調子に乗るなよ! 貴様一人の差配でなぜサハラジェの兵全てを動かさねばならんのだ!」


 このように、非難の嵐であった。だが当のバルバット王はなんとも退屈そうに頬杖を突きながら、指を三本たてて、こう言った。


「一つ、サハラジェ連合全ての安全の為だ。今回はトラヌへと終焉の竜が送り込んだ敵が襲ってきたが、別ルートで他国へも骨削り姫と同等の戦力を送りこまれる可能性が高い」

「い、いやそれは」

「二つ、今反撃に出ないと単純に詰む。敵戦力は未知数。今後、骨削り姫以上の戦力、それを複数送り込まれでもしたらサハラジェ連合にそれを打倒する術はない。ゆえに無理やりにでも最短で終焉の竜を討伐、又は撃退、封印などの処置が早急に必要、電撃作戦が基本、やられる前にやる」

「……」

「三つ、このタイミングで動けば少なくともアケルはともかくドラゴノス帝国は協力して動ける。今回このトラヌ王国を守ってくれた三名、その者の仲間が今ドラゴノス帝国にいて連絡が取れるとのことで現在の帝国の状況は知れた。あの国はまだ戦える」

「連絡を? 旅人が連絡用の水晶など使えるはずがない。嘘では?」

「今、俺たちが使っている魔術の改良版だ。ドラゴノス帝国で研究されているものらしい。なんで後で術式を解明しパクって俺の国で商品にする気だが、うまくいけば高値で買うか?」


 アラムの通信機など知らぬ技術だが、ここで未知の技術で連絡を取っていますと説明すれば話がこじれる為、しれっと嘘で誤魔化すバルバット王。利益をちらつかせて頭の中を金のことで埋めさせて疑いの思考を鈍らせた。この王、随分と頭の回転が速い。


「まぁそれは後だ。で、その仲間の話によると今、ドラゴノス帝国は立て直して兵の鍛錬をしているらしい。更に終焉の竜から送り込まれる死者を全部止めている、と。帝国は終焉の竜がいる地の目と鼻の先だからな。そこさえ守ればサハラジェは取りあえずは滅亡しない。だから増援を送る。以上が利点だが、これでも反対か?」

「ま、まぁそういうことならば兵を出すのもやぶさかではないが……死者、だと?」

「そう、死人だ死人。この国を襲ったのは真実、骨削り姫で間違いない。知ってるだろ? 英雄ドラゴノスの妻が一人。終焉の竜は太古の禁術を用いて、死者の使役をしていると思われるが、まぁ俺の知る限り――」

「あのぉー、お話し中すみません。そのことで少し疑問がありまして」


 と、バルバット王の話に申し訳なさそうに割り込む形で、アラムが水晶を覗き込んだ。


「誰だ貴様は!」

「トラヌ王国の守護をした内の一名だ。知らぬ魔術をまだ隠し持っている。金の成る木だ」


 と、頬杖を突きながらバルバット王が茶化してそう言うと、水晶の中でアラムを害虫か何かみたいに見ていた王の態度が軟化する。皆、こんな時でもお金が大好きらしい。

 ちなみにアラム(技術者)もお金はあればあるほどいいと骨身に染みているので、軽蔑はしない。人間として当然の反応であると受け止める。


「えっと、実はアケル王国の方でも終焉の竜が送ってきた死者と戦ったのですが、その時の敵は半分腐っていたというかゾンビって言えば通じますかね? 普通の人間の見た目じゃなかったんですよ」

「まぁ、それは魂の劣化ね」


 と、また水晶に割り込む者が一人、ブリュンヒルドである。


「誰だ!?」

「ああ、骨削り姫、本人だ。今は終焉の竜の暗示から解き放たれ味方にはなっている」


 そのバルバット王の一言で水晶内の王が慌てふためく、どうやら討伐されたと思っていたらしく、未だ骨削り姫が健在などとは思わなかったらしい。


「は、早く殺せ! こっちの国に来たらどうするのだ!」

「今は味方だと言っただろうに? 終焉の竜の暗示とやらが解けて随分と協力的だ。というか死人なんてどう殺すんだ? 霊なんざ倒せる魔術なんぞこの世界のどこにあると? いや、それより話の続きだ。骨削り姫、魂の劣化とはなんだ?」


 バルバット王が騒ぐ王たちを黙らせ、ブリュンヒルドに話の続きを急かす。嫌な予感がしたのだろう。


「私もそれほど詳しくはないのだけれど……死者を復活させる魔術は真に死んだ人間を生き返らせる方法と、もう一つは魂を複写させて行うまがい物があるわ。偽物の方は、何回もすると段々と劣化して朽ちた亡者みたいになって、色々と弱くなるらしいの。それを魂の劣化、と昔聞いたわ」


 それが事実ならば……アラムはその情報に戦慄する。


「じゃ、じゃあアケル王国で戦ったあの人たちがまた出てくるかもしれないし、僕たちが戦った二人は劣化してあの強さ……劣化していないオリジナルに近い魂が、また敵としてでてくる可能性、が……」


 ――この先の行く末を表すように、窓の外の黄金砂漠の太陽の日が落ちる。ドラゴノス、サハラジェでの打倒終焉の竜の兵力は確保できた。しかし、未だ前途は多難のようであった。





「と、いうことでねぇ。バルバット国王さんが国を守った僕たちにもの凄いお駄賃をくれました! ええ、それはもう大金です! しかし船に戻ったら鉄屑に早変わり! 勿体ないので最終決戦の準備をしつつ、今夜は豪遊して英気を養ってくださぁい!」


 すっかり日が沈み少し冷え込んだ黄金砂漠の夜。砂漠の夜は肌寒いはずなのだが、ここトラヌ王国は熱気に包まれていた。

 黄金砂漠を抜けたトラヌ王国は商業国家。ありとあらゆる商人が夢見る商売の国であり、眠らない街がある国なのである。

 つまりお金さえあれば夜でも遊べる。悦を凝らした料理文化もギャンブルも風俗も発展しているから遊んでこいと気前のいい国王様がアラムにお金をくれたのだ。

 なのでアラムとキレスタール、ギャレンは取りあえず夜の街に繰り出したのだが……。


「で、なんであなたがいるんです? 一応、この国半壊させたんですよ?」

「バルバット国王に遊びたいと頼んだら、お金を渡されて行ってこいと言われたわ!」

「えぇー……」


 このように、なぜか今日この国を危機に陥れた張本人であるブリュンヒルドがニコニコとお祭りに浮かれる子供みたいな笑顔で夜の街で待っていたのだ。

 あの国王、強大すぎる力をもつ者は怒らせぬように毒気を抜くという方針らしいが、流石にお小遣いを与えて放置、というのはどうなのだろうか?


「今、国王様はベッドの上でぐっすりなの。昨日から一睡もしてないんですって、いつの時代も王様って忙しいものなのね!」


 邪険そうな顔をする青年に、そう説明する大きな女の子。それは貴女の対策で眠れなかったのでは? という言葉を飲み込みアラムはこめかみを押さえながら、自分の仲間二名にこう言った。


「では、取りあえず先に必要な物を確認しましょう。僕は金属部品、まぁこんなファンタジーな世界ですから自分である程度は加工するのでが、その材料が欲しいです」

「愚生は……特に買う物は無い。今日の戦いで防具は壊れてしまったが、終焉の竜の戦いへと向かう際に必ずドラゴノス帝国に寄る。なのでバルバット国の計らいにより帝国の方で上質な防具を用意するようにと伝書の竜を飛ばしてもらっている」


 この世界において鍛冶にてドラゴノス帝国の右に出る場所は存在しない。武器も一級だが防具も帝国で揃える方が良いという判断だ。


「僕の通信機を使ったら早いのに……いや、事情でもあるのかな? キレスタールさんは何か必要な物はある? 魔法の杖とかこの国で買い漁りに行きます?」


 そろそろキレスタールの装備強化も考えないといけないなぁと、アラムがそう提案する。すると半透明に露店の灯りに煌めく髪を持つ少女は、一切の迷いなくこう言った。


「下着を新調したく」

「あー、下着……下着? 下着!?」

「まことに申し訳ないのですが旅の途中サイズが合わなくなり、長い間付けずに過ごしていたのですがこの度、泡銭が手に入った為、ここで揃えたく」


 ――アラムさん、ギャレンさん、同時に双方がアイコンタクトを送る。

 ギャレンさん、小刻みに首を振る。無論、横にだ。

 アラムさん、小刻みに首を振る。こちらも横にだ。

 この間一秒にも満たない。最速の意思伝達であった。


「……あの? 二人ともどうかしましたか?」


 さて、男が女性の下着を購入するのに付き合う、というのは中々に難易度が高い。

 片や童貞の青年、片や一人の女に勝手に操を立てているとなれば、それはもうそんなイベントは回避したいのである。ギャレンは勿論ルアネが誘えば腹をくくるだろうが、少女が相手ならばその勇気は今回、絞り出せないらしい。

 なので、先ほどまでなんでこの人いるんですか? といった感じで扱っていた人物に男連中が救いを求めて熱視線を送る。何を隠そう、ブリュンヒルド様にだ。


「ではアラム様、行きましょうか」

「ちょお! なんで僕をご指名なんですぅ!?」

「アラム様と私めには仕事で購入すべき物があり、ギャレン様とブリュンヒルド様にはありません。業務を全うする者と息抜きをする者とで別れるのが妥当です。それにこの街の地理は詳しくなく、アラム様の偵察機を頼りに店を探したく……その方が効率的ですので」


 と、ここでまさかの少女からのご指名であった。ペア分けの理由にはまだなんとかケチを付けれるが、偵察機を使っての店を探索するというのは良いアイデアであり、青年にとって言い逃れができないほど合理的な理由であった。


「あう……」

「ではお二人とも、今夜はここで別れましょう。しっかりと英気を養ってくださいませ」


 ペコリと一礼をして、ズルズルと青年を引きずりながら人混みに消えていく少女。そして残された筋骨隆々の男と隻腕のお妃様が、その場に取り残された。

 左右から客を呼び込む声が聞こえる。色とりどりの魔法の光が夜闇に浮かぶ玉となってぼんやりと闇をほどき人々の生活圏内に変えていた。

 午前中を避難に使った為、今日の稼ぎを取り戻そうとしているのか活気に満ち溢れていた。けれどブリュンヒルドはその風景を見るだけで一歩、そのお祭りみたいに騒いでいる人々の営みを嬉しそうに見ていた。


「……何か、買わないのか?」

「ええ、こんな手であんな楽しそうな所には行けないわ。皆を怖がらせたくはないの」


 骨のみとなった右腕の話だと、ギャレンはそう思った。だが違う。ふと、視線を動かせば普通の、白く美しい左手の指先が消えかけていた。


「それは!」

「ドラゴノスのお嫁さんの中に霊魂術について詳しい子がいたの。魂の劣化の知識もその子から聞いたのだけれど……肉体が無い魂だけの存在は特殊な魔術を使わないと徐々に消えていくというのは本当だったのね。普通はもう少し遅いらしいのだけれど、私は……ここに来るまで力を使いすぎたから……」

「いや、しかしだ! どうにかならないのか!」

「……優しいのね。私、貴方を殺そうとしたのよ?」

「それは、正気を失っていたからだ! まずはバルバット王に助力を願おう!」


 優しい笑みを浮かべて……竜帝の妃はふるふると、弱弱しく首を横に振った。


「いいのよ……でもせっかく王様からお小遣いを貰ったのに、断っておけば……いえ、私の隠し事なんてお見通しで、今夜はいい思い出を作ってこいと渡したのね。あの眼は、ドラゴノスに似て全てを暴く鋭い目をしているもの」


 だから、襲撃者である自分を拘束せず恩赦を与えたのね、なんて薄く笑ってそう言うブリュンヒルド。その笑みは、妙齢の見た目にふさわしく慈愛に満ち、僅かな陰と年月を感じさせるものであった。


「……あの……人は、この腕を……見てどう思うのかしら?」


 半透明に消えはじめた右手の指ではなく、骨の手を月に掲げながらそう言う彼女の表情には憂いと、幼子みたいな怯えがあった。

 あの人、というのはドラゴノスのことだろう。彼女がこの手になったのは終焉の竜との決戦の時、つまり死ぬ直前。最愛の人は自分の腕が骨となったことは知らない。

 醜く、怖い。誰もがそう思うだろう。


「ドラゴノスは……かっこいいと褒めそうだ。伝説でもよく女性をそう褒めていたと聞く。その、異性にその誉め言葉は受けは良くなかったらしいが……」

「……ふふ、吟遊詩人も嘘ばかりではないのね。そうね。あの人ならそう言いそうだわ」


 するとギャレンがドラゴノス……と言葉を吐いてから黙りこくり何かを考え始めた。その目は見開いている。必死な表情で押し黙る彼に、ブリュンヒルドは小首を傾げた。


「そうだ! ドラゴノスだ! 帝国にはドラゴノスとその多くの妃の魂を封じ込めたと聞く宝剣があるらしい! その剣にあなたの魂を宿せれば!」


 ドラゴノスの宝剣。ルアネとキレスタールが二人だけの舞踏会を月下の下で開いた際にも出てきたある伝説。

 晩年のドラゴノスは己が妃の一人に魂を封じ込める宝剣を造らせたという。帝国の危機に復活し、力となる為……と伝わっている。

 その宝剣の中にはドラゴノスの彼の妃魂が“一人”を除いて封じ込められていると語られている。その一人というのが、骨削り姫。


「……」


 彼女の死後のことだ。この逸話はブリュンヒルドは知らない。まさか、愛しい人が自らの魂を剣に封じていたなど、考えたこともなかっただろう。


「あ……あの子なら、できる」


 あの子、というのはドラゴノスの嫁の一人なのだろう。宝剣を造ったとされる。


「ドラゴノスなら……やる。あの人は欲張りさんだから……死んだ後もお嫁さんと一緒にいたがる、もの」


 信じられないから、信じたい。そして信じられると、ギャレンの言葉の評価が変わる。


「ああいや、愚生の考えなどそう真に受けられても困る。ただの伝説で、実際どうなのかはわからない……期待させてすまない」

「いえ、そうであってもその宝剣はあの人と皆の、お墓みたいな物でしょ?」


 良い案だと思い言ったが、本当に伝説通り宝剣にかの英雄の魂が宿っているのか自信がなくなり言葉を小さくするギャレン。

 だが、それでもと、ブリュンヒルドはこう言った。


「――最後の時は、あの人と一緒いたいわ。それで……私は幸せよ」


 多くは求めない。ただただ、愛した男と共にありたい。それは、ギャレンも共感ができる。終焉の竜など存在しなければ、ルアネは今頃アケル王国で結婚相手を嫌々探していただろう。そうなればギャレンと関わりなど持てなかっただろうが、それでも彼女が幸せなら……そう彼は考える。


「そうだな。死ぬときは愛しい人といたいものだ」

「あなたにも意中の相手が?」

「さて、相手はそう思ってはいないかもしれないが……あなたと同じ美しい黒髪の女性で、長い黒髪の女性が竜の大群を襲っていると聞いた時、貴女をルアネと勘違いし、期待したのだが……」


 弱音など、いままで吐かなかったギャレンがついポロリとそんな言葉をこぼした。まだ、か細い希望は抱いている。けれど、頼みの綱である情報は誤報、年下であるアラムとキレスタールの手前強がっていたが、いい加減弱音ぐらいこぼしたかったのだろう。


「私と同じ黒い長髪の子? 多分その子、まだ生きてるわよ? 私見たわ」


 そして、彼が今一番欲しかった言葉が、確かにブリュンヒルドからもたらされた。



アラム、最大のピンチ! ピンチ? うん、ピンチかな?


それとFGOの宝箱イベいいぞぉー! 骨ぇ!

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