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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 十二話



 己が器の限界など、最初から大男は理解していた。物心が付いた頃にだ。

 幼少より他者より魔力量が少なく、ありとあらゆることへの飲み込みも悪く、武器も満足に扱えない。

 親から、兄妹から、名も知らぬ者からも馬鹿にされ、侮蔑され、価値の無い“物”として扱われてきた。



 ある日、一輪……美しい黒い華を見つけた。才に満ちていた。自信にも満ちていた。自分とは違い他者とは比べ物にならないほどの魔力量、ありとあらゆることをすぐに理解し、どんな武器を持たせても一時間としないうちに使いこなす。更にあらゆる攻撃魔術を取得し、称賛され、羨望を集め、価値ある“者”として扱われていた。



 ――憧れた。そして素直に綺麗だと思った。だから、妬ましくなどなかった。だが、彼女は笑っていなかった。いや、生きていく為に最低限は笑ってはいたが、本当に楽しそうではなかった偽物の笑みだと、それだけはギャレン(非才)には理解できたのだ。

 だから、その華をもっと美しく(笑顔に)したかった――ただただ、この男の願いなど、そんな些細なものだったはずなのに――なぜ、こんなことになったのだろう?

 想いを告げた日に「私より弱い男に興味なんてないわ」と、そう華に言われ、かつてのギャレンは強くなろうとした。ありとあらゆる努力を、ありとあらゆる試行を、ありとあらゆる罵声に耐え、確かに、男は強くなった。

 鍛え上げられた肉体と鍛えたうえで凡庸な魔力量で、ただただ敵を殴り倒してきた。それしかなかった。男が強さを極められる道など、本当にそれしかなかった。辿ってきた道に間違いは無いはずだ。他に選択肢など存在しないのだから、それが間違いだというのならば、この大男は困り果ててしまう。なのに――まだ足りない。

 発動から高出、そして極限に至った男の唯一の武器(魔術)はまだ足りない。ならば今、ここでその次に至るしかないのだ。





 ギャレンの意識が戻った瞬間、風に攫われたボロキレみたいに男の体は宙を漂っていた。先ほどまで走っていたはずの黄金の砂の海が遠い。

 黄金砂漠には濃い黄金色をしたキノコ雲ができており、そしてこの大男はそれとは別にある、本来は空のあるあの掻き混ぜられた白い雲に届きそうなほど、舞い上げられていた。


「――身体強化」


 兜も気づけばどこかにいき、鎧の上半身も消えて裸であった。これは称賛されるべきであろう。普通は全身が消え去るあの凶星の落下を受けてなお、鎧の損傷のみで済ませた極限の身体硬化魔術に。


「――身体硬化」


 だが足りない。足りえない。男の望み、あの美しい黒い華を本当に笑わせるには……まだ足りない。ならば、至るしかない。己が器を超えた先へと。


「――治癒魔術」


 ふと、男は眼下(地上)を見る。砂塵でよく見えないはずなのだが、というか距離から黒い点以下である骨削り姫を、男はしっかりと見据えた。

 随分と遠くに飛ばされてしまったものだ。今から落下する地点からはどう考えても、トラヌ王国へと戻った方が近いだろう。

 だが、今尚“この彼がいる空で回りしあの凶星”を、もうトラヌ王国へは撃たせる訳にはいかない。


「――“臨界”!」


 黄金のキノコ雲の中で、白銀の光が黄金の砂塵を引き裂く。

 遠く、遠く、アラムやキレスタールにも、そして骨削り姫にも届いたであろう強い光だった。

 その白き強光は、敗北に沈む青年と少女に希望を与え、勝利に狂い笑う骨削り姫を止める。

 ――元はこの黄金砂漠の土であったキノコ雲が、大地を震わす轟音と共に飛散する。

 そして、その轟音を轟かせる白竜公が大地へと音速を超えた速度で地へと飛来した。


「生きている、の?」


 あれはなんだと、いもしない傍らの誰かに説明を求めるように周囲を見てから、骨削り姫は後ずさる。

 距離は未だ自分が有利、あれに長距離に対応する技は無かった。なのになぜ後ずさるのか? 至極単純、ただただあの白い強光に、生きていない生物として恐怖を感じたからに他ならない。


「――愚生は白竜公、黒竜姫と並び立ちし者、白竜公だ! 再び、竜帝の妃に挑まん!」


 その名乗りと共に、黄金砂漠を白い光が裂いた。一秒が長い。一呼吸が長い。瞬きが長い。神速、ただまっすぐに、ただひたすらにまっすぐに骨削り姫へと向かい、白竜公は敵を屠らんと音速で迫った。


「速すぎる! 生き物じゃないわ!」


 嘆きと共に、まずは長射程を誇る竜骨の槍を飛ばす骨削り姫。並みの竜ならば大穴を開け、すぐさま絶命するその竜骨槍の魔術遠投。それが白竜公に当たり、消滅する。

 ――無論、槍の方がだ。


「っ行きなさい!」


 焦り、驚きが入り混じった声だった。すでに白竜公は落下地点から半分の距離を詰めていた。足場が砂で走り辛さ、砂丘の坂ですらその速度を落とすことはない。砂は足が埋まる前に前に出る。そして砂丘は一直線に進むこの白竜公に“吹き飛ばされ”更地へと変わるのだ。元より無いも同じ。

 あれは彼女の言の通り、生物の理を超えた何かだろう。

 それに最強種の骨をぶつける。その鋭い爪でその体を裂こうとし、全てを裂くべき爪の方が弾かれ折れた。

 白竜公と最強の番犬の交戦時、白竜公の目に見えない打撃により、番犬の胴体に三つの風穴を作った衝撃波が、骨削り姫(飼い主)の元へと飛ばされ、その長い黒髪を攫う。

 最強種に向けた拳の余波が、彼女にまで届いたのだ。


「――ひっ。あれ……私、何をして? いえ、いえ、それよりも!」


 それに、骨削り姫は短い恐怖の声を漏らして呆けた。だがすぐに“損傷した”最強種の骨を再び白竜公へと向かわせる。元より魔術で操る死体、痛みによる怯みなど無い。螺旋を描く悪魔の角による突進、あの角こそ最強種の骨の中で一番の高度、あれとの衝突は死を意味する。

 それに加え、あの凶星で落下から逃げ惑っていた翼竜を骨の魚群で襲い、翼竜の皮と肉を削り切り、新たな武器へと変えていく。そして急増の武器を得て、それを全て、あの白銀の光へ飛ばした。

 ――それを、無言のまま白竜公は神速の拳一つで砕き飛ばす。足を止めずにすらならず、骨削り姫へと迫っていく。


「嘘!」


 まさに、まさに悪夢であった。風を、音を置き去りにして手足を見えない速度で動かし正真正銘の怪物が骨削り姫に迫ってくる。これを悪夢と言わずしてなんというのだろうか。


「お止まりなさいな!」


 頭上を見上げる。あれを止めるに足るにはもはや天を掻き回すあの凶星の他に無い。しかし凶星を落とす時間がほんの僅か、足りない。ならば時間稼ぎにと再び空を覆いつくす万を超す竜骨武器を召喚し、それを降り注がせる。

 回避不能。重力を使った威力を上げた死の雨、それを見て白竜公は初めて白き強光を放ってから続いていたその歩みを止めた。

 それに、骨削り姫は安堵した。あの怪物でも流石にこの攻撃ならば足を止めてくれるのかと、だが、その静止は瞬きの間であった。

 足を止めた瞬間、白竜公は溜めの動作を見せ、一発、再び拳を目に見えない速度で放つ。

 同時に拳の軌道上にあった空気が逃げる。拳一つで作り出した極細に伸びた真空空間は、空を覆い落下途中であった竜骨武器のほぼ全ての軌道を変え、直撃した箇所の武器の群を粉々に砕け散らす。

 それを見て、骨削り姫が泣きそう顔を歪ませた。

 だが、あの白き輝きを放つ怪物の足を、一瞬だけだが止められた。今からあの化け物に凶星をぶつける為の軌道修正の時間は作られる。

 ならばと骨削り姫は天高く見上げながら、自身の前に骨の魚群の防壁を作り、その己が最大の絶技の衝撃に備えた。



 ここに来て、その凶星は今日一番の加速を見せていた。もはや空を見上げればあまりの速さに軌道の光が繋がり、天に大きな赤い輪が生成されている。

 白竜公、ギャレンにも焦りが生まれた。止まっていた足を、無茶苦茶な駆け出しから繰り出されるタックルにも似た動作で、骨削り姫との距離を詰める。

 ――もはや、声が届く距離。それに骨削り姫は迫る脅威を屠ろうと、己が出せる最強の技で迎え撃つ!



ドラゴノス(竜帝)ガーディアン(守りし)スピアァ!(一槍)


 叫びと共に、その隕石の衝突をも超える骨削り姫が魔術の前世での結晶が、大男へと放たれた。

 その衝撃に大地が揺れ、衝撃波に遠い場所にあるトラヌ王国の壁に亀裂が入り、ガラス窓が爆発するように全て割れれる。最初からこれを放っていれば、トラヌ王国など結界ごと一度で消滅させられただろう。


「ルアネェェエエエエエエエエエエエエ!」


 それを、愛しき女の名を呼び白竜公はただ愚直な拳で迎え撃つ。一点に絞られた人知を超えた力同士がぶつかり合い、その衝突は、空間すらも歪ませた。

 両者、呼吸ができない。衝突の衝撃で空気が逃げたからか。だが一秒にも満たない拮抗の後、その技と技のぶつかり合いの末に無音となった世界で、その勝者がどちらかという結末が明らかとなる――勝利したのは妃の凶星ではなく、大男の至宝()であった。


「っ!」


 すでに、凶星から己を守るために纏っていた小さな竜骨武器の防壁は、先ほどの凶星と拳の余波が全て弾き飛ばされていた。もはや骨を守る妃の骨の群れ(ベール)は無い。

 そこをギャレンは己が体内の魔力回転により“超硬度”に固めた皮膚に“亀裂”を入れながら、すぐさまそれを回復魔術で“修復”しつつ骨削り姫に迫る。

 口と目から白き強光を放ち、骨削り姫の眼前に迫りくる白竜公。もはやそれは誰が見ても普通の人の姿とはけっして呼ばれない、異端という言葉が似あう姿であろう。

 そして――伝説に語られた稀代の悪女、骨削り姫との距離、僅かあと十歩。

 よく見れば、骨削り姫の右腕で服の袖がひらひらと踊っている。片腕が無いのだ。だが、それを見ても白竜公は止まらない。止められない。

 敵を屠る。その一念をもってギャレンは敵へと迫り、あと一歩ところで拳を振り上げたまま止まり――。


「助けてドラゴノス! ドラゴノスゥ! 半裸の殿方が襲ってくるのぉ~。ドラゴ、ドラゴノスゥ! どこにいるのドラゴノスゥ、皆ぁ~」

「……その、なんだ……ん?」


 その、子供みたいな泣き声で動きを止めた。絶望的な敵だと思っていた骨削り姫は、情けなくその場で座り込み泣いていた。左手で頭を押さえ、その場でしゃがみ込み縮こまっている。右手もあるならば、きっとそちらも頭に乗せていただろう。


「……」

「……」


 一瞬、ちらりとね削り姫が恐る恐る顔を上げギャレンを盗み見る。両者、無言で数秒の間、見つめ合って……。


「ふん!」

「ぴぃ!」


 ギャレンが殴りかかろうと、腕を上げたまま半歩前に進めば、再びうつむいてブルブル震え泣き続ける骨削り姫。ほどなくギャレンはゆっくりと腕を下ろした。

 そういえば、ルアネが自分の頭の処理能力を超えた出来事が起きた時に、手を顔で覆い空を見上げていた癖を思い出したのだろう。

 今、自分もそうなので一分ほど片手で顔を覆い、空を見上げた後……思い出したかのように先ほどから青年の声がする腰の人形へと目をやった。


「……素晴らしい、流石はダイエット軍曹だ」


 運が良いのか、はたまた奇跡とでも言えばいいのか、あの凶星の一撃を受けてなおダイエット軍曹は少し砂に汚れているのみであった。そして通信機能も生きている。


「こちら、ギャレン」

「ギャレンさん、どうなりました! 敵は!?」

「それがその、殴れなくなってしまった」

「はい、なんで!?」

「まぁ、確かめてくれ」


 そう言って腰のベルトで挟まれていたダイエット軍曹を骨削り姫の前へと持ってくるギャレン。きっと彼女の鳴き声をアラムに聞かせる為だろう。

 だがそれを見た骨削り姫は、ピタリと泣き止み……まじまじとダイエット軍曹を見る。ダイエット軍曹からはただ状況を飲み込めない青年の声が響いていた。


「……このお人形、喋るの? あなたもお人形遊びが好きなの?」

「む……いや、これは、どう言えばいいのだろうか?」


 ふと、黄金砂漠の空を見る。さんざん掻き回された為か、空にあった雲は綺麗に飛散し、灼熱の太陽が黄金の地を熱していた。


「え? なんですぅ! 誰の声! ギャレンさん、ギャレンさーん!」

「……英雄ドラゴノスの妃の一人よ。そなたに会話する意思はあるのだろうか?」


 こうして最後まで状況を飲み込めないアラムを置き去りに、黄金砂漠での激闘の幕は……こうして下りたのであった。



 すみませんね? 色々と忙しくて投稿が少し遅れました。

 鬱は治ったのですが気分変調症という新たな病を発症したみたいで、頭の回転が速くはなったのですが、速すぎてハイテンションのままでいるとオーバーヒートして、目が回り、吐き気を催し、平衡感覚が消失し、最終的におバカになります。

 病気はこの中二病だけで十分なのですがね? 本当に……。

 まぁでも。鬱よりはマシなので小説は書けるのですが……ま、言い訳は良いでしょう。

 と、いったん区切りがいいのでここで五章(上)として締めくくりたいと思います。

 引き続き第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」の(下)をお楽しみください。


 ……今日お仕事や済んでも罰当たらないかな? でもFGOの為の新しいスマホ買いたいし、頑張らないといけないんだけど……うーん。

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