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第三章「黄金の太陽はまた昇る」 三話



 あの密会から翌日、アラムはあくびを噛み殺しながら目の前に並ぶ女性チームを順に見ていた。

 カーイン率いる自称、正義の美女部隊だ。現場での仕事が明日に迫った今日、カーイン行きつけのカフェで顔合わせを兼ねた交流会が行われていた。

 今、カウンターの奥でコーヒーの準備をしているマスターの計らいで店は貸し切り状態。机もチームごとに対面に並び男女比がおかしい合コンにも見えなくもない。


「てことでね。えー……どうも、先日そこのカーインさんのお兄さん。その大事なあそこに蹴りを入れましたアラムでーす!」


 既に赤毛の女剣士であるショーラと青い長髪の魔女であるマァは、すでにアラムは見知っていたが残りのメンバーとは初対面。その為か少し緊張した様子で青年はそんな自己紹介をしていた。


「あ、ははは」

「……」


 しかし青年が想定していたよりも彼女たちの反応は薄い。当たり前だ、こんなセクハラ発言にどう反応していいかわからないだろう。彼が朝から考えていた自己紹介は見事不発に終わった様子だった。


「次……キレスタールさん、どうぞ」


 その薄い反応に少し目を潤ませながら物音をできるだけ立てず着席するアラム。第一印象が最悪だったと理解し、両手で顔を覆って後悔しているらしい。


「キレスタールと申します。私めはアラム様の守り人で、結界術が得意です」

「キレスちゃんはサイカちゃんと同じ年なんだよ~」

「え、そうなんですか! 大人っぽいです!」


 その一言にサイカと呼ばれた黄色い髪の少女が目を輝かせてキレスタールを見た。同年代の同性が珍しいのか、そわそわして友達になりたそうにしている。


「はい、その、光栄です」


 と、なにやら盛り上がり出す女性陣。キレスタールのぎこちないながらも健気な自己紹介はカーインの手助けもあり好意的に受けたらしい。


「立派になったねぇ、キレスタールさん」


 それになぜか謎の感動を覚えるアラム、なにやら保護者面をしだしていた。しかし当たり前だが別にキレスタールのコミュニケーション能力はこの青年が育んだ訳でもない。この船に乗ってから彼女が独学で身に着けたものだ。この保護者面をぶっ叩かれても文句は言えまい。

 と、それに続きガウハルがすっと立ち上がり一呼吸置いてから言葉を発する。


「うむ。風の噂で聞いたこともあるかもしれぬが、近ごろこの船で話題となった元魔王のガウハルである。ああ、そう緊張しなくともよい。今は新人の身、いわば後輩よ! どうか先輩方、ご指導ご鞭撻のほどお願いします、というやつよ」

「いやぁ、いい声でそういうギャグ言うんじゃねぇよ! 大体なぁ、つい最近ご指導ご鞭撻されたのはオレらの方だろうが!」


 と、ユーモラスなガウハルの挨拶にショーラがたまらずつっこみを入れる。するとアラムが信じられないものを見る目でガウハルを見た。言葉など無くとも「この裏切者」と言いたいことはすぐに察することはできる。


「っ……いや、栗毛。その目は止めよ。面白すぎる」


 と、それに気が付いたガウハルが肩を揺らしながら実に愉快そうに笑を堪えていた。これも当たり前だが別にガウハルは彼を裏切ってなどおらず、むしろ彼の受けが悪かった自己紹介により冷えた空気を温めたのだから感謝されるべきだ。


「アラム君……強く生きて」

「そんなセクハラ馬鹿ほっとけよカーイン。それよりこっちの自己紹介だ。オレら三人は今更だから面識ない二人だけでいいよな? おい博士、机の木目を観察してないで自己紹介しろよ」

「……」


 と、ショーラに挨拶を急かされてもじっと机を見つめ続ける小さい女性。緑の髪に丸眼鏡、おまけにだぼだぼの白衣を見にまとった彼女以外に博士と呼ばれる人物はいないのだが……。


「博士~、顔上げなさいよ。ほら、あんたの興味が沸きそうな人物がいるわよ」


 と、マァがそう言うと、やっと博士と呼ばれている背の小さな女の子は顔を上げた。ショーラよりもこの人物の扱いをわかっているらしい。と、博士と呼ばれた女性の目がガウハルの角に止まる。


「あー、この人はリヤーフさんって名前だけど、こなた含めて皆は博士って呼んでるの。マジックアイテムを作るのが得意なんだけど……この通りちょっと人見知りというかそもそも人に興味ないと言うかぁ……」

「はっきり言いなさいカーイン。今後の為にならないわ。いい? 作戦行動を一緒にするなら博士のことはきっちり伝えとかないと命に係わる可能性もあるのよ? で、博士は訳有りでね。色々あって研究狂いで研究のことしか頭にないの」


 少し歯切れの悪いカーインを叱るようにマァがはっきりとそう告げる。協調性に問題あり、人格に問題ありと彼女は断言する。しかし――。


「それでもそれを差し引いても彼女は優秀なの。彼女の頭脳は時に最強の武器になる。悪いけどこれから彼女が受け入れられないと感じたらそれは私たちのチームと合わないということだから、承知してくれる?」

「我は理解した。栗毛、貴様は?」


 魔女の強烈な主張に臆することなくガウハルが頷き、アラムに確認を行う。青年はそういわれる前からリヤーフをじっくりと品定めしているかのように観察していた。

 今、ちんまりと足が付かない椅子に座る彼女の視線は魔王ガウハルの角に注がれている。いまいち何を考えているのか判断できないが、その小さい背丈もあり幼い印象を受けた。よく見れば、その背丈はキレスタールよりも一回り小さいのではないだろうか?


「うん、大丈夫。僕、子供は好きだし、年上として守らないとね!」


 見たところ悪人ではないとアラムは判断し、彼女の問題も子供なのだから多少協調性に欠けていても仕方がないと割りきった様子だ。しかし、すぐさまその言葉は否定された。


「いや、博士はこなたたちの中で一番年上だから」

「あー、オレも初めて聞いた時は驚いたぜ。どう見ても十二かそこらの子供背丈なのになぁ。で、博士今年で何歳だ?」

「えーと、確かアタシより四つ上だから二十四ね」


 あっさりと暴露される衝撃の事実。一番最年少であるかと思われたリヤーフ博士はガウハルという特殊例を除いて最年長らしい。そんな馬鹿なと青年は目を見開くがカーインたちが口裏を合わせて冗談を言っているというのも変な話だ。

 ならば彼女が立派なアダルト(成人女性)ということは紛れもない事実なのだろう。


「うそぉーん」


 青年が驚嘆する中、そんものどうでもいいのかなにやらガウハルの角に手を伸ばし始めたリヤーフ。


「欲しい」

「む、もしや我の角か?」

「折って、ちょうだい」

「……すまぬ。体の一部なのでそれはできぬ相談よ」

「むぅー」


 と、何か物騒な会話が繰り広げられた。ガウハルに断られても諦めていないのか魔王の双角をロックオンし続けている。研究狂いと仲間に呼ばれているあたり、ガウハルの角を研究したくてたまらないのだろう。

 しかし彼女の興味を引いたのはこの魔王の角だけではない。次はキレスタールの光に煌めく髪をじっと見つめ、物欲しそうに手を伸ばす。


「もぅー、博士。いい加減にしなさいよ」

「んーあー! 欲しいー。ウチきらきらするあの髪欲しいー!」 

「女の子の髪に不用意に触らないの!」


 手が届かぬと悟り椅子から降りようとした瞬間、マァが彼女の首根っこを掴む。完璧に猫にでもする対応だが、彼女の迅速な行動によりキレスタールの髪の毛が引っこ抜かれる事態にはならなかったみたいだ。

 ただ、あまりにも本気で駄々をこねているので、見かねたキレスタールが髪の毛を一本抜き花売りの少女が花を一輪売るようにリヤーフに手渡した。


「あー、もうあなたねぇ。もう少し髪を大事にしなさい。女の子でしょ?」

「いえ……すみません。あまりにも残念そうでしたので」


 そしてなにやらマァに説教される少女。いかにも美容にうるさそうな魔女は、自ら髪を蔑ろにする行為は許せないらしい。

 とはいえすでに抜かれたものは戻せない。リヤーフは新しい研究対象を両手で掴みながら、首根っこを掴んでいた魔女の手からもがいて逃げ出した。


「いった。はーかーせー? さっきアタシの手が痛かったんだけどぉ―?」


 乱暴にされたことに謝罪を要求するマァだったが、研究を始めたリヤーフにその言葉は届かない。さっさと店の隅に移動してキレスタールの髪の毛を弄り始めた。


「髪の毛一本で凄い興奮だね。この船じゃキレスタールさんの髪と似たものもあるだろうに……発光する髪とか星空みたいな髪とかさ。あの人は僕より研究者向きでは?」

「うーん。博士の研究狂いは見ての通りだから、この船で研究者にはなれないんだよね。ほら、研究者ってチームで一つのことを調べるでしょ? だからある程度協調性とか社交性がいるんだけど、博士はそれが皆無だからこなたたちと一緒のチームなんだよね」

「ん? うん。僕の古巣なら受け入れてくれそうではあるけど……まぁいいか」


 凄まじい執着心に驚くアラムとは対照的に、慣れっこと言わんばかりにお気に入りのケーキを口に運びながらそんな解説を交えるカーイン。そして口をハンカチで少し上品に拭いた後、隣で固まっていた黄色い髪の少女の肩を抱き寄せた。


「で、この子が我がチームの要とも呼べる存在! サイカちゃんなのです。もんの凄くいい子だから! それとさっきも言ったけどキレスちゃんとは同じ年だから仲良くしてね?」


 と、カーインに自分の自己紹介をされ、はっと何かに気が付いたように顔を変化させるサイカ。今の今まで博士の紹介であった為、自分を紹介するタイミングを逃しどうしようかと考えてたのだろうか?


「その、えーと、自分はサイカと言います! アラムさんと魔王のガウハルさん、いえ、ガウハル様……」

「構わぬ。我は元魔王だが今は平社員、名を呼び捨てにされたとて無礼と怒るものか」

「で、ではガウハルさんとキレスタールさんも、よろしくお願いします! あ、アラムさんの水が無くなってますね。入れてきます」


 いつの間にか青年が飲み干していたお冷を入れに席を立つサイカ、キレスタールも言われて気づき、自分が入れようと席を立つも出遅れた為、そのままゆっくりと着席していた。


「気が利きすぎるんだよねぇ。あの子、こなたのチームで一番最後に入った子だからああやって色々としてくれるんだ。サイカは基本的に戦闘能力が低いから雑用ばっかり引き受けて、普段も博士のお世話とかしてて、うーん、もうちょっと……自分のことをしてもいいのに」

「あ、アラムさん。お冷どうぞ」


 と、カーインの説明と慌ただしくお冷を持ってきた何かアラムが目頭を押さえていた。さきほどの自己紹介に何にそんな感動するのかと、キレスタールは不思議そうに彼を見ている。


「いや、カーインさんのチームにこんなまともな子がいるなんて……しかも戦闘能力は低いんだってね? 君、あんなおっかないお姉さんに囲まれて大丈夫? いじめられてない? 僕で良かったら相談に乗るよ? まぁ多分、解決は不可能だろけど、たまに身代わりぐらいにはなるからさぁ」


 怖いお姉さん、というのは間違いなくあの魔女と狂犬のことだろう。あの二人に関してはアラムもよく知るところで、あんな暴力が母国語か何かの大人と同じチームである苦労を思うと感極まり涙を流しそうになる青年。


「そんな! 良くしてもらっていますよ。テマエはその、体質が特異なので博士さん薬も必要ですし!」

「……テマエ?」


 体質が特異、というよりも“テマエ”という年頃の娘が使いそうにない一人称に食いつくアラム君。そして説明を求めてカーインの方を向く。


「サイカを助けたときに彼女自分のことをどう呼ぶか迷ってたからこなたが“テマエ”でいけと言ったのですよ。ふふん」

「うーん、その心は?」

「チームでこなただけ変わった一人称使ってたら疎外感あったので」

「道連れかい!」

「で、サイカの体質も事前に言っておかないとね。彼女感覚が鋭利……というのは違うな。ありとあらゆるものが効きすぎると言えばいいのかな?」


 と、話が切り替わりサイカの体質の話へと移る。しかしどうもカーインの説明だけではアラムには理解できなかったが、ガウハルは納得したのか何度か頷いていた。


「つまり全てに対し耐性が低い……? え、この認識であってる?」

「うーん、うん! 近い近い。そんな感じ。味覚とか鋭利で普通の人がおいしい物は彼女にとって濃すぎるし、目も普通の光量でも眩しいから専用のコンタクトを毎日つけてるし、薬も効きすぎるから病気になった時、博士が専用で処方した薬じゃないと毒にしかならないの」

「痛みはどうなのだ?」

「最初は痛みにも過敏に反応してたけど、博士の薬で菌の抗体とか肌の感覚を普通の人レベルに落とせてるんだ。時間は掛かるけど将来的には普通に生活できるようにしたいと思ってるの」


 サイカの特殊な事情を聞いて彼女の苦労に今度はガウハルが顔を渋くした。なぜそうなのかは知らないが、語らないということは言い辛いことなのだろう。

 すると店の端からショーラの怒声が響いてきた。


「おいこら博士! なんでオレの髪も抜こうとするんだよ!」

「普通の髪と見比べる! 比較対象は必要!」

「そんなのてめぇの髪を抜けばいいだろうが! おいこらいい加減にしねぇと殴るぞ」


 なにやら先ほどのリヤーフとマァの喧嘩にショーラが加わる。魔女と博士、狂犬がやいのやいのと言い合いを始めた。こうなれば後はマァにより水魔術の激流がこの店から溢れ出ることとなってしまう。


「我が止めよう。この店は静寂が似合う」

「あー、大丈夫だから魔王さんは座ってて」


 安易に予測できる未来に、その腰を上げたガウハルだったが、意外にもカーインはこの状況でも落ち着いていた。自分の部下が暴走すればギャグコメディの爆発落ちみたいな第三次が起きるのは誰よりもわかっているはずなのに、えらく余裕だ。

 その理由が彼女であるらしい。


「頼めるサイカ?」

「あ、はい!」


 白い娘の一言でパタパタと火中へとその身を投じる。アラムが目で正気かと問いかけるも、カーインはコーヒーを飲みつつ事の次第をただただ眺めていた。


「あの、姉さん方、この店で暴れられては困ります。マスターにはいつもお世話になってるんですから、ね?」


 気弱に、されど言うべきことははっきりと告げる最年少である仲間の仲裁に魔女も博士も狂犬も、皆が顔を見合わせる。驚くことに一見気弱にも思えたサイカは、カーインチームの制御役として機能しているらしい。


「なるほどぉ……これはチームの要だ」


 カーインは彼女を自分のチームの要と紹介していたが、なるほど……このチームを一瞬でまとめられるのだから、そうだろうと青年は納得し、カーインに習ってコーヒーに口をつける。


「……でもあの役目って本来はリーダーのカーインさんがするべきことだよね? 最年少の子がまとめ役っていうのはどうなんですぅ?」

「それはー……こなたが言っても皆静まらないし、むしろこなたは騒ぐ方ですし? その……ね!」

「ねって……」


 最後、手痛い指摘をアラムはカーインにする。まぁ、だがカーインは皆を引っ張れるリーダーに向いていてるだけで、普段のハチャメチャな言動を考えるとまとめ役など不向きではあるのだろう。

 青年は、なんだかんだこのチームは奇跡的なバランスの上で成立しているんだなと感心しつつ、机の上を見た。

 いくつも並んだコーヒーカップと上品なケーキもたくさん、全て糖分を好む女性陣の半分(赤と青と白いの)による追加注文の山である。いったいいくらになるのだろうか?

「うーん……ヤバいか」


 やはりここはリーダーである自分とカーインの二人による割り勘かなどと考え始める。最近入った高額の保険料もあり、青年の財布はいつも以上にやせ細っていた。


「……足りない、かな」

「……(あー、アラム君が困ってる)」


 まぁ、そんな少し困り顔の青年の心中を察し、カーインが全員での割り勘を口にしたのはこれから一時間後の話であった。



次回更新は明日の朝六時の予定です。

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