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第一章「この繋がりを持てたことを、きっと彼は誇るのだろう」 二十話



 天から地に落ちた女神を、大地から伸びた岩の杭が穿つ。魔王ガウハル、その力は絶大だった。大地を操り、地から巨大な杭を出し、時には大地を割り紅い溶けた岩を噴出させる。

 対する女神は抵抗せずその必滅の暴力を受け続けるのみ、緑色の血が噴水の如く噴き出し、更には艶めかしいピンクの肉片が飛び散らせ、あげく腐ったヘドロの如く異臭が放つ。細胞を殲滅する勢いの処刑がそこで繰り広げられていた。だが――。


「胴を三度、切り離し。心臓を六度、穿ち。頭を十度、潰したが……死なぬか」


 それでも、怪物の頭上から、そのガウハルのありとあらゆる物質を操る力を行使してもこの怪物は殺しきれない。それは回復魔術などと呼んでいいものですらなかった。

 体から絶えず零れる丸く質量を持った光は最高位の回復魔術なのだろう。それがいくら急所を潰そうと、貫こうと、焼こうと瞬時にこの怪物を死ぬ前に回復させ絶命には至らない。


「――っ来るか」


 瞬間、女神の成れの果てが自分のすぐ上を飛行するガウハルを血走った眼で捕捉した。きっとこの怪物は今の今まで呑気に敵を探していたのだ。きっと死という概念がこれには無いゆえに、この状況でも慌てなどせず、敵を今までゆったりと探していたのだろう。

 怪物の口が赤く光るとほぼ同時に視界が、否、世界が赫に染まった。光線などという生温いのある攻撃などではない。大空を全て赫に染め上げる世界焼却とも言える神の怒りが解き放たれ、確かにこの世界の大空全てを燃焼させた。


「……やってくれる。回避不能の一撃とは」


 回避不能と判断し、ガウハルは一瞬で鎧を変形させ兜を造り出し最強の守りに徹した。つなぎ目など無い最強の鎧にて、黒い鎧から煙を出しこの世界焼却の一撃を耐えきったのだ。

 だが、大空から全ての雲が無くなった。目を凝らせば、空を飛びこの異常から逃げていた鳥の群れが消し炭になって落ちていくのが見える。確かに一瞬、この怪物は空の全てを焼き払った。これがディザスター、バイトが討伐目標とする規格外の怪物だ。


「ならば当然、大地も焼けるのだろうな!」


 ゆえに、撃墜は許されない。耐え切れず、魔王が地に落ちた瞬間先ほどの赫が大地を染め上げる。それは世界ほぼすべての生命を焼却されると同義なのだろう。


「ははは! いや、責任重大か!」


 その事実を、魔の王は笑い飛ばし承諾する。世界の命運を双肩に乗せることなど慣れているのだろうか。ガウハルは最強の守りを己が身体からはぎ取り、一振りの大剣へ変えた。

 上半身の鎧を剣に変え、空気を割る速度で女神の成れの果ての顔を両断する。その判断は適格だ。あの世界を焼却する攻撃は怪物の常に絶叫しているかの様な顔が無ければ成されない。

 それを雲を引く音速で潰す。だが当たり前の様にこの怪物はその顔を瞬時に治し――かける。


「さて、その巨躯全てを焼かれれば、流石に死ぬのではないか!」


 魔王ガウハルの放った渾身の斬撃。これは昔日、この者が魔王でなかった時の技なのだろう。だが次に繰り出された技は荒く、大よそ修練を重ねられた技術など感じ取れない拳だった。

 無骨な打撃、再生しかけた怪物の顔をただ一撃、殴る。ただそれだけ、だがこれも渾身。魔王である人外の筋力で力尽くで地に怪物を沈める。殴られた頭から胴体、尾の順番で地面の沈む巨体、そして怪物が起き上がる前よりも早く、大地が巨大な口の如く裂けた。

 亀裂は大よそ近くにある聖都の三個分、女神の成れの果てたる怪物をこの星の核へと落とす強引な荒業。そしてその亀裂はすぐさま堕ちた女神を幽閉する為速やかに地響きと共に閉じられる。

 ――ここに、魔王は女神を地獄に沈めた。まさに神話の一ページ、千年もの間語り告げられるに相応しい一幕だろう。


「ふは、はは、はぁ! がっ……ああいや、己の喀血を見たのはいつぶりか?」


 笑いながらも吐血し、己の口を押えながら低空飛行の末、魔王は辛うじて地に着地する。だが倒れることなく、魔王の矜持のみで大地に立つ姿は勝者のそれだった。その顔に笑みを張り続け……大きな揺れをその脚で感じ、その笑みを渋い面持ちへとすぐさま変えた。


「まぁ、だろうさ」


 すぐさま魔王は自分の体に鞭を打ち、空へと飛行する。そう、戦いはまだ終わっていないのだ。長い、五回大きな揺れを起こした地震の後に、地獄の門が開かれた。


「ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 大絶叫が世界に轟く、紅蓮の溶岩を傷口から垂れ流しながら、不死の怪物が大地を突き破った。全身を溶岩に溶かされながらも、骨をむき出しにながら怪物は地を割り地獄からの生還を果たす。ああ、それは、紛れもない世界終焉に相応しい光景(絶望)だろう。


「ふん、アーセファならば撤退を進言するところか」


 今はいない知将の名をぼやき、すでに体の五十パーセントを回復し終えた怪物を見下しながら魔王は目を細める。先程の一手は最善策であった。これ以上の策も、捻り出す体力すらない。


「さて、後はバイトなる者らがこの世界から何人救いとれるかの持久戦か……」


 避難、それしかない。魔王はその厄災を再び止める為、漆黒の大剣を鎧に戻した瞬間、アラムが授けた偵察機から漏れた音をその耳で確かに拾った。


「魔王ガウハル様。こちらバイトの者です。聞こえますか?」

「ほう、通信か! それも音も良質、これはまた便利よな。して、何用か? バイトの者」

「私はショクルと申します。今アラムさんが立案した作戦が進行中でしてその手伝いをしていただきたく、呼びかけを行っています」

「あの者が? あの修道女と栗毛は安全地に避難できたのか?」

「いえ、現在バイトへの人員の転送は時空空間が不安定な為に禁止となりました。ですのでディザスタ—に対抗する策――」


 と、通信の途中、赤い熱線がガウハルの顔横をかすめる。見れば地から這い出てきた怪物はそのステンドガラスの羽を広げ、ゆっくりと浮上しながらガウハルを殺そうとその口を開き、攻撃態勢をとっているところだった。


「ご、ご無事ですか!」

「ええい、あ奴め、話の途中で攻撃を仕掛けるとは、あの聖女めを思い起こさせる! まぁ良い、情報は得た。話は十分だショクルとやら。要約するとあの栗毛が何かするのであろう?」

「理解が早くて助かります。今からバイトの主砲、ガルバリン砲をそちらの世界送ります。その間聖都の城の前にいる彼を守ってください」


 と、その瞬間、確かに魔王ガウハルの眼が光った。偵察機越しの映像を見て、バイト船内でショクルが冷や汗を流す。何か不都合があったのかと、今魔王との交渉を仕損じればこの作戦は成立しない。


「今、何と言った?」

「バイトの主砲、ガルバリン砲を……送ります」

「ほう、ほほう! ガルバリン砲とな、それはまた心躍る響きよ! 承諾した。その砲の銘がとかく気に入った。良かろう、我を使え!」

「え? いや、あなたの命を賭けることですよ! そんな理由で決められては――」

「動く理由は単純な方が枷にならん。それに、土壇場ほど適当な方が最適解となることも多い」


 ――何か、その言葉で魔王に対する恐れとかそういうものがショクルの中からずり落ちた。


「あー、あー、通信に割って入ってごめん。こちらアラム。ショクルさん、多分ガウハルさんは大きな玩具とか大好きなタイプだから、呆気にとられないでね?」


 と、通信に割り込みが入る。声は紛れもないあの喧しい青年だが、今はなにやら機会を弄る音が通信機から漏れていた。何か作業中なのだろう。


「栗毛か? で、あれを落とせるのか?」

「え!? そんなのやってみないとわかりませんよ! 確実にあれをどうにかできる策があるならとっくにやってますからね! で、他に良い案ありますか!?」

「ふはははははは! だろううなぁ。どうせ我の時と同じ、土壇場でその頭から捻りだした策であろう? で、砲が届くまでどれほど必要か?」

「七……いや、五分、ああもうこの転送機、壊してもいいや、一分後には来ます! 今さっき転送機の改造が終わったところですから、バイトの人達がサボりでもしなけりゃ遅れませんよ!」


 どうも今の今まで転送機の改造を行っていたらしい。そのやけくそ気味な返答に、魔王は笑う。


「それは良い! 貴様、なかなか優秀ではないか! 速い仕事は好きだ!」

「いや自分でもそう思い始めてきましたよ! これ終わったらボーナスたんまりもらいたいもんですねぇ!」


 あの自尊心の欠片の無い青年からは信じられないほど前向きな言葉が返ってきた。多分、今アラムの頭は脳内麻薬に満たされているのだろう。


「で、ショクルさん! ガルバリン砲は!?」

「先ほどファナール船長が呆れた声で何とかすると言ってましたから、すぐにでも!」

「よーし、僕ってとんだ親不孝者だぁ! 帰ったら何枚、始末書を顔に叩きつけられるんだか!」


 と、噂をすれば影在り。その親の声が通信機から漏れる。ショクルの通信機をぶんどって、開口一番この馬鹿なことを思いついた男へ文句を垂れる。


「アラム、貴様は馬鹿だ! まったく、ガルバリン砲を寄越せなどとよく思いつくな!」

「船長! ガルバリン砲!? 届くんですか!」

「喜べ、ディザスタ—出現の混乱に乗じて無理やり通した! まったく後で始末書をいくつ書かされることか、絶対これ後で問題になるからな! だが仮に壊して返ってきたらあの粗大ゴミは処分しよう! ああ今決めた。毎年あれ(文化遺産)の維持費に頭を悩ましてきたからなぁ!」

「あ、船長。転送機を二台、壊しますね。成功率を上げる為に改造したんですが負荷に耐えられるまで手が回らないんで! と、どさくさに紛れて上に責任擦り付けとく僕なのであった」

「おい、それお前の給料何年分だと思ってる! ああ、許可しよう緊急事態だからな、だがこれだけは言わせろ! この問題児が!」


 もう、親子そろってやけくそだった。説教と許可を同時に出るなど冷静ではない証拠だ。


「ふははははははは、いや愉快よなぁ! よし、我はあれを食い止めるが……正直、力を行使しすぎて死にかけておるところだ。いくつか攻撃を取りこぼす……なぁ、聞いておるのだろう修道女、取りこぼしは貴様がどうにかせよ。あの聖女の劣化した力でも、どうにかできよう?」


 すでに巨大な芋虫(ワーム)の怪物は空を飛びながら聖都へと近づいていく。あの色とりどりのガラスの羽でどう浮かんでいるのか不明だが、現に飛行しているのだから文句を言っても仕方ないだろう。

 そんな中、血を口から零し挑発するように、魔王が通信機にそう告げる。その言葉は今、この戦いの最終局面が始まり、あの少女の闘争心を煽る為の発破なのであった。



次回の更新は一月二十五日の朝六時に更新予定です。

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