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第三章「黄金の太陽はまた昇る」 十七話

 戦争、というものはどの世界でもある。

 私もここで長い間、教鞭をとっているが戦争が無かった世界から来た、という生徒はまずいなかった。

 そこで毎年一つ、生徒に訪ねているんだが……ああ、誤解の無いように、本当にただの好奇心からの質問なのだ。どうか老人の戯言と聞き流してくれても良いので、不快に思わないでくれたまえ。

 まず、国があるならば、国境という線があるのだろう? ある日戦争が起きたとしよう。そして国境沿いの村に住んでいる人間が収集され、兵士として使われる。女子供は基本的に避難となるが、土地勘もあるということでそんな国境近くに住んでいた男は防衛の兵士にされやすいと聞く。

 だからこそ、この国境という線が無い船で生まれ育った私は、不可解で仕方がないのだ。



 昨日まで、通行証の一つあれば隣町である他国に買い物や食事処で飲みにいけたりもしただろう。なのにある日突然、一本の線で殺し合う人がわけられる。

 国の決めた線の向こう側にいる、というだけで戦争時に隣人であったその人たちををなぜ殺せるのか?



 そう聞くと、たいていの者は唸り、言い淀み、答えられないと言う。

 私は思うのだ。殺し合う人間を分けるこの国境という線は、魔術知識を必要としない、この世で最も残忍な人間が地面に描いた魔法陣ではないのかと。



 ――時空移動船、大魔導士兼魔法学教授 バルノミア パトルの著書『戦争と魔術の発展』の書き出し。



 たったった、たったたった、時折狂うリズムを青年の駆け足が作る。暗く、人の気配が無い森を青年は獣の如く速さで走る。それは城を出る際に着用したパワードスーツのおかげだ。

 先も見えない、来たことも無い場所をやみくもに走るのは恐怖心があった。だが、それよりも青年の心は先ほどのやり取りで生じた相反する感情で埋め尽くされていた。自身への不甲斐なさと歓喜である。


「――あれは我ながら無い。無かった」


 照れ隠し……いや、違う。さきほどの自分の行動をただ単純に悔いての言葉だった。

 信じてください。僕はそれが叶うほどの積み重ねをしてきたはずです。そんな、自分の言葉が頭の中でぐるぐる回る。その言葉に嫌悪感を覚えているらしい。

「何も成していないのに、何も示していないのに、本当に僕は図々しいよ。まったく」

 とっさに口から出たあの言葉、しかし青年の本心は違う。自分は何も成していないし結果も出していないと考えている。自分の持ち得ているのはガラクタみたいな中途半端な努力と、無意味な結果のみ。そんなもので、どうして信じてくださいと言えたのか自分の厚顔さを悔いていたのだ。

 ――けれど、だけれど、信じてくれた。いつもお道化て、茶化して、早く結婚しろとかふざけるばかりで本心であまり話してこなかった大切な恩人が、なんだかんだ信じてくれた。それがたまらなく嬉しかった。

 ガウハルの助け舟が無ければ信じてくれなかっただろう。それでもあの仕事一徹の恩人が最終的には自分を信じてくれたことに、青年は歓喜していた。


「絶対に生きて帰る」


 だから、生還を青年は最低目標にする。船長が必ず生きて帰れと命じたのだ。ならば死体になって戻るなんてことはできない。

 作戦はシャムス王子の救出と即離脱か、時間稼ぎ。敵の打倒は無し。後ろ向きだが現実的に考えて戦闘の回避、それが最良の策だと青年は結論を出す。

 ふと、青年が隣で飛んでいる偵察機に目をやる。夜間の悪路をライトで照らしながら自動で目的地まで案内してくれる大事な相棒だ。戦争が始まる前に島中に飛ばした偵察機からデータを集め、リアルタイムで最短の行先を示してくれている。土地勘の無い青年にとってこれほど頼りになる案内人はいない。


「順路は大丈夫、後はどうやって王子を助けるか」


 第一条件は奇襲だ。こちらは一人、相手は多数なのは間違いないだろう。なので最初のアタックで数名を戦闘不能にすることは絶対条件だ。

 戦闘は極力避けるが奇襲だけは成功させなければならない。単純に敵の戦力を削ぐ意味合いもあるが、敵にバリアが役に立たないと認識させてこちらに迂闊に手を出せないようにするのが最大の目的だ。

 なにせアラムのも目的は時間稼ぎ、相手がビビってオロオロしてくれたら万々歳、ということなのだ。


「まぁ、そんなうまくはいか――ん?」


 ふと、轟音が聞こえ走りながらアラムは驚きながら空を見上げた。戦闘機が空を裂くような音に敵襲かと身構えたようだがこの音は違うらしい。

 触手に隠れ空が見えにくいポルスの森でも、その魔力の光は隙間から確認できた。あれは間違いなく、こちらの最大戦力であるガウハルだろう。海の方向に向かって流星の様に飛んでいく。

 というかあんな出鱈目なもの、ガウハルでなければならない。あれが敵の奥手の手の兵器か何かなどと青年は考えたくもなかった。

 ――開戦した。その轟音を聞いて、青年は息を飲む。きっとガウハル、いや、あの性格からは想像できないほど切れ者であるカーインはずっと前から戦いは始まっているものと考えているだろう。

 だが青年は違う。たった今、その口火が切られたと実感した。そして、これからの殺し合いに不安を覚え始める。


「……」


 やはり、青年は臆病であった。殺されるかもしれないと未来に、足がすくみそうになる。だがその足を鈍らさせることなど、ましてや止めることなどしなかった。それもまた、恐怖心からだ。

 一刻も早く目的舘にたどり着かないとシャムス王子が殺されるかもしれない。島中に放った偵察機はすでにシャムス王子がさらわれた村で監視を続けており、敵の数も十名ほどだと現時点で判明した。


「できる。倒すことは無理でも時間稼ぎならできる」


 そう、彼は自身にそう言い聞かせる。まるでそう暗示を掛けるように。

 すると、偵察機のライトがふっと消えた。あらかじめ目的地付近に付くと、敵に探知されないようにそう設定していたのだ。それを見て青年はごくりと生唾を無理やり喉の奥に押し込み覚悟を決める。

 パワードスーツのおかげで体力はさほど消耗していない。ただやはり運動不足、息は切れている。しかし青年の頭は思いの外、冷静であった。

 やるべきことを何度も頭の中で繰り返す。奇襲により敵戦力削ぎ、その後はちまちまと時間稼ぎをする。

 最初が肝心だ。最初一手で全て決まると青年はそう言い聞かせ、取りあえず荒れた息を整えることに努めながら目的地の村まで近づく、幸い身を隠す草むらはいくらでもあった。後は奇襲、タイミングを間違うなと自分に言い聞かせながら――それを見た。

 頭のこめかみに、拳銃を突き付けていた。誰が? 知っている顔だ。子供だ。シャムス王子だ。

 よく見れば目の前に凶悪そうな顔の男と、その周囲の兵士が様々な場所でシャムス王子の後ろにいる一か所に集められている村人に銃口を向けていた。そして火事だ。村の建物という建物が焼けていた。どういう経緯でああなったかなど知らないが、そんなことはどうでもいい。

 大事なのは、シャムス王子が今、自決を迫られているという事実だった。シャムス王子の目の前にいる凶悪そうな顔の男は大声で怒鳴っている。だがその内容は青年の頭では解析できなかった。自分の心音がやたらうるさかったからだ。

 子供がこめかみに銃を突きつけ自殺しようとしている。その光景は、いつか見た地獄と同じであった。

 ――その光景は青年のトラウマを深く深く、抉るには充分であり、彼の脳みそ(理性)を麻痺させるには充分であった。





 時は少し戻り、アラムが誘拐されたシャムス王子の村に走っていた頃、籠城戦は熾烈を極めていた。

 どこからそんなに湧いて出たのかというほどの大群の兵士、手には細長い銃を、腰にはグレネードとナイフ。そんな装備の兵士たちが石造りの歴史ある城を本気で落とそうとしているのだ。

 一方で城にいる戦士が高い高い壁の上から矢を射る。が、効果はそれほどない。だが梯子や鍵縄などで登ろうとする者は牽制できていた。熱湯だ。すぐ後ろでぐつぐつと窯で煮えている熱湯を素早くバケツですくい敵の頭へとかけている。水と何か燃やすものがあればできる。これはカーインの発案だった。バリア越しでも熱は伝わるらしく、頭から熱湯を掛けられた敵兵士はひるんでいた。

 だがそれだけではない。糞だ。肥料用に集めていた家畜と人間の糞も登ってくる相手に落とす。熱湯も糞も例の世界観無視のバリアで阻害されれるも、たまに貫通しているらしく敵兵が悲鳴をあげることもあった。

 そして登りきる前に、はしごや鍵縄を外し敵を落下させているのだ。

 加え、アラムが残していったバリア阻害装置がある。まだその阻害装置の範囲内に敵は入っていないが、万が一城に攻め込まれてもバリア無しの敵に攻撃できる。

 だが一番敵に被害を与えているのはポルスであった。夜は動かないあの触手生物は、リヤーフの作った特殊な光を当てる道具で暴れまわり、森に隠れている兵士を思う存分蹂躪している。これが無ければ現状、敵兵士をなんとかこの場で押しとどめられていないだろう。


「カーイン、やっぱり数が多い! アタシだけじゃそんなにもたないわよ!」


 だが、やはりこのままではじり貧だった。マァは声高々にそう叫ぶ。無論弱音ではなく冷静な状況判断、一方でカーインは爪を噛みながら少し焦った表情をしていた。

 あわよくば、アラムの援護に誰か送りたかった。

 あわよくば、他の村に増援を出したかった。

 あわよくば、あわよくば、そんな考えがいくつもあったのだ。だが現状では守りで手一杯、いや、この城の防衛すら危うい。だがこの防衛を破られるのだけは駄目だ。そうなれば城の奥にいる非戦闘員への大量虐殺が始まりかねない。ここを離れる訳にもいかない。


「っ……」


 白い娘は無言だったが思考は慌ただしかった。どうすれば乗り越えられるか、戦いが始まり現状の状況を加味してすでに八つ近い策を生み出していた。

 敵を陽動しての一網打尽にする案、密かに住民を森に逃がす案、捕虜を前に出しなんとか交渉に持っていく案、ポルスを使った敵への混乱に乗じた敵将の首を取る案、マァによる水と氷魔術を使った広範囲攻撃による足止め案、最悪の事態を想定してキレスタールに城の奥にいる人間を女と子供のみを集めて守らせる案、ショーラを囮に敵戦力尾分散させる案、もしくは彼女の実力を信じ単騎投入による戦況の逆転を狙う案……いや、最後のは賭けに近いが。


「駄目、全部悪手だ」


 それを冷静に却下するカーイン。はっきり言おう、彼女は優秀だ。平時ならばともかく銃弾が飛んでくる戦場でそれだけの案をものの五分で組み立て、その案を取った時のリスクを考え脳内で数回シミレーションし、使えないと却下していく。

 もっとも、天才である彼女の兄(ラウフ)ならば。自分一人でなんとかできる解決法を実行しているところであろが――。


「自分の考えに固執しちゃ駄目、最適解を出さないと」


 時間が無い。ヒントを求めて戦っている仲間に目をやる。

 赤髪の剣士であるショーラはサイカと連携して城の壁の上から油樽を落と火の粉をセットに落としている。接近戦でしか長所を生かせない彼女にカーインが授けた策を黙々と行っていた。

 一方で緑髪の博士ことリヤーフはこの距離が得意分野であった。彼女の武器はお手製のマジックアイテム。普段は研究狂いの彼女だが一番の得意分野は魔石などを加工したマジックアイテムの生産だ。そしてそのどれもが強力な攻撃を繰り出せる。その中でも風を操るアイテムは使い勝手がよろしく、広範囲の敵をバリアごと吹き飛ばしたりしていた。まぁ、この戦いも彼女にとっては実験のようでなにやら合間にメモをとっているが……。

 そして一番の功労者は、魔女のマァである。大量の水を放ちこれも相手をバリアごと押し流す。そしてそのまま凍らせる。もはやバリアなど何の役に立とうか。彼らはバリアごと氷の中に閉じ込められるのだ。

 そう、優勢である。これ(地上)だけ見れば彼女たちの圧勝だ。兵の数は多いが限りはあるのだが……問題は空だった。


「キレスちゃん!」

「はい!」


 上空が紫色に光る。稲光を思わせる目を焼きそうな強力な光量と耳を貫く爆音と共に、何かが飛んできた。

 目に見える速度ではない。その正体不明の攻撃をキレスタールは名を呼ばれただけで結界で防ぐ、いや、防いだだけではない。カウンター機能のある反射結界だ。攻撃を跳ね返すが、これまた上空にある船のバリアに打ち消される。

 そう、問題は空にある。無数のエイの様な平べったい戦闘機が、地平線近くにある巨大な戦艦からここまで飛行してきたのだ。数はおおよそ十、キレスタールは迎撃に出た魔王ガウハルに悪態を吐いていたが、キレスタールの見立てではガウハルは凄まじい数の敵戦艦を撃ち落としたと推測した。

 あの巨大戦艦の面積から見て小型戦闘艇は千近く収容されているだろう。証拠に魔王ガウハルが飛んで行ってから海の上で数えきれない爆発が起きている。今は総力戦、敵も出し惜しみはしないだろう。ならば千近い小型船到底、それを十にまで抑えたのだ。頼もしさを通り越して恐ろしくなる戦果だ。

 巨大なハチの巣から出てきた軍隊を、両指で数えきれる数までに減らしてくれたのだ。


「……でも、こなたたちは十の戦艦に手も足も出ない」


 だが撃ち漏らしはあった。戦闘機だけならばマァの水魔術でなんとか追撃できるが、いかんせんあのバリアが厄介だった。この島の戦士たちを苦しめたバリア、それがカーインたちをも苦しめる。

 あれを貫く攻撃力をマァは有していない。ただ、リヤーフのマジックアイテムを使えばと考えたが、観察して接近してから使わないとあの強度のものを貫くことは不可能であるとカーインは結論を出した。

 下で城の外壁を昇ろうとする兵士たちのバリアより、強度が高い。兵士の者は携行する為に小型化している分、性能が低いのだろうか?

 今カーインが生きているのはアラムがこの場にキレスタールを置いていったからだ。青年は当たり前のように自分の命か多数の命、どちらに自身の最強の守りを置くかという問題に対し、あっさりと多数の方に盾を置いたのだ。問答など無かった。青年はそれを当たり前のこととして、少女もまたそれを受け止めた。

 そんな彼の後ろ姿をカーインは、思い出し、少し顔を赤らめる。やっぱりあの青年はかっこいいなどと思ったのだろうか?


「あー……うん、駄目、もう無理」


 そして、かの魔王ガウハルが呼んだ増援を至急バイトに要請するかどうか思案している途中で、唐突にカーインはそう言った。無駄だ、諦めたのだ――ゆえに、元々考えていた案を採用することにしたらしい。

 そう、あの上空の小型艇をも簡単に追撃する案が、前もって用意されていたのだ。


「ごめん、サイカ」


 なぜか、カーインは一言そう謝る。その一言に、結界魔術を展開していたキレスタールは混乱した。なぜ今、彼女が謝られているのだろう、と。


「なんだカーイン。他の方法思いつかなかったのか? まぁオレも無理だとは思ったが」

「まぁ……空のあれはアタシたちだけじゃどうしようもないわね。サイカに頼るしか」


 戦いの最中、動きを止めてショーラとマァもそんなことを漏らす。その言葉に更にキレスタールが顔に混乱の色を張り付けた。

 サイカ、黄色い髪の少女だ。彼女は今ショーラに油樽を運んで持ってくる役目を遂行しているが、戦闘能力は皆無のはずだ。よく気が利き、礼儀正しく、頑張り屋で、チームにならなくてはならない人材ではあるが戦闘能力は無い。微弱な電流を出せるぐらいの体質だったはずだ。


「え? どういうことですか?」


 訳が分からない。混乱したままたまらずそうこの城の守護神となっている少女は問う。なぜ今サイカの名前がでてくるのかと。すると、カーインは少し悩んでから、バツが悪そうな顔でぽつりぽつりと答えていった。


「……やっぱり、強い相手ってどうしても生物的にさ、警戒しちゃうから……貴女にはサイカと対等な友人として過ごしてほしかったの。黙っていてごめんなさい」


 誠意のある言葉ではある。だが、キレスタールの疑問が頭から消えることはない。サイカが強い? 生物的に警戒する? 彼女は誰がどう見てもこの白い少女のチームで最弱だ。


「えっと」


 一応説明を受けても戸惑うキレスタールを横に、カーインはサイカの顔をじっと見る。


「ねぇサイカ、覚悟はできてる?」


 それは、最終確認だった。彼女は決して勇敢ではない。この島に転送されてすぐ、敵兵士と遭遇し戦闘となった時パニックになり皆の足を引っ張ったと落ち込んだこともあった。

 だが、それは悪いことではない。年端もいかない子供が死ぬのが怖いと思うことが悪などとカーインは思わないだろう。だからこの問いに首を振られて、彼女は怒りもしないだろう。

 けれど、黄色い髪の可愛らしいこの女の子は強い眼差しでカーインの問いに答えた。


「妊婦の方がいたんです。戦争中に子供を産むのは不安だと言っていました」


 それが、最初なんの話か皆が理解できなかった。


「親が決めた望まぬ結婚をして、それほど好きでもない夫に先立たれたおばあちゃんがいました。そんな人が、それでもいい人生だったと笑って教えてくれました」


 それが、彼女の返答であると最初に気が付いたのは、彼女と一緒に島の雑用をこなしていたキレスタールであった。


「将来、立派な戦士になって家族に楽させたいと元気いっぱいにそういう男の子もいました」


 彼女は、周囲で戦う戦士たちを順番に目に焼き付かせあながら、次の言葉を放つ。


「王の為、家族の為、命がけで今を戦う戦士さんを、テマエは尊敬します」


 アラムたちの中で、サイカはこの島の人たちと一番多く触れ合っていた。そして多くを語らい、彼ら彼女ら人生を知った。


「知っての通り、テマエは、戦いが怖いです。でも、テマエはこの島の人たちが大好きです! だがら、だからテマエに、テマエにこの人たちの未来を守らせてください!」

「ほらよサイカ」


 意思は示された。その瞬間、赤髪の女剣士は腰に下げていた自らの短剣をサイカへと投げ渡す。なにやら赤く光っているが複雑な魔術ではない。単純に自らの魔力を短剣に込めたらしい。


「サイカ、サイカ、これ」


 次はリヤーフだった。マジックアイテムを使いサイカに様々な魔術を施している。その姿に周囲の戦士たちも思わず手を止めてその姿を見た。戦闘中に、か弱い少女になにをしているのかという疑問と避難の目もあっただろう。


「じゃあ調整するわよ、サイカ」


 そう言って、最後はマァがサイカに呪文を唱える。調整、そう言われて思いつくのは再起ほどリヤーフにかけられたマジックアイテムによる付与された魔術だ。そのどれもがおそらくは能力向上の魔術。身体能力の向上や魔術攻撃の向上、だがそんなもの掛けたところで普通の子供なんら変わらない戦闘能力の人間が強くなるはずはない。

 そこで、キレスタールは思い至る。サイカは普通ではない。確かに微弱な電流を流せるだけならば普通の子供だが、彼女の特性はそれだけではない。

 ありとあらゆるものが“効きすぎてしまう”体質だ。

 普通の人間に出される量の味は彼女にとって濃すぎる。普通の薬も彼女にとっては劇薬になる。効果を肥大して受けてしまう。それは、能力向上の魔術もそうではないのか?


「こなたのチームの切り札は、間違いなくサイカなの。でも今からすることは多大な負担をこの子に与える。だから他の手は無いかと悩んでたけど……もう迷ってる段階じゃなくなった。ここで切り札を切らないと、誰かが死ぬ」


 と、話に置いて行かれていたキレスタールにそう説明するように、カーインは語る。

 まだこの島に来る前、船の喫茶店でサイカをアラムに紹介する時カーインはチームの“要”と言ったのだ。

 あの青年はそれを勝手に個性的すぎるカーインチームのまとめ役として重要なのだと勘違いしたが、違う。彼女はカーインチームにとって正真正銘の要なのだ。


「サイカ! オーダーよ。この島を救って!」

「――はい!」


 短い言葉と共にサイカはバチバチと黄金の雷光を放電し、そのままジェット機の様に天高く飛び立った。

 それは、神話の一ページの再現か。星の下、夜空を金色の光となり縦横無尽に飛ぶ姿は、それほどに現実味の無い美しさで、理解不能だった。

 そして、その黄金の光は宇宙(そら)で一瞬止まる。空を飛ぶ敵の戦艦の更に上、そこから黄金の雷が落ちた。

 戦士の誰もが言葉を失う。あれほど空中から自分たちを撃ち殺そうとして、勝てる方法など思いつかなった小型船感が、一撃で黒煙と共に一機、落ちていくのだから。


「何が……」


 何が起きたのか、そうキレスタールは言ったが見たままなのは理解はしていた。だが理解してもそれを頭が受け入れられなかった。

 ――サイカはただ、空中から下に向かって借り受けた赤毛の女剣士の短剣で、地上に落下する形で突き技を繰り出したのだ。

 証拠に落雷が落ちたポルスの森の地面は焼け焦げて吹き飛び、そこにサイカがぽつんと立っている。だが落下によるダメージ無さそうだ。そして落とした戦闘小型の墜落を待たず、すぐさま再び天高く飛び立つ。

 それに慌てたのは残された戦闘小型艇だ。今まで空中に停滞し城に謎の光で攻撃しているだけだったが、先ほど仲間が轟沈した瞬間に自分たちが空の覇者でなくなったのを察したらしい。小型艇ほどの大きな物体が、逃げ回るは虫の様にすばしっこく飛び回り始めた。

 だが、それも無意味だった。なにせ自分たちを狙うのは雷光、羽虫の様に飛び回ったところでその攻撃を避けられる訳がない。そして哀れにもまた一機、黄金の雷光に狙われる。ゆえにその黄金の雷光に全砲門を酷使した弾幕が展開される。


「はぁ!」


 気が付けば、黄金の雷光が海を渡り遥か地平の彼方まで移動していた。弾幕の回避など甘っちょろいものではない。ありとあらゆる攻撃に対しての回避、そう回避だ。

 瞬間、空中を横に走る衝撃で海が割れた。次に島へと黄金の雷光が島へと入ると、そのままサイカが翔けた地面の土砂が舞い上がる。凄まじい土煙と轟音に敵味方関係なく悲鳴が上がった。


「……サイカちゃん」


 だが、キレスタールだけはその黄金の輝きに目を奪われていた。その同年代の雄姿に。

 ――時刻は深夜一時、この時より、島の中央における籠城戦は黄金の雷光の出現により形勢が逆転していくのであった。



次回更新は明日の朝六時です。

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