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第四章「男は女の愛を知る」 九話



 あれからまるでサイコホラー映画の襲われた犠牲者みたいに取り乱してアラムは部屋へと帰還、何事かと驚くキレスタールに手短に事情を伝え、部屋の隅でブルブルと震え一夜を明かしていると太陽が昇るのを待たずしてオペレーターショクルから連絡がきた。


「怯えているところすみませんアラムさん……あの、ルアネさんとギャレンさんが宿を出ましたので尾行を始めてもらいたいのですが、その……大丈夫でしょうか?」


 ショクルからそんな遠慮がちな連絡が入る。アラムの精神状態を見るに偵察機のみでの尾行をショクルは考えたがアラム本人がそれを断った。人が尾行するのと偵察機単体では、やはり情報量が違うからだ。

 偵察機では人と会話できないし、安全だが手に入る情報は映像と音声のみ。それになんらかの船との通信状態が悪くなれば、そこで作戦は強制的に終了する。なにせ時空を跨いで映像を飛ばしているのだからそういう例はそこそこあるらしい。

 それを知った時、自分が作った偵察機をパクるだけパクって船でも最高の設備を有する開発局が何も改良してないのかと青年は鼻で笑ったものだ。そして今はなぜ改良していないのかと心底恨んでいた。正直に言えば、怖くてお外に出たくないのだろう。


「……いえ、偵察機にトラブルがあってルアネさんとギャレンさんを見失うのは避けなければなりません。いますぐ宿を出ましょう」


 深呼吸をして自分の頬を叩いて気つけを行うアラム、そこに臆病者の青年はいなかった。今回の仕事を続行したのは船長の為だ。自分の作った偵察機絡みで、純血主義と衝突し嫌がらせをされているあの恩人の一助となるべく彼は仕事の再開を宣言する。

 恩の報いる為、自分の感情より仕事を優先した。しょうもない理由でだが殺されかけて恐怖心を感じたがそれはそれ、今の彼にはこの変装マスクという秘密兵器がある。


「キレスタールさん、悪いね……まだ夜だけど出発しよう。準備はできてるよね?」

「はい、アラム様がやる気というなればどこまでもお供します」


 そんな青年の健気な思いを感じ取ったのか、キレスタールが薄い笑みと共にそう返答した。気合は十分、もう寝ている宿の主へ急用で出ていくこと伝える置手紙を宿のカウンターに置いて、二人は夜の世界へと繰り出す。

 そのまま無人の村を抜けだし商業用の道を進む青年と少女。オペレーターの誘導に従いながら夜の道を小走りで進む中、青年は満天星空に目を奪われた。ただ、山の方を見れば今まさに朝日が昇ろうとしている。

 後、数刻で空が白けようかという夜と朝の境界線。そんな不思議な世界の中二人はただただ速足で移動しつつ、大きな大きな咆哮を聞いた。声の主を探すと、白くなりかけた山向こうに飛んでいく巨大な竜を見つけた。


「キレスタールさん! あれ見て……」

「起き抜けの竜かと、夜目も効かないのかこちらに気が付いていないみたいです。単に眠気で頭が働いていないだけかもしれませぬが」


 竜とて生物、この時間帯ならあくびをしながら自分たちを見逃すだろうとキレスタールは推測した。もしかしてルアネとギャレンも無駄な戦闘を避ける為にこんな時間から村から出立しているのだろうか?


「ショクルさん、今ルアネさんとギャレンさんの様子はどう?」


 今は移動に専念し、偵察機を使っての監視はショクルに任せている為、そんな質問をするアラム。するとショクルが少し間をおいてこう答えた。


「その、今ルアネさんがアラムさんへの悪口を言いまくってます」

「うん、ですよね! まぁつい数時間前にあんなもの見られたら機嫌も悪いままか……」

「仕方ないということで流す他ないでしょう。アラムさんはルアネさんに対して苦手意識があるようですが、あまり緊張せず――」

「ああいや、確かに気が強い人で怖いなって思ってたけど、あんな面白ヤベェ人って判明すると、一周回って親近感を感じるよ。まぁ、あっちは出会い頭に顔を真っ赤にして殺しにきそうだけれど!」


 見るからに強がりであった。恐怖心を誤魔化す為の嘘である。自分に嘘はつけないなど言うが、自己暗示(強い思い込み)というものがある以上それは可能である。

 とはいえルアネはアラムに対して容赦など無いだろう。また顔を合わせればアラムは羞恥に顔を真っ赤にした彼女に襲われかねない。彼女の心の辞書に他人の命は重く奪い難いものであるという一文が書いてあればいいが、そうでなければ我が人生の汚点よ消え去れと言わんばかりに魔術で強化された武器の雨が降るだろう。


「アラムさん、目標との距離五百メートル内に入りました。そこからは移動速度を落としても大丈夫ですよ」

「意外に村から離れてなかったんだね……それにしても二人はどこにいくんだろう?」

「ギャレンさんとの会話から察するに近辺に陣取った盗賊団を一網打尽にするようです。ただ盗賊団と言っても規模が大きいらしく、大きな村ぐらいの規模の村落を拠点要塞として築いているらしいです。そうですね……コルネ村三つ分ぐらいと考えていただければ」

「それ、とんでもない規模では?」


 盗賊の拠点要塞、住む場所が大規模となれば盗賊の数も相当いるだろう。そしてその一人一人が魔術を当たり前のように使ってくるのだ。アラムからすれば悪夢でしかない。

 この世界は世界的に分布している竜のせいで過酷だが人間もそれに競う形で魔術を一般化、進化してきた。子供ですら魔術を使ってそこら辺で遊んでいるのだから、その盗賊団に見つかればアラムとキレスタールは無事ではすまないだろう。


「よし、長距離からの偵察にしよう!」


 村から出てここまで追ってきたが、そう青年は結論を出した。まぁ長距離と言っても高所に陣取って望遠鏡でも使ってルアネとギャレンの雄姿を観戦する形となるだろう。


「わかりました。ではそちらにあらかじめデータを取っていた盗賊団の拠点周囲の地図データを送りますね」

「ショクルさん仕事が速すぎでは? いつの間に地理データなんて集めてたの」

「前回私のナビゲートミスでお二方を帰船させることとなりましたので、いつも以上に気合を入れてサポートさせていただきますよ。それと、地図の方はギャレンさんとルアネさんが盗賊団退治の話を昨日していたので完成させております。無駄にならずに良かったです」

「なーんでショクルさんはお仕事ができてイケメンで気配りできるのでしょうか!? 世の中の非モテの気持ち考えたことあるぅ!?」

「えっと、なぜ私は怒られているのでしょうか?」

「あー、いやいや冗談冗談、冗談だからね? 実際凄いよショクルさん。送られてきたデータはしっかり活用させてもらうから、助かるよ。じゃ、お仕事の細かい話をしようか」


 さて、青年の場を和ませる為のジョークが不発に終わったところで、一行は地図データを偵察機から浮かび上がらせてこれからの作戦行動を相談し始めた。

 とはいっても話す内容は少ない。なにせショクルが事前情報を集めに集めたのだ。後はどこから偵察を行うか決めるだけ、なので茂みのある崖から砦を見下ろす作戦となった。


「万が一、敵と遭遇しても戦闘を行わず最悪、投降してください」


 そんなオペレータの忠告を最後に作戦会議を終え、移動が開始される。

 途中、何度もホログラムの地図を確認しながら目的地までゆっくりと移動する青年と少女。なぜこれほどまでに慎重かというと、作戦会議中に人が住む近くの山や森の中には猟師の罠などがあり毒を使ってるものもある為、土地の事情に明るくない旅人は基本的に不用意にこんな場所に入らないというキレスタールの発言ゆえであった。


「うわ、罠発見……草をかぶせてるから気を付けて見ないとわっかんないよこんなの……しかもこんな大きな虎ばさみにはさまれたら足ぐちゃぐちゃになっちゃうね」

「罠があるということは獲物もここに出没すると言うことです。賊だけではなく野生の竜にも注意しないといけません。アラム様、頭上にも気を付けてください。毒蛇が落ちてくることも――」

「あ、あんまり驚かさないでよキレスタールさん」

「いえ、そのようなつもりは……ですが必要なことですのでどうか我慢を、言葉一つで危機を回避できるのならばそれに越したことはありませんので」


 さて、先ほどからアラムに忠告するだけの装置となった少女と、その度に情けない顔をしたり声を出したりする青年。そうしてなんとか目的の位置近くに到着した。


「大昔に隕石でも落ちたのかな?」


 砦が見える茂みがある崖にたどり着くと、目の前には巨大な大地の窪みが目に入る。そして、そんなクレーターの丁度中央に例の盗賊団の砦があった。距離にして腕のいいスナイパーならば辛うじて弾を当てられるほどの距離、相手から気づかれるリスクは無いだろう。


「やはり特徴的な形をしていますね……」


 少女の言う通り、盗賊団の砦はかなり特徴的であった。

 一言で言うと剣山であった。無数の細く先が鋭い柱が何本も大地から生えていた。人が三人ほど通れるぐらいの感覚で生えているそれは、青年の予測ではあるが大型の竜種避けだろうという結論が出た。

 四方を自然に囲まれたこの場所で一番の脅威は天から襲ってくる飛竜であろう。ならば魔術でも使い、あんな塔を建設したと思われる。


「色々考えるなぁ。砦の所だけ丘になってるのも雨が降っても地面に水がたまらないようにだよね? あれも魔術で上げてるのかな?」

「はい……多分、あそこにいくまでに道中見た虎ばさみ等のトラップが幾重にも設置されているかと」

「見張り用の(やぐら)が八つ、外堀も堀と土魔術で作られた壁が三十に設置、いやぁ難攻不落の要塞だね。ルアネさんとギャレンさんはどうやってあんなのを――」


 青年があの砦の攻略法を疑問を言いかけた瞬間、砦から随分と離れた位置から一直線に連続爆発が土魔術で作られた壁まで走った。そう、爆発が走ったのだ。

 連鎖的に起きた大爆発は土壁を破壊していく、合計三度、森に大きな道を作る連鎖的な爆発が森に一筋の道を作り出したのだ。


「うっそぉ」

「……爆発で森ごと罠を消滅させるとは」


 力押しであった。これ以上ないほどの単純明朗な解決策であった。森を長い道を作るように焼土に変えて、悠々とそこを歩く白と黒の二人組。きっと盗賊団には死神か何かに見えているに違いないだろう。

 だが、ただただ死神の足音を震えて待つ訳ではない。何かの魔術か、大量の光の矢が盗賊団の砦から射出される。襲撃からわずか十秒後の反撃、なるほど優秀だ。日々いつかくる敵襲に対して訓練をしていたのだろう。されど、相手はそれを凌駕する天才(理不尽)であった。


「……槍?」


 遠く、全てを把握できる遠くからアラムは確かに肉眼でそれを見た。青い流星と見間違うほどの力強い一筋の光、それが砦に向かう二人組から迫りくる光の矢に向けて放たれ、衝突の瞬間、新星の誕生を思わせる光の爆発にて全ての矢を弾き飛ばした。


「もうこれ、戦争でしょ」


 二対多、いや、一対無数による戦争が青年の目の前で繰り広げられる。ただ一方的だ。有象無象の数を絶対の一が恐怖に陥れる。証拠に光の矢による攻撃は自らの食糧庫であるはずの森を焼き払うレベルの火球へと切り替わっていた。


「ショクルさん。あれ……」


 彼に感想を求めて通信機にそう声を辛うじて絞り出す青年。そうだ、ここまでとは思わなかったのだ。確かにルアネのことをかの快男児(ギャレン)は天才だのなんだのと囃し立てていた。が、それは惚れているからこその賛美であるとアラムは思っていた。

 ただ、初めて彼女の本気を目の当たりに……否、あれが本気であるかも疑わしいが、その言葉がただ、嘘偽りの無い事実であると理解した。今この瞬間、長い道のりの果て、一人の大男を引き連れ巨大な盗賊団の砦へと自らの家に入るみたいにその黒く長い髪をかき上げながら入っていく姿を青年は望遠鏡越しに確認し、ゴクリと喉を鳴らす。


「もしかして、ルアネさんって広域戦闘ならガウハルさんに匹敵する?」


 彼は、自分の言葉に冷や汗が流した。自分が知る絶対の覇者と肩を並べられる人間がいるのかと、いつの間にか青年の背中は汗で服と皮膚が張り付く。自分たちはあんな人たちを仲間にしようとしていたのかと思わず乾いた笑いが漏れだしていた。


「凄まじいですね……バイトにもあれほどの戦力は数えるほどしかありません……ルアネさんの力は想定以上かと」


 そんなショクルの分析を聞いて、青年は思考から現実へと戻される。流れ弾すら届かないほど遠くとはいえ今前で戦いが繰り広げられているのだから、呆けている場合ではない。


「と、取りあえずできることをしよう。あそこって盗賊団って人攫いとかしてる?」

「その情報はありません。ですがルアネさんが遠方から爆撃で砦ごと消し去らなかったので可能性はあるかと」

「うーん……攫われた人がいたら追い込まれたら人質にするかもね。この距離だと僕らにできることは少ないけど……うん。ちょっとキレスタールさん、試したいことがあるんだ」

「――はい」


 その青年の一言に少女は目を丸くする。あんなものを見て、何か思いつく青年の思考に驚いたのだろうか? しかし何か仕事があると言うならば少女は青年のいうことを二つ返事で引き受ける。

 時刻は太陽が中天に昇りきった昼のただ中、青年と少女は額に少量の汗を流しながら今後の展開において重要な一手となる作業を始めるのであった。



次回更新は明日の朝六時の予定です。

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