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第二章「彼ら彼女らの日常は騒がしい」 十六話

 人間ってのは馬鹿だよなぁ。

 ある日、番組で偉い政治家様が俺に言ったんだよ! 何千とドラッグを決めてる頭のおかしいあんたに聞く、人を一番狂わせるのはどんなドラッグか? てなぁ。

 もう五十年ぐらい前か? 当時はバーチャルドラッグが流行って社会問題になってたんだよ。俺は前にバーチャルドラッグが一番ヤベェって言ったんだ。だからそいつは俺にバーチャルドラッグが一番効いたってここで言わせてバーチャルドラッグ禁止の法案を成立させる追い風にしたかったんだろうぜ?

 だから俺は言ったんだ。人間を一番狂わせるドラッグ? そんなもん禁止にできる訳ねぇってな。

 そしたらそいつは予想と違う返答が返ってきて怒り出したんだ。じゃあそれはなんなのかってな!



 だから俺は言ってやったんだ。人間に一番効くドラッグの名前は“恋”だろってなぁ。人間が木の棒で戦ってた時代からある強烈な奴だ。政治家ならハニートラップで狂わされたお仲間も見てきただろうにっ俺より詳しいだろうってなぁ!

 ああ、俺も恋ってやつをしてみてぇなぁ! ま、無理な話だがな!



 ――時空移動船、ミュージシャンアンドロイド、ギャギャギャ(本名、レポトスティア式三十六ギャギャギャタイプアンドロイド)



「ぶはははははははは! 負けてやんの負けてやんの。あんだけ大口叩いて氷漬けじゃねぇか!」

「どーう! ねぇ今どんな気持ち? ぶ、ふふぅ! きゃはははは!」


 頭に包帯を巻いた赤毛の女剣士と青い長髪の魔女がゲラゲラと笑い会場に笑い声を響かせる。目的はもちろん敗者である姫騎士をからかう為だ。

 そして当たり前だが、この赤と青の女、二名に煽られまくっているマレカは顔を赤くして唇を噛んで悔しがっていたのだった。


「ぐぬぬぬぬ!」


 そんな光景を見て、なぜあんなおっかない姫騎士と戦った後に二人は煽れるのかと、アラムは遠い目をして眺めていた。特にショーラは頭皮を千切り取られたというのに、恐怖心をまったく感じさせない。いったいどういう思考回路をしているのかとアラムは首を傾げさせるほどの豪胆さだ。

 ――そもそもあの姫騎士、試合が終わる直前に自力で氷を割り脱出したというではないか。つまりあれだけやって数秒足止めしかできなかったのだ。

 そんな相手にショーラはすぐさまバイト最先端の医療技術ですぐさま治療されて戻ってきたと思ったら、あのようにゲラゲラと笑いながらおっかない姫騎士にここぞとばかりちょっかいを掛けるなど、アラムには到底真似できないだろう。


「いやまぁ、後腐れなくていいのかな?」


 金的での決着から一時間後。あんな決着が認められるか、金を返せと暴れていた者たちがいい加減に諦めて帰路につき、あれほど人に埋め尽くらされていた席には誰もおらず閑散としていた。

 この騒ぎで表彰などの段取りは破綻となり、この催しは結果的に大失敗。次回の開催は無しになるか、大幅にルールを変えることとなるだろう。


「その、お加減は大丈夫……でしょうか?」

「あー、うん。まだズキズキするけど死にはしないかな。多分」


 広々とした会場のど真ん中で座り込み、下腹部をさすりながらアラムは脇に佇みながら心配そうにしているキレスタールの問いに答えた。

 彼が大会のスタッフがいる医務室でお腹に刺さった氷塊をなんとも適当な対応で完璧に治され、忙しいと追い出すようにここまで連れてこられると、なんとなく戻って来た会場の隅には同じく治療を終えたラウフがいた。

 アラムと違い彼はこの船において重要人物。カーインに木刀でポカポカと殴られできた額の痣の一つで、それはもう丁重に扱われ、会場に戻ってくる際に追いかけてきた医者に困った顔でもうすでに大丈夫だと説明をしていたところだった。

 そんな姿をアラムは確認して、自分との扱いの差に隣で困り顔のまま少女に愚痴をブツブツと漏らしていると、なんとラウフが会場のど真ん中でアラムと同じように腰を下ろしその隣に座りこんだ。のだが……会話が始まることはなかった。

 そんなこんなで今、隣にはラルフが同じような態勢で自分の姫騎士が妹の従者にからかわれているのを苦笑しながら見ている。

 すると、兄に遅れ医務室から帰ってきたカーインが現れる。

 そして箒星を思わせる速度で、ショーラとマァの背後から目を光らせつつ、両名にドロップキックを喰らわせた。


「こらぁ! 何をしているのかな、君たちは!」

「おいくそ! 重症人に飛び蹴りするとか頭湧いてんのか!」

「完治してるんでしょうが! この船の医療技術なら腕と足が飛んでも入院せずに治せるんだからぁ!」


 己の部下の粗相を咎めている様子だ。すると散々二人に煽られていた姫騎士の肩を叩きながら、慰めの言葉をかけ始める。

 それを見て、その気遣いが逆効果にならないことを、アラムは密かに心の中で祈るのであった。

 すると、隣にいた人物がやっと口を開いた。


「いや、賑やかでいい。私の姫騎士は堅苦しい一面があるからね。たまにはああやって他者から羽の伸ばし方を学ぶのもいいだろう」

「いやぁ、逆にさっきまで煽りに煽られたんですからリフレッシュどころかストレスにしかならないでしょうに……」


 と、優しい笑みと共に姫騎士を眺めるラウフの言葉に思わずツッコむアラム。独り言を拾われたことに少し驚くも、破顔してからラウフはその独り言を会話へと切り替えた。


「しかし……君にはしてやられたよ。まさか、切り札が金的とは」

「思い付きですよ! 金的狙いで最後近づいた訳じゃないですからね。こう……漫画みたいに頭突きとか決めて、強敵に止めを刺すシーンになるはずだったのに!」

「悪いね。その漫画というものは嗜まないので、そのこだわりは理解はできないが……そうか、思い付きか。閃き一つで私は倒された、ということなのか。それはなんとも、モアが聞けばさぞ気を良くするだろう」


 自分のあの敵か味方かいまいち判断できない老魔導士を思い浮かべているのか、ラウフはため息を洩す。


「……アラム君、悪いが私はあの魔王を諦められない。どうだろう、私の健闘に免じて譲ってくれないだろうか?」

「あのぉー、ここまで大事にして負けたんですから……そこはすっぱり諦めてくれませんかね?」


 ラウフの諦めの悪さに呆れながら言葉を絞り出すアラム。いやはや、ラウフもアラム“同様”に諦めが心底悪いらしい。


「すまない、いや、今初めて気が付いたのだが私は自分でもどうかと思うぐらい勝負事に執着心があるようだ。悔しい、という気持ちがこれほどまでに建前やらプライドを投げ捨てさせるものかと気づかせてくれて感動しているぐらいだよ」


 心底楽しそうに人生最初の敗北を満喫しているラウフ。いや、この人物は大物だなぁとアラムは呆れながらも一周回って感心していると、天井を見上げて「あー……」と言葉にならない声を発しながら自分の考えを頭の中でまとめだした。


「僕、ディザスターに絶望した時、ガウハルさんにお前は罪があっても生きていい、我が許すって言われたんです。あの人、僕の過去なんて知らないはずなのに……でも、嬉しかったんですよ。それからあの人がこの船にやって来て僕の味方になってくれて、だからあの言葉の恩返しを僕はしなくちゃいけないんです。だからやっぱりその話は無理です。あなたにガウハルさんは渡せません」

「……そうか。それが君の本当の気持ちか。だがそれでも――」

「諦めない。いやわかってますよ。でまぁ、僕なりに考えたんです。どうせ今回あなたに勝ってもガウハルさんを宝の持ち腐れとか言いながら僕から奪おうとする連中は山ほど出てくるでしょうし」


 その返答を予想してましたと言わんばかりにそう言葉を返す青年。彼も彼で色々と考えていたらしい。


「ならば、どうするというのかな?」

「レンタル」

「……は?」

「いやだからレンタル、貸し出しですよ。それでガウハルさんと僕にお金は入ってくるならむしろ大歓迎ですし、本人にも話したらそれなら良いって喜んでくれましたし……これでどうですか?」

「いや、それは……バイトの法において禁止されている」


 ラウフとてその手を考えなかった訳ではない。だがそもそも戦力(エスコート)の貸し出しはこの船において禁止されている。連携不足による事故を恐れてのものだが――。


「知ってますよ。学生カップルがイチャコラしている中、図書館で一人で調べましたし? ええ本当にうらやましい、僕だってあんな青春送りたったですよ!」


 と、話が盛大に脱線する。学校に通えなかった彼はああいう学校での恋愛というものに並々ならぬ憧れを抱いているのだろうか?


「すまないが、話を戻してもらって構わないだろうか? 君のその嫉妬の背景に何があるのかも気になるが、それよりもそのエスコートのレンタル制度について、是非ここで意見を聞いておきたい」

「ええっと、まぁ、簡単な話ですよ。法律なんて変えたらいいじゃないですか。あなたこの船の超有権者でしょ? これから戦力確保していく度にこんな大事を起こしたり策略練ったりしないで、すっぱり金で解決できる方がいいでしょうし。前提として一緒に戦った経験が無いからチームワークが悪いとか当たり前なんですから形になるまで訓練したらいいじゃないですか。あんな訓練施設が一般にも開放されてるんですから」

「……は、ははは! いや確かに、そうか、なるほど、私も頭が固い……法律で禁止されているから選択肢として外す必要は無い、ということか」

「まぁ、僕もある人にあなたが頭が固いと言われてから色々と考えてこの案に気が付きましたけどね」

「それは、ああ成程、モアと会ったのかい?」

「いえ、匿名希望なので名前は伏せますけど! ええ、まぁ、理由はわかりませんが僕からこの考えをあなたに伝えたかったんでしょうかね? 偶然を装ってましたけどなんかうまいこと手の平の上で踊らされた気分ですよ」


 そんな予測を立てて、アラムは言葉を締めた。あの老魔導士の真意は不明だが、このラウフの成長の為にアラムを動かしたのではないか? と彼は考えていたらしい。


「ああー、と……それとですね!」

「何かな?」

「僕、貴方のことが嫌いではないですが苦手です! だってなんでもかんでも一人で抱えすぎですし、他人を頼らないというより、笑顔の裏で他人のことを有象無象とか思ってるでしょ!? そのせいで他人の考えを尊重しない。そりゃディザスターを倒すのは立派ですけどねぇ。この船に乗ってきている人には貧しい生活からなんとか逃れようと必死な人とか、ただ平和に暮らしたい人だっていて当たり前なんですから、自分の考えを押し付けて非協力的な人間を罵るのはよくないですよ。ええ、本当に!」


 実は、この青年はそれだけ言いたかったのか。というかこれはそれだけを言う為の前振りだったのだろうかと思うぐらい、言いたいことを言い切ってから実にスッキリとした顔をする。まぁしかし、だ、やはりお偉いさんに偉そうにそんなことを語ったことを後悔しだして、この小心者は顔面蒼白になっていた。

 この人は何がしたいのだろうかと、脇でそのやり取りを聞いていたキレスタールが疑問に思い出す頃、聞いたこともないような大きな笑い声が会場に響いた。

 思わずその声に周囲の人間の目が引き付けられる。声の主は陽光の王のものだ。涙を流すほどヒィヒィと腹を押さえてラウフは笑った後、まっすぐとアラムを見つめた。


「ああいや、そんな無遠慮にものを言われたことがなくてね。失礼した」

「ごめんなさい、許してください。訴えないですよね?」

「しないさ。むしろ目が覚めたさ。ああそうか、思い返せば私の人生にはこういった相手がいないのだったか。いや、そこそこ賢くなったと自分では思っていたが自惚れか。人生は、険しい」


 晴れ晴れとした表情でそう語るラウフ。その顔は年相応の、そこら辺にいる若者のものであった。こんな顔をするのかと誰もが目を丸くする中、ラウフは立ち上がりカーインを手招きする。

 兄に呼ばれたことが信じられなかったのか、一度、自分のことを指を指して確認をしてからトコトコと走ってくるカーイン。そして、目の前に来た妹の頭を兄は、優しく撫でた。


「う、羨ましい」


 なにやら姫騎士がそんなことを呟いたが、あえてショーラとマァは散々からかったがここは慈悲と聞き流す。ラウフはくりくりとした目で自分を見つめる妹に一言「すまない。我がままに付き合わせた」と謝りその場を去る。そして何かを思い出し、振り向いて――。


「ああ、それとだね。君がたびたび遊びに行っている孤児院だがもう心配しなくていい。すでにあの人(父親)には私の手を回してある。安心して……気兼ねなく子供たちに会いにいくといい」

「……あーもう、これから怒ろうと思ってたのに、ズルいなぁー」


 後ろ姿で手を振り去っていく兄に、そんな感想を漏らすカーイン。アラムも同じ気持ちなのか立ち上がって、何かジト目で純白の服を翻した貴公子とそれを追う姫騎士を見つめ、謎の敗北感をひしひしと感じていた。

 と、ちらりと白い娘が隣に立つ青年を見上げる。気が付けば随分と至近距離に顔があるものだ。


「……こなたも、謝らないと」

「ん?」

「その、あの、君が、一番辛い時に……助けられなくて、ごめん。こなたは君に助けられたのに」


 歯切れ悪くそう言葉を絞り出す。ずっと思っていた。彼に抱いていた罪悪感。きっと青年には理解できないことだろう。それを承知で白い娘は言葉を絞り出して、青年はいとも簡単にこう言い放つ。


「あ、うん。カーインさん僕とずっと前に合ってるだよね?」

「……へ?」

「実は君のお兄さんに脅された後、カーインさんの住所を聞きにファナール船長の所に行って、ついでに君のことを聞いたんだよ。そしたら昔会ってるじゃないかって言われてね」

「え……」

「うん、その時思い出したんだ。いやー、ずっと昔のことだから忘れてたんだけど、確か白い妖精みたいな綺麗な子に会ったって船長に話してたことを思い出して。実際妖精だと思ってたし、確かバイトにもいるって話だけど」

「綺麗って、その、えっと」

「いやぁーびっくりしたよ。あんな綺麗な子がこんな面白おかしい女の子に進化してるとは思わなくてさ。そうそう、病院で僕が君のお母さん……えっと、カーインさん? カーイン様?」


 面白おかしいという言葉に、わなわなとカーインはその白い肌を紅に染めていく。色白な人っていうのはこんなにも血の色がくっきりと皮膚の下から見えるのかと思うぐらいカーインは茹で上がった後――。


「アラム君のバカァー!」

「へぶし!」


 白い娘は青年を突き飛ばしてダッシュで去っていった。


「……アラム様、謝りましょう。多分、貴方様に落ち度があるかと」

「え、なんで? なんで! 決めつけないで! ねぇねぇ酷くなーい!」


 困惑する青年に少女は諦めたようにそう語りかけ、遠くを見ればショーラとマァが逃げ去る我が主に苦笑いをしていた。まぁ、魔王争奪戦はカーインの悲鳴と共に、幕を下ろしたのであった。





 久しぶりに、彼女はあの時の夢を見た。

 あの兄との戦いをやり切った心地よい疲れと、あの青年を突き飛ばした罪悪感と、まだ少しある彼に対してのちょっとした怒りがこの夢を彼女に見せたのだろう。


「君、大丈夫?」


 昔、子供の頃に医療エリアの前で人知れず膝を抱えていた白い髪の少女は、人見知りが激しそうな少年にそう聞かれた。

 会ったこともない母親がここにいると聞き、家を抜け出したものの、家の者が見張りをしていて母親に会えないでどういようかと困り果てていた時の話だ。

 この場所で動けずにいる一時間もの間、少年が自分の周りをウロウロとしていたのは気づいていたが、まさか話しかけられるなんて思わなかったのか少女は驚いた顔でただ少年を見つめた。


「えーと、中に、入りたいの?」


 頷きかけて、少女は首を止めた。そういえば、と記憶を辿る。

 この少年は少し前に自分のクラスに来て虐められ追い出された少年ではなかったか? 自分は何もしなかった。よくある光景で、よくある教室(舞台)で起きる不出来な演劇の悪役だった存在ではなかったか?

 そんな彼に今、自分は助けを求めようとしたのか? 生まれて初めての罪悪感に胸を締め付けられ、少女は泣き出した。

 去ってくれ。少女がそう願うも、訳も分からず慌てふためく少年はその場に留まり少女が泣き止むまで待っていた。


「私を、助けないで」


 怖い、仕返しをされる。自分たちの周りの大人たちはそうだ。弱ったところを責められる。身に覚えのない恨みで執着に、普段は貴女の仲間だと言った人間の口から罵声が飛ぶ。

 他人を信用するな。それを絶対の原則とする世界で少女は生きてきた。だからこそ、少女は少年に恐怖した。心配するふりをして、何かされる。今自分はどうしようもなく弱っているから。そう考えた途端、少女は喉が渇くほどの恐怖に支配された。


「いや……ほおっておけないから」


 怖い。


「私は、君に助けられる資格なんてない。私は無責任な傍観者なんだから! どこかに――」


 怖かった。離れてほしかった。なんなら今すぐ罵声を浴びせながらどこかに逃げてもいい、なのに。


「え、そのぉ、どこかで会った?」


 その言葉に嘘は無かった。少女は幼くから人の嘘を見抜く教育(洗脳)を仕込まれいたから、すぐに理解できた。

 だから……まさか本当に自分を覚えていないのかと腹を立て、少年に一発こつんと殴る、がダメージなどない。生まれて初めて人を殴ったから、少女はこんなにも自分が非力なのだとこの瞬間に思い知ったのだった。


「お母さんに会いたい。でも病室は見張られてて……」


 そんな少年に折れて、生まれて初めて弱音を吐いてしまう少女。すると少年は一台の小さなロボットを、ポケットから出した。聞くと少年はここの病院に通っており、話題作りに医者に自作しているロボットを見せるように言われたのだという。


「僕、これに人工知能を積んで外で働く人の力になるんだ」


 少年は朧げな夢を語った。大人は皆、鼻で笑うという。けれど、少女にはそれが眩しかった。

 自分は大人に言われて勉強をして、大人に言われて満点を取り続けて、大人に言われて二位で泣いている子の隣で嬉しくもない賞を表彰台で見せて……なのに、この少年は自分で生きている。

 やりたいことを自分で選んで、必死に足掻いていた。それが、少女にはたまらなく眩しかった。

 それから少年は口数が少なかった。きっとここに通っているのは心の病で、他人に向ける余裕などないだろう。けれど、少年はこうして困った少女に手を伸ばしたのだ。

 小さいロボットは病室内の排気口に侵入し、病院内の部屋を一から順番に調べていく、子供にとって長い長い時間が流れて、ついに、その瞬間は訪れた。


「……はい」


 そう言って、特に感情の揺れ幅を見せず少年は少女に自分のデバイスを見せる。そこには、自分と同じ白い髪をした女性が映っていて……少し困惑した後、こう名を呼んだ。


「カーイン?」

「お母……様?」


 初めて、自分の母を見た。たくさん、本当にたくさん話をした。泣きながら、笑いって、もう一度泣いて、今まで人形みたいだった自分が嘘みたいに、普通の子供みたいに、少女は母と語り合った。

 なんで母が隔離されているのか、なんで自分と会えないのかは聞かなかった。ただ会話をしたことも無い兄もいるのだから、それがこの少女にとっての家族の距離だと受け止めている。

 でも、母の温もりを心のどこかで求めていたのだろう。あふれる涙がその証拠だった。


「こなたはカーインのこと、大好きよ」

「こなた? お母さんはこなたっていうの?」

「ううん。こなたっていうのは名前じゃなくて自分っていう意味」

「じゃあ私も、こなたって使う。お母さんと同じがいい!」


 好きな色、好きな食べ物。少女の知らない空、大地、海のこと、将来どんな人を好きになるのかとか、そんな会話がなされて、少女は画面越しの母と共に少年にお礼を言う。


「なんで、なんで君は助けてくれるの?」


 そして、そんな質問がされた。少年は少し戸惑ってから、こう口にした。


「えっとまぁ、泣いてる子がいたら助けない? ほら、正義の味方はカッコいいから」





 そこで目が覚める。見慣れた自室で背伸びをして白い娘はさっきの夢の余韻に浸った。


「……うん。こなたは君のことがやっぱり――」


 その言葉の続きは誰にも聞かせられない。ささやかで、バレバレなこの乙女の秘密なのだから。

 今日も、明日も、その先だって彼女とあの青年の物語は続いていく。そこの笑顔と幸ありますようにとカーインは母に頼みながら、朝支度を始めるのであった。

 ああきっと今日も楽しい一日になる。そう――彼ら彼女の日常は騒がしい。



終わり

次回更新は未定です。

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