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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 六話



 ふと、月が見えない夜の中、青年の目が見開かれた。


「……」


 猛烈に青年を襲っていた眠気は頭から軽くなり、薄く光を反射するその眼が、ただただ星の無い夜空を映す。まだまだ青年は疲れているはずではあったのだが、どういう訳かすでにその思考回路(頭脳)は覚醒していた。

 もう嗅ぎなれた竜除けの香の匂いの中、隣を見ればキレスタールが小さな寝息を立ている。少し離れた位置で。最大戦力であるあの魔王様も、青年の持ち物であるテントの中で寝ているのであろう。これは青年の判断であった。

 ディザスターと戦ってからどれほどの休息があったのかは知らないが、あの魔王が自ら疲労していると打ち明けたのだ。ならば、その情報は今回の敵を攻略するにあたり必要な情報であるはずだとアラムは判断した。

 あの魔王はそれを不要と判断したのなら、自らの疲労どころか、ディザスター討伐の報すらも今この時に明かさなかっただろう。ガウハルという男はそういう存在である。

 ゆえに、アラムはガウハルにテントでの就寝をその情報を得た瞬間に決めた。とはいえ、だ。今日は皆が皆、疲れている。正直、アラムどころか仲間全員が柔らかなベッドで十分に休む必要はあるはずだ。

 思い返せば……長旅の末にアケル王国へと帰ってきたと思ったら、牢屋に放り込まれて脱出したと思ったら、謎の襲撃者に殺されかけて……その後もあの名前も覚える気になれないあの国王に、無理やり言うことを聞かされそうになったりと、実に散々な目にあった。

 ついでにガウハルが好奇心を押さえきれずに竜の群れに突っ込んだのも疲労の原因にはなるが……まぁあの程度のハプニングは別に構わないというのが、この青年の考えではあった。


「……でもそんなことより」


 だがそれはもう済んだことだ。そんなことよりも、ルアネが生きているというこの情報。あの強く、誰よりも生命力に溢れ人間らしかった女性が生きている。その希望のインパクトで、アラムの疲れはある程度は吹き飛ばされた。

 そして、今更ながらに、この時に初めて青年はその喜びを実感しだしている。少し休んでルアネ情報を正しく認識できた、というところなのだろう。

 なんとなく、ごそごそと物音を立てながら寝袋から這い出るアラム。今は休息が必要なのは十分承知の上ではあったのだが……喜びで冴えてしまった頭でもう寝息を立てることは無理そうであった。なのでそのまま自分の荷物から偵察機と工具を出して整備しだそうとして――。


「ああ、すまない。起こしてしまったか」


 その声に青年は瞠目した。少し暗闇に慣れた目で、声の方を見ると消えた焚火の前で一人捕らえる。ちょうどいい感じの丸太にその腰を掛けていたギャレンが起きていたのだ。さきほどガウハルが突貫工事(急ごしらえ)で作りだした真新しい鎧を脱いだラフな格好をしている。


「……敵かと思いましたよ」

「竜除けの香は焚いているんだ。何も襲ってはこない」

「いや、竜じゃなくてもほら、野党とかがいるじゃないですか? 僕、人間、怖い」

「野党が夜に森深くを出歩いていたら、すぐに夜行性の竜に喰われると思うのだが……竜除けの香は移動しながらは使えない」

「ああ……そういえばこの世界は竜が強すぎて、野党もそんなにいない世界でしたね。寝ぼけてたみたいです」


 人域は狭く、そこを出るだけで命の危険有り……この竜が支配する世界、そんな世界を今まで安全に旅できたのは、この世界でもトップクラスの魔術の使い手であるルアネと、異端(脳筋)の一応、補助魔術師であるギャレンあってこそなのだ。


「話は変わるんですが、ルアネさんとギャレンさんはアケル王国に住んでいた頃はどんな生活を? 貴族ですから最悪、食べることには困らなかったでしょ?」


 ふと、今まで頼りっぱなしだった二人が、あのアケル王(面倒くさい)国でどういった生活をしていたのかと、青年は気になったらしい。ほんの軽い気持ちでの質問であった。


「いや、ルアネはともかく、愚生は食べることには困っていたな。あの兄を見たならば……大体は察しては貰えないか……」


 と……彼らしくない暗い顔と声で、そう答えるギャレン。アラムはあの王国で出会ったギャレンの兄を思い出した。助けてもらう立場になってさえ、自分の弟に罵声を浴びせていた兄。もし家族の全員からそういう扱いを受けていたならば、あまり明るい話題にはならないだろう。


「すみません。軽率でした」


 青年がいつものおふざけ無しで誠心誠意謝る。だがギャレンはそれに軽く笑みを作り、こう答えた。


「いや、だがいい思い出もあるんだ。また今度、キレスタールと共に寝物語にでも聞かせよう。だが今日はお互い疲れているだろう。寝付けなく竜除けの香の見張り番をしていたが、そんなことそもそも不要だからな。それに、そろそろこちらも限界だ」


 そう言って大きな欠伸と共に会話を終わらせるギャレン。きっと、寝付けなかったのは自分と同じ理由だと青年は直感しながら、大男の言う通りに、やはり今は皆が眠るべきであると賛同する。


「そうですね。僕も、もう一眠りしておきます」

「ああ……それとアラム殿」

「はい?」

「……いや、明日から……なんだ。よろしく頼む」

「それはもう、こちらこそ」


 最後、そんななんともぎこちない会話をしてから、青年は再び寝袋に潜りこんだのであった。





「ほほう、実に良き村ではないか、栗毛よ? 歩けば気安く村の者が話しかけてくるとは、なんとも部外者に親切な土地であるな!」

「いや、あれカツアゲとかそういう類の脅しですからね、ガウハルさん? ギャレンさんはここでは顔が広いですから、あの人と一緒に行動していたらこんな面倒にはならないんで、今からあっちと合流しませんかね?」


 翌日の朝、上機嫌のガウハルとうんざりした顔のアラムは、先ほどから柄の悪そうな冒険者に絡まれてはガウハルがそれを軽く言葉であしらうか、軽くぶん殴るか、軽く吹き飛ばすかして散策に勤しんでいた。

 そんな二人が闊歩しているのは懐かしき(悪名高い)あのコルネ村の大通りである。ルアネとギャレンが冒険者稼業をしていた時に拠点としていたあの治安が悪すぎる村だ。

 ついでに青年としてはもう二度と来たくはなかったランキング、堂々の一位な村である。

 昨日のアケル王国脱出から適当な場所での野営の後、朝一番でアラムの偵察機による周辺探索と作り上げた地図データを頼り、ガウハルの能力で一番近かったこの村まで飛んできていたのだが……少々この観光地である村特有の歓迎が、過激に過ぎた。


「こんな弱そうな奴がこの村の道の真ん中を歩いてんじゃねーよ!」

「てめぇ、よくも俺の弟分をやってくれたな! 身ぐるみ剥いでやるぅううう!」

「よぉそこの兄ちゃん、ちょっと昨日金を使いすぎてなぁ! 貸してくれやぁ」

「ふ、さっきは俺の相棒が世話になったようだな。だが、ここにはここの掟って奴があるんだぜ? この新顔がぁ! 覚悟しやがれ!」


 等々……とまぁこの頭のおかしい台詞からわかるように、荒くれ者の冒険者が巣としているこの村では部外者はこんな風に絡まれる。やれ金をよこせだの、やれ生意気そうだの、中にはなんとなく殴らせろとかいう因縁にすらなっていない理由で襲い掛かってくる者までいたが……ガウハルに瞬殺されていた。

 いや、瞬殺というのは殺していないので語弊がある。遊ばれていると言った方が適切だ。

 火球だの水弾だの斬撃性能のある風魔術だのを軽く片手で弾き飛ばし、似たような魔術でカウンター、そのまま即戦闘不能にされ、金を渡して許しを請うか、尻尾撒いて逃げた後に、愉快なお仲間を引き連れて戻ってくるかのどちらかだった。


「今、冒険者ギルドでお仕事をしているキレスタールさんとギャレンさんに観光だとか言ってぶらついてますけど……これになんの意味があるんですか? というか、なーんでこのか弱い僕を拉致したんですかね?」

「栗毛、貴様は見るからに小心者ゆえな。金目当てで近づいてくるならず者の良き撒き餌になると思ったのだ」

「ねぇねぇ酷くなーい! ぼかぁ、餌ですか!」

「ふはは、そう怒るな栗毛! だがその特徴ある口癖を久々に聞けて我は嬉しいぞ!」


 と、アラムを餌に喧嘩を買いまくっている魔王様にその本人(エサ)がクレームを入れる。下々の暮らしを見てみたいという魔王様の我が侭ならば付き合いきれない、と言わんばかりだ。

 だが返ってきた答えは思いの外、真面目なものではあった。


「それとな、この世界での暴漢がいかほどかと思い、こうして直に力量を測っておるのだ」

「なんの為にです?」

「栗毛よ。貴様の報告書にもあった通り、この世界の魔術レベルは高い。一般の冒険者でも戦力として組み込めるか、それを今直に見て、肌で感じ測っておるところだ」

「一般人も戦力にって……それは倫理的に――」

「ディザスターに成りかけているであろう終焉の竜の打倒、それを成しえねばこの世界が滅ぶのであろう? ならば一般人をも巻き込む必要があれば、するのが通りよ。何もせねば皆で共倒れなのだからな」

「いやいやぁー、一般の冒険者なんて迎い入れても統率がとれませんて、逃げ出したり命令無視したり、ね!」


 金で雇った素人は戦場から逃げだしたりし、不用意な行動で場を混乱させかねない、と言う彼女無し、甲斐性無し、貯金無……少々なアラム君が、どや顔でガウハルに指摘する。ちなみに昔見たアニメから得た知識であるのは、きちんと黙っていた。


「我らの目的はこの大陸にあるあの王国を除いた他の二大国との接触、そしてその二大国の同盟軍をもっての終末の竜の打倒なのだろう? ゆえに、たとえ軍や戦士であろうとも数が増えれば増えるだけ統率なんぞ期待はできん。ならば最初から統率を無視した策を練るだけよ」

「……まぁ、そうです……ね。はい」


 大人数の軍を動かす、なんて経験はこの青年には無い。逆にガウハルは魔王としてその経験は豊富だろう。同盟軍をどう動かすか考えるのはガウハルに一任しておくのが妥当だ。

 と、青年がちょっと落ち込む。本職のだった者に付け焼刃の知識で意見を披露した自分が恥ずかしかったのだろうか?


「なんだ栗毛、急に静かになりおって」

「いえ、ちょっと、あのぉ、恥ずかしくなって……すみません! 素人が偉そうなこと言って、でも僕も色々と考えた方がいいのかなって! はい、黙ります!」


 どうやらそうだったらしい。反省は自身の数少ない特技と自任する青年の謝罪(言い訳)だった。


「経験は確かに我が上、しかし今は貴様が司令塔。ならば臆せず私見を言ってくれる方が良い。変に相手を信用しすぎて情報の交換を怠るのは最悪、全滅へと繋がる」


 と、ガウハルがいつものように含蓄ある言葉を語っていたのだが、なにやら頬を指で掻き始め、アラムをちらりと一瞥する。


「ん? なんです」

「いやな、栗毛……いきなりなのだが、少し大きくなったか?」

「え、そうですか?」

「いや、筋肉がつき逞しくなった。と言った方が正しいか……大きくなったのは修道女の方か。あれも十四の娘ゆえ――」

「え? キレスタールさん、そんなに変わりましたか?」

「……いや、変わったであろう! 我の知る修道女の大本(聖女)と今のあ奴はそっくりだ! 背が伸びたし、体も随分と子供から大人になったと、ああいや失言だ。修道女には言ってくれるな、嫌っておる我に女らしくなったなどと言った日にはどんな顔をされるものか、む?」


 と、ガウハルが後ろから叩かれ目線を向ける。

 またゴロツキが喧嘩を売りにきたのかと青年はきちんと見なかったが、言葉にしたある単語でその人物へと一気に注意が向いた。


「この”黒竜姫”の縄張りと知っていて、暴れまわっているのかしら?」


 黒竜姫、確かにその人物は自らを黒竜姫と言った。瞬間、アラムの胸の内が驚きと喜びで満たされる。まさか終焉の竜に捕まっているであろうルアネが単身、逃走に成功したのかと。

 振り向けば、美しく長いあの黒髪が目に入る。まるで作り物の様に美しかった。

 そしてその美しい髪が、ちょうど村の中で吹いた一迅の風により舞い上がり……そのまま頭を離れて盛大に飛んでいった。どうやら本当に作り物だったらしい。


「……」

「うむ、カツラだな」


 絶句する青年、冷静にさっき飛んでいった物の正体を言い当てる魔王。そして、カツラを飛ばされても“顎の割れた筋肉質な男”はそのスキンヘッドを光らせてまた同じセリフを吐いた。


「……このコルネ村が黒竜姫の縄張りと知っていて暴れまわっているのか……しら?」


 必死に作った裏声であり、かなり苦しい演技であった。恰好を見れば赤色のビキニアーマーを身に着けているが、顔と体格からして間違いなく男なのは明白。というか肥満気味なのか、ビキニアーマーの紐が体の脂肪に挟み込まれており見えず、局部にしかそのモザイクが掛かっていない。

 これはもうすでに、不審者とか露出狂と呼んでも差し支えない格好だろう。


「……」


 ぬか喜びであった。ルアネが敵の元から無事に戻ってきたと、本気でそう希望を持たされた直後に、こんなふざけた格好を見せられた。流石にアラムも珍しく怒っている。

 一瞬、アラムが男に殴りかかろうと握り拳を振り上げるが……すぐにその手を引っ込める。怒ってはいるが辛うじて冷静さはあるらしい。

 この世界では彼の戦闘能力は無に等しい。そこらの子供ですら魔術を使い、この青年を討ち果たすことは可能だ。ゆえにこの世界での喧嘩は青年にとって自殺行為に他ならない。


「……ガウハルさん。お願いがあるんですが、いいですかね?」

「ほう、なんだ栗毛? 我にあれをやらせるのか?」

「まさか、一発ぐらい自分で殴らないと気が済みませんよ」


 なので、青年はこういう手段に出た。


「魔術を一定時間、無効化できる魔術とかあります?」

「まぁ、魔力で魔術の構築を乱す技はあるが? 先ほどの暴漢に試してこの世界でも通用すると確認しておる」

「その魔術、すぐに使ってください……コード、スタンロッド! さぁ、覚悟しやがれ不審者! 尻の穴にこのビリビリ棒を差し込んでやらぁ!」


 召喚システムで電流棒を装備、そして黒竜姫を名乗る女装男へと駆けていく青年。

 普段は臆病な青年だが、怒りに駆られた青年のガッツは凄まじく、数発顔を殴られる泥仕合の末に、彼はこの女装男を見事に捕縛したのである。

 ――この世界に来て初の、青年単独による意味の無い勝利を飾ったのであった。



俺は、俺はできる子なんだ!FGOの周回しながら小説も投稿できるんだ!

骨が足りねぇええええ!

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