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第三章「黄金の太陽はまた昇る」 十一話



「と、いうことがありまして」

「こちらでも映像で確認していました」

「あー、そうか。仕事中はずっと監視されてるんだった。ショクルさんは悪くないんですけど……やっぱりプライバシーとか皆無ですよね」

「こればかりは規則ですので、申し訳ありません。文句は仕事先で金目の物をくすねて厳しめの規則を作らせた先輩方に言ってもらうしかありませんね」

「あー……僕も年中金欠だから気持ちはわかる」

「アラムさん?」

「いやいや、理解できるだけでしないですから、そんなことで船長室に呼び出されるのは嫌ですし! それより、あの子……シャムス様のこと、やっぱり親を亡くしているみたいで……どう言葉を掛けて良かったんですかね……」


 薄暗いテントの中で、通信機ごしにそう相談をするアラム。あいてはもちろんオペレーターであるショクルだ。つい十分ほど前の出来事、内に溜まっていた感情を吐き出したあの王子についてだ。

 それまでなんとか鹵獲した武器の解析をしようとしていたアラムだったが、さきほどの言葉が心に引っ掛かりでもしたのか、こうしてショクルにカウンセリングまがいのことを頼んでいた。


「そうですねぇ、難しい問題ですね。私もかけるべき言葉は思いつきませんが、あれぐらいの子供が理不尽を誰かのせいにしてしまうのは仕方ないのかもしれません。むしろ言葉を選んでいた分、あの王子は実年齢よりも大人かと。ほおっておいても自力で立ち直りますよ」

「それは……気にするなってこと?」

「はい。それにです。作戦遂行にあたりこちらがその土地に向かうまでの菌などの安全確認、アラムさんの造った偵察機による人工知能による言語習得と解析、それが成されて初めて転移というものが初めて可能なのです。我々は最短でその世界にアラムさんたちを送りました」

「……なんだか講習で聞いたような内容だね」

「ええ、しかしこの先は講習では教えられないかったはずです。時間の掛かる作業でその間に人が殺されることもあります。ですが、貴方の作った偵察機のおかげでその速度は格段に上がっているんです。だから今回の件について自分を責めるのは間違いかと」

「……あの、ショクルさん。僕だって馬鹿じゃないので。今回の作戦、この島の国が追い込まれたタイミングで僕らを転移したのはわかってるんですよ。そんなマニュアルに書かれた通りであろう反応はやめてください」


 少し、強い言葉でアラムがそう反論する。今回の作戦は窮地に陥ったこの国を助けることを前提に調査の約束を取り付けること、ゆえにだ。この国が最悪の窮地に陥いるまで待ってからバイトが動くのは効率的だ。人道には反しているが。


「偵察機とそれに積まれてる言語翻訳の人工知能を作ったのは僕なんだ。何日で完璧な翻訳ができるかなんて何度も実験したから知り尽くしてるんですよ。まぁ船内での世論もあるから表向きは正義の味方面しないといけ――」

「アラムさん、もういいです。というよりこれ以上はまずいんで、通信機での会話も映像と同じく記録に残りますから……先ほどの軽率な発言については謝罪します」


 船のタブーに触れる話に、そんな忠告がなされる。アラムはただでさえ研究者時代に純血主義という厄介な相手に目を付けられた。最近になって思わぬ形でその問題に終止符が打たれたが、彼が再び悪目立ちすればまた立場を悪くしかねない。カーインの兄、ラウフが圧力を掛けたとはいえ、先の賭け試合で少なからず恨みを買っている以上目立つのは悪手だ。


「ですが……アラムさん。全員は救えません。今回の件、この国が追い込まれていたからこそ、我らの協力をスムーズに承諾してくれたんです。そして、それがあるから我々は大手を振って今からこの国を守れるんです……」

「そりゃあ……僕たちは善意押し売り業者で建前を取ってしまえば自分たちの利益を一番には考えないといけませんけど……親が死んだ子供を前にしたらそんなこと言ってられませんから」

「……ですね。今すぐ割り切れなどと言えません。ですが、自責の念に囚われず――」


 ――ショクルの言葉を遮る様に、耳をつんざぬく鐘の音が鳴り響く。声を小さくして行われた話し合いは思わぬ形で中断される。聞いたことのなかった音だが、何度も鼓膜を叩くこの高音が何かはすぐさま彼らには理解できた。敵襲を告げる警報だ。


「アラムさん!」

「取りあえずショクルさんはガウハルさんとキレスタールさんに連絡を! 僕は現状の確認をしてきます!」


 慌ただしくも冷静に、彼らは行動した。緊急事態、されど何度も頭の中で予行練習をしていたアラムは、迅速に行動する。

 テントから出ると、兵舎近くということもあり兵士が完全武装で前を横切るところであった。遠くからは避難してきた島の民たちの悲鳴、子供鳴き声、パニックを起こしていると判断していいだろう。


「ガウハルさんとキレスタールさんと連絡がつきました! 両名城内にて待機中です」

「了解! 僕もすぐそっちに行く。カーインさんは!」

「避難民を城壁の内ではなく屋根のある城の中へと誘導中です!」

「お城の中に? なん……で」


 疑問の言葉を口にするよりも先に、アラムは空に答えを見つけた。

 ――戦艦だ。長く巨大なナイフに似た攻撃的な造形の戦艦が、遠くの空に浮いていたのだ。


「は? いや、え? いやいや、まずいまずいまずい!」


 空飛ぶ戦艦というインパクトある光景に、一瞬思考力を鈍らされたがすぐさまアラムはあれが危険なものだと判断する。

 なにせ見せつけるような巨大な砲が船首にあるのだ。あれが発射されればこんな城などひとたまりもないだろう。


「敵はあんな物を持ってるの!」


 正直、銃やパワードスーツ程度の武器ならばガウハル一人いれば余裕で対処できるとアラムは考えていた。しかし、あんな空を飛ぶ巨大兵器を目の当たりにすればその考えがどれほど甘いものだったのかと痛感する。

 ディザスターが世界と世界を渡り起こるという撹拌現象。一方で弓と剣が主戦力の国があり、一方であんな巨大な砲を搭載した戦艦を所持しているというのだからその恐ろしさが今、青年は正しく理解する。

 別世界から技術を不用意に持ち込んだらここまでのことになるのかと、青年は驚愕するも、すぐに頭を回転させる。


「ああもう、あれをどうにかするなんてガウハルさんしか無理だ! とにかく――」


 光った。その光が青年の思考を強制的に遮断した。次にその光に遅れて何度も何度も、破裂音が轟いた。

 執着に、粘質的に、宙に浮かぶ戦艦は近くにあった村に連射法で掃射を行ったのだ。悲鳴と共に疑問の声が上がる。なぜここではなく島外れの村に銃弾を降らすのかと。補給線を潰す訳でも、捕虜を得る為の攻撃ではない。そも、この戦力差、ここを狙えば戦争は相手の勝ちとなる。なのに民間人を虐殺しているのは、あきらかに戦争に勝つ為には不要な行動なのだ。


「……あいつら」


 遠く、地平線近くで行われる虐殺。殺されている人間の悲鳴など届かない。だが、確かにあそこで誰かが死んでいるのだ。

 ゆっくりと、アラムが通信機に手を伸ばし、連絡を入れる。相手はこちらの最大戦力、魔王ガウハル。あの戦艦の蛮行を止められるのはガウハルしかいない。アラムはそのカードを迷わず切った。


「ガウハルさん、こちらアラム……こちらアラム! あれを止めて! なんとしてでも!」

「主命を承諾した。という訳だ修道女、ここの守は任せるぞ」


 通信機の向こうでガウハルの声とキレスタールの反論が聞こえたが、間を待たず黒い弾が島の中央から敵の戦艦へと放たれる。

 それは絶対の暴力だ。いかに相手が巨大な戦艦を用意しようと沈められない人型の不沈艦、それが勢いよく虐殺を止める為に見る見るうちに戦艦のある方角に消えていく。

 もはや数秒も経たないうちに青年の視界では捕らえれないほど小さくなり、ほどなくして宙にいくつもの爆発が起きる。ガウハルを察知してミサイルや連射砲などの攻撃手段が捕捉したらしいが当たり前のように防いだのだろう。


「問題は無い……ガウハルさんだけであの戦艦は沈められ――」


 ――ほんの、一秒にも満たない安堵、問題は対処できると確信した瞬間だった。雲が、赤く地割れした。そう表現するしかなかった。

 赤い亀裂のような光が雲の中を裂いたのだ。


「え?」


 王城にいる誰もが天を見上げた。心身深い者が見れば、これは神の怒りと言い表すだろう。科学者ならば隕石による影響かと考えるだろう。だが、これは自然現象のそれではなかった。

 人間、危機に直面すると時間が遅く流れるという。走馬灯は過去から生きる為の情報を引き出す脳機能だと言われるが、青年におきたこれはそれに近かった。

 曇天に穴が開くと同時に、細長い巨大な何かが青年の瞳に映った。赤く染められた世界で、彼の時はゆっくりと流れる。大きな鉄がこすれる音が世界に響くと同時に、レーザー兵器が射出される。

 青年は死に直面してようやく悟った。自分たちは一度敵の兵士からこの島の住人を守り敵兵士を捕虜にしている。その時なんらかの方法でこちらの戦力が相手に知られてしまったのだとしたら? 遠くの村を砲火で焼きその剣と弓しかないと思っていた国の想定外の力をおびき寄せたのではないのか?


「あ……」


 そんな、本当に情けない声が漏れる。

 たった一手目、しかし青年は致命的な間違いをしてしまったのだ。怒りに任せてガウハルを遠くの戦艦に突撃させなければここを守れたかもしれないのに。今からキレスタールが巨大な結界を展開するにも、時間が足りない。守りの術はないと青年はそう答えを出した。

 最後の時、そんな反省しかできんかった自分を嘲笑し、青年は不器用な笑顔を顔に張り付けて……すぐさまその仮面を驚愕により脱ぎ捨てることとなる。


「こ、れは!? どうなって……」


 上空の超巨大戦艦から死を与える赤い光の柱は、島の中央にある城上空まじかで斜めに逸らされ命中しなかった。

 青年は侮っていたのだ。味方であるこの少女を――。


「キレスタールさんの結界!? でも、この短時間で大規模なは作れないはず……」


 そう、アラムの読み通り大規模な結界を作る時間は無かった。ならどうればいいのか? 光線を逸らすことを少女は選んだ。

 いつもの球体型、正方四角形の形ではない。剣にも似た細長い板状の結界を最速で構築、最大の大きさで上空に展開。受け止めるのではなく光線を斜めに受け流す形で天空から放たれた赤い光を四方に逃がし、見事に城への命中を阻止してみせたのだ。


「あえぇ……う、嘘だぁ……」


 助かった喜びよりも、少女の成長に度肝を抜かれたらしく、アラムの口からそんな言葉が漏れ出る。ラルフとの賭け試合に向けての訓練の成果がこんなところで出るとは彼の計算を軽く超えていた。

 そんなキレスタールは今頃、防げたことに喜びもせず無表情で第二撃に備えていることだろう。


「コード、スコープ! ガウハルさんはどうなってる!」


 召喚システムで望遠鏡を出してせめて状況確認をしようと遠くにあった囮の戦艦を確認しようとした瞬間、戦艦に爆発が起きて黒煙と共に落下していく。ガウハルが見事、撃墜したらしい。


「早い……流石はガウハルさんだ」


 落ちるのではなく空を横に駆ける彗星みたいな光が、こちらに戻ってくる。音速ぐらいは出ているのではないかと思いながら見ていると、上空の大型戦艦から轟音が轟いた。


「また何かする気なのか!?」


 しかし奇襲は二度も成立しない。今度は上空をキレスタールの特大結界が覆う。守りは万全、この城は最強の要塞と化した。それでも上空の大型戦艦の轟音は止まらない。先ほどの赤い柱以上の攻撃があるのかとアラムは唇を噛む。

 別にキレスタールの能力を疑っている訳ではない。しかし、それでもあの大型戦艦を個人で止められるかという疑問がどうしても頭の中をよぎる。

 だが、青年が持ち得ている仲間は最強の盾だけではない。今まさに最強の剣が帰ってきているではないか。


「させぬ!」


 最速で戻ってきた魔王は、第二射が発射される前に巨大戦艦を鉄屑に変えようと迫る。彼の全ての物質を操る能力があればどれほど強固な鉄の壁であろうと食い破れる。が、あともう一息、距離にして三十メートルのあたりでバチリと電流が走り、勢いよく飛んできたガウハルが地上に弾き飛ばされる。


「不可視のバリア! 敵のパワードスーツについていた奴の同じ、いや、ガウハルさんが飛ばされたところみると強化版と考えるのが妥当なのか!?」


 技術者ゆえか、すぐさまそんな仮説を立てるが今、それになんの意味があろうか。

 先ほどからこの世の終わりを告げる鐘みたいに鳴り響く轟音がひどくなっていく。これはただの感だが、その音からアラムはもうじきその準備が終わるであろうと予測していた。確証など無いが、こういう嫌な感は外れないのものなのだと青年は今までの人生でよくわかっていた。


「どうする。どうする! どうすればいい!」


 第二射、それをキレスタールが防ぎきれる確証はない。ならば自分にできることを頭の中で模索する。そして、最終的に何もできないことを悟った瞬間、赤い光が世界を包んだ。

 思わず、強い光に青年の瞳が閉じられる。いや、それではない。恐怖から瞼は閉じられたのだ。だが、一向に痛みがやってこない。遠くから鳥や動物の喚き声が耳に届き、機械音の一つもしない。アラムは恐る恐る瞳を開け、状況確認に努めた。


「……へ?」


 何が起きたのか青年にはすぐには理解できなかった。

 五体満足、この城においての怪我人も無し。そして上空にあの巨大戦艦は無かった。まるで先ほどのことは悪夢か何かだったかのかと思えるほど、すべてが終わっていたのだ。


「……ワープ?」


 頭の上に疑問符を浮かべつつ、アラムは答えを割り出す。ワープ、つまりはあの超巨大戦艦は瞬間移動をする準備をしていたのだ。あの轟音はワープのエネルギーを溜めていた音らしい。

 そう気が付くと、青年の腰が抜けた。死ぬかという恐怖感から解き放たれたことと、助かった安堵で全身の筋肉に力が抜けたらしい。


「は、はは、ははは」


 そんな、乾いた笑いが漏れる。だが、そんな空元気にも満たない笑顔は、すぐさま消えうせた。


「……いや、なんにも……できなかった」


 そんな、少し悔しそうな呟きが何もかも消えた空に、吸い込まれたのだった。



次回更新は明日の朝六時です。

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