第一章「この繋がりを持てたことを、きっと彼は誇るのだろう」 十三話
口をへの字に曲げながら恐怖に耐え、すぐさま門に使われていた木材が後ろに砕け飛び行く光景が青年のその瞳に映しだされた。
そして壊しばかりの門を冷気が津波の様に荒々しく覆いかぶさり、瞬く間に氷壁を造り出す。サルジェの手際の良さにアラムは呆けていたが、ぶんぶんと首を振ってから状況確認を始めた。
「キレスタールさん無事!? 無事だね、よし。で、サルジェさん、魔王さんはどこ!」
「この城の階段を上った部屋の突当りだ。昔からそこが魔王ガウハルの玉座がある」
「じゃあ行こう、すぐに行こう!」
「ああ、この氷壁はすぐに砕かれることはないが、そも別の出入り口があるゆえ急ぐ他無し」
それを聞いてキレスタールと共に体勢を直し、サルジェの背に乗ったアラムは顔を二回軽く叩き、気合を入れた。
すると、少し冷静になったのかサルジェの異変にアラムが気づく。
「サルジェさん、その手」
「焼かれただけだ。だが流石は三将よ。瀬戸際に刺し違えようと、技を出せるとは」
見れば、サルジェの腕が一本に蒼炎の残り火が付いていた。すぐに氷結し、最低限の火傷で済ましているが、蒼炎は中々消ええてくれない。
「――これより不退転。遮る者あらば相手取る!」
されど治療をする暇は無い、その言葉を聞いてか聞かずか、城内の侵入者を察知しぞろぞろと多くの魔族が狭い通路を塞ぐように雪崩れ込んでくる。
敵の雪崩に、二人は急いで老兵の背から降り、自己防衛に努めた。
「うをぉおおおおおおおおおおお!」
有象無象の魔族の雄叫びと共に爪、牙、剣、槍、魔術が雨の如く襲いくる。だがいかなる技も二人には届かない。大剣を、戦斧を、長槍を手に最強の武人が一心に猛攻を受けている。そもそも後ろの二人など魔族は敵とすら認識していないのだ。
「サルジェ、お前は昔から気に入らなかった……だがその力は、魔王様の剣としては認めていたのに、なぜ裏切ったぁ!」
――ある者は、そう言う。
「サルジェ様、今も貴方様をお慕いしております。ですが、ですが! なぜ、人などと共にこの城に攻め込まれたのですか!」
――ある者はそう言う。
「……なぜ、なぜですか。子供の時から貴方の勇士を目にし憧れて武器を手に取った。なのに!」
ある者はそう言う。
そう、誰もが裏切り者とサルジェを罵る。それに対して武人は彼らをその眼光で、その腕で、その剣で切り伏せ進む。その全てを――。
「同胞が為よ!」
その言葉で、一歩一歩、前進しながら、罵られながらも、武人はただただそう語り、矢傷を負い、刀傷を負い、魔術に身を焼かれながら前に進む。
「サルジェさん……」
次第に傷が増え、血が何か肉の塊と共にドボリと落ちた。
この武人がここまで傷を負っているのはひとえに掛かってくる同胞に手心を加え殺さず対応しているからだ。この馬脚の鬼神が本気になればあっさりと蹂躙できるただろう。
「同胞が、為に!」
――血が滴り落ち、地に溜まり池となり、やがて小さな川となる。
もはや気迫のみでかかってきた最後の魔族をその馬脚で蹴り飛ばし、大きな扉の前で膝をつく。サルジェは、氷の名を冠する魔族は王がいる扉の前に辿り着いたのだ。
「……託す。人の子よ。我らの未来に光明を授けてくれ」
「はい……きっと」
アラムはそっと血肉を垂れ流す武人の言葉に頷いた。
ようやくたどり着いたのだと彼は深く息を吸い、扉にノックを三回打ったのだった。
その額から突き出た双角は魔石だった。左右対称の短い角と長い角はまるで宝石の原石の如き煌めきを放っている。
魔王ガウハル、あらゆる魔族の頂点に立つ、事実上この世界で一番強い生物といっても過言ではない存在。
「ガウハル様、侵入者がここまできたようです。いかがなさいますか?」
「対話には言葉を、刃に武を、それだけよ」
「は!」
覇者は玉座で頬突きを突きながら、神妙な顔つきで自身の右腕ともいえるアーセファにそう言葉を投げかける。
最後の三将の一角だけではない。魔王の間にはいかにも強そうな魔族が大勢並び、侵入者が現れるであろう扉を睨んでいた。
そしてその誰もが殺気立っていた。魔王の命は相手の出方を伺えと先ほど下されたが、誰もが入ってくる人間を殺そうとその武器を持つ手に力を込めている。
だが、緊張感が張りつめる空気に小さな穴を開ける様に、三回間抜けなノックが響き、控えめに扉が開けられた。
「……まずは、無礼をお詫びします。こちらに敵対の意思はありません」
栗毛の青年はそんな一言と共に魔王の間へと足を踏み入れた。
そして必然的に魔王の間にいた家来たちは、招かれざる客へ鋭い眼光を飛ばした。
「……!」
「アラム様、怖気ては駄目です」
「う、うん。でも魔王って普通一人で魔王の座にいない? これちょっと想定外で……」
「そのような常識は初めて聞きましたが、今は気にしなくてもよろしいかと」
なにやら閉めかけられた扉の向こうから少女と会話するアラム。ここまでやってきた人間とは思えない狼狽ぶりであった。
「なんだこいつらは……」
呆れて毒気が抜けたのか、魔王の隣にいたアーセファはそう言葉を零す。
そして再び覚悟を決めた顔つきの栗毛の男を、再び魔王とその家来は眺める。
「魔王さんと交渉しにきたのですが……お話をさせてくれませんか?」
恐怖からか、足を震わせながらもなんとか自分の目的を口にするアラムに、一同はむき出しの嫌悪感を放った。
魔族において強者こそ正義、強者は尊重され弱者は侮蔑される。
「ガウハル様。はっきり言ってこの者と言葉を交わすのは時間の無駄――」
「いや……面白い。それに後ろの少女は報告にあった教会の使いか、話だけでも聞こう」
だが、魔王のみが目を輝かせ力無き一人の人間をその瞳に映した。
「交渉と言ったな。ならば交渉材料を持ってきたのだろう人間?」
あまりにも無力、その気になれば指一本で殺せる虫同然の存在に魔王はそう問いを投げる。
「はい、あります」
「では先にそちらの願いを聞こう」
「人界への溶岩を使った強襲、それを止めて頂きたい」
瞬間、魔王の間に赤い敵意が満ちた。
「ふざけるなぁ! 人間風情が大それたことを、何を手土産にしてきたかは知らんが厚顔にもほどがあろう!」
いの一番に吼えたのはやはり魔王の側近であろうアーセファだった。そもそも、人間嫌いなのかアラムへと食って掛かるが意外にも先ほどまで怯えていたアラムは、神妙な顔つきで魔王のみを見据えていた。
「手土産はこれです」
そう言ってアラムは懐から小さい石ころを手の平に乗せて魔王へと見せる。
「たったそれっぽっちの魔石で我らの飢えが癒せるとでも思っているのか、愚か者が!」
「これだけではありません。貴方がた魔族に楽園を用意しましょう」
「楽園だと! ふざけるな」
「まさか。僕は、いえ、我らはインタービーナーズ。世界と世界の狭間を漕ぐ時空の漂流者です。冗談で言っていると?」
だんだんと、言葉に芯が入ってきた。ただの弱者と見下していた人間は、こともあろうに魔王の右腕とも呼べるアーセファに怯まず言葉を遮った。エンジンが掛かってきたらしい。
「貴様は何を言って――」
「この魔石を解析し、この魔石と同質ともいえる物が大量にある世界を見つけ出しました。貴方方をそこに移住させられる。危険が無い世界へ、そこは楽園と言っても過言ではないでしょ?」
アラムの言葉に周囲はざわつく、インタービーナーズという聞き慣れない言葉と時空の漂流者という信じられない戯言に。
再びアーセファが眉間にしわを寄せ吠え掛かろうとした瞬間、再び扉が重苦しい音を立てて開かれた。これ以上の来訪者などわかりきっている。この青年を城に招き入れた老兵か先ほど青年と扉越しで言葉を交わしていた少女のどちからだ。
「サルジェか! き……」
青年から外から入ってきた馬足の武人へと注目が集まった瞬間、アーセファの矛先がそちらに向き、いや、向き掛けて罵声が消失した。
「魔王ガウハル、このサルジェ、この者が信用に足ると保証しましょうぞ」
傷だらけの身体で、一歩一歩不規則に、ゆっくりと歩みを進め、足を震わせながらサルジェはそう魔王へと進言した。
満身創痍、その言葉以外見つけられない。三将最強であるかの武人は傍らにいる修道女に回復魔術を施されながらその言葉だけは力強く発する。
「サルジェ……」
「アーセファ、貴様が人嫌いなのはよく知っている。が、今は同族が為、ここはその嫌悪を胸に秘めてはくれぬか」
「貴様! 貴様は……なぜそこまでに傷ついてまでこの人間をここまで連れてきた!」
「知れたこと、いつも口にしているであろう、同族が為よ」
「っ……恥は無いのか! 我らが仲間を屠った人に縋りつくなどと、貴様も三将としての矜持は持っているだろうに!」
「三将などという肩書に興味無し、未来生まれゆく我らの子孫の為ならば捨てようぞ。そうして、ここまで駆けてきたのだ。このまま人の地に怒れる焔を流し込めば人と永久とも思える戦争の口火が切って落とされよう。知将アーセファ、それは貴様が我よりもよく理解している筈」
――突きつける。この先の未来を、この先必ず起こるであろう悲惨な魔族の末路を。
「同族は飢え数を減らし、その一方で人は増える。世界各地に分布し、いずれ我らを滅ぼすであろう。しかし、溶岩を人の地に流し魔石を生成しなければ我らは飢え死ぬ……それしか道は無いと誰もがそう思っていたが、希望はあったのだ。それがこの、人の子よ」
周囲の者がサルジェの言葉を聞き入った。裏切り者と罵られようと三将であるサルジェの言葉は重く同胞に響く。同じ三将のアーセファをも黙らせた彼は、玉座に座る魔王ガウハルと視線を交わす。
「……サルジェ」
「……」
「大義である」
その言葉に周囲はざわついた。魔王ガウハルがサルジェの働きを認めたのである。それにアーセファが驚嘆し、我が主に名を叫ぶ。
「ガウハル様!」
「アーセファよ。貴様は知らぬだろうがこ奴はそもそもただの一度も裏切ってなどおらん。千年前、いや、前魔王の竜王に従えていた時よりその忠義は我らの存続のみを胸にその剣を振るってきたのだ。そしてそれは今も、だ。控えよ」
「……わかりました」
「されどサルジェ。貴様の言葉のみで同族の未来を決定はできん。それにここにいる者の多くは人間に親を、兄弟を、子を殺されている。我の手前、言葉にはしておらんが人など信用できんと異を唱えたいだろう。それに人に不信感を抱いているのは我も同じだ」
「そら見ろサルジェ! 魔王様はこのようにお考えだ!」
と、魔王に自分の考えを肯定されてか、先ほどまで萎んだ花の様に元気が無くなっていたアーセファが声を荒げた。
「アーセファ、控えよ」
「はい! 大変申し訳ありません」
「いや、普段は切れ者なのだがな……客人よ。失礼した」
元気よくガウハルに謝罪をする知将。なんというか――。
「アーセファさんって意外に愉快な方なんですね」
「うむ、切れ者なのだがジェファーフとアーセファは魔王ガウハルに陶酔しており、たまにああなる。今は大目に見てくれ……」
ひそひそと内緒話をするサルジェとアラム。するとぶつけようのない怒りを込めて、アーセファはジトリと二人を睨むが、すぐさま出てきた魔王の言葉で罵声までは飛ばしてこなかった。
「でだ。人の子よ。汝自らがその時空の漂流者であることを証明する必要がある」
「証明、ですか?」
「なんでもよい。何か、無いのか?」
「えーっと……コード、ハンドガン」
証明を示せと言われ、取りあえず自慢の召喚システムで武器を取り出して見せるアラム。その瞬間周囲に緊張が走る。始めてみるものだが勘でアラムが出現させた物が武器だと理解したのだろう。
「良い。抑えよ」
玉座に座っている魔王はすっと手を上げ周囲の者の奮起を止めた。それを確認してから、アラムは銃口を自らに向けるようにして持ち、手を伸ばして魔王に渡そうと一歩一歩近づく。
そして、魔王ガウハルもそれが届く距離にきた瞬間ゆっくりと銃のグリップ部分を握りしめた。
「アーセファ。貴様の知見を借り受けたいのだが、これを知ってはいるか?」
「……いえ、まことに遺憾ながら知りません」
忌々しいと言わんばかりに唇を噛みながらそう答えるアーセファ。本心では嘘でもこの人間が無価値の大ほら吹きだと言いたいだろうに、敬愛する魔王に嘘は付けないといったところか。
「ふっ忠臣よな」
そんな側近の意図を見抜いてか、ガウハルが鼻で笑った。
「で、人の子よ。これはどう使う?」
「それは飛び道具で、えーっと……セーフティという安全装置、事故防止の為の装置を解除してから引き金を引き弾を飛ばす銃という武器です」
「なるほど、試しに撃つ。して、そのセーフティとやらはどう解除する?」
アラムの拙い説明を聞いてから銃の撃ち方のレクチャーを受けて、壁際に置かれていた壺に銃口を向け、引き金を引いた。
瞬間、パシュッと乾いた爆発音と共に鉛玉が壺に命中し派手に破片を飛ばす。
「ほう……火薬、いや、それに類似する薬品か?」
「はい。よくわかりましたね……」
周囲が吹き飛んだ壺に釘付けになる中、銃から上がる硝煙を見て魔王ガウハルは銃弾が何によって打ち出されたのか、そうアラムに問いかける。
「弓などとは違い短期間の訓練で戦場にて活躍できるか……それ以上に威力が凄まじい。魔術とは違う戦術展開が期待できる……貴様はこれを造れるのか?」
「ええ、僕は技術者ですので材料さえあればできますよ!」
「そうか、技術者か……」
自分の好感度を上げようと意気揚々と答えるあらむだったがそれを聞いた瞬間、魔王ガウハルの目の色が変わった。目を細め、初めてここでアラムに危険性を見出したかのように。
「ならば、貴様が生き残り人の国にこの銃とやらを量産させれば……我らは滅びるな」
その一言で、完全に周囲にいた魔族はアラムを敵と認識した。ただの羽虫から、猛毒を持つ小さな蜘蛛を見る様な目でだ。即刻踏み潰さなければ隙を突いて殺されると――。
「えー……とです、ね」
思わずその殺気に、アラムの交渉に用いていた仮面が剥がれ落ちそうになる。
この青年は臆病だ。本当の本当に臆病だ。自己暗示でもなんでも掛けなければ、正直こんな怖い怪物が沢山要る部屋に入ってこれていないだろう。
だが今は緊急事態だ。逃げ出せば死ぬというどうしようもない事実が背水の陣と化し彼に一粒の勇気を絞り出させていたが、もう限界だ。ダラダラと汗を流し言葉を詰まらせる。何かを言おうと口を開くが喉からは何も出てこない。
はっきり言おう、恐慌状態だ。この瞬間アラムはただの役立たずと化した。
魔王ガウハルはそれを見抜いたのか、目を伏せかけ――。
「はい、アラム様の技術力は素晴らしいです」
一人の少女の言葉が、その瞳は閉じさせなかった。
「キレスタールさん……」
「地図が、地図があります」
「なんだと教会の犬が? 地図がどうしたというのだ!」
アーセファが嫌悪感丸出しでそうサルジェの治療に専念していた少女を威圧する。しかしそれに怯むこと無く。キレスタールは唖然としているアラムに目で問いかける。
そう、「まだ貴方はやれる」と。
「はい、地図があります。これを見てください」
少女に急かされるように、アラムはすぐさま姿の見えない偵察機を手の平に置いて、ホログラム地図を展開する。その瞬間、魔王ガウハルの目が見開いた。
「それは、この城周辺の地図か?」
「はい、昨日の夜、この機械に調べさせて作りました……えっと、勝手に調べたら駄目でしたかね?」
「いや構わん。敵地に乗り込むのに偵察は常識、不敬とはせん。それよりそれを一夜で、か」
青年の見当違いの心配を無視して、魔王はその事実に驚嘆し、その顔に笑みを作った。
先程の銃など取るに足らない、正確な情報、しかも迅速に地理情報を得られるということは戦場に置いて最高とも言える武器だ。
何も戦争とは剣で打ち合い銃を撃ちあうだけではない。情報をうまく使えば戦火を交える前にそれのみで相手を降伏させることが可能だろう。
「?」
しかし、皮肉なことにそんな物を造り上げた本人がそれを理解できていない。彼は技術者としては優秀だが、その他が平凡、いや、劣っているのだ。
「はは、ははははははは! 良い! 良いぞ栗毛。気に入った」
思わず玉座から立ち上がりアラムに手を伸ばす魔王。そして高笑いと共にこう言った。
「貴様、我に下れ!」
「え、嫌です」
青年の返答はほぼ、条件反射だった。
相手の機嫌を逆なでする行為だと気づき、口を押えても時すでに遅し。魔王は満面の笑みを口端を引きつらせた苦笑いに変えながら、ドスンと再び王座へと腰を下ろしたのだった。
「き、貴様ガウハル様の誘いを無下にするとは何事か!」
「いやいや、だって! 僕は交渉にきただけで就職先を探しにきたんじゃないですから!」
先程の恐怖心はどこへやら、少女のエールが効きすぎたのかフランクに青年とアーセファとやり取りを行われる。
「いや、だが即答することはないだろう! せめて悩んだ素振りぐらい見せろ。交渉事においてそれぐらいの演技は当然だろう、無礼であろうが!」
「だって僕、技術者だし! 営業とか不向きなんですぅ!」
アーセファの駄目だしに思わずやけくそでそう返すアラム。
するとガウハルは自分の言葉を代弁しているアーセファを止めるように咳払いをしてから、ただ一言問いを飛ばした。
「何故だ?」
「えっ」
「我に下れば貴様の命は保障しよう。後ろにいる娘も当然助けよう。いや、我ら魔族に技術提供すればその条件で貴様に良い待遇で向かい入れる……なのになぜ断る」
「だって、僕は皆を助けたいんです」
「……」
「ここにくるまで少ないですけど人に会いました。最初は後ろにいるキレスタールさんに、息子さんを失った老夫婦、それと勇者を辞めた方々。僕、死ぬのが嫌なんです。いえまぁ、たまにどうしようもない現実に嫌気がさして死にたくなりますけど、基本的には僕は死にたくありません」
「ならば、我の条件を飲むのが筋だろう?」
「はい、ですが、だから、命はどうしようもなく重いと考えるんです。誰も死なせたくない」
「……傲慢だ」
「はい、傲慢だと思います。我がままだと、夢見がちな子供みたいな考えだと。でも僕それが悪いことだなんて思えないんですよ。なんたって技術者ですから、そこら辺が我がままじゃないとすぐに現実に妥協してしまって、便利な物が思いつきませんし作れません。ですから今回も皆を助ける案を軽い頭をフルに回して用意してきました」
「……」
「人界に溶岩を流して魔石ができるまで早くて百年ほどと聞きました、その間に飢えで魔族の誰かが死ぬでしょう? 人間だったら真っ先に体力の無い赤ん坊とか子供が死にます。魔族だって同じじゃないんですか?」
「ああ、そうだ」
「僕、それが嫌なんです。最速で魔族が十全な魔石を得る手段がある。ですがそれを今すぐ可能にする術はありません。最低でも後、一週間は必要です。で、僕が胡散臭いのは十分理解してます。ですが、信じてほしい。託してほしい。それで……全員が助かるんです」
嘘偽りの無い青年の言葉に魔王ガウハルから一切の色が消えた。
己への自信が無いただの自己評価の低い青年かと思えば、傲慢不遜な願いを口にする彼をただじっと見据えてから、その固く閉ざされた口を一度吊り上げ、開く。
「貴様、万人を救う行為とそれを成す者をなんというか知っているか?」
「いえ、知りません……」
「偉業だ。そしてそれを成す者を英雄として語られる……栗毛よ。ではその行いに相応しい力を示せ。我を見事、下してみせよ」
次回は一月十八日の朝六時に投稿予定です。




