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第五章「死んだ彼女に想いを告げ続ける」 一話

 その探索は、三日三晩続けられた。

 終焉の竜を道ずれにルアネが爆発した跡地を中心に不眠不休でギャレンとアラムがルアネの遺体を捜索。途中、何度もキレスタールが二人の無茶を止めようとした。が、強くは……止めれなかったらしい。

 そして、見つけた。大爆発により二日だけ散っていた流木の山、それが海の上に戻ってくる頃にアラムが偵察機でふやけた肉のついた黒く長い頭髪の部分を発見し、ここにルアネの死が確かめられた。

 ――その後、青年が船に提出する為の報告書にはこう書かれた。竜と魔術の世界においての危機は排除、内、犠牲者一名と。





 ふと、青年が昨日を思い返せばあの強気で芯の通った人の美しい声が脳裏で再生される。

 あの美しい女――ルアネが死んでから、六日が経過していた。


「アラムさん。今回の件であなたに非は無く――」

「ショクルさん。いや、どこかで気づけたはずなんだ。薄々そんな気もしてて……でも僕は……」

「……どうか、今はゆっくりと休んでください。」


 ドラゴノス王国の王城にある客室で、アラムはベッドに横たわりながら通信機にそう返す。その目はやはりというかなんというか、淀んでいた。三日の探索を終えて、その足でこの国まで戻ってきて、今は王城で三人は休息をとっているのだ。国の民は誰もが世界を救った記念で今も街では盛大なお祭りが催されている。無論、三人は参加する気になどなれないが……。

 すると部屋に一人ノックをして入ってくる。この世界にノックをする文化は無い。ならば入ってくる人間は決まっていた。


「アラム様、体調は大丈夫でしょうか?」

「ああ、少し回復したよ。明日からアケル王国に戻ろう。そこで今回の報告をして……それで」


 そう言いかけて、アラムは言葉を止めた。そして唇を思いっきり噛んでから、ただただ、うつむく。ドアの前でキレスタールは佇み、その様子を悲痛な表情で眺めているだけだった。


「キレスタールさん……ルアネさんの親にさ、なんて言ったらいいんだろう……」

「それは、あの遺書を渡せばそれで大丈夫かと」

「まぁ、そうなんだけど……ところで、ギャレンさんは?」

「それが……皇太子様になぜルアネ様をなぜ守れなかったと責められ……」

「……ああ、うん……レルドルトさん、気持ちはわかるけど……」


 一番辛いのはギャレンなのだと、アラムはそれに続く言葉を言えなかった。彼女を最後の最後で止められなかったと自責しているからだ。そんな言葉を吐ける権利など無いと、思ったのだろう。


「……ギャレンさんも居心地が悪いだろうから、今日か明日にでも出ようか」

「しかし、体調は?」

「後悔は……ベッドの上で休んでも治らないさ。キレスタールさん、もう少し休んでいたかったかもしれないけど――」

「私めのことなど良いのです! アラム様の体調が――」

「一番辛いのはギャレンさんなんだから! ああ、いや、ごめんなさい。大声出して、君に当たるつもりは無かったんだけど……本当にごめん」


 勢いで、先ほど言えなかった言葉を吐いてしまいまた自責するアラム。それになんと言葉を掛けようか三分ほど少女は迷い、ドアを開け、去り際に言葉を添えた。


「……わかりました。ギャレン様の考えを聞いてきます」

「ごめんね。任せっきりで」

「いえ、アラム様には今はできるだけお休みになっていただきたいので、こんなことしかできませんが、やらせてください」

「……ごめん」


 何度も青年の謝罪の言葉を聞いてから、少女は今度こそドアを静かに閉める。

 そして青年は震えた声で深呼吸しから、ベッドの上で声を殺し……泣いたのであった。





 帰路の旅は比較的安全であった。というのもドラゴノスを出立する時、少し冷静さを取り戻したレルドルト皇太子が国を出る見送りの際に、自費で商業用の馬車似た竜車という乗り物を与えてくれたのだ。

 中型の竜に木製の荷台を引かせる簡素な物だったが、引いている竜もよく調教された名竜らしく、車輪のついた荷台の材質も良いもので、そこいらの商人なら喉から手が出るほど欲しいものらしい。これがあれば大抵の悪竜からは逃げられるほどの一品であるとの話だ。

 きっとこれは、彼なりの謝罪のつもりだったのだろう。

 そう、ルアネの件でギャレンを殴ったことを謝ろうという気配はあったが、だが最後の最後までその喉から出ようとしていた謝罪の言葉が出てくることはなく、ぎこちない別れとなってしまった……。


「あと数日でアケル王国のはずですよ。アラム様」


 少女は荷台で電子機器で何か読んでいるアラムにそう言うと、青年は少し疲れた笑顔で反応した。

 ドラゴノス王国を出てから竜車に揺られること数か月、彼らは左右にのどかな穀物畑が広がる道までたどり着いていた。ただ、アケル王国を出発した時に見た麦に似た黄金の絨毯は無く、全て刈り取られ土魔術か何かで簡単に耕されていた。

 青年にはこの風景に懐かしさなど感じられず、ただただ知らない土地に来たような不安感に襲われた。


「二人とも……王への報告に突き合わせてしまって申し訳ない。やはり、二人は先にバイトとやらに戻ってくれても良かったのだが……」

「いえ、これも仕事の内ですから。もう、何度も言わせないでくださいよ」

「ああいや、すまない……特に話題が無くてな、同じ話ばかりしてしまう」


 どっしどっしと四足歩行で歩く竜の手綱を握るギャレンは前を向いたまま、そんな申し訳なさそうに謝罪をする。だが、ギャレンの言う通りアラムとキレスタールは一度バイトへと帰船しても良かったのだ。

 しかしギャレンごと帰船する案は却下された。そのままバイトから彼の故郷であるアケル王国へ戻るのは旅の期間を誤魔化す手間があるのと一応、現段階ではギャレンが部外者である為である。

 だが、二人のみならば船にギャレンがアケル王国に戻るまで休暇を取る方が安全ではあったのだ。だが二人はこうしてギャレンと共に旅を続けていた。


「……」


 あれから……ギャレンはやはり、落ち込んでいた。ルアネがいた頃あれほどに彼女を褒めたたえていた彼はもういない。長い帰路の中で空元気ぐらいは出せるようにはなっていたが、一人にすると自殺しかねないとアラムとキレスタールは二人で相談し、そう決めた。

 睡眠障害でも患っているのか目の下に大きな隈まで作っている。見る人間が見れば死相が出ているなんて言い出しかねないほどやつれてもいるのだ。なのでこうして一緒に旅をしギャレンの最後の仕事である王への報告を済ませた後、彼を船へと招待するという筋書きで物事は進んでいる。

 ふと、揺れる竜車の二大の中で、アラムとキレスタールの目が合う。なんとなくそうなって、青年は何か話題はないかと頭の中を探ると、一人の人物に思い至ったらしい。


「……カーインさんは元気だろうか?」

「きっと、あの方はいつでも元気ですから」

「会ったら……うん、元気をわけてもらおうかな」

「はい、私めもあの明るい方に会いたいです」


 あのいつも全力で生きて全力で笑っている白い娘を夢想し、二人して小さく笑い合う。

 どうも、めちゃくちゃだけど一本芯の通った生き方をするあの強い娘と無性に会いたくなったらしい。今二人の脳裏には何かキラキラとしたエフェクトと共ににっかりと笑っているカーインがいるに違いない。


「そういえばガウハルさんも今はどうしてるんだろう? 確かカーインさんのお手伝い期間もそろそろ終わると思うけど」

「あの魔王めなど心配するだけ無駄かと、何をしても死ななそうですし」

「まぁ、僕らの完全無欠の魔王様だから心配するだけ無駄そうだけどさ」


 そして話はガウハルのことへと移る。あの自信に満ち溢れた双角の魔王にも、随分と会っていない。かの魔王を嫌っているであろう少女はともかく、青年はガウハルの名に懐かしさを感じ、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 誰かに会いたい、アラムがそんな不思議な感覚と共に思い出に浸っていると、急に竜車が強くガクンと揺れ、急停止したのだ。


「え、ギャレンさん!?」


 何事かと竜車の荷台から顔を出すアラム。荷台の車輪が溝にでもはまってしまったのかと思ったが、そんな考えがどれだけ平和ボケした思考だったのかと青年はすぐさま後悔することとなる。そう、もっととんでもないトラブルが起きていたのだ。


「敵……襲?」


 青年が困惑し、そう呟いた。だが誰も逃げも戦いもしなかった。三人とも頭の上に疑問符を浮かべ、ギャレンに至っては竜車の手綱を握ったまま、道の向こうから土煙を上げて近づいてきているそれを見ていた。

 竜の大群であった。四足歩行の、こちらの竜車を引く竜と同じような中型のドラゴンが二十もの大群でこっちにやってきている最中であった。それだけならば野生のドラゴンが一塊で襲ってきているという認識なのだが、そうではない。

 その竜の上、全てに乗っているのだ。人間が――。


「騎乗している者は、アケル王国の騎士だ」


 ギャレンはそう判断した。アラムには竜の大群に乗った騎士集団が遠くにいるので判断できなかったが、確かに言われてみれば色合いがギャレンの鎧と酷似している。

 そうして待つこと五分ほど、地平線から現れた騎兵の集団に囲まれるアラムたち。そして、その中で一番偉そうな騎士が、なにやら書状を開いてみせてこう言ったのだった。


「ギャレン ヴァイス。貴様を国家反逆の罪で刑に処す」

「……はい?」


 いきなりの言葉に、アラムとキレスタールの思考が固まる。だが、それも本当に唐突であったのから仕方がないのだろう。

 終焉の竜をルアネの命と引き換えに倒してアケル王国の目前へと迫ったその日、英雄であるはずのギャレンは罪人として捕らえられたのであった。



長い間更新できなくて申し訳ないです。

ですが鬱のお薬を飲むことにより筆のノリが蘇ったのでなんとかこの話を掻き終えました。

少ないとは思いますが読んでいてくださった方々には頭が上がらず、恥ずかしい限りでございます。

さて、いつもは一日一話のペースで上げますが今回は頑張って最終確認が終わりしだい、投稿していく所存です。

くどいようですが再度、謝らせてください。



ですが……これだけは謝れません。

なんと、文章が量いつのも二倍! 単行本約二冊分! いつも読む方の負担を考えてなんとか削って一冊分にしてるんですが、あ、あれぇ? 途中で「あっこれ単行本一冊分軽くオーバーするな?」と気が付いきながら知らないふりしてたら、ほぼ一年間という期間ちびちび書いてたからこんなんになっちゃった! やったよ皆、いっぱい読めるよ! え、長いの怠い? 削れ? それ未完成品? あははははは、いや本当に無理なんで、はい。 マジで無理! しかし、この物語には僭越ながら自信があるので少ないこのゴールデンウィークの残り時間にでも読んで頂けると幸いです。


あ、ついでにお時間がございましたら是非とも感想よこせやゴラァ! 嬉しくて私の肩こり(呪い)ゲージがちょっと軽減しますので!

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