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第三章「黄金の太陽はまた昇る」 九話



「あー、これパワードスーツだ。まぁ性能はバイトにあるのより格段に落ちますけど……うん、船にある戦闘に使うにしても工業用のスーツの方が高性能かな? でもあの謎のバリアは凄いんだよねぇ。これはちょっと詳しく調べないと……」


 さて、戦争に協力するとなれば次は情報収集だ。なぜこの戦争が起こっているのか? 敵の目的はなんなのか? 敵の技術力はどれほどのものなのか? 調べることは多岐にわたる。

 アラムは用意された部屋に行かず、ガウハルと共に王の間に残りカーインたちと戦闘し捕虜となった兵士から剥ぎ取った装備品を調べていた。銃や爆発物は仕組みは単純なものでさほど調べるまでもなくどの程度のものか理解できたが、このパワードスーツは別だ。筋力増強の機能はアラム曰く大したものではないが、バリア機能が厄介ということだ。


「しかし若い君が技術者とは、君たちの言うバイトとかいう船は一体どのようなものなのか?」

「え、あー……皆が暇で暇つぶしに全力を注いでいる船ですかね? 人間って豊かになりすぎると最終的にそういうのに心血を注ぐものなんですよ」


 タージュ王の問いにアラムはパワードスーツから目を離さずに自分が普段、思っているままの感想を口にする。

 少し失礼ではあるが、その研究熱心な姿勢をタージュ王も隣にいるガウハルも咎めなかった。単純に彼が頑張れば頑張るほど戦争で有利になれるからだ。

 パワードスーツを手で持ちながら、アラムは思いっきり金づちで叩きつけるとそれはバリアに防がれる。逆にそっと金づちを近づければ何も反応はしない。


「仕組みは自動で早く飛んでくる物体に反応してそれを防ごうとするタイプです。ならゼロ距離での攻撃……地雷とかも効くかも?」


 さっそくこのバリアの攻略法を口に出す。それに交渉の場にいてここに残った家臣たちも興味津々だ。自分たちを苦しんでいる敵の技術の突破口なのだ。気にならない方がおかしい。

 と、アラムは顔を上げて周囲を見る。強面の男たちが自分の一挙一動に注目しているので、かなりやり辛そうだ。彼は基本誰にも気づかれない端っこの方で生きていく生態なので、注目されることに慣れてはいないのだ。


「あのぉ……ちょっと離れてもらえます? 圧がヤバいのと実験で何か物が飛んだら危ないので、特に王様の顔なんて傷つけたらいけませんのでね! はい、皆様離れてくださーい!」


 手にしている金づちを皆に見せそう言うアラム。危ないのはおまけで本心は圧が強いのが我慢ならないのだろう。


「王よ。罠が有効ならば狩りに使うような落とし穴を使えばどうでしょうか? 下に槍を仕込めば有効かと!」

「それだけでは敵は倒しきれん。銃、だったか? この火薬詰めの筒を使った飛び道具はどうする? 我らの鎧や盾を容易く貫くのだぞ。それの対策もいるぞ」

「籠城戦をするしかあるまい。砦の岩ならば防げよう」

「この城には各地から非難してきた民がいるのだぞ! 戦場は別の場所にせねばならん!」


 いい年した大の大人が顔を近づけ言い合いを始めた。内容は真面目な内容なのだが、手にしているコップにガウハルが持ってきた酒があり、いつ酔いから殴り合いの喧嘩になるのかわかったものではない。


「あーのぉー、色々試さないと断言できませんが、このバリアは多分、消せると思います」

「「おおー!」」


 と、アラムのその言葉に歓声が上がる。酒が入っているのもあるが随分と反応がいい。


「来訪者の中で一番ダメな奴かと思っていたが、そんなこともできるのか!」

「女も抱いてなさそうなちんちくりんかと思っていたが、頼りになるなぁ!」

「体が貧弱すぎてなんの為にこいつはなんの為にいるのかと思ったが、いやぁ、見直した!」


 そして酒が入っているので、言葉に理性(ブレーキ)が無い。褒められているはずなのになんだかアラムは泣きたくなっていた。


「ねぇねぇひどくなーい! ああ、いや、すみませんつい口癖が。でも、すっごい傷つくんでやめてくれません。というか会議中にお酒飲むのはどうなんです!?」


 アルコールのせいで言いたい放題の家臣に思わず怒るアラム。いや、お酒は恐ろしい。

 会議にアルコールが入るとこんな面白空間になるのかと思っていると、この魔王も顔を赤くしていた。


「そう言うなぁ、この島の文化らしいぞぉ、ゆえに諦めよ栗毛。しかしだ、会議で酒を飲めるとは良いなぁ! なぜ我が王の時にこの制度を思いつかなかったのか、悔やまれるぞぉ!」

「駄目だ、ガウハルさんもなんかハイテンションだ……ん、いつも通り? いや言葉尻が変だ! というか僕だけ素面なんですけど、酔っぱらいの相手しながら技術解析とか勘弁してください! あと、お酒臭いから! 皆さん、取りあえず離れてください! とかいうかいい加減、水を飲んで! 酔いを醒ましませんか!?」


 さて、交渉の場ではカーインに任せっきりになってしまったこともあり張り切って技術解析を買って出たアラムだが、すでに限界らしい。酒臭い息に耐え切れず、持つ物だけ持って周囲の大人たちから逃げる様に部屋の入口に走っていく。


「取りあえず! 僕はゆっくりとこのスーツを調べてきますんで! このスーツ一着貰っていいですよね!」

「それは構いません。大量にあるのでどうぞ持っていってくだされ」

「ああー、王様自ら申し訳ありません……それよりガウハルさぁん! お酒もほどほどにね、まったく!」


 そう言ってアラムは王の間から出ていく。その瞬間見張りの兵士が驚いていたが、声はしっかりと聞こえていたのか酔っぱらいの相手ご苦労様ですと小声で青年を労ってくれた。

 しかし、この部屋の中でまともなのはあろうことにタージュ王だにけではなかろうか? あの御仁は酒に強いらしい。


「なーんで会議中にお酒飲むかなぁ?」


 文化という話だが悪習なのではないかと青年は思いながら、外の空気を吸いに場外へと出ていく。

 だが一人にはなれない。この城には避難してきた民が大勢いるのだから、少し外に出ただけでも島民の生活圏内足を踏み入れることとなる。

 とは言え、非難してきた島の住民たちが忙しく土仕事などをしていたが、この程度の騒音あの酒臭い王の間に比べたら十分に集中できる環境だ。


「取りあえず、どこかにテントでも張りたいなぁ。お城の中は騒がしそうだし」


 仮設ラボを作る場所を探すアラム。

 城の中で用意された部屋は使用せず、あの酔っぱらいたちがうるさく訪ねてくるのを避けてか、静寂を求めての散策だった。

 先客の住民たちに人気なのはやはり木陰だ。南国の厳しい日差しを避ける為に城の影になる位置に簡素な住居を作り、太陽光が降り注ぐ位置に畑を作っていた。

 アラムもできれば日差しを避けたいが、先客である彼らに場所を譲ってもらうことに気が引けたのか自然と人気の無い場所を探しだした。城の敷地内を適当に散策して、兵舎近くへと行きつく。


「ここら辺がいいかな?」


 いい穴場を見つけたアラムは、さっそく何か荷運びをしていた兵士にここにテントを建てていいか聞きに行く。話によればここら辺りは水捌けが良くないらしく、住民は使っていないらしい。


「じゃあ高床でもあれば問題は無いか」


 建設許可を取り付けさっそく大工に遅しむアラム。と言ってもご自慢の召喚システムを使っての組み立てだ。加工してある木材を合体させていくだけの作業なので、十分ほどで広々とした台が出来上がった。

 あとはテントなのだが、自作のボタンを押すだけでムクムクと膨らんでいく代物で、あっという間に彼の領地が完成した……瞬間に強風でテントが浮いて、飛ばされていく。


「しまったぁ! 重石とか固定する紐とか考えてなかった!」


 無風の室内育ちゆえ、外では風が吹く発想が頭から抜け落ちていたらしい。ころころと転がっていくテントを何とか捕まえて、ボタンで萎ませてからなんとか元の場所に戻す。

 テントの大きさはかなり広い。仮設ラボということもあり、中に縦長の机を十は置いても余裕があるほどだ。


「あー、どうしよう。取りあえずテントの四方に重りになる物を置かないと……」


 巨大なテントを前に悩む青年。彼にとってはちょっとした工事であった。

 慣れない設営に苦戦している中、重りを何にしようかと腕を組んで考えていると、通信機から呼び出しのコールが響いた。


「あー、ショクルさん? もしもしアラムです」


「仕事中に申し訳ありません。今テントの設営をしているんですよね? 偵察機のカメラを使って見てたら苦戦している姿が目に入ったもので」


「あー、いやぁ、自作のテントなんだけど重りがないとすぐ飛んでいっちゃって」

「それ自作なんですか!? すごいですね」

「テントの設営とか苦手だからボタン一つで膨らむテント作ったんだけど……まだ試作品でして、重りとか地面に刺す棒とかが必要だなって痛感してたところです」

「なら、取りあえず石か何かで固定してからカーインさんの所に行きましょう。ペグなどのキャンプ道具はあの人が持っていたはずですから何か使える物があるはずです」

「え、船の備品だけど勝手に使っていいんの?」

「それはもちろん、帰還時には回収しますがここにいる間は自由に使っていいですから」


 気に効くオペレーターに従いさっそくあの白い娘のいる場所へと向かう青年。道中暇だったのか偵察機を飛ばしながら雑談をしていく。内容はもっぱらファナール船長のことだ。あの働きすぎの養母が普段オペレーター室で何をしているのか気になっていたのだろう。アラムから次々に質問が飛んでいく。

 やれ人当たりはどのようなものか、やれ仕事をやりすぎていないのか、食事はきちんととっているのかなどどちらが母親代わりかわからないような質問を詳しく掘り下げていく。


「やっぱりインスタント?」

「ええ、時たまパンやラーメンなどを食べているところを見かけますね。基本的に船長室で昼食をしているようですが、とくに忙しい時はオペレーター室で仕事をしながら簡素な物を食べてます」

「もぉー、ちゃんと食べないといけないのにぃ。倒れても知らないよ本当」


 普段怒られている青年が、唯一船長にマウントを取れる話題ということもあり心配半分、優越感半分で得意げにそんなことを言っているとショクルから教えてもらったカーインがいる地点にまでいつの間にか到着していた。

 するとなにやら子供たちの賑やかな笑い声が聞こえ、当たり前のようにその中心にはあの白い娘がいるのであった。


「ちょっとカーイン。華の乙女がそんな泥んこになって遊んでんじゃないわよ」

「たぁーく、今日はいい感じに真面目お仕事してると思ったらこれだよ」


 などと、頬杖を突きながらそれを木陰で観察している赤毛の女剣士と青髪の魔女からやいのやいのと文句を言われているが、当の本人は子供の遊び相手に全力を挑んでいるらしいので耳に入っていないらしい。

 見れば追いかけっこの様な遊びをしているらしく、捕まった役が追いかけ役になりどんどんと逃げる側が不利になるという遊びらしい。追いかける側は目印代わりに、頭にハチマキみたいな物を巻いているらしく少し本格的だ。


「ふっふっふ、このこなたの俊足を見よチルドレン!」


 などと、一回り小さい子供相手に本気で逃げているカーイン。見ればほとんどの子供はハチマキを巻いており、すでにあの暴走娘をとっ捕まえるだけでゲーム終了なのだが中々にしぶとい。

 一人で追えば脱兎如く逃げ、二人で追えばフェイント交じりに逃げ、三人から五人で追えば大人でしかよじ登れない高い場所へと非難し、ある程度したら地面に戻ってくる。持ち前の体力の無さを高い場所で休憩しながら奮闘しているらしい。


「あのぉ、ショーラさん。カーインさんはどうしたんです?」

「今日は一日クソ真面目だったからな、ああやってストレス発散してんだ。オレらのお嬢様はああやってバカになって息抜きしねぇと生きられねぇ生物なんだよ。で、なんだ……忙しいのにあの奇妙な生物を観察しに来たんじゃねーだろ? お前」

「実はキャンプ道具を借りに来たんです。今、テントを建てて仮設ラボを作ってるんで」

「あー、あのバカの荷物の中にあったな。待ってろ待ってろ」


 ひょっこり現れた青年に気安く話しかけたのは赤毛の女剣士ショーラだ。

 自分たちのリーダーが遊び惚けている中、仕事熱心に活動している青年にそれなりに好感を持ったのか彼の申し出を快く引き受け、あろうことにカーインの荷物を勝手に漁り始める。


「ねぇ、他人の勝手に荷物漁るとか正気?」

「仕事だ仕事、ダラダラと休憩してるオレたちが汗水ながしてる奴の言うこと聞かねぇのはおかしいだろうよ。で、ちょろっと手伝ったってことでサボってても大目に見てくれよってな!」


 どうやら素直にアラムの願いを聞いたのはそんな打算があるかららしい。まぁ、それを悪びれもなく口にするも自らを悪党と語るなんとも彼女らしい態度だ。


「ありがとうございます」

「あー待て待て、ついでにこれ持っていけ」


 と、キャンプ道具一式を両手いっぱいに渡されたアラムに更に何かを渡そうとするショーラ。何をくれるのかと重たい荷物を抱えながらアラムは彼女の手にしている物を見ると、それはなんというか、綺麗な物だった。


「男ならこういうのも必要だろ? 今なら特別料金でブラも譲ってやるが?」

「なにカーインさんのパンツ投げ渡そうとしてるんですか!」


 あろうことかショーラはカーインの下着を取り出しアラムに放り投げる寸前だった。赤顔して叫んで場から立ち去る青年に、ニヒヒと悪戯な笑みを浮かべながらその下着を荷物に戻す。

 と……偶然遠くでそんな赤毛の女剣士を目を丸くして眺めていた下着の持ち主(カーイン)と目が合う。そしてあれほど捕まらずに逃げていた子供たちにあっさりと捕まってから、なにやらゴニョゴニョと耳打ちなどをしている。


「おい! なにを子供に吹き込んでんだよ、てめぇは!」

「あなたはやってはいけないことをしました。なので、こなたはお菓子を報酬にこの子らと共に報復をしようと思うの」

「ばっかか! 自称正義の味方が子供を菓子で買収してるんじゃねぇよ! お、おい待て来るな! 助けろマァ! あいつ顔が笑ってねぇ! 怖えんだよ!」


 なだれ込んでくるドロドロの子供たちを確認して、サルみたいに飛んで逃げるショーラは木陰でため息を吐いている魔女に助けを求めるも動いてくれるはずもなく、子供たちに追い回され始めた。


「はぁ……自業自得よお馬鹿さん。ま、後でアタシの水魔術のシャワーで泥は落としてあげるわ」

「てんめぇ、今まで苦楽を共にした仲間だろ! 裏切者!」

「あら? こんな時だけ仲間とか言わないでくださいますぅ?」


 最終的に泥んこの子供たちに揉みくちゃにされ、涙目のカーインに容赦なくポカポカと叩かれるショーラ。そんな喧騒を背中でアラムは聞きながら、先ほどいたキャンプの設営場所にトンボ返りしていた。


「ねぇ……カーインさんって意外に大人っぽい下着――」

「――止めましょう。今、オペレーター室で女性陣の視線が痛いので、それ以上の感想はご遠慮願います」


 帰りのアラムとショクルの会話は、行きとは違いその会話だけで終わってしまう。まぁ、青少年には少し刺激が強かったらしい。

 微妙な空気感の中、キャンプ地へと戻ってきたアラム。するとそこに黄色い髪をした小さな女子がぽつんと膝を抱えていた。


「あれって……」

「カーインさんのチームのサイカさんですね。確か最年少でキレスタールさんと同じ年の、見るからに落ち込んでいますね」


 そう、彼女は落ち込んでいた。何が原因までかは青年にはわからなかったが、落ち込んでいることは一目瞭然で理解できる。いつものアラムならば女子を励ますなどというスキルがない為、誰か素敵な男子が現れることを願ってスルーする案件なのだが、彼女が座っているのがアラムが即席で建てたキャンプの入口なのだ。

 人気もない兵舎近くに、ちょうどいい腰掛けがあったのだから落ち込んでいる人間にとっては絶好の隠れ家なのだが、そこはアラムが先に目をつけていた場所なのである。


「でも流石に邪魔だからどいては可哀想だしぃ……ショクルさん励ましてくれる?」

「いえ、アラムさん。ここはあなたが主導でやりましょう」

「ショクルさん……それってキレスタールさんと交流を深めようとして惨敗した僕の所業を知ってての発言?」

「だからです。別チームとはいえ今は同じ仕事をする仲間、メンタルケアをチームの代表として率先して行わなくては、それにアラムさんは女性相手に苦手意識を早々に克服しておいて損はないかと。経験を積みましょう」


 オペレーターという立場からも、友人という立場からもアラムのスキルアップに意欲的であるショクル。唐突に訪れた試練に苦悩しながら、アラムはのそのそと膝を抱えてうつむいているサイカの元へと近づいていく。


「あのぉー……」

「あ、すみませんごめんなさい!」

「え! なんかごめん!?」


 お互い驚いて唐突に謝りあい、妙な間ができる。黄色い髪の女の子は何かに怯えて青年の顔を見上げていた。

 されど、内心びびりまくっているのはアラムも同じだ。いや、まちがいなく彼の方が覚えている。だって顔面蒼白、滝汗で心拍が不安定だ。これは世間一般的に浮気がバレた夫の反応だが、青年にとって二人きりで女子と会話するのはそれほどの苦行なのだろう。


「具合が……悪いのですか?」


 あまつさえこの気弱な女の子に心配される始末。しかしなにやら青年を見るなり謝っていたサイカの怯えはすっかり消えていた。自分より挙動不審の者を見て逆に冷静になったみたいだ。


「ああいや、僕は基本的にその、女の子と喋るの苦手なんだよぉ」

「姉さん方とは自然に話せていたように見えましたが……」

「多対一は平気なんだけどね。一対一は無理、うん。どうしたら普通に会話できると思う?」

「テマエに言われましても……」


 相談に乗る為に話しかけたのに情けない顔で相談を持ち掛ける青年。通信機からはショクルの苦笑いが聞こえてきて、数秒後、場を取りなそうと咳ばらいを始めて話し始めた。


「失礼、サイカさん。私はアラムさんチームのオペレーターを務めているショクルです。仕事前にあった青髪の職員、と言えば思い出していただけますかね?」

「あ、はい! 覚えています。それでテマエなんかに何か御用でしょうか?」

「実はあなたが落ち込んでいるところをお見掛けしたのでアラムさんに相談に乗るように頼んだのですがうまくいかず、すみません。彼の異性に対する苦手意識を見誤っておりました。差し支えなければ私に悩みをお聞かせ願いますか?」


 すらすらと状況を的確に説明するショクル。それをよくもまぁこんなにうまく人と話せるものだなぁとアラムは感心していると、ショクルから「アラムさんも手伝ってくださいね」と流れに身を任せるスタンスに移行しかけていた青年を話の輪の中に強制的に戻した。実に優秀なオペレーターだ。


「テマエみたいなのの為にお仕事の邪魔をする訳には……さっきだってこんなところで落ち込んで仕事をしてないので謝ってしまい。きっと今頃、姉さん方はやれることをやっているはずです」

「……(いや、君の先輩方は先ほど泥まみれで子供と遊んでたり木陰でぼーっとしてたよ! って言っていいのかな?)」


 少しカーインたちを尊敬しすぎているのではと思いながらも、サイカの憧れを壊さぬよう喉から出かかった言葉を飲み込むアラム。そしてどうもこの自己評価が低い女の子が他人の気がしない青年でもあった。

 アラムとて自信家という訳ではなく卑屈な男だ。仕事で失敗して落ち込んでいるサイカを自分と重ねているのだろう。


「まぁそう言わず、僕の悩みも聞いてくれない? ほら、僕って人に偉そうに意見を言える人間じゃないからさ。お互い意見交換って感じで」


 とことん自己評価が低い彼はそう切り出して暖かな黄色い髪を持つ女の子と会話を始めた。


「じゃあ君の悩みから教えてくれない。ああ、言いふらしたりしないから僕! ほら、口が堅い……というか会話相手が限定的だから情報漏洩のリスクが少ないから、ね!」


 それはいかがなものだろうと一瞬あっけにとられながらも、サイカは悩み事を打ち明けた。

 内容としてはよくあるものだ。自分が失敗して周囲がそれをフォローして、仲間に迷惑をかけてしまったと落ち込んでいるらしい。


「今日、アラムさんたちと島の反対側に送られて、兵士と交戦した時にテマエ、頭が真っ白になったんです。人質にされている村人さんたちが死んだらどうしようとか、銃を向けてくる兵士が怖くて……何もできなかったんです」


 そういえば、ガウハルからの報告で通信機での会話、最初はサイカと話していたが緊張状態から素早く行動できていなかったと報告をされているのをアラムは思い出した。どちらかというとその後のカーインの的確な指示をあの魔王は褒めていたのでそっちの印象が強く、問題とも認識していなかったがサイカは違うらしい。


「肝心な時に動けなくて、皆さんにご迷惑ばかりかけて、テマエ、あの人たちに助けてもらって良くしてもらって、なのになんにも恩を返せてないんです」


 こういうことは今回だけではなかったんだろう。日々積み重なったものが今回の失敗で決壊したのか、吐き出すように言葉を出して泣くサイカ。それを隣で聞いて……アラムはなにやら冷や汗を流していた。


「いやぁ……どうしよう。僕も多分……同じなんだよね」

「あの、アラムさん?」

「いやぁ、人質いるんでしょ? で、自分の命の危機でしょ? それで冷静に判断してくださいって言われも僕は騒ぐだけしかできないと思うなぁ」


 それは自分も無理ですと断言する青年。


「いやあのぉー、アラムさん?」


 通信機からショクルの不安そうな声が聞こえるも、アラムは持論を展開する。

「基本的に僕はそのぉー、ガウハルさんがチームにいるから冷静でいられるのよ、うん。あの人色々と反則だから。あの人いないと僕、多分今頃はすぐにバイトに帰りたいとか泣いてますからね?」


 情けない。が、紛れもない事実だ。ガウハルがいなければ十中八九アラムはそうなっているとショクルも思った。なので通信機から彼の声が止まる。


「で、基本的に仕事で失敗するって僕からしたら当たり前でさ。でも人の命掛かっている仕事で失敗したら取り返しがつかないから反省しないといけないよねってなるんだけど、それでも僕って絶対にやらかすのよ」

「はぁ……」

「じゃあ、どうするかってなったら基本は失敗しても取り返しのつく仕事をするんだ。僕って元は機械弄りしてたから今回の場合だったら敵から鹵獲した装備解析するつもりなんだけど、君もそういう仕事をすればいいと思うよ?」

「……でもテマエ、緊急時でも冷静に――」

「それは怖くても仕方ないよ。脳みそが危険に対して正常に恐怖を感じるのは普通だし。人間向き不向きあるし。いやまぁそりゃあ、勇敢な人間とか、緊急時に冷静にテキパキ動ける人って凄いよ。重症患者を手術するお医者さんとか一回ミスしたら駄目な人とか尊敬と通り越して意味わからないもん僕。でも、必ず僕がそれになる必要ないじゃない。だって僕は根本から向いていないからね。そういうのは向いている人に任せればいいってね」

「じゃあ、テマエはどうすればいいんですか?」

「えーとねー、付き合い短いから浅いことしか言えないけど、滅茶苦茶ねぇ、君は気が利くと思うんだ。いや本当に、なんであのカーインチームでこんないい子が育つんだとぼかぁ思ったよ!」

「そ、それはその、あ、ありがとうございます」


 ちょっと照れるサイカ。誰でもこんな手放しで褒められたらむず痒いものだが、アラムはそんな彼女の表情に気づかず自分の意見を言うのに必死であった。


「うん、君の長所を生かせばいいのよ。例えば避難経路の確認? 緊急時こう逃げるって何度も頭でシミレーションしてたら多少冷静でなくても非戦闘員を先導して逃がせるよね? 事前に周囲に伝えていれば連携もしやすいし責任が自分だけにおっかぶさることもない。最後の重要よ?」

「……それは、まぁ。でもそんなことで」

「いやいや、君の場合カーインさんが上司だから正当な評価くれるだろうし大手柄になるって? で、君とにかく人当たり良いから! ここの現地の人と仲良くなったらいいのよ。緊急時って信用してる人間かそうじゃないかで皆、従ってくれる可能性が大分変わるから! ぼかぁ、そういうの無理だから、君がやって!」

「は、はぁ……」

「その才能を生かして、縁の下の力持ちでいいと思うのよ僕。さっきも言ったけどカーインさんだったら正当に評価してくれるだろうから。で、最初の話に戻るけど人間関係の構築とか一回失敗しても人って死なないでしょ? そうだったら僕は人生で何回死んでるかわかんないし。まとめると緊張しやすいとかいうタイプなら失敗しても取り返しのつく仕事をしなさい。それが僕から君に言えるアドバイスかな……僕って能力が、能力が低い!」


 言うだけ言ってなぜか頭を抱えるアラム。そしてため息を吐いて通信機に泣きそうな顔でこう言い放った。


「ねぇショクルさん、うまく言えたこれ? 話長くて同じ内容繰り返してた気がするんだけど!」

「いえいえ、中々私も為になる話だと思いましたよ。アラムさん」


 サイカが隣にいるというのにさっそく泣き言を口にするアラム。この青年には年上の威厳とかそういうものは皆無らしい。

 しかし先ほどの話に感銘でも受けたのか、サイカの顔はよく見ればスッキリとしていた。アラムの方便が良い方向に働いたらしい。

 と、アラムがごそごそとポケットに手を突っ込みお菓子を差し出すも、サイカはそれを心苦しそうに断った。彼女の特異な体質が原因でだ。普通の人間の味付けは彼女にとって濃すぎる。普通の薬も劇物でしかない。

 それを忘れていたアラムはやってしまったといった表情でお菓子をポケットに仕舞うと、サイカは気にしないでくださいと言い、少し悲しそうな表情でそう気を遣うのであった。


「あの、それでアラムさんの悩みというのはなんでしょう? テマエで良ければ聞きますが」

「うん、真剣に聞くね」

「あ、はい」


 真剣と言われて思わず姿勢を正すサイカ。そしてそんな彼女のにアラムはこう言い放った。


「彼女ってどうやったらできると思う?」

「……彼女、ですか」


 そんな質問に呆れもせず、真摯に受け止め目を細め考えるサイカ……いや、目を細めているのは熟考しているのではなく、なにやら凝視しているかららしい。


「……アラムさん」

「はい」

「まず、鼻毛を処理した方がよろしいかと、後、その、言いずらいのですがズボンのチャックも空いていました」

「……」


 まぁ……なんだ。この青年に毎朝鏡の前で身だしなみを整えるという習慣が身についていれば回避できた悲劇であった。

 さて、そろそろ昼時。燦々と降り注ぐ太陽の光が肌を焦がされながら、小腹がすくこの時間。恥ずかしさのあまり思わず顔を両手で覆う青年に、サイカは言い過ぎたと後悔し慌てて、ショクルは通信機の向こう越しでどうフォローしたものかと言葉を絞り出そうとしているのであった。



次回更新は明日の朝六時です。

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